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風龍の玉
彼の追想-2
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―――リアナのことが、好きだ。
それを理解したのは、いつのことだったのか思い出せない。ただ、生きた宝石のようにきらきらと輝いた彼女の笑顔が、自分に向けられる、そんな些細な幸せを「幸せだ」と―――「幸せだった」のだと理解できるようになったのは、それが消えたのと同時だった。
「母上! 一体、どういうことなんですか!!」
それとなく距離を置かれだしたことに気づいて、焦っていた。何か自分がしてしまったのか―――彼女に嫌われてしまうようなことをしてしまったのではないかと、何度も何度も自分と彼女との間にあった最近の出来事を思い返し、幸せな記憶に浸りながら、現在を悪夢のようだと思う日々。
就職を機に、彼女が孤児院を離れる。
もちろん、義理堅い彼女のことだから、たまの行事ごとや何やかや折につけて孤児院を訪れてくれるだろうことは予想に難くないのだが、それでも会う機会が減ってしまう。では、ごく自然な流れで今後も定期的に会うためにはどうしたらいいのか、と真剣に考えていた矢先、彼女の就職先が自分の知り合いの店だと間接的に知るところとなり、ユーグはその奇跡を神に感謝していた。
毎日会うことはできなくても、これならそれとなく店主の方から情報が聞き出せるし、何よりも安心して彼女を社会に送り出すことができる。
できることなら自分の目の届く範囲内―――それこそ、領内の関連施設で働く職員に空きがないかを探しており、最悪、「空きを作ろう」という恐ろしい考えに染まりかけ、こっそりと彼女の意向を探ろうとしていたのだが、どうやら自分の考えは空振りに終わるようだった。
もっとも、自分には内緒で彼女は就職先を決めてしまっていたわけなので、それに驚かされるやら青ざめるやら。とにもかくにも、就職についての相談など何一つなかったこともあって、もしや「孤児院で何かあったのでは!?」と思い、とるものもとりあえず、最速で「偶然」という名のタイミングを狙い定め、彼女の元を訪れたユーグに対し、彼女は微妙な表情を浮かべていた。
―――何か、あったのだろうか?
いつもなら満面の笑みで迎えてくれる彼女のいつもと違う反応に、違和感を覚えた。
「リアナ?」
「……ユーグに、迷惑かけたくなくて」
―――迷惑だなんて思ったことなんて、一度もない。
微かな違和感と同時に、幼馴染だった、彼女が、自分の指先からすり抜けていく感覚に、ただただ青ざめる。
気が付けば友達も増えて、言葉も完璧にマスターして、四則演算だけではなく、それ以外の社会的知識や、歴史の理解。芸術方面への造詣も自分などよりよほど深く、歌えばそれはまさしく天使のような柔らかな歌声を奏でる―――そんな誰もが愛を乞いたくなるほどに愛らしい少女。
彼女がユーグの言葉に対していった言葉は、普段ならば「そうか」と流しただけで終わったかもしれないのだけれど、その時だけは複雑そうな彼女の心境が透けるように見えた。
見えたそれを直視できなくて、その日は足早に去っていってしまったのだが、時間が空くにつれて、その直感は革新へと変わった。
―――毎日、なんで贅沢は言わない。ただただ、一緒にいられたら、それだけで幸せだ。
そんな単純な、自分の思考に、気づかなかった。
「しばらくは引っ越しや孤児院を出る手続きで忙しいから」と作り笑顔を浮かべたその少女を捕まえて、「閉じ込めたい」などと思った自分の危うさに、ユーグは生まれて初めて自身が「恐ろしい」と感じた。
彼女のことがそれほどまでに「好き」だったのだと、その意味に気づいたのは、彼女が自分から距離を取り出してからのことで、何をどうしていいのか理解できず、まず仕事が手につかなくなった。
不意に訪れるとんでもない喪失感。
リアナが自分に何一つ相談してくれなかったこともまたショックだったが、就職がその契機となっただけで、実際に前々からそう思っていたのではないかと思うと、その場で叫びたいほどに荒れたくなった。
―――紛れもなく、自分は彼女を愛している。
理解すると同時に直面した危機に、彼はすべてをかなぐり捨てて原因を探り出し―――そして、真相を突き止めた。
すべては自分の母親が、彼女にいらぬちょっかいを出したから、という急展開に、胸の奥で何かがぐつぐつと滾っていた。自分の母親だと分かっていてもなお、彼女のことを―――今すぐに切り裂いて殺してしまいたいほどに憎らしく思う。
「ユーグ、待って。話を聞いてちょうだい。お願いだから、落ち着ついて……」
「僕はっ……僕はっ!!」
「ユーグ」
まさかの事態に戸惑う母と、「どうしようもないな、こいつ」と表情で物語る父。さすがに母親もここまでの事態になるとは思っていなかったようだったし、父親もまた母親の非を全面的に認めつつ、とりなしにきていたので、少々冷静さは取り戻しはしたものの、それでもなお、父にすらその牙を向けたくなる。
頭を抱えて、その場にうずくまる。
いつも自分に向けられていたあの笑顔が、他人に向けられる。自分にはもう向けてもらえないのかと思うと、その場で絶望のあまり―――死んでしまいたいと思うほどだった。
「彼女は……リアナは……」
―――僕のモノだ。
心の底からあふれ出した言葉に、自分で驚いた。どす黒く、底からひっきりなしにあふれ出来る激情で、目の前が真っ赤に染まっていた。
―――そんな自分が頭を冷やすには、3日を要したらしい。
父が無言で魔術を発動させ、物理的に氷の檻へと閉じ込められ―――ユーグはその状態で三日三晩、思考を巡らせ続けた。
けれど、いっかな答えは見つからず、狂気に走りつつ自分の精神と正常な理性との間で板挟みにあう自分へ向け、父は大仰にため息をつく。
「ユーグ、お前が彼女のことを愛していることはよくわかった。だが、そもそも、彼女の方からの気持ちは確認したのかい?」
「……してない」
「だろうね。コレットのしでかしたことは、かなりマズイけど、いい機会だ。この際、お前からの一方方向なのか、そうじゃないのか、見定めるところから始めてはどうだ?」
―――言いたいことは分かる。
けれど、見定めたところで、自分はまだ未成年。彼女もまだ成人には数年あり―――この状態で、告白などしていいのかどうかで躊躇う。
何より、彼女がもしも―――もしも自分のことを何とも思っていなかったら、ただの「友達」だと思っていたのなら、その途端に自分の思考は黒一色に染まるだろう。
振り向いてもらえる可能性のあるなしに関わらず、返答次第では正気を保てるかどうかが分からない。
今すぐ閉じ込めたいだとか、もはや自分以外の存在に目を向けないでいてくれるのなら、その瞳に写る感情が恐怖であっても唯一であればいいだとか。
ひっきりなしに吹き出てくる黒すぎる自分がまず認められない。
だがしかし、それを父に吐露すれば彼は落ち着き払って言う。
「龍などそんなものだ」
――まさかの種族特性。
思ってもいなかった自分の凶行に対する肯定の言葉に、彼自身絶句した。だが、倫理観的にそこまで達観できなかった彼は首を横へと振り、そこまでの行為は強く自重の必要がある、と自分自身を戒めた。
とにもかくにも、まずは「友達」に戻れるか、である。
母親のことは今後確実に、自分が監視をしておく、と請け負ってくれた父親に何度となく頭を下げ、就職祝いにと選んでいたプレゼントを手にして彼女の引っ越し先に向かう。
―――どうか、せめて。
「友達」にだけは戻れますように、と切に願った。
―――「ユーグ、お帰りなさい」、と。
笑って、彼女が青鹿亭で自分のことを待ってくれている。できたての、おいしい料理を運んできてくれる。それだけでも、ユーグは満ち足りた気持ちになっていた。彼女が、自分を頼ってくれることが、自分だけを見てくれることが、どれほど自分を幸せな気持ちにしてきてくれたのか、彼女はちっとも知らないだろう。
彼女が笑顔いれば、ユーグはそれでいい。
龍が、愛情深い生き物だとか、この領地を統治するために自分が生きていることだとか、すべてはどうでもいい。父母への憎しみ交じりの愛情や、領地に対する慈しみの心はある。
けれど、それを単体で上回る、最大級の愛情を向ける存在はこの世でたった一つきりだった。
―――その気持ちを今、黒く塗りつぶされたのが、分かった。
「もう一度、言ってくれるかな?」
―――君のせいじゃないのは分かっている。けど、そんな言葉を自分の前で言い放ったのだ、少しぐらいその罪を理解しろ、と思う。
いつになく低い声音に、目の前の見習い騎士が怯えだすのが分かった。
ざわざわと周囲を風が動く感覚がある。自分の感情が抑えきれないのだ。今すぐにでも、感情が―――「怒り」という感情が、この小さな殻を突き破ろうとしている。
「同じ報告を聞かせてくれるだけでいいって言ってるのに、なんでできないの?」
「フィル。報告してくれ」
「そ、その……往来で、貴族のご令嬢と揉め事を起こした女がいる、とのことです。ご令嬢が言うには、「突然娘が言いがかりをつけて殴りつけてきた」と。実際に、怪我をしておられましたので、ご令嬢は医療所に収容しましたが、女のほうが逃走し―――現在をもってしても居場所が知れないじょう、きょう……で……」
「それが、たい―――いや、ラルゴさんの店の、看板娘だ、と?」
「そ、そうで、す………だから、今、憲兵と連携して緊急配備を……って」
―――ありえない。
風龍の騎士団、通称「鎌鼬」の詰め所にもたらされた報告に、周囲は鈍い反応を示していた。そして、おそらく憲兵たちの詰め所でも同様の事態が起こっているだろうことは予想だに容易い。
新兵の動きは素早いのだが、古参の団員たちは皆、一様に訝し気な反応を示している。
団長など、大げさに顔をしかめて、苦みばしった顔をしていた。
「おい。その女逃がすな」
「はい。だから、緊急はい」
「違う。貴族のほうだ。どこの誰だか知らんがまぁ―――バカなことをやったなぁ、おい」
リアナが、そんなことするわけないだろうに。
もし仮にしてしまったとしても、それには深い深い理由があるに決まっているのに。
「リアナ―――」
―――いったい何があったって言うの?
それを理解したのは、いつのことだったのか思い出せない。ただ、生きた宝石のようにきらきらと輝いた彼女の笑顔が、自分に向けられる、そんな些細な幸せを「幸せだ」と―――「幸せだった」のだと理解できるようになったのは、それが消えたのと同時だった。
「母上! 一体、どういうことなんですか!!」
それとなく距離を置かれだしたことに気づいて、焦っていた。何か自分がしてしまったのか―――彼女に嫌われてしまうようなことをしてしまったのではないかと、何度も何度も自分と彼女との間にあった最近の出来事を思い返し、幸せな記憶に浸りながら、現在を悪夢のようだと思う日々。
就職を機に、彼女が孤児院を離れる。
もちろん、義理堅い彼女のことだから、たまの行事ごとや何やかや折につけて孤児院を訪れてくれるだろうことは予想に難くないのだが、それでも会う機会が減ってしまう。では、ごく自然な流れで今後も定期的に会うためにはどうしたらいいのか、と真剣に考えていた矢先、彼女の就職先が自分の知り合いの店だと間接的に知るところとなり、ユーグはその奇跡を神に感謝していた。
毎日会うことはできなくても、これならそれとなく店主の方から情報が聞き出せるし、何よりも安心して彼女を社会に送り出すことができる。
できることなら自分の目の届く範囲内―――それこそ、領内の関連施設で働く職員に空きがないかを探しており、最悪、「空きを作ろう」という恐ろしい考えに染まりかけ、こっそりと彼女の意向を探ろうとしていたのだが、どうやら自分の考えは空振りに終わるようだった。
もっとも、自分には内緒で彼女は就職先を決めてしまっていたわけなので、それに驚かされるやら青ざめるやら。とにもかくにも、就職についての相談など何一つなかったこともあって、もしや「孤児院で何かあったのでは!?」と思い、とるものもとりあえず、最速で「偶然」という名のタイミングを狙い定め、彼女の元を訪れたユーグに対し、彼女は微妙な表情を浮かべていた。
―――何か、あったのだろうか?
いつもなら満面の笑みで迎えてくれる彼女のいつもと違う反応に、違和感を覚えた。
「リアナ?」
「……ユーグに、迷惑かけたくなくて」
―――迷惑だなんて思ったことなんて、一度もない。
微かな違和感と同時に、幼馴染だった、彼女が、自分の指先からすり抜けていく感覚に、ただただ青ざめる。
気が付けば友達も増えて、言葉も完璧にマスターして、四則演算だけではなく、それ以外の社会的知識や、歴史の理解。芸術方面への造詣も自分などよりよほど深く、歌えばそれはまさしく天使のような柔らかな歌声を奏でる―――そんな誰もが愛を乞いたくなるほどに愛らしい少女。
彼女がユーグの言葉に対していった言葉は、普段ならば「そうか」と流しただけで終わったかもしれないのだけれど、その時だけは複雑そうな彼女の心境が透けるように見えた。
見えたそれを直視できなくて、その日は足早に去っていってしまったのだが、時間が空くにつれて、その直感は革新へと変わった。
―――毎日、なんで贅沢は言わない。ただただ、一緒にいられたら、それだけで幸せだ。
そんな単純な、自分の思考に、気づかなかった。
「しばらくは引っ越しや孤児院を出る手続きで忙しいから」と作り笑顔を浮かべたその少女を捕まえて、「閉じ込めたい」などと思った自分の危うさに、ユーグは生まれて初めて自身が「恐ろしい」と感じた。
彼女のことがそれほどまでに「好き」だったのだと、その意味に気づいたのは、彼女が自分から距離を取り出してからのことで、何をどうしていいのか理解できず、まず仕事が手につかなくなった。
不意に訪れるとんでもない喪失感。
リアナが自分に何一つ相談してくれなかったこともまたショックだったが、就職がその契機となっただけで、実際に前々からそう思っていたのではないかと思うと、その場で叫びたいほどに荒れたくなった。
―――紛れもなく、自分は彼女を愛している。
理解すると同時に直面した危機に、彼はすべてをかなぐり捨てて原因を探り出し―――そして、真相を突き止めた。
すべては自分の母親が、彼女にいらぬちょっかいを出したから、という急展開に、胸の奥で何かがぐつぐつと滾っていた。自分の母親だと分かっていてもなお、彼女のことを―――今すぐに切り裂いて殺してしまいたいほどに憎らしく思う。
「ユーグ、待って。話を聞いてちょうだい。お願いだから、落ち着ついて……」
「僕はっ……僕はっ!!」
「ユーグ」
まさかの事態に戸惑う母と、「どうしようもないな、こいつ」と表情で物語る父。さすがに母親もここまでの事態になるとは思っていなかったようだったし、父親もまた母親の非を全面的に認めつつ、とりなしにきていたので、少々冷静さは取り戻しはしたものの、それでもなお、父にすらその牙を向けたくなる。
頭を抱えて、その場にうずくまる。
いつも自分に向けられていたあの笑顔が、他人に向けられる。自分にはもう向けてもらえないのかと思うと、その場で絶望のあまり―――死んでしまいたいと思うほどだった。
「彼女は……リアナは……」
―――僕のモノだ。
心の底からあふれ出した言葉に、自分で驚いた。どす黒く、底からひっきりなしにあふれ出来る激情で、目の前が真っ赤に染まっていた。
―――そんな自分が頭を冷やすには、3日を要したらしい。
父が無言で魔術を発動させ、物理的に氷の檻へと閉じ込められ―――ユーグはその状態で三日三晩、思考を巡らせ続けた。
けれど、いっかな答えは見つからず、狂気に走りつつ自分の精神と正常な理性との間で板挟みにあう自分へ向け、父は大仰にため息をつく。
「ユーグ、お前が彼女のことを愛していることはよくわかった。だが、そもそも、彼女の方からの気持ちは確認したのかい?」
「……してない」
「だろうね。コレットのしでかしたことは、かなりマズイけど、いい機会だ。この際、お前からの一方方向なのか、そうじゃないのか、見定めるところから始めてはどうだ?」
―――言いたいことは分かる。
けれど、見定めたところで、自分はまだ未成年。彼女もまだ成人には数年あり―――この状態で、告白などしていいのかどうかで躊躇う。
何より、彼女がもしも―――もしも自分のことを何とも思っていなかったら、ただの「友達」だと思っていたのなら、その途端に自分の思考は黒一色に染まるだろう。
振り向いてもらえる可能性のあるなしに関わらず、返答次第では正気を保てるかどうかが分からない。
今すぐ閉じ込めたいだとか、もはや自分以外の存在に目を向けないでいてくれるのなら、その瞳に写る感情が恐怖であっても唯一であればいいだとか。
ひっきりなしに吹き出てくる黒すぎる自分がまず認められない。
だがしかし、それを父に吐露すれば彼は落ち着き払って言う。
「龍などそんなものだ」
――まさかの種族特性。
思ってもいなかった自分の凶行に対する肯定の言葉に、彼自身絶句した。だが、倫理観的にそこまで達観できなかった彼は首を横へと振り、そこまでの行為は強く自重の必要がある、と自分自身を戒めた。
とにもかくにも、まずは「友達」に戻れるか、である。
母親のことは今後確実に、自分が監視をしておく、と請け負ってくれた父親に何度となく頭を下げ、就職祝いにと選んでいたプレゼントを手にして彼女の引っ越し先に向かう。
―――どうか、せめて。
「友達」にだけは戻れますように、と切に願った。
―――「ユーグ、お帰りなさい」、と。
笑って、彼女が青鹿亭で自分のことを待ってくれている。できたての、おいしい料理を運んできてくれる。それだけでも、ユーグは満ち足りた気持ちになっていた。彼女が、自分を頼ってくれることが、自分だけを見てくれることが、どれほど自分を幸せな気持ちにしてきてくれたのか、彼女はちっとも知らないだろう。
彼女が笑顔いれば、ユーグはそれでいい。
龍が、愛情深い生き物だとか、この領地を統治するために自分が生きていることだとか、すべてはどうでもいい。父母への憎しみ交じりの愛情や、領地に対する慈しみの心はある。
けれど、それを単体で上回る、最大級の愛情を向ける存在はこの世でたった一つきりだった。
―――その気持ちを今、黒く塗りつぶされたのが、分かった。
「もう一度、言ってくれるかな?」
―――君のせいじゃないのは分かっている。けど、そんな言葉を自分の前で言い放ったのだ、少しぐらいその罪を理解しろ、と思う。
いつになく低い声音に、目の前の見習い騎士が怯えだすのが分かった。
ざわざわと周囲を風が動く感覚がある。自分の感情が抑えきれないのだ。今すぐにでも、感情が―――「怒り」という感情が、この小さな殻を突き破ろうとしている。
「同じ報告を聞かせてくれるだけでいいって言ってるのに、なんでできないの?」
「フィル。報告してくれ」
「そ、その……往来で、貴族のご令嬢と揉め事を起こした女がいる、とのことです。ご令嬢が言うには、「突然娘が言いがかりをつけて殴りつけてきた」と。実際に、怪我をしておられましたので、ご令嬢は医療所に収容しましたが、女のほうが逃走し―――現在をもってしても居場所が知れないじょう、きょう……で……」
「それが、たい―――いや、ラルゴさんの店の、看板娘だ、と?」
「そ、そうで、す………だから、今、憲兵と連携して緊急配備を……って」
―――ありえない。
風龍の騎士団、通称「鎌鼬」の詰め所にもたらされた報告に、周囲は鈍い反応を示していた。そして、おそらく憲兵たちの詰め所でも同様の事態が起こっているだろうことは予想だに容易い。
新兵の動きは素早いのだが、古参の団員たちは皆、一様に訝し気な反応を示している。
団長など、大げさに顔をしかめて、苦みばしった顔をしていた。
「おい。その女逃がすな」
「はい。だから、緊急はい」
「違う。貴族のほうだ。どこの誰だか知らんがまぁ―――バカなことをやったなぁ、おい」
リアナが、そんなことするわけないだろうに。
もし仮にしてしまったとしても、それには深い深い理由があるに決まっているのに。
「リアナ―――」
―――いったい何があったって言うの?
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