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休題

ダッド★

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 俺は男色じゃあない。

 薄暗い路地裏で、急遽お気に入りの女を呼びつけた。下半身だけ乱暴に剥いて、後ろを向かせて尻を突き出させる。ぬるつく蜜口に自分の猛りをあてがって、笑ってやった。

「何だ、もう濡れてるじゃん」

「こんな身体にしたのはダッド様でしょう……、毎回こんな所で……。もうおやめください……」

 弱々しく抵抗してみせる女は、守衛の詰め所で働く清掃員だ。身分や派閥など特筆すべき点が何もない、本当にただの女である。

 でも俺は、誰にもバレないよう、この女を狂ったように抱いてきた。

 その理由は――。

「ほら」

 女は差し出した黒い目隠しを渋々受け取り、潤む金瞳を隠す。これはこの女を抱くときの、毎回の決め事だ。

 下準備が出来ると女は口では抵抗していても、“どうぞお好きに”と壁に手を付き腰をくねらせる。喉奥で笑って、その華奢な背中に腕を回し猛りを押し進めた。

「――っ」

 モノの形を覚え込ませるため何度も穿うがってきたそこは、一般より太めの俺を難なく呑み込みヨダレをしたたらせる。

「はぁ、いい具合だ」

 愛しさが込み上げて、その口付けを落とす。女はそれだけで感じたようだ。膣壁が歓喜に震え、きゅうきゅうと締め付けてきた。

「あぁんっ」

「しー、声出すなって」

 自分でも無理なことを言っているとは思っている。だからその口に左手の人差し指と中指を突っ込んで、消音を手伝ってやる。

「舐めろ」

 キツめに命令すると女は素直に指を舐め始めた。人差し指を丹念に舐め回して、指の股を辿り中指へ。その丁寧な愛撫は、見なくてもどんな動きをしているのか容易に想像できる。

 そう、アイツの顔で。

「やべぇ……っ」

 暴発しかけて慌てて腰に力を入れる。最奥を小突いて女が声にならない声で喘いだ。

「んぅー!」

 ――俺は男色じゃあない。

 アイツの裸は宿舎で何度も見たことがある。シャワールームの個室から出てくるのを、横目で何気なく見てきた。

 当然、男の象徴は股間にぶら下がっているし、タオルで頭を拭く手は骨ばっていてどう見ても男。俺に比べれば華奢だが、その割に腹筋も割れていて逞しい。その場をぐるぐる三回転半させてもやっぱり男だ。

 いつからか。それは俺にもわからない。

 意識し始めたキッカケは、その瞳だ。

 切れ長の目元から覗く緑がかった茶色の瞳、お前になんか興味がないって冷めた流し目。俺を見ているはずなのに、そのじつちっとも見ていないんだ。

 その視線は止まることなく俺の上を滑って、どこか遠くを見ていた。そんなお前から目が離せなかった俺に、お前は一度も気付いたことは無いだろう? 水滴が深緑の髪を伝い、唇の端を流れていく。

 その様に興奮するようになって、取り返しのつかない所まで来てしまったことを俺に悟らせた。

 そのトンデモないお前の色気が、性癖を狂わせたんだ。俺は男色じゃあない。なのにねじれる。どんどん、どんどん。

 何でお前は男なんだ。女だったら最高だったのに――。

「あ、あ、あぁ!」

「声を出すな」

 もう一度、女の口に指をねじ込んで黙らせる。外でするのを好むのは、声を出させないための言い訳だ。

「ん! ぅんんっ!」

「頼む、黙ってろ」

 頼むから、この淡い幻想を、俺から取り上げないでくれ。緑髪に口付けてガツガツと腰を振った。出し入れする度に蜜壺が蠢き射精をねだってくる。

 俺のこの行為は、セックスじゃあない。女の身体を使ったオナニーだ。

「中に出すぞ」

 そう耳元に囁くと指をしゃぶっていたソイツはイヤイヤと首を振る。耳朶じだを舐め上げて甘噛みすると、喉を鳴らして震えやがった。

 理性で嫌がっていても、本能で悦んでいる。頬を染めた、熱っぽい眼差しを思い出す。

「そんなに俺を挑発して何が楽しいんだよ」

 笑ったアイツが、堪らなく可愛い。

「お前のせいで俺はこんなんになっちまった」

 想像の中のアイツが、甘えた声を出す。

 ――ダッドぉ、俺もうイくぅ、イッちゃうぅっ……!

「イけよ、よがり狂え」

 勝手知ったるお前の身体だ。ココがイイんだろ? 奥をノックして亀頭をグリグリと擦り付ける。ほら、またイッた。何回目だ? ハハッ! そんなに締め付けんな、今出してやる。

「責任取るから、妊娠しろ」

 うなじや肩にキスを落として、その細腰を右手でしっかりと掴んだ。もう中に出すことしか考えない。

 ――ダッドぉ、ダッドぉっ……!

 俺は男色じゃあない。女にしか勃たない。お前だけだ、お前が特別なんだ。もう普通に戻れねぇんだよ。

 口をポッカリと開けて、上目遣いに頬を染めたアイツ。

「ちくしょう、そんな顔するんじゃ、ねぇ……っ!」

 どんどん性癖がねじ曲がる。とろけた蜜壺が俺を締め付けて、熱と愛液で射精を促しもう限界だった。ああ、最高だよ! お前をオカズに最高に興奮してる!

「孕め!!」

 がむしゃらに腰を突き上げ、一気に快感が昂ぶると――。

「んんーーー!!」

 激しい、熱い精をなみなみと注いだ。全て、俺色に染めるために。女の尻が、暴れ馬のように上下に律動して、果てた――。

「ぁぅんっ、ぁぅぅっ! ぅぅっ!」

 その時痛みが走る。女を穿ったまま、口から指を引き抜き、痛みの元を見た。自虐的に、口の端が吊り上がるのを感じる。

「ははっ! これぐらい甘んじて受け入れてやるよ」

 人差し指の第三関節に、血が滲む歯型が出来ていた。それを舐め上げ、汗ばむ女の背中に額をつけて、馬鹿みたいに想う。

「――ルトス……」

 本当に馬鹿みたいだ。飽きもせず、こんな事を繰り返して。

 きっとあのイーライって従者は、顔しか見ない馬鹿な女と、俺みたいな馬鹿をアイツに近付けさせない虫除けなんだろう。

 “救国の魔女”、アンタすげぇよ、こうなる事を予想してたのか?

 俺には簡単に見せない笑顔、笑い声。従者の勝ち誇ったような表情。お前なんかが入る余地は無いって、見せつけるような圧倒的態度。

「ちくしょう」

 それは今まで生きてきた中で、最高に悔しかった。

 あんなのがそばにいたら、誰も手を伸ばせないだろうが……!
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