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ある土曜日の11時ごろ、先月結婚式を挙げたばかりの桜井 裕也と香澄は高層マンションの並ぶ住宅街を歩いていた。
「ゆうくん、社長さんのおうちにお呼ばれなんてすごいね」
香澄は先を歩く裕也を小走りで追いかけると、その腕を掴んで言った。
「うち結構アットホームだから」
「新しいミールセットの案があって、妻がそれを作ってみるから試食も兼ねて、奥さんと遊びに来ないか」と社長の早瀬に声をかけられたときは裕也も驚いた。
もともと勤め先の『ホーミィ』は、若い社員が多いこともあって社員同士の距離が近い会社で、家族ぐるみのバーベキューやら忘年会やら、色々なイベントをやっているので、社長の拓真とも気軽に話す機会は多かった。それでも、個人的に自分だけが誘われるというのは初めてだったので、最初は何かしでかしたかと却って不安に思った。
(まあ、でも、スイーツキット始めたの俺だし)
自分が提案した商品は順調に売り上げを伸ばしていて、今はその部門をまとめるリーダーにも任命された。社長にも直接期待されているのだろうと思い直すと、嬉しくなった。
「社長さんは式に来てくれてたよね! 奥さんはどんな人なの?」
「……何回か、見かけたことあるけど、すごい綺麗な人だったな。デザインかなんかの仕事されてて……、うちのホームページのデザインとか、奥さんがやってるみたいだ」
裕也は自分の立ち上げたスイーツキット部門の立ち上げパーティーに来ていた拓真の妻、結花子のことを思い浮かべた。背が高く、すらっとしていてモデルのような人だった。
「ふーん」
香澄は少しむっとしたように頬を膨らませる。
「そしたら、美男美女なんだね! 社長さんも背が高くてかっこよかったもんね」
「そうだな」と裕也は呟いた。裕也も身長はどちらかといえば高いほうだが、拓真はもっと高く、がっしりした身体つきをしている。頼りがいのある感じで、裕也から見ても同じ感想だった。
香澄は「もう」とぼやいてから、続けて聞いた。
「お子さんはいないの?」
「……いないみたいだけど」
好奇心に満ちた目で聞いてくる妻に、裕也は眉を寄せた。
(どうして女ってこう詮索好きなんだろ……。近所のオバサンかよ)
「お前さ、失礼なこと聞くなよ」
「聞かないよ! 何だと思ってるの」
香澄は不機嫌そうにそう呟くと、もう一度質問する。
「何でだろう? 30代の終わりくらいでしょ?」
「知らねえよ」
裕也ははぁ、とため息をついた。
□
「わぁ! すごいマンションだねぇ」
一際真新しい建物の前で、香澄ははしゃいだ声を出した。
エントランスで部屋番号を入れ、通話を押す。
「上がって来てくれ」と拓真の声が言った。
緊張しながら扉のブザーをならす。
「桜井くん、休日に済まないね。奥さんもお時間頂いて、ありがとう」
出迎えた拓真は、にこやかに笑った。
「本日はお招き頂いて、ありがとうございます」
「主人がいつもお世話になっています」
二人はリビングに通されると、思わずため息を吐いた。
大きい窓からは街の景色が良く見えた。
広いリビングテーブルの上には、彩の良い料理が並んでいる。
「いらっしゃい、お酒は飲むかしら」
奥から現れた結花子は、ワインの瓶を片手に微笑んだ。
「ゆうくん、社長さんのおうちにお呼ばれなんてすごいね」
香澄は先を歩く裕也を小走りで追いかけると、その腕を掴んで言った。
「うち結構アットホームだから」
「新しいミールセットの案があって、妻がそれを作ってみるから試食も兼ねて、奥さんと遊びに来ないか」と社長の早瀬に声をかけられたときは裕也も驚いた。
もともと勤め先の『ホーミィ』は、若い社員が多いこともあって社員同士の距離が近い会社で、家族ぐるみのバーベキューやら忘年会やら、色々なイベントをやっているので、社長の拓真とも気軽に話す機会は多かった。それでも、個人的に自分だけが誘われるというのは初めてだったので、最初は何かしでかしたかと却って不安に思った。
(まあ、でも、スイーツキット始めたの俺だし)
自分が提案した商品は順調に売り上げを伸ばしていて、今はその部門をまとめるリーダーにも任命された。社長にも直接期待されているのだろうと思い直すと、嬉しくなった。
「社長さんは式に来てくれてたよね! 奥さんはどんな人なの?」
「……何回か、見かけたことあるけど、すごい綺麗な人だったな。デザインかなんかの仕事されてて……、うちのホームページのデザインとか、奥さんがやってるみたいだ」
裕也は自分の立ち上げたスイーツキット部門の立ち上げパーティーに来ていた拓真の妻、結花子のことを思い浮かべた。背が高く、すらっとしていてモデルのような人だった。
「ふーん」
香澄は少しむっとしたように頬を膨らませる。
「そしたら、美男美女なんだね! 社長さんも背が高くてかっこよかったもんね」
「そうだな」と裕也は呟いた。裕也も身長はどちらかといえば高いほうだが、拓真はもっと高く、がっしりした身体つきをしている。頼りがいのある感じで、裕也から見ても同じ感想だった。
香澄は「もう」とぼやいてから、続けて聞いた。
「お子さんはいないの?」
「……いないみたいだけど」
好奇心に満ちた目で聞いてくる妻に、裕也は眉を寄せた。
(どうして女ってこう詮索好きなんだろ……。近所のオバサンかよ)
「お前さ、失礼なこと聞くなよ」
「聞かないよ! 何だと思ってるの」
香澄は不機嫌そうにそう呟くと、もう一度質問する。
「何でだろう? 30代の終わりくらいでしょ?」
「知らねえよ」
裕也ははぁ、とため息をついた。
□
「わぁ! すごいマンションだねぇ」
一際真新しい建物の前で、香澄ははしゃいだ声を出した。
エントランスで部屋番号を入れ、通話を押す。
「上がって来てくれ」と拓真の声が言った。
緊張しながら扉のブザーをならす。
「桜井くん、休日に済まないね。奥さんもお時間頂いて、ありがとう」
出迎えた拓真は、にこやかに笑った。
「本日はお招き頂いて、ありがとうございます」
「主人がいつもお世話になっています」
二人はリビングに通されると、思わずため息を吐いた。
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広いリビングテーブルの上には、彩の良い料理が並んでいる。
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