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恋人役?
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「順調にいってるみたいで良かったね」
ここ最近は作品販売のこともあり、なかなか四人で集まることが出来ないでいた。
今日も工房での仕事が忙しくジェミニは不参加となり、三人での夕飯となった。
「来週から、工房でも新たに人を雇うってオーナーが言ってたから、ジェミイも時間に余裕ができると思う。わたしも自分の作品なんだから、何か手伝うと言ったんだけど、『リオベルちゃんに支払う賃金で代わりに五人は雇えるよ』って言われて…。そんなつもり無かったけど…」
「向こうも商売としてやってる以上、その線引きは仕方ないよ」
「それに、リオベルちゃんとの契約はデザインまでなんだよね?後はブティック側のことだから、任せておくしかないんじゃない?まあ、そうは言っても落ち着かないだろうけどね」
「…ええ」
「お祝いを、と思ったけど、ジェミニちゃん抜きだと、彼女、怒り狂いそうだから、来週、四人が揃った時にしよっか?」
「でも…マダムからの評価がまだ出てないし、それに怒り狂うなんてフレックスさん言い過ぎよ。その言葉の方が怒るわ」
「結局のところ、フレックスはジェミニちゃんに怒られるってことだ」
ケタケタと笑いだしたマイラーに、フレックスは戯けたように両手を広げやれやれと言わんばかりの顔をして見せた。
食事を終えたタイミングで、フレックスが何やらマイラーに耳打ちし、肩をポンと叩いていた。
ん?と不思議そうにしたリオベルにフレックスはウィンクをして、「この後寄る所があるから」と一人先に店を出て行った。
「それじゃあ、わたしも帰るわね」
「あ、リオベルちゃん、送ってくよ」
「え?ここから直ぐだし、反対方向だから大丈夫よ」
「直ぐって言っても、灯りも少ないし、女の子一人では危ないし、途中で転んでもいけないし…。…ああ、っと、違うな、俺が送りたいんだ。…駄目?」
焦ったように言葉を並べた後、マイラーは頭を掻き、お願いするようにに首を傾げた。
「髪が…」
ふわふわとした巻き毛が絡まってしまったのを見て、リオベルは思わず手を伸ばして整えていた。
「リオベルちゃん!」
その手をガシッと掴み、いつになく真剣な顔をしてリオベルを見つめるマイラー。
「あのさ、俺…。突然だし、こんな所で言うことではないのは分かってるんだけど…。俺、リオベルちゃんのことを特別に思ってて…。だから…、その…好き…」
「えっ…」
少しの沈黙が二人に流れた。
その二人を促すように店から別な客が出てこようとしたので、マイラーは掴んだ手を繋ぎ直し、マダムの屋敷の方へ歩き出した。
続くこと数分の沈黙。
先に言葉を発したのはリオベルだった。
「マイラーさん…、あの…」
呼ばれて足を止め、マイラーは改めてリオベルに向き直った。
「…今度、派遣組の家族や恋人を招いた騎士団主催のパーティーがあるんだ。両親は都合がつかないみたいだし、俺自身も、三男だから別に良いよって言ってあるから、誰も来ないんだ。もし、良ければ、その…恋人として…」
「ああ!恋人役としてそれに参加して欲しいってことね!友達では無い人にお願いしたら勘違いされてしまうものね!」
「え?あの、俺、好きって…」
「ふふ、マイラーさん、お願いするのが恥ずかしくてあんなにもじもじしてたのね。マイラーさんにもらったドレスも一度切りになったら勿体無いと思ってたし。ドレスコードが大丈夫ならあのドレスを着て行っても良い?」
「あ、うん…、もちろん。でも、あの…。…ああ、そうだね、あれを着て来て。招待状は来週にでも渡すから」
「場違いになったりしないかな?平民のわたしが行って」
「騎士団に所属してる大半が平民だよ。それに俺だって男爵の爵位は親の物だし、まして三男で成人もしてるから、今は何の肩書きも無いよ」
「男爵のご子息…」
「ああ、やめて、やめて、さっきも言ったけど、俺はただのマイラー。王都に戻って出世したら肩書きを貰う予定!予定というより、決定事項!だからこれまで通りで!」
「ふふふ、決定事項なんですね。未来の騎士爵様!」
「そうですよ、未来の国一番のデザイナーであらせられるマダム!そのマダムを家までお送りする名誉をいただけますか?」
膝を降り、差し出したマイラーの手にそっと自分の手を乗せリオベルも応えた。
「喜んで」
二人はクスクスと笑い互いの顔を見合わせながら、歩みを進めた。
送り届けるまで笑顔だったマイラーだが、屋敷に入ったリオベルの後ろ姿を見ながら静かにため息をついた。
「好きって言ったの聞こえなかったのかなぁ…。はぁ…頑張れ、俺…」
屋敷の扉の向こうで、リオベルがどんな表情になっているかも知らず、マイラーはとぼとぼと帰路についたのだった。
ここ最近は作品販売のこともあり、なかなか四人で集まることが出来ないでいた。
今日も工房での仕事が忙しくジェミニは不参加となり、三人での夕飯となった。
「来週から、工房でも新たに人を雇うってオーナーが言ってたから、ジェミイも時間に余裕ができると思う。わたしも自分の作品なんだから、何か手伝うと言ったんだけど、『リオベルちゃんに支払う賃金で代わりに五人は雇えるよ』って言われて…。そんなつもり無かったけど…」
「向こうも商売としてやってる以上、その線引きは仕方ないよ」
「それに、リオベルちゃんとの契約はデザインまでなんだよね?後はブティック側のことだから、任せておくしかないんじゃない?まあ、そうは言っても落ち着かないだろうけどね」
「…ええ」
「お祝いを、と思ったけど、ジェミニちゃん抜きだと、彼女、怒り狂いそうだから、来週、四人が揃った時にしよっか?」
「でも…マダムからの評価がまだ出てないし、それに怒り狂うなんてフレックスさん言い過ぎよ。その言葉の方が怒るわ」
「結局のところ、フレックスはジェミニちゃんに怒られるってことだ」
ケタケタと笑いだしたマイラーに、フレックスは戯けたように両手を広げやれやれと言わんばかりの顔をして見せた。
食事を終えたタイミングで、フレックスが何やらマイラーに耳打ちし、肩をポンと叩いていた。
ん?と不思議そうにしたリオベルにフレックスはウィンクをして、「この後寄る所があるから」と一人先に店を出て行った。
「それじゃあ、わたしも帰るわね」
「あ、リオベルちゃん、送ってくよ」
「え?ここから直ぐだし、反対方向だから大丈夫よ」
「直ぐって言っても、灯りも少ないし、女の子一人では危ないし、途中で転んでもいけないし…。…ああ、っと、違うな、俺が送りたいんだ。…駄目?」
焦ったように言葉を並べた後、マイラーは頭を掻き、お願いするようにに首を傾げた。
「髪が…」
ふわふわとした巻き毛が絡まってしまったのを見て、リオベルは思わず手を伸ばして整えていた。
「リオベルちゃん!」
その手をガシッと掴み、いつになく真剣な顔をしてリオベルを見つめるマイラー。
「あのさ、俺…。突然だし、こんな所で言うことではないのは分かってるんだけど…。俺、リオベルちゃんのことを特別に思ってて…。だから…、その…好き…」
「えっ…」
少しの沈黙が二人に流れた。
その二人を促すように店から別な客が出てこようとしたので、マイラーは掴んだ手を繋ぎ直し、マダムの屋敷の方へ歩き出した。
続くこと数分の沈黙。
先に言葉を発したのはリオベルだった。
「マイラーさん…、あの…」
呼ばれて足を止め、マイラーは改めてリオベルに向き直った。
「…今度、派遣組の家族や恋人を招いた騎士団主催のパーティーがあるんだ。両親は都合がつかないみたいだし、俺自身も、三男だから別に良いよって言ってあるから、誰も来ないんだ。もし、良ければ、その…恋人として…」
「ああ!恋人役としてそれに参加して欲しいってことね!友達では無い人にお願いしたら勘違いされてしまうものね!」
「え?あの、俺、好きって…」
「ふふ、マイラーさん、お願いするのが恥ずかしくてあんなにもじもじしてたのね。マイラーさんにもらったドレスも一度切りになったら勿体無いと思ってたし。ドレスコードが大丈夫ならあのドレスを着て行っても良い?」
「あ、うん…、もちろん。でも、あの…。…ああ、そうだね、あれを着て来て。招待状は来週にでも渡すから」
「場違いになったりしないかな?平民のわたしが行って」
「騎士団に所属してる大半が平民だよ。それに俺だって男爵の爵位は親の物だし、まして三男で成人もしてるから、今は何の肩書きも無いよ」
「男爵のご子息…」
「ああ、やめて、やめて、さっきも言ったけど、俺はただのマイラー。王都に戻って出世したら肩書きを貰う予定!予定というより、決定事項!だからこれまで通りで!」
「ふふふ、決定事項なんですね。未来の騎士爵様!」
「そうですよ、未来の国一番のデザイナーであらせられるマダム!そのマダムを家までお送りする名誉をいただけますか?」
膝を降り、差し出したマイラーの手にそっと自分の手を乗せリオベルも応えた。
「喜んで」
二人はクスクスと笑い互いの顔を見合わせながら、歩みを進めた。
送り届けるまで笑顔だったマイラーだが、屋敷に入ったリオベルの後ろ姿を見ながら静かにため息をついた。
「好きって言ったの聞こえなかったのかなぁ…。はぁ…頑張れ、俺…」
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