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私が先輩を好きになった理由④

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不意を突いた、西条先輩が繰り出した最後のサーブはネット手前に落下。

試合開始直後なら余裕で打ち返すことが出来たチャンスボール。

反射的に、私も前に走りだそうと、一歩目を踏み出そうとしました。

ですが、その瞬間。

ズキッと足に強烈な痛みが走りました。

(ッ――! ……これぐらいで――ッ! まだ私はやれるッ!)

スタートが一瞬遅れました。

それでも私は走って、精一杯ラケットを伸ばして、倒れこみながらもボールを掬い上げようとしました。


でも。


ボールは私を嘲笑うかのように、地面に2回、3回、小さくテンテンテン……、とショートバンドしてしまいました。

「ゲームセット、マッチウォンバイ西条。6-0、6-0」

審判がそうコールしても、私の頭は真っ白でした。

(え? え?)

何も出来なかった。

脚もヒリヒリして痛かったけれど、そんな事忘れてしまうぐらいに、初黒星がショックでした。


☆★☆

試合後。

私は西条先輩と軽く握手を交わしました。

「ナイスゲーム!」

「ナイスゲーム……でした」

声が小さく震えていたような気がします。

私としては、はやくコートから出たい気持ちで一杯でした。

でも、西条先輩は、試合中には決して見せなかった満面の笑みを浮かべて、私の手を離さずに、

「今日はホントーに楽しかったわ。私こんなに無理したの久々。貴方のおかげよ。ありがとう」

「……そぅ、ですか。私も……楽しかった、です」

何が、ありがとうだ。

最後、アンダー打ったくせに。

心の中で毒を吐いていましたが、それを知らない先輩は、

「どう? 良かったらこの後一緒にクールダウンしない?」

私の足をチラッと見ながら言ってきましたが、

「……いえ。私、この後用事があるので……。ごめんなさい」

「そう…残念」

とても誰かと一緒にいる気分にはなれなかったです。

私は、それだけ言うと、握って離そうとしない西条先輩の手を軽く振り払って、コートを後にしました。




☆★☆

近くの公園。

みんな、テニスコートの方に集まっていたから、その時はラッキーな事に、誰も人は居なかったです。

人気のないとこに行きたいと思っていた私は、引き寄せられるようにそこのベンチに腰を掛けました。

そして、しばらくは、遠くで聞こえる試合の歓声を耳にしながら、何も考えずに空を見上げていました。

朝起きた時はあんなに綺麗に見えた碧空。

今はフィルターでもかかってるのかって、ツッコミを入れたくなるぐらいに、全く別の物に見えました。

そんな空を眺めていると、

(私、本当に負けたんだなぁ……)

ようやく負けた実感がしてきました。

そう思うと、鼻の奥の方からツーンとし出して、

「ヒック」

最初は小さく、しかし「誰も居ない」、という状況がトリガーとなって、私は大きく肩を震わせて、中学生になったのに、ワンワンと大泣きしてしまいました。


☆★☆

どれくらい泣いていたかは覚えてないです。

5分もなかったかもしれませんし、10分ぐらいずっと泣きっぱなしだったかもしれません。

どれだけ泣いても、負けたのが悔しくて悔しくて、涙が止まらなかったです。




でも、その時でした。

「えっと……君、大丈夫か?」

頭上で男の子の声がしました。






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