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新しいデザイン

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「ジェミィっ!まだ、鋏は入れないで!!!」


 作業テーブルで布を広げ、型紙に沿って今まさに鋏を入れようとしていたジェミニは、息を切らしながら突然叫んだリオベルに驚き、逆にジョキリと裁ち鋏を入れてしまった。


「あっ…」

「…っ、ふぅっ、ご、ごめん、驚かせて…」

「帰ったんじゃなかったの?」

「う、うん、一度は帰ったんだけど…、デザイン、デザインを変更しようと思って…」

「変更?六着の内のどれを?」

「全部…」

「は?全部って…」

「説明するより、今から書くね」


 スラスラと首元、袖、装飾の無い一着のデイドレスを描いた。
 次の紙には同じ型のドレスに、レース状に立ち襟になった首元、袖口には同じようなレース、太さの違うリボンを二重に結んだ装飾を、また別な紙には中からブラウスが覗いているように見える首元、長さのある袖口には見慣れた数よりも多めのボタンが付き、リボンを花弁のように広げボタンで飾られたコサージュが付いた物を描いて見せた。
 他のお針子達も手を止めてそれを覗き込んでいる。


「同じベースのデイドレスを付け替え可能にするの」

「…付け替え可能…」

「そう、首も袖も飾りも」

「面白いけど、これが流行ったらドレスが売れなくなるわね…」

「あっ…、そっか…。わたしみたいになかなか買えない人でも楽しめるし、毎回同じ物を着る訳にはいかないからって数回着ただけになるのも…って思ったんだけどね」




「私は良いと思うわ。パーツの種類が増えたら、儲けもそれなりになるんじゃない?」

「利益のことはオーナーが考えることさね」

「どんな風になるのか私も楽しみだわ」

「そうよね…。リオベル、ベースのはこの間の型紙が使えるから、後はパーツのデザインを起こせば良いだけね。期限にも問題無いし。…コレも無駄にならないで済むわね」


 手元をに目線を送った後、ジェミニは片目を閉じて見せた。


 お針子達にも賛同してもらえたことで、リオベルは思い浮かんだパーツのデザインを書こうとして、ジェミニに問われた。


「デザインが閃いたからって一旦帰ったのを、戻って来るなんて。明日でも良かったんじゃない?」

「あっ!いけない、忘れてたっ…」


 慌てて立ち上がり、また明日!とだけ声を掛けてリオベルは工房を後にした。



 ブティックの方では会計カウンターでマイラーが店員と話をしていた。
 直ぐに戻るとは言ったものの、随分と時間が経ったようだ。
 応接テーブルには片方だけ飲み干されたカップが置かれ、まだ残っている方は冷え切ってしまったことがうかがえる。


「ご、ごめんなさい…。勝手にここを離れて。大分お待たせしましたよね…」

「用事は終わった?」

 
 マイラーは怒った様子もなく、店員からリボンの掛けられた大きめの箱一つと一回り小さな箱二つを受け取りながら、にこりと笑っている。


「は、はい…。その…もうご自身のは選ばれたんですね…」

「うん、もう済んだよ。あ、すみませんが馬車を手配してもらっても良いですか?」


 店員がかしこまりましたと、外に居る者に頼みに行き、マイラーに促され、座って待つことになった。
 先ほどの冷めたお茶を飲みながら、リオベルは気まずい気持ちでいた。
 

 あんなに楽しそうに選んでくれていたのに、怒ってないように見せてはいるが、気分を害したことは間違い無いだろう。


「あ、来たみたい、リオベルちゃん行こうか」

「…はい」


 このまま、マイラーは荷物と共に馬車に乗って帰ってしまうんだと思い、沈んだ顔をしたリオベルだったが、馭者に荷物を預けるとマイラーは馬車に先に乗り手を差し出した。


「乗ってくよね?」

「はい…」

 
 差し出された手に自分の手を乗せて、リオベルも馬車に乗った。
 乗り合い馬車ですら、勿体無いからとなるべく徒歩で移動してきたリオベル。
 初めて乗る高級感のある二人用の馬車に、本来なら目を輝かせたことだろう。
 だが、まだとゃんと詫びることが出来ていない状況で、リオベルは俯き加減になっていた。


「ごめんっ!怒ってる?」

 
 先に口を開いたのはマイラーだった。
 両手を合わせて頭を下げている。


「えっ…?」

「勝手にリオベルちゃんの選んだから…」

「わたしの…?」

「この間のより、もっと似合うのを見つけちゃってさ。サイズが心配だったけど、店員さんに聞いたら大丈夫だって言うから…」

「え、あの…、怒ってるのはマイラーさんじゃ…?」

「え?何で?」

「ずっとお待たせしちゃったし…」

「怒ってない、怒ってない。選ぶのに夢中になってたし、戻ってくるの待ち切れなくて確認する前に買っちゃったんだ。リオベルちゃんの方が怒ってるよね?」

「怒るなんて…。あ、ドレス代を…」

「良かった。怒ってなくて。こっちが勝手に選んだんだし、観劇に付き合ってもらうんだから、プレゼントするよ。初めからそのつもりだったしね」

「そんな高価な物受け取れません。わたしも観劇に興味があったから…。チケット!チケット代もまだお支払いしてなかったですね」


 ガサゴソと鞄から財布を取り出そうとしたリオベル。
 すっとその手を止めるようにマイラーが手を伸ばした。


「ちょっと格好つけさせて欲しいなぁ。う~ん、そうだ、気が治まらないなら、今度ピクニックに連れてってくれない?こっちに来てから公園とか、湖とか行ってないんだよね」

「と、友達も、良いですか…?」

「もちろん!観劇の次の週、二日間の休みがあるから、どちらか都合の良い時を教えて。同僚のフレックスでも誘っておくから。アイツもまだプリウスを堪能出来てないってぼやいてたから喜ぶよ」


 それから馬車の中で騎士の先輩の話や、同僚のフレックスとの話を面白おかしくマイラーは語った。

 
 リオベルは馬車が到着するまで終始クスクスと話につられて笑っていた。


 








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