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猜疑心

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「オーナー、どうしましょう…」

「こんなに早くデザインを使われるとはな…」

「新作を…新作をまたリオベルさんにお願いすれば」

「いや、それは出来ない。マダムと交わした約束だ。彼女がオーダーメイド以外の作品をデザインするのは今回限りだと。私もそれに納得して引き受けたことだ。売上金からのみ報酬を支払っているが、新しくデザインを考えてもらうということは、別でデザイン料を支払わなければいけなくなる。それに、元々オーダーメイドを取り扱ってないんだ。模倣という点では、今までこの店も既存のドレスから型を取ってるから変わりはない。遅かれ早かれこうなるだろうと思っていた。余りにも早過ぎて私も慌ててしまった。だが、いつも通り、誇りを持って、品質とお客様を大切にするこの店のやり方を続ければ、同じようなドレスが出回ったとしてもお客様もこの店を選んで下さるだろう」


 工房にお針子だけではなく、販売員も含めた全ての従業員が集められ、騒動となっていることについての説明と方針をオーナーは語った。


 その騒動といのは、予約分とは別に店頭に出すデイドレスがやっと仕上がったというタイミングで、販売員の一人が、リオベルのデザインした取り替えパーツ式と同じデザインを着用している者を目にしたと言う。
 以前、店にも客として訪れたことのある女性だったため、声を掛け、それとなくドレスの購入先を尋ねてみれば、ライバル店とされるブティックだと分かった。
 女性は斬新なアイデアでデザインされたドレスだと自慢げに話した。
 ライバル店が模倣したドレスだと知らない様子に、その販売員は悔しさを覚えたが、その女性の気分を害すことは出来ないと、何も言わずその場を去った。
 
 いつ、オーナーに話そうかと販売員が考えていると、別な者も同じように目にしたとオーナーに告げたのだった。


 不安がる者、悔しさを滲ませる者をオーナーが宥め終えた時、新しく雇われたお針子の一人が声を上げた。


「私、ある人がその店のオーナーと一緒に居るところを見たって聞きました!」


 集められた従業員もお針子達も、その声のする方へさっと目を向ければ、そのお針子は一人を指差している。


「パターンナーのあなたが型紙を渡したなら、この早さで模倣されるのも納得です」

「私も聞きました」

「私も…」


 新たに雇われたお針子達が疑いというより、確信の目を向けている先にテレサが居た。


 静まり返る工房。
 
 
 パンパンと二つ手を叩く音が響いた。


「やめるんだ!仲間同士疑うものじゃない!先ほども言った通り、遅かれ早かれ似たドレスは作られるものだ。それはあの店に限ったことではない!まだまだ、予約分の製作も残ってるんだ、この件はここまでとする!」


 オーナーはブティックの従業員達を促し、工房を後にした。


 残されたお針子達は古参の者と新たに雇われた物達とで反応が別れていた。
 何事も無かったように手仕事を始める古参のお針子達。
 それに対して、ヒソヒソと話す若いお針子達。
 

「口を動かしてる暇があるなら、手を動かしてくれんかね」


 一番の古株のモニカの言葉で、渋々とそれぞれの作業机に戻った。


 テレサは下を向いたまま暫くその場から動けないようだった。
 一連のやり取りで、ジェミニも気まずさを覚えた。
 以前、リオベル達と遭遇した場面を思い出していたからだ。
 何か声を掛けるべきだと思っても、何も出てこない。


 そうこうしている内にテレサは下を向いたまま、そっと工房を出ていってしまったのだった。




「お疲れさま」

「また、明日ね~」


 その日の分の作業を終えたお針子達が、工房を後にしていく。
 ジェミニはその一番手となる予定だった。
 今日は久しぶりに四人で食事の約束をしていたからだ。
 だが、ジェミニの作業の手はなかなか進まず、結局最後から二番目に工房を出ることになった。


「まだ、終わらないですか?」

「もう少しだけ。鍵は私からオーナーに渡しておきます」


 新しく雇われたお針子の一人が、工房の戸締まりを約束し、また針を動かし始めた。
 テレサと同じぐらいの年齢で、物静かなその女性は余り目立たないが、仕事ぶりが丁寧だと他のお針子達が褒めていた。


「なら、お願いしますね」


 ジェミニはライバル店のこととテレサのことをどうリオベルに話そうかと、重い気持ちのまま、待ち合わせ場所へ更に遅れて向かったのだった。







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