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してやったり!
しおりを挟む紅葉に非情の通告をされた俺だが、もう自分の弁当を作る時間の余裕はない。
小遣いから昼飯代を出さなきゃならないのか。
俺は、財布を取り出し、何円入っているか確認した。
だが、
(札が一枚もないだと……)
無駄遣いはしていないはずなんだが、紅葉と違ってバイトはしてないから、俺の財布は寂しい。
……どうやら、俺の昼飯は抜きで決まりになりそうだ。
☆★☆
「さむっ」
初冬。
しかも早朝ともなると、当然気温は下がる。
玄関のドアを開けた瞬間、ドアの隙間から一気に吹き込んできた寒風が身に染みる。
このままそっとドアを閉めて、家に籠っていればどんなにいいだろうかと思うが、まーそんなわけにもいかないよな。
もし、学校サボったのが母さんにバレでもすれば……。
考えただけでも、身震いするわ。
母さん、キレたら紅葉の比じゃないからな。
さっさと行こ。
通学路を小走りで走る。
俺が通っている田野瀬高校は、私立で偏差値もそんなに高くないごく普通の高校だ。
学力がそんなに高くない俺でも入れるレベルで、家からも歩いて通える範囲、加えて校風が自由であることから入学を決めた。
いつもなら生徒で込み合っている通学路だけど、今は空いている。
時間帯的に、もうみんな校内にいるんだろう。
それでも、まだチラホラと俺と同じように遅刻するかしないかの瀬戸際に立っている生徒はいる。
俺と同じようにちょっと急ぎ気味に走っているがーー
(間に合いそうだな)
正門まであと5分ぐらいの所まで来ると、古びれた校舎の端が見え始め、俺は歩速を少しだけ緩めた。
遅刻せずに済みそうだ。
☆★☆
急ぎ気味に下駄箱で靴を履き替えいると、背中をポンポンと叩かれた。
反射的に振り返って見ると、
「おはようございます、先輩。結構ギリギリに来るんですね。いつもこの時間に来るんですか?」
既に上履きに履き替えていた赤いマフラーを首に巻いている皇が、思わずクラッとくるような笑みを浮かべて、立っていた。
何というか、昨日あんなことがあったのに、よく普通にしていられるな……。
俺はみどりにフラれた時、一週間は引きずっていたぞ。
メンタルやべぇな。
時間も時間なので、教室に向かいながら、
「寝坊したんだよ、いつもはもっと早く来る」
「へぇ~。何で寝坊したんですか? もしかして昨日、私の事ずっと考えていたからですか?」
「……頭痛くなるからやめてくれ」
今、ソレが原因で紅葉と揉めているのに……。
「まぁ、先輩には少し刺激的過ぎましたかね。フフッ」
顔を綻ばせて、軽くスキップして鼻歌を歌い出す皇。
うん、これはアレだ。
完全に皇のペースだ。
まぁ、皇は俺とは違って彼氏ぐらい今までに何人もいたんだろうし、経験が違うから争った所で敵う訳ないか。
「……慣れている皇とは違うんだよ。俺、彼女いたことないんだから」
何も考えず、思ったことをそのまま口にした。
だけど、その瞬間明らかに皇の周りの空気が変わった。
「……慣れてるって何ですか?」
「え?」
「私、慣れてません。ああいう事したの昨日が初めてでした」
「お、おぅ」
顔をぷくっと膨らませ、語気を強める皇。
「先輩……先輩は私が誰に対してでもするって思ってるんですか?」
「いや、その……俺が悪かった」
俺が謝ると、皇は
「本当に悪いって思ってます?」
「あぁ」
酷い事を言ったのは本当だ。
だが、俺がそう答えた瞬間、皇はペロッと舌を出して、「してやったり」といった顔で、
「じゃあ、昼休憩また昨日と同じところに来てください。一緒にご飯食べましょう」
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