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大泣きしたあの子

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――売店前。

俺と西城が来た頃には、廊下にはみ出る程の長蛇の列が出来ていた。

「め、めっちゃ、混んでるな」

「いつもこんなものよ」

毎日弁当で済ませている俺には、こんなに売店が繁盛している何て知らなかったが、西条は馴れたように答えた。

「……これで並んで、売り切れとかになったら、最悪じゃね?」

列の前の方が見えないぐらいだし、十分ありえそう……。

だが、それについては――

「そんな事滅多にないわ。列にさえ並べば、ちゃんと買うことが出来るから」

「へぇ~。なら、安心だな」

言われてみれば、学校だってちゃんと需要は把握しているはずだし、納得。

俺が一人、合点がいっていると、西条は手に握り締めていたブランド物の財布から、カードを取り出して、

「――分かったなら、はいコレ」

「へ?」

「わざわざ二人も並んで待つ必要ないでしょ? 私、教室戻って勉強するから。ミツキは並んで私の分も買っておいて。おにぎり2つ……種類はなんでもいいわ。お願いね」

俺はカードを受け取って、

「……まぁ、いいけどよ……。そんなに少なくて大丈夫か?」

昔からこういう事はよくあったから別にそれでも俺は良いが、昼飯におにぎり2個って大丈夫か?

心配して聞くと、

「今、ダイエット中なのよ。あまり、そういう事突っ込まないでくれる?」

「ダイ……エット?」

デリケートな事情だった。

だが、改めて西条を見ても――。

モデル顔負けのくびれのある身体に、程よく付いた筋肉。
校内中の女子がなりたい! って思われている程の体型なのに、まだ痩せたいのか。

「……俺的には今でも西条、スタイル抜群だと思うけどな」

ボソッと本音をいったつもりだが、西条は

「……ば、ばっかじゃないの? そんなんでおだてたつもりなのかもしれないけれど、な、何も出ないんだからっ! やっぱり、今日のミツキ変ッ! 私、もう行くッ!」

そう早口で言うと、今度は来た時よりも速く、ぴゅーっと走って行ってしまった。

「お、おい……。本当の事なんだけどな……」

告白した時もそうだったけれど、思いを伝えても西条には中々伝わらない。

(西条、やっぱり俺の事嫌いになったんかな……。まぁ、好きでもない奴から告白されたら誰でもそうなるか。西条は勉強もできるしピアノだって全国レベルだし、引退したとは言え、テニスだって全国上位レベルだったもんなぁ……。高嶺の花だし俺には手の届かない所に行っちゃったのかな、やっぱり)

西条は高校にあがるまで、テニスをしていた。
全国でも有数の実力と容姿、優秀な学業も相まって、雑誌とかで何回か特集を組まれていたのを覚えている。

俺はテニスはあまり詳しくはないが、何度か試合を見に行ったことはある。

その時、印象的だったのは、中学2年のとある試合。

(……確か、試合後に1ゲームも西条からとれなくて、ベンチで大泣きした子が居たよな)

あまりに泣きじゃくってたから、見ていて可愛そうで、慰めにいったぐらいだった。

後から聞いた話だけど、その子は西条に負けるまで、負けたことがない強豪選手だったらしい。

そりゃ、ショックも受けるわな。


(あー、あの子今どうしてるかなぁ)

列で並んでいる間、俺がその時の事を回想していると、


「センパ~イ。中々来ないって思ったら、結局私を無視して、売店でお昼済ませる気だったなんてひどすぎですよ~」


背後から皇のおどけた声が聞こえた。

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