七龍の恋物語

いちや

文字の大きさ
上 下
28 / 30
氷の上を行く白鳥

舞踏会-1

しおりを挟む

 淡い水色だけで作られたシンプルなドレス。
 華美なフリルもドレープもなく、ただ薄く淡い濃淡だけであらわされた生地の中に潜む水の泡。まるでシャボン玉のような、わずかな色の違いに埋もれるようにして描かれた水の玉模様は―――クラゲのようだ、と表現するともれなく全方向からのお説教を受けることとなる。

「恐れ入りますわ」
「いやはや、今日の装いもまたお美しい!」

 おほほ、と適度に笑って世辞を流し、そのお返しとばかりに笑っていたその矢先、決して麗しい淑女に向けては言ってはならぬ言葉が聞こえたような気がして、彼女、アリシアはぴたりと動きを止めた。

「醜い」

 極めて淡々と、無表情に言い放たれた言葉を頭の中で反芻する。聞き違いかと思って、周囲の様子をそれとなく伺えば、こちらの会話を立ち聞きしたと思しき人々は、皆一様に顔を引きつらせていた。
 けれど、『いくらなんでもまさか』となけなしの希望に縋りついて、アリシアはにっこりと微笑み返す。

「申し訳ございません。よく聞こえませんでしたの。私に何か御用でしょうか?」

 ―――そのときは、まだ殊勝にも、思ったのだ。『気のせいかしら?』と。

 けれど、そんなアリシアの願いを完膚なきまでに叩き壊す発言は、再び繰り返された。

「お前は醜い」

 まるで完璧に形作られた彫像のような完成された美貌の化け物の唇から零れた、破滅的な言葉。
 ぐさ、と自分の心臓を刺し貫く刃がはっきりと感じられ、アリシアは喘いだ。呼吸をすることすらも困難な状況。目の前の視界が一気にぐにゃりと折れ曲がり、立っていることですらやっとの状態にまで追い込まれてしまった。





「あんの、トカゲの王様の分際でぇえええええ!!」

 公衆面前。多くの紳士・淑女の集まる夜会の最中に投下された大爆弾発言。

 『醜い』と―――。

 その言葉を投げかけられた、若干17歳の少女、アリシアは、自室へと帰り着いてからようやくの事で、心の底からの絶叫を許され、その怒りを再燃させていた、手にしたお気に入りのクッションをぼふぼふぼふ、と殴りまくる。

「ああ、悪いわね! どうせ、醜いわよッ! あんたに比べりゃ、人間サマの美貌なんて、滓みたいなもんだわよぉおお!!!」

 と怒鳴り続けてはいるものの、アリシアの容姿はそう悪いほうではない。
 きらきらと輝く金色の髪は、まるで本物の黄金かと見紛うほど。日の当たらない白磁の肌は、完成された陶器のように透き通り、夜空のような藍色の瞳は神秘的な光を帯びている。鯨骨のコルセットで完全装備をせずとも、触れるだけで手折ってしまいそうなほど細い身体も、男の庇護欲をそそって止まないし、ゆるく波打つ自慢の長い髪を丁寧に梳り、お気に入りの淡い色のドレスで決めた姿は、見事なる『お嬢様』である。
 両手を胸の前で握り締めて祈る姿を見せれば、可憐さは増大。大抵の男達はぽーっと見惚れてしまうだろう。
 一言で言って、アリシアは美しい少女だ。無論『美しさ』という曖昧な尺度にはそれなりに個人差が含まれるものなので、『万人が認めうる』とまではいかないのだが、それでも極一般的な感覚を持った人間ならば『醜い』と断ずるようなことだけはない。

 けれど、そのアリシアですら適わぬ、『万人が認めうる』ほどの美貌を持ち、アリシア程度の美貌を『醜い』と断じた男に、何一つ反論できなかったアリシアは、悔しさのあまり自室にて、ひとしきり暴れまくっていた。
 夜会の席だった。淑女らしく振舞っていたアリシアは、間違っても、相手の男性に向け、非礼を取るわけにもいかず、マグマのように沸き立つ憤怒を心の中で抑えきり、それはそれは見事な作り笑みで対応しきった。
 彼の無礼すぎる行動に慣れた取り巻き立ちが、どうにか彼の言葉を好意的に解釈して茶化し、アリシアの面目を保ってくれなかったら―――とてもではないが、アリシアは微笑み続けられたかどうかも分からない。下手をすれば、泣きながら逃げ帰ってきたかもしれない。
 若干17歳の少女に投下された堂々の侮辱的な言葉。心の中でトラウマにすらなりそうな言葉を反芻し、アリシアはじくじくじくと痛む胸を手で押さえ、逆の手で、お気に入りのクッションを地面へと叩き付けた。
 何かに八つ当たりでもしていないと、とてもではないが、正常な意識を保つことすら難しい。

 ―――こういった態度こそが『醜い』の根幹だろうか?

 ひとしきり暴れまくり、ぜぇはぁと肩で息をつきく頃、アリシアの狂乱っぷりが収まった頃合を見計らい、ようやくひょっこりと中の様子を伺いにやってきたのは、アリシアの屋敷で働いている双子のメイドだった。
 ミリーとエリーの二人は、おそるおそると中の様子を伺ってきて、アリシアが騒ぎ疲れて地面にへたり込んでいる様を見て、慌てず騒がず部屋の中を片付け始める。
 おそろいの水色のメイド服に身を包んだ二人は、容姿がそっくりなこともあって、なかなか見分けがつかない。二人の両親はもとより、幼い頃から一緒にいるアリシアですら時々間違ってしまうので、一目で見分けやすいようにと、髪型を変えてもらっている。
 青色の髪を二つに分けてツインテールにしているのがミリーで、後ろで一つに結わえ、ポニーテールにしているほうがエリーだ。
 白い肌に青い髪、青い瞳の二人は、よく似た面立ちなのだが、姉のミリーの方がふんわりと柔らかな空気をまとうのに対し、エリーはと言うとさばさばとした雰囲気を纏っている。慣れてくれば、二人の放つ雰囲気や口調、ちょっとした仕草で双子を見分けられるようになるはずなのだが、たまに、この愉快犯の二人は、お互いの特性を知りぬいた上で、お互いの演技をしてくるため、アリシアたちですらうっかりと騙されることもある。

 エリーがため息交じりで、てきぱきとアリシアが散らかした部屋を片付ける一方で、ミリーは疲弊しきったアリシアを椅子まで連れて行き、『大丈夫?』と声をかけてくれた。
 仕えてくれているメイドではなくて、自分を心優しく労わってくれる友人の言葉に、アリシアは不覚にも泣いてしまいそうになった。

「トカゲの分際でっ!」
「………アリシア。人前でそれは言っちゃ駄目よ? 分かる? 相手は領主様なの。領主様」
「違うわっ! シュルツバルト様はそれはそれは立派な領主様だもの。私が言ってるのは、その息子なの! あの―――イルクレーツ様よっ!」

 氷龍シュイカの血を受け継ぐ子孫。シュルツバルト・シュイカの息子、イルクレーツ・シュイカ。
 今年でアリシアと同じ17歳になる彼は、生まれながらにして正統なこの土地の領主の息子。それと同時に次期領主様でもある。
 氷龍シュイカの血を色濃く受け継いだ彼は、その美麗な容姿から『氷の貴公子』と呼ばれ、貴族のお嬢様たちの視線を一身に集めているのだが、今のアリシアに言わせれば『氷龍だから氷の貴公子って? まんまじゃないっ!』と、もはや彼に関する何でもかんでもに噛み付く始末。

 『こりゃ、しばらく打つ手なしだわ』とミリーですら匙を投げた。
 ミリーの手に余る事態と言うのならば、エリーにも対処の仕様がない。二人の幼馴染は目配せしあって、友人の狂乱を治めることを早々に放棄した。
 代わりに、エリーは時計の時刻を見やる。

「そろそろアルト君が来る時間じゃないかしら?」
「え!?」

 アリシアはその言葉にすぐさま正気を取り戻した。
 ミリーの『アリシアの気をそらせる戦法』は功を奏したらしく、問題の解決はひとまず放っておいて、とりあえず、アリシアは元通りになってくれたようである。二人はこっそりと肩を撫で下ろした。
 アリシアは慌しく夜会服を脱ぎ捨てて、夜着に着替える。ドレスもアクセサリーもぽいぽいっ、とそこらに投げ捨てる勢いだったので、それを片付けるのはエリーの仕事。ここで、通常なら服を選んで着せてあげるのはミリーの仕事なのだが、アリシアは、何もできないそんじょそこらのお嬢様とは訳が違うので、それを放置し、代わりに彼女は部屋の外に出て、その戸口に立つ。
 アリシアの準備が整った後、ミリーがまるで中の様子を見ていたかのように絶妙なタイミングでトントン、とノックをした。

「アリシア様。アルト様がいらっしゃいました」
「通して頂戴」
「ねえさまッ!」

 ミリーが扉を開けた途端、転びそうなほどの勢いで飛び込んできたのはまだ小さな男の子。癖の強い鳶色の髪に、アリシアと同じ藍色の瞳をした5歳くらいの男の子である。ふくふくとしたほっぺは薔薇色。まだ手足は小さく、頭でっかちではあるものの、このアンバランスさがたまらない。己の庇護を掻きたてる存在に、アリシアはささくれ立った心が癒されていくのを感じていた。
 満面の笑みで自分に抱きついてきた小さな元気の塊を抱きしめる。夜だというのに、日向の良い匂いをたっぷりとしみこんだ弟の身体は、よくできたアリシアの精神安定剤である。

「アルト。今日も良い子にしてた?」
「うん! ぼく、今日も花丸もらったよ!」
「それは凄いわね」

 通常、貴族の夜会が始まるのは宵の口から。それからさまざまな種類のダンスが続き、帰宅が夜半を過ぎるのは極当たり前。酷いときには、明け方まで踊り狂うので、こんなに早く戻れないのだが、今日はアリシアの弟であるアルトが夜会前にぐずり、どうしてもアリシアと一緒に寝たい、と泣いたので、早々に帰宅してきたのだ。
 間違っても、イルクレーツに投げかけられた爆弾発言が原因で泣き帰ってきたわけではない。決して。そこだけは断じて違う。

 アリシアが、アルトを連れて自分のベッドへと行こうとすると、エリーとミリーの二人は緩く微笑んで『後始末はやっておくわ』とのことだった。
 こんなに遅い時間帯まで公私混同で付き合ってくれた二人に目礼し、アリシアは弟の手を取って、ベッドへと向かう。

「ねえさま! ご本よんで!」
「ん~、いいけど、今日はちょっとだけね?」

 いつも、アルトの寝る時間帯はもっと早い。アリシアが夜会へ行く日には、ほとんど一人きりで寝ることが当たり前。
 エリーが『男の子なんだから泣くんじゃない』、ミリーが『さぁさ、明日になったらお姉様が帰ってきてますからね』と二人がかりで宥めて寝かしつけてくれているのだが―――ここ数ヶ月間の、屋敷内の異変に小さな弟も気づいているのだということをふとした瞬間に思い知らされる。

 寝不足はいけないと諭しかけてはいるものの、内心では『ちょっとぐらい夜更かししても、いいよね?』と思ってしまっている。思い起こせば、弟相手に本を読んでやったのは、いつぶりのことだったのかが思い出せもせず、アリシアは尚更心を痛めてしまった。

 ―――お父様さえ……もっとしっかりしてくれていたら……。

 ふっとアリシアにだけ囁かされた悪魔の誘惑。それに流されるまいと、アリシアは懸命に両足を踏ん張る。
 それは今更言っても始まらないことだった。今日も一日、何をしていたかも分からぬ父親の態度にこれ以上の歩み寄りを求めることは不可能だと早々に諦め、アリシアはその遠い影を頭の隅へと追いやる。

 金の髪は母親譲り。鳶色の髪は、父親譲り。
 顔の造作加え、くせっ毛なところまで父親に似てしまった弟に罪はない。そして、その弟が持ってきた本がよりにもよって龍の本だったことにも―――おそらく、罪は、ない。
 子供用にデフォルメされた青い龍のイラストが入った本を見て、アリシアはわずかに顔が引きつらせたのだが、『子供向けの御伽噺よ』と思いなおし、その負の感情を胸のうちへと押さえ込んだ。

「『むかしむかし、世界には一人ぼっちの神様だけがいました』」

 目をきらきらと輝かせている毎度おなじみの弟の姿にアリシアはある種の感動を覚える。この話はもう何度も何度も読んだ絵本だというのに、この弟は未だに飽きもしないのだ。
 その気になれば、諳んじることすらできるレベルで、この絵本を読み込まされたアリシアは実にすらすらとページをめくっていくのだが、実を言うと内心ではげんなりしていた。『またこの絵本?』と思ったのだが、無論、そんなことを言うのは大人気なさ過ぎるので、言わない。
 弟は、もう文字が読める。長年この家に仕えてくれている、家庭教師代わりの老執事曰く、『神童です』とのこと。その発言が、親馬鹿の類だということは、老執事本人も認めているのだが、その贔屓を抜きにしても、アリシアの弟は聡明だった。
 絵本なんて自分で軽く読めるのに、それでもアリシアに『読んで!』とせがむ姿には、わずかな打算が見えないでもないのだが、それでも可愛らしい。『構って!』と全身ではっきりとしたアピールしてくる弟を打ち捨てることなど出来るはずもない。
 アリシアは弟を溺愛していた。

 御伽噺を要約すると、『昔一人ぼっちで寂しかった神様が人を作りました。けど、人は傲慢になりすぎて自滅しました。また独りぼっちになった神様は今度は龍を作りました。けれど、龍も死に絶え、神様は独りぼっちになりました。悩んだ神様は、二つの種族に共存の道を指し示し、人と龍とが互いが互いを滅びへと導かぬようにこの世界を作ったのです』という話である。
 朗読中だが、御伽噺は要約してしまうとメルヘンも何もかもが呆気なく砕け散るのはどうしてだろう、と悩みこむ。
 『シンデレラ』なんて、誰かの助けを待つだけの自分に酔っているだけの女。『白雪姫』なんて眠っているところを王子に無理矢理攫われ、なし崩し的に王妃の座についたちゃっかり女。『赤頭巾ちゃん』なんて狼に手のひらで転がされ、ぱっくり食べられてしまった大馬鹿娘。運よく助かっただけ有難く思え。」

 ―――悪意に満ちた言い方だが、現実世界を生きるたアリシアは心の底からそう思う。

 大昔、アリシアが大好きだった美麗な白鳥が、実は優雅に泳ぐ湖の中で必死のバタ足をしているのだと知った時、アリシアは『世の中は可愛いだけじゃ生きていけない!』と夢の世界を投げ捨てた。以来、思い出してみれば、絵本なんて本棚の一番奥に突っ込んで、一度も開いたことがなかったな、と思う。

 そこへ来ると―――弟のなんと純真なこと。
 思わずこんな良い子が本当に自分の弟なのかと、できることなら今は亡き母に詰め寄りたくなる。無論、弟の外見は父親譲り、中身はと言うと、永遠の少女だった母親に似た部分が垣間見えるので、おそらく間違いと言うことだけはない。アリシアにしたって、両親からその遺伝子を受け継いでいることは明らか。今更『他所の子だったの』なんていう爆弾発言が出てくる可能性はカケラも見出すことができない。

 絵本を最後まで読む前にすでに寝入ってしまっていた弟に気づき、アリシアも思わず欠伸を洩らす。

「も、寝よ」

 ベッドの近くにあるランプを操作して、明かりを消す。

 ランプを手に取った時、アリシアが思ったことは、『次に質に入れるとしたら、このランプね』という現実的過ぎる考えだった。
 希少性の高い、燃料の要らないランプはどこへもって行っても重宝される。龍族が操る魔術ではなく、人が操る法術を応用して作られたというこのランプの原理は、アリシアにも分からないのだが、この際重要なのは『いくらで売れるか』というそのことのみである。
 一応、最初は質に流して取り戻せるようなら買い戻すのだが―――それも無理だろうな、と半ば諦めてしまっている。
 仕事の関係上、夜中でも起きていることのあるアリシアは、自室のランプを売ることはできないのだが、母の部屋に残る遺品であれば、とりあえずのところは誰も困らない。

 母との思い出すら売ることを考える自分は―――やっぱり『醜い』のだろうか?

 とりとめのない暗澹たる思いを抱きながら、アリシアはゆっくりと眠りに落ちていった。






 現実世界での事情はさておいて、現実主義者であるはずのアリシアはよく夢を見る。夜床につくと、次の日の朝には何らかの夢の残滓がつきまとっており、場合によっては感情が引きずられたまま、泣いたまま起きることすらある。
 普段のアリシアは、それを『感傷ね』の一言でバッサリと切って、起きるのだが、その日も夢を見た。

 うっとり見惚れてしまいそうなほどに―――いや、見惚れずにはいられない、白皙の美貌。きらきらと輝く白銀の髪に、目も覚めるような美しいサファイアが二つ。凛とした面立ちは、女性的とも男性的とも判断をつけがたく、むしろ、この世界を作った神と同じく『両性具有なのだ』と言われてしまえば、『なるほど』と返したくなるほどの完璧っぷりである。
 静かに立つ、その体躯はすっきりと引き締まっており、その身体に秘められたしなやかさを強調している。健康的な肉をつけた身体から立ち上る金色のオーラ。わずかに憂いを帯びた眼差しで見つめられ、アリシアは呼吸を止めた。

 不可侵の―――神がそこにいた。

 気がつけば、膝をつき、その場に頭を垂れていたアリシアは、屈辱を感じながらも、相手にひれ伏していた。
 相手は神だ―――神の言う言葉は絶対。なれば、アリシアは真に『醜い』ということになる。悔しさすら滲ませ、涙を浮かべれば、神はゆっくりとアリシアへと近づき、その面を上げさせた。

 細い指が自分の顎にかかり、無理矢理もっと上を向けさせられる。触れられたことにまず驚き、『醜い』自分などに神が触れたら御身の指を穢してしまう、とのけぞった。のけぞっても、またその顎を掴まれ、アリシアは眼前の美貌に飲まれそうになりつつも、なんとか『何か?』と、泣きながら問うた。
 『醜い』自分などに、神が何の御用なのかと、問いかける。

「貴女はとても美しい」

 真逆の言葉を吐かれたアリシアは束の間、思考を停止させた。
 ふわり、と心が浮き立っていくのを留められなくて、頬が真っ赤になる。世辞とは分かっていながらも、慌てふためいてしまった。
 ぐさり、と心臓を刺し貫いていた刃がようやく抜け落ちた。からり、と地面に落ちた無数の刃の存在をはっきりと知覚し、アリシアは目の前の神を真っ直ぐに見つめる。

 ―――神が、笑っていた。

 唇を軽く緩ませた程度のこと。それでも神に微笑んでもらったアリシアの心はすでに舞い上がった状態である。
 彼はその後、無造作にアリシアに近づいてくると、その胸元にかけたネックレスへと口付ける。
 神からの突然の祝福に、どぎまぎしつつ、『ありがとうございます』と言った直後に―――起床。

 しばらく、それが夢と思いつかず、腕の中にある小さな温もりに蹴り起こされたアリシアは呆然としてしまった。夢は己の現実世界では適わぬ願望を見るもの―――なんてことを思い出し、自己嫌悪に陥る。

 ―――その日の夢見心地はまず間違いなく『最悪』だった。

 起きた直後にアリシアはそう思い、弟を起こさぬようにと思いながら、ひたすら悶えた。

「どんな夢見てるのよ……………」

 現実主義者ゆえに、思ったよりもダメージは大きい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18/TL】息子の結婚相手がいやらしくてかわいい~義父からの求愛種付け脱出不可避~

宵蜜しずく
恋愛
今日は三回目の結婚記念日。 愛する夫から渡されたいやらしい下着を身に着け、 ホテルで待っていた主人公。 だが部屋に現れたのは、愛する夫ではなく彼の父親だった。 初めは困惑していた主人公も、 義父の献身的な愛撫で身も心も開放的になる……。 あまあまいちゃラブHへと変わり果てた二人の行く末とは……。 ──────────── ※成人女性向けの小説です。 この物語はフィクションです。 実在の人物や団体などとは一切関係ありません。 拙い部分が多々ありますが、 フィクションとして楽しんでいただければ幸いです😊

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。  でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました

灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。 恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。

処理中です...