上 下
23 / 23

それは何?

しおりを挟む

皇に弁当を貰った後、俺は売店に急いで直行した。

(やべぇ……。もう昼休みあとちょっとしかねーじゃん)

思ったよりも皇と居た時間が長かったせいで、昼休憩も残り半分しかない。

おかげで、さっきはあった長蛇の列も今はすっかりなくなっていて、列に並ばずに済んでからそれは良かったんだが……。

商品棚にたくさんあったはずの商品の大半が売り切れになっていた。

おかげで、

(詰んだ。……2つ買ってこいって言われたけど、塩結びとタラコしかない……)

西条の好きな鮭とイクラはもうなかった。

――遅いし、売り切れってどういう事? あり得ないんだけど!

……目に見えて怒られる光景が浮かぶ。俺が100%悪いんだけどさ。

しかし、ないよりはマシだろ。

仕方なく俺は、その不人気商品2つを手に取って、西条から預かったカードで会計を済まして、教室に大急ぎで戻った。


☆★☆

5限目開始15分前。

何とか教室にたどり着き、西条の席に向かう。

西条はいつも通りだった。

朝俺が登校してきた時と同じ。

みんなが友達同士でお喋りをしているのをそっちのけで、一人で、雑音をかき消すように、両耳にヘッドフォンを装着して、自作の英単語帳をペラペラとめくって、勉強していた。

そして、それは俺が席の前に立っても。

「西条……遅れてごめん! ちょっと一回列から抜けちゃって、さ。鮭とイクラ売り切れてた。だから、その……塩結びとタラコ買って来たんだけど……」

そっと机におにぎりを置いて、怒られるの承知で声を掛けてみたが、

「……あ、そ。なかったら、仕方がないわよ。買って来てくれてありがと。カードは?」

「……え? あ? あ、あるけど……」

「頂戴」

「ど、どうぞ」

「どうも」

意外にも何も起こらなかった。

拍子抜けだが、とにかく俺は言われた通り、おにぎりとカードを西条に手渡した。

そして、それっきり西条は俺に何も言わない。

勉強を一時中断して、ビリビリとおにぎりの包装ラップを引き取って、食事を始めた。

(……変だな。怒られるって思ったんだが。……逆にこうなると怖)

無言の圧を感じた俺。

どこか居心地の悪さを感じつつ、俺も食事を始めようと、皇から貰った2段弁当を机に置いてパカッと開けた瞬間。

後ろに目でも付いているんじゃないか、と思えるほど間髪を入れずに、

「――その赤い弁当は何かしら?」

西条の恐ろしく冷たい声がした。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

浮気したけど『ざまぁ』されなかった女の慟哭

Raccoon
恋愛
ある日夫——正樹が死んでしまった。 失意の中私——亜衣が見つけたのは一冊の黒い日記帳。 そこに書かれてあったのは私の罪。もう許されることのない罪。消えることのない罪。 この日記を最後まで読んだ時、私はどうなっているのだろうか。  浮気した妻が死んだ夫の10年分の日記読むお話。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

君と僕の一周年記念日に君がラブホテルで寝取らていた件について~ドロドロの日々~

ねんごろ
恋愛
一周年記念は地獄へと変わった。 僕はどうしていけばいいんだろう。 どうやってこの日々を生きていけばいいんだろう。

悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。

ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

処理中です...