あなたの愛は本物ではないから…

まめ

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ピクニック

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 日差しは強いが木々を揺らす風が暑さを和らげる清々しい日となったこの日、リオベルは大きなバスケットを抱えながら乗り合い馬車に揺られていた。
 約束のピクニックの日だ。


 四人でのピクニック。
 前日まで渋っていたジェミニを何度も拝み倒して、一緒に行ってもらえることになった。
 

 そして公園の一番近くの降り場に到着すると、そこには先に到着していたマイラーが居た。


「おはよう!」


 馬車から降りるのを手伝い、「持つよ」と言ってバスケットを手に取った。


「ありがとう。でも重いよ」

「重いなら尚更持つよ。朝早くから用意、大変だったんじゃない?」

「一人分も四人分も大して変わらないから。でも、チケットとドレスのお礼には見合わなくて申し訳ないな」

「なら、次もまた作ってもらえる?」

「…食べてみて、お口に合えば、ね」

「リオベルちゃんが作ってくれるなら、どんなのでも食べる!昼が楽しみだなぁ~」

「…まだ来たばかりよ」

「うん、そうだね!友達の子は入り口で待ち合わせ?」

「ええ。フレックスさんは?」

「あいつは一緒に来たんだ。けど、リオベルちゃん達とすれ違いになるといけないから、入り口のとこでそのまま待たせといた」

「なら、急がなきゃね」


 二人は並んで待ち合わせ場所まで歩いて行くと、フレックスとジェミニが楽しそうに談笑していた。


「もう、仲良くなったのか?」

「マイラーとリオベルちゃん、やっと来たな。お前達待ってる間に挨拶交わしてたんだ」

「初めまして。リオベルの友人で仕事仲間のジェミニです」

「ああ、リオベルちゃんに聞いてるよ。よろしくね」

「フレックスさん、初めまして…では無いですね」

「そうだね。あの時は二人の邪魔して悪かったね。今日はデートじゃないから、堂々と邪魔させてもらうね」

「デ、デートとか…、そんなんじゃ…」

「マイラーさん、リオベルはこんな感じなんで頑張って下さいね」

「ちょ、ちょっとジェミィ…」


 デートという言葉に反応するリオベルを見て、フレックスとジェミニはニヤニヤと笑いながら、マイラーを肘で小突いた。
 リオベルは劇場に足を運んだ日からマイラーのことが頭から離れないでいた。
 時にため息をついたり、思い出し笑いをするリオベルに、誰のことを考えているのかジェミニに言い当てられ慌てさせられたぐらいだ。

 もじもじとしているリオベルとマイラーを置いて、フレックスとジェミニは頷き合い、「行こうか」とすたすたと二人は公園の中を進んで行った。


「俺達も行こう」


 バスケットを持つ手を変えて、空いた方の手でリオベルの手を取り、マイラーは振り返りながら言った。


「急がないと」


 まるで自然なことのように手を繋がれてリオベルは前を行く二人に続くことになった。


「おーい、どっちに進めば良い?」


 高台と水場への分かれ道となる所で前の二人が足を止めて手を振っている。


「どっち?」


 横で歩くリオベルの顔を覗き込むように尋ねるマイラー。
 リオベルはハッとなって繋いでいた手を離そうとしたが、それより早くマイラーに強く握り直された。


「右?左?」

「ひ、左…」

「左~!」


 恥ずかしさから下を向いたリオベルに代わり、マイラーが返事をし、フレックスは腕で大きな丸を頭の上に作り、ジェミニと二人更に進んで行った。
 リオベルはどのタイミングで手を離せば良いか、目的地に着くまでずっとそのことを手の感触に神経を奪われながら考えていた。




「おおー!本当、良い場所だなぁ!」

「公園に久しぶりに来たけど、ここは初めてかも」

「案内ありがとうね。リオベルちゃん」


 四人が到着したのは人工の短い川のある水場だった。


「高台の方が眺めが良いけど、今日の暑さならこっちの方が正解ね」


 ジェミニの言った言葉にリオベルは少し後ろめたい気持ちになった。
 他の者とあの高台のベンチへ行くのが何故か嫌だった。
 

 あのエステバンとの約束から時だけが過ぎ、リオベルの気持ちを置き去りにした。
 だが、エステバンと過ごした日々は大切な物で、他の者と別な思い出が出来ることを無意識に避けたのだ。


 敷物を広げながら、三人が各々伸びをして寛ぎ始めたのを見ながら、リオベルは最近は考えないようにしていた、エステバンを思い浮かべていた。
 

『君と家族になりたい…』


 自分の今の気持ちを理解出来ないリオベルは、三人から離れ、一人小川の方へ近寄って行った。


「家族か…」

「…どうしたの?」


 心配そうに後ろから声を掛けたのはマイラーだった。


「ううん。…何でもない」

 
 複雑な笑みを浮かべながら、リオベルは答えた。
 マイラーは少しの間を置いて、急に屈んだ後、少しの水を手で掬い上げリオベルの足元目掛けて放った。

「きゃっ」

「ぼぅっとしてると、水浸しになっちゃうよ」


 悪戯っ子のような顔をしながら言うマイラーに、リオベルもお返しだと水をかけた。


「うわっ、ぺっ、砂、」


 運悪く顔に掛かってしまったマイラーが顔を拭いながら、舌を出している。
 リオベルは慌てた。


「ご、ごめん」


 ポケットからハンカチを取り出して近付いたリオベルの顔が今度は濡れた。


「騙された~」

「もうっ!マイラーさんっ!」




 少し離れた敷物の上では、フレックスが持参したワインでジェミニと乾杯をし、昼までに全て空けてしまわないようにしないとな、とお互い若年寄りのように、戯れ合う二人を肴にちびちびと飲み始めていた。







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