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後編⑥
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唐突なデュークの告白だったが、当のマリーの耳には届いていなかった。
マリーにそんな心の余裕などない。
頭を抱え、ガタガタと身を震わせるばかりだ。
だが、それを見かねたデュークが、さり気無くマリーの髪の毛に手を掛けようとした瞬間、
「——い、嫌よっ!」
「おいおい……その態度はないんじゃないかい? 勇気を出して一世一代の告白をしたって言うのに。……いくら僕でも傷つくよ?」
「私から離れてっ! もうたくさんよっ! もうたくさんなのっ!」
「……やれやれ。これじゃまともに話もできないな。仕方がない……やれ」
まるで化け物でも見たかのように怯えた目でデュークから尻餅をつきながらも距離を置こうとするマリー。
そんな彼女を見て、デュークは側で控えていた使用人に合図を送り、マリーが逃げないように床に押さえつけ、有無を言わさぬ口調で言った。
「マリー、これは命令だ。僕と婚約しろ。そうしたらロディの事は許してやる。君に拒否権はない」
ロディという言葉が彼の口から飛び出た瞬間、マリーは少しだけ大人しくなった。
全てはデュークの掌の上の事だっだが、罪悪感と自身に対する嫌悪感で一杯の彼女には、そこまで気は回らなかった。
「……私なんかと居ても碌な事はないって貴方が一番……」
「知ってるさ」
「じゃあ、何で……」
自分の忌まわしい力を知りつつ、傍に置いておきたいなんて意味が分からない。
そして、それは次にデュークがあっけらかんと言い放った言葉が余計に助長させた。
「そんなの簡単さ。僕は君の魅了に掛けられたいのさ」
「……ぇ?」
予想だにしていなかったデュークの答えに面食らうマリー。
「いいじゃないか。君だってどうせこの先まともな恋なんてできやしないだろう?」
「それは……そんな事……!」
心の底で、未だにロマンティックな恋に憧れていたマリーは、声を振り絞って必死に否定したが、
「二人目のロディなんて君だって生み出したくはないはずだ。君が居る事でまともな男は傍にいるだけで正気を失う。何度言わせたら気が済むんだい? マリー」
「……」
デュークの放つ言葉は一語一句が刃物のようにマリーの心を抉り、彼女から希望を奪い去り、絶望で埋め尽くすには十分すぎた。
——蝋燭の灯が消えるように、色を失ったマリーの顔を確認して、デュークは、
「マリー、これが最後だ。僕の婚約を受け入れてくれるよね」
「…………はい」
全く力のない言葉。
しかしその返事を聞き、満足げな笑みを浮かべるデューク。
「ありがとう。大好きだよマリー」
そう言うと、デュークは使用人らを下がらせた。
そして床に座り込んでいるマリーの腕を掴んで立ち上がらせ、嫌がる素振りなど一切見せず、為されるがままの彼女の真紅の唇に接吻した。
――こうして二人は婚約を交わす仲になったが……。
マリーにそんな心の余裕などない。
頭を抱え、ガタガタと身を震わせるばかりだ。
だが、それを見かねたデュークが、さり気無くマリーの髪の毛に手を掛けようとした瞬間、
「——い、嫌よっ!」
「おいおい……その態度はないんじゃないかい? 勇気を出して一世一代の告白をしたって言うのに。……いくら僕でも傷つくよ?」
「私から離れてっ! もうたくさんよっ! もうたくさんなのっ!」
「……やれやれ。これじゃまともに話もできないな。仕方がない……やれ」
まるで化け物でも見たかのように怯えた目でデュークから尻餅をつきながらも距離を置こうとするマリー。
そんな彼女を見て、デュークは側で控えていた使用人に合図を送り、マリーが逃げないように床に押さえつけ、有無を言わさぬ口調で言った。
「マリー、これは命令だ。僕と婚約しろ。そうしたらロディの事は許してやる。君に拒否権はない」
ロディという言葉が彼の口から飛び出た瞬間、マリーは少しだけ大人しくなった。
全てはデュークの掌の上の事だっだが、罪悪感と自身に対する嫌悪感で一杯の彼女には、そこまで気は回らなかった。
「……私なんかと居ても碌な事はないって貴方が一番……」
「知ってるさ」
「じゃあ、何で……」
自分の忌まわしい力を知りつつ、傍に置いておきたいなんて意味が分からない。
そして、それは次にデュークがあっけらかんと言い放った言葉が余計に助長させた。
「そんなの簡単さ。僕は君の魅了に掛けられたいのさ」
「……ぇ?」
予想だにしていなかったデュークの答えに面食らうマリー。
「いいじゃないか。君だってどうせこの先まともな恋なんてできやしないだろう?」
「それは……そんな事……!」
心の底で、未だにロマンティックな恋に憧れていたマリーは、声を振り絞って必死に否定したが、
「二人目のロディなんて君だって生み出したくはないはずだ。君が居る事でまともな男は傍にいるだけで正気を失う。何度言わせたら気が済むんだい? マリー」
「……」
デュークの放つ言葉は一語一句が刃物のようにマリーの心を抉り、彼女から希望を奪い去り、絶望で埋め尽くすには十分すぎた。
——蝋燭の灯が消えるように、色を失ったマリーの顔を確認して、デュークは、
「マリー、これが最後だ。僕の婚約を受け入れてくれるよね」
「…………はい」
全く力のない言葉。
しかしその返事を聞き、満足げな笑みを浮かべるデューク。
「ありがとう。大好きだよマリー」
そう言うと、デュークは使用人らを下がらせた。
そして床に座り込んでいるマリーの腕を掴んで立ち上がらせ、嫌がる素振りなど一切見せず、為されるがままの彼女の真紅の唇に接吻した。
――こうして二人は婚約を交わす仲になったが……。
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