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パーティ
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目の前に差し出された手に戸惑いながらリオベルはそっと自分の手を重ねた。
本好きとして数多の物語を読んできた。
物語の世界では、時に一国の王女であったり、勇敢な騎士になれた。
素敵な男性にエスコートを受けることも。
まさか、平民の自分がそれを体験することになるとは思っていなかったため、今のこの時間は夢の世界ではないのかと、空いた手で小さく頬をつまんでみた。
「ん?何かついてるの?」
頬に付いてる何かを取ろうとしていると勘違いしたマイラーがぐっと顔を覗き込むようにその顔を近づけてくる。
リオベルはより恥ずかしさが増して、顔を真っ赤にしながらうつむいた。
「ううん。…夢なんじゃないかと思って…。まさか自分が着飾ってパーティに参加することになるなんて思ってもみなかったから」
「緊張してる?大丈夫だよ。そんなかしこまったパーティじゃないし、ただの慰労会だから。この前の観劇のように気軽な気持ちでいてくれたらいいよ」
マイラーは宥めるように穏やかに微笑んだ。
今日は派遣騎士達の家族を含めて、この地に駐在する騎士達の慰労会だ。
王都から、はたまた辺境の地からやって来ている騎士達が久しぶりに家族との対面が叶う。
家族の参加が見込めなかったマイラーの対面を保つ名目で、リオベルは友人として参加している。
「素敵なドレスだね」
観劇の際に贈られたドレスはデイドレスだったが、小物と薄手のショールで雰囲気を変えて着るつもりでいた。
だが、出掛ける旨をマダムに伝えた際、いずれはデザイナーとしてパーティへの参加もすることになるだろと、事前に作っておいたドレスをプレゼントされた。
淡いピンクに刺し色でネイビーが使われた、可愛らしい雰囲気に少し大人っぽさも滲ませたドレス。
驚きと嬉しさでなかなか感謝の言葉を発することが出来ずにいたリオベルに対し、母親の気分を味わうことが出来たからと逆に感謝の言葉を告げられてしまった。
遅れながらも、何度も何度もリオベルはマダムにお礼を述べたのだった。
「いただいたドレスじゃなくてごめんなさい。マダムが用意して下さったの」
「あれはデイドレスだったからね。うん、君にとても良く似合ってる。さすがマダムだね。さあ、そろそろホールに行こうか」
「ええ」
マダムのドレスの品位を下げないためにも、改めてリオベルは胸を張った。
ホールには既に集まった、久しぶりに再開する子息達の肩を叩き、その逞しくなった躯体を眺める父親や、怪我などしてないか心配する母親などの姿が一様に見られた。
「ははっ、先輩の家族、皆んな同じ顔してる」
「マイラーさんは?誰似なの?」
「うーん、強いて言うなら母さん似かな?兄さん達は父さんをそのまま若くした感じ。俺以外厳つくて、体格も全く違うんだ。会っても、きっと兄弟だって直ぐには分からないと思う」
「ふふ、そうなのね。見てみたいな」
「会ってみる?」
「えっ?…」
「あ、いや、その…王都の祭りに合わせて、皆休みを取って集まるようにしてるんだ。来年のその頃には俺も派遣の任期を終えて戻るし、良かったら、その…、仕事の休みが取れそうならその祭りを見せてあげたいな、と思って」
「王都…。私、この街を出たことが無いの。でも…、そうね、行ってみたい!都合がついたら…、………」
「リオベルちゃん?」
「ううん、何でもない。是非、案内をお願い!」
「その時に家族に会わせるよ」
「マイラーさん似のお母様ね。あ、お母様似のマイラーさんか。ふふふ」
リオベルの反対側で、良し!と小さくガッツポーズをマイラーが決めているのにリオベルは気が付いていなかった。
本好きとして数多の物語を読んできた。
物語の世界では、時に一国の王女であったり、勇敢な騎士になれた。
素敵な男性にエスコートを受けることも。
まさか、平民の自分がそれを体験することになるとは思っていなかったため、今のこの時間は夢の世界ではないのかと、空いた手で小さく頬をつまんでみた。
「ん?何かついてるの?」
頬に付いてる何かを取ろうとしていると勘違いしたマイラーがぐっと顔を覗き込むようにその顔を近づけてくる。
リオベルはより恥ずかしさが増して、顔を真っ赤にしながらうつむいた。
「ううん。…夢なんじゃないかと思って…。まさか自分が着飾ってパーティに参加することになるなんて思ってもみなかったから」
「緊張してる?大丈夫だよ。そんなかしこまったパーティじゃないし、ただの慰労会だから。この前の観劇のように気軽な気持ちでいてくれたらいいよ」
マイラーは宥めるように穏やかに微笑んだ。
今日は派遣騎士達の家族を含めて、この地に駐在する騎士達の慰労会だ。
王都から、はたまた辺境の地からやって来ている騎士達が久しぶりに家族との対面が叶う。
家族の参加が見込めなかったマイラーの対面を保つ名目で、リオベルは友人として参加している。
「素敵なドレスだね」
観劇の際に贈られたドレスはデイドレスだったが、小物と薄手のショールで雰囲気を変えて着るつもりでいた。
だが、出掛ける旨をマダムに伝えた際、いずれはデザイナーとしてパーティへの参加もすることになるだろと、事前に作っておいたドレスをプレゼントされた。
淡いピンクに刺し色でネイビーが使われた、可愛らしい雰囲気に少し大人っぽさも滲ませたドレス。
驚きと嬉しさでなかなか感謝の言葉を発することが出来ずにいたリオベルに対し、母親の気分を味わうことが出来たからと逆に感謝の言葉を告げられてしまった。
遅れながらも、何度も何度もリオベルはマダムにお礼を述べたのだった。
「いただいたドレスじゃなくてごめんなさい。マダムが用意して下さったの」
「あれはデイドレスだったからね。うん、君にとても良く似合ってる。さすがマダムだね。さあ、そろそろホールに行こうか」
「ええ」
マダムのドレスの品位を下げないためにも、改めてリオベルは胸を張った。
ホールには既に集まった、久しぶりに再開する子息達の肩を叩き、その逞しくなった躯体を眺める父親や、怪我などしてないか心配する母親などの姿が一様に見られた。
「ははっ、先輩の家族、皆んな同じ顔してる」
「マイラーさんは?誰似なの?」
「うーん、強いて言うなら母さん似かな?兄さん達は父さんをそのまま若くした感じ。俺以外厳つくて、体格も全く違うんだ。会っても、きっと兄弟だって直ぐには分からないと思う」
「ふふ、そうなのね。見てみたいな」
「会ってみる?」
「えっ?…」
「あ、いや、その…王都の祭りに合わせて、皆休みを取って集まるようにしてるんだ。来年のその頃には俺も派遣の任期を終えて戻るし、良かったら、その…、仕事の休みが取れそうならその祭りを見せてあげたいな、と思って」
「王都…。私、この街を出たことが無いの。でも…、そうね、行ってみたい!都合がついたら…、………」
「リオベルちゃん?」
「ううん、何でもない。是非、案内をお願い!」
「その時に家族に会わせるよ」
「マイラーさん似のお母様ね。あ、お母様似のマイラーさんか。ふふふ」
リオベルの反対側で、良し!と小さくガッツポーズをマイラーが決めているのにリオベルは気が付いていなかった。
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