あなたの愛は本物ではないから…

まめ

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友人

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 初めは何の苦労もしてないように思え、素直にあの時のお礼を言うことが出来なかったのだと、ジェミニは語った。
 だが、後から聞かされた、両親も家も失くしマダムの所に住まいを移したことに自分の気持ちを恥じたのだと言う。


「ごめん。何も知らずに羨ましいと思ってた」

「ううん。実際、まだ家がある時からマダムからの下請けのおかげで生活も楽だったし、今は住む所までお世話になってるから…。恵まれてるよね」

「そういうところ」

「ん?」

「わたしとは違うなぁ、って。
 小さい時に他人とは違う見え方をしてるって気が付いて、自分は不幸なんだとしか思えなかった。
 母さんがわたしにも分かる色のワンピースをいつも選んでくれてたのも心の底では感謝してたのに、いつも恨み言を口にしてた。
 父さんもね、わたしと同じで色の判別が苦手なの。
 だから、何で父さんなんかと結婚したんだ!ってある時口して泣かせちゃったこともあった。
 あなたとは大違いよね。
 でも、あなたにあの時言ってもらった言葉で、何だ、ただそれだけのことじゃない、って吹っ切れたというか…。
 何ていうか、あなた、凄いなって…。
 あ、着いたわ」


 乗り合い馬車が治療院に着き、ジェミニはリオベルが降りるのを手伝った。


 足首に腫れはあるものの、骨に異常は無く、軽い捻挫だと医者の診断と処置を受けた。


「捻挫とはいえ、二週間ぐらいは工房には通えないわね。良いわ。出来た型紙をわたしが持っていくから。確認して」

「でも…」

「良いの。気にしないで。あの時のお礼だと思って甘えて」

「ありがとう、ジェミニさん」

「…良ければ、ジェミィって…」

「あ、わたしも…、リオベルって…。そのままね」


 二人でもじもじと少し照れたように言い合い、ふっとそのことが可笑しくなった。


「ふふっ」

「ふふふふっ。何だか恥ずかしいわね」

「少しね。…ジェミィここまでありがとう」


 マダムの屋敷まで、支えながら送ってくれたジェミニと顔を見合わせクスクスと笑い合う。
 二人は仕事仲間であり友人となった。




 ジェミニは言葉通り、三日後にはリオベルのデザイン画を元に型紙を起こし、それを手にマダムの屋敷まで訪ねて来てくれた。
 ブティックでの販売結果が出るまで口を挟まないと宣言していたマダムだったが、足の捻挫のことからジェミニがここまで型紙を確認のために持って来てくれることを聞き、その場に顔を出した。


「さすがはマダムエレシアのお屋敷…」


 辺りにきょろきょろと視線を漂わせ、ぼそりと呟いたつもりだったジェミニの声を聞き取り、マダムは向かいのソファでそれを見ながら言葉を掛けた。


「で、貴女はブティックのパタンナーをしているの?」

「あ、いえ、パタンナーはテレサさんが…」


 初対面のマダムに緊張したのか、ジェミニは言葉を詰まらせながら答えた。


「わたしはその型紙から布を切り取る作業が主で…」

「でも、今回のそれは貴女が起こしたんでしょう?」

「は、はい…」


 マダムは見せてと言うように、目線を丸めた型紙の書かれた薄紙に向けた。


「あ、あの、これなんですが…」


 おずおずと薄紙を広げて見せるジェミニ。


 マダムはそれを隅々まで確認するように見た後、立ち上がりながら隣に座っていたリオベルの肩をポンと叩いた。


「リオベル、今回の課題の結果、楽しみにしてるわね」


 それだけを告げマダムは部屋を後にした。


「き、緊張した…」

「ジェミィが試験を受けたみたいになってる」

 
 ジェミニの余りのかちこちぶりにリオベルは思わず笑いが漏れた。


「だって、マダムエレシアよ!って…あなたはそのお弟子さんだったわね…」

「まだ弟子を名乗るにはほど遠いけどね。それにしても、ジェミィはパタンナーの勉強をしたことでもあるの?この間も聞こうと思ってたんだけど」

「ない、ない。ただ、造形っていうのかな?昔から、形を認識するのは得意なの。きっと神様が色が苦手な分、そっちの能力を授けて下さったのね」

「自信が有るんだ」

「良いじゃない、一つぐらい自信を持てるものが有っても」

「ああ、ごめん、違うのよ。わたしは自信が有るわけじゃないから、羨ましいなと思って。もちろん、全く無いわけじゃないの。でも、いつも自己満足になってないかどこか不安なの」

「…そうよね。いくらデザインに自信が有っても依頼者が気に入らなければダメだものね。そう言った意味ではデザイナーは大変よね」

「…うん」

「でも、今回は特定の依頼者が居るわけじゃ無いじゃない!不特定多数のお客様が目にするんだもの。きっと気に入ってくれる人が居るわ!」


 ジェミニに励まされ、リオベルは改めて、こうして心の内を話せる友人という存在の有り難さを感じたのだった。





 
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