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私が先輩を好きになった理由③
しおりを挟むそしてその言葉を皮切りに、西条先輩は「攻め」の気配が完全に無くなりました。
さっきまであんなに隙があればネットに詰めてこようとしていたのに、不気味なほど静かにベースラインで、淡々と機械的に顔色一つ変えずに、クロスにリターンを打ち返してきたのです。
勿論、こうなる事が私の理想だったので、それはそれで良かったんですが……。
コート内に響き渡るラリーの音。
異様なほど、ラリーは続きました。
私も西条先輩もどっちも決めに行こうとしなかったから、当たり前といえば、当たり前なんですけど……結構コレ、メンタルに来るんですよ。
あとたった1ポイントでキープできるのに、その1ポイントがとっても遠い。
目の前にゴールがあるのに、お預けされている状態。
ラリーが長引けば長引くほど、息が段々苦しくなってきますし、とうとう私頭に来ちゃって、
(もうっ! しつこいっ!)
終わりのない空気に、根負けしちゃたんですよね。
(あっ、しま…)
私が強引に決めに行ったバックのダウンザライン。
……無理したせいで、ボールは外れてアウト。
「Deuse」
審判がそうコールした瞬間、地面がグラリと歪んだような気がしました。
そうです。私は、この試合唯一のチャンスを逃してしまったんです。
流れを失った私。
この後、2連続でネット直撃のダブルフォルトをして、あえなくブレイクを許してしまいました。
☆★☆
その後どうなったか、ですか?
……うぅあんまり思い出したくないですね……。
まぁ、あの後もひたすら先輩に私がボッコボッコにされてましたね。アハハ……。
最後まで、先輩の強烈なサーブはまともにコートに打ち返すことが出来ませんでしたし、ラリーも続くには続きましたけど、何ていうんですかね……。
ラリーを「していた」という表現より、ラリーを「させられていた」って感じです。
どこに打っても意味なかったです。
意表を突こうと、苦肉の策で慣れないドロップもたま~に混ぜたりもしたんですけど、全部先読みされてました。
……完全に力負けしてたんですよね。
で、ここから悪口になっちゃうんですかね……。
正直、私は西条先輩の事をあまり好きになれません。
理由はいくつかあるんですが、そのうちの一つは先輩の性格ですかね。
先輩はドSです。
まごう事なき、ドSです。
自分が絶対的な優位に立つことに快感を覚えているドSです。
いつも澄ました顔をして、決して表には出しませんが、もう一度言わせてもらいますっ!
先輩はドsですっ!!
……テニスという競技はいかに相手の嫌な事をプレイに直結させる競技です。
相手のメンタルのHPを0にするゲームだとも言われています。
だから、先輩の長所をあえて狙って潰しにいくスタイルは、弱点を狙うスタイルよりも、数倍私のメンタルを攻撃するのに有効な手段で、理には適っています。
そこは認めます。
でも、確か2セット目の5-0でマッチポイントの一歩手前の時でしたかね。
負けはほぼ確定で、涙が出るのを堪えながら、もう完全に私の意地で試合を続行してラリーを続けていた時でしたね。
ストロークを打った瞬間、右のふくらはぎをつってしまったんですよね。
あれだけラリーをした試合はそれまでになかったから、足が耐えきれなかったんです。
冷静な判断をしていたら、その時点で棄権すればよかったんですけど。
やせ我慢しちゃって。
最後まで絶対に試合はするって意地張って、続行しちゃったんです。
立っているのもきつかったですけど、それでもラケットを構えて、先輩のサーブに備えたんです。
で、じっと待っていたんですけど。
――中々、先輩が打たない。
「え?」っ思って、その時また先輩の顔を見たんですけど……。
じぃ、って私の方を見て、ずっと試合中は無の表情だったのに、その時微妙に笑って、ちょっと視線が下を向いている。
その視線の先はどこかなって辿ってみると、私の痛めたふくらはぎなんですよね。
で、制限時間一杯になって来たから、ボールをトスしたんですが、あの豪快なサーブじゃなくて、小学生でも打てそうなアンダーサーブ。
どうぞ、打ってくださいっていうようなサーブを見た瞬間、悟りましたよ。
(……私が攣ってる事バレてる)
応援ありがとうございます!
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