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中編④
しおりを挟むそして二人の生活は始まった。
ほとんど食卓を囲む時以外は会話を交わすことはなかったが、基本的に外への買い物などは、人目に触れることを避けたいマリーの事を配慮して、ロディが代わりにマリーの分も買い出しに行ってくれた。
申し訳なく思うマリーだが、行動が制限されている彼女にはできることが限られている。
マリーにできることは、部屋の掃除や洗濯、食事の準備などをするぐらい。
ーーその上で、マリーには一つ疑問に思ったことがある。
(何故……ロディは私と暮らしても平気なのかしら…)
制御できない自らの力。
母が紹介してくれたから大丈夫だとは思うが、同居人である彼に、もしものことがあってはならない。
極力、彼と目線が合わないように努めていたが、それでも意図せずに視線が交錯することは四六時中一つ屋根の下で暮らしていれば避けて通ることができなかった。
だが、アッとヒヤリとした場面もあったものの、ロディに魅了されたような素振りはなかった。
恐る恐る一度、マリーはその原因について彼に心当たりがあるか聞いてみた。
「さあな、そんなの知るかよ」とロディにお茶を濁されたが、その時の彼の様子がいつもと違ったので、マリーはすぐに嘘であると見抜いた。
が、それを聞くことは、タブーな気がしたため、遠慮した。
☆★☆
ロディは画家とは名ばかりで、売れない画家だった。
月に一度、自分が描いた作品を隣町まで画商と交渉するために出かけていたが、結果はいつも同じで、中々買い取ってもらえることはなかった。
それは、いくら絵を描いても生計を立てることは難しい事を意味していたが、だからといって生活に困る事はなかった。
彼の父が生活費を支援してくれていたから。
「いつまでも親父に頼るわけにもいかない。早く独立したい」
よりよい作品を創り出すために、ロディは前にも増して取り憑かれたように絵を描いた。
入浴も食事も睡眠でさえろくに取らずに一心不乱に。
☆★☆
そして、半年が過ぎた頃。
作品は完成した。
苦労という二文字では言い表せない労力を費やした作品は、ロディにとって今までにない会心の出来だった。
自信がある。
ロディは確信し、すぐに画商に見せるため、意気揚々と街を立った。
マリーもちらりとだけではあるが、絵を拝見し、素人ながら作品全体から押し出される危機迫る迫力に、作品が売れる予感がした。
だが、現実とは残酷なものだ。
作品は売れなかった。
これ以上ないほどに落胆して帰宅したロディ。
ーー何と声を掛ければいいのか。
マリーには分からずにいたが、そんな心配する彼女に気がついたロディ。
珍しく作り笑いをして、マリーの目をまじまじと見つめた後、1枚の紙切れをに手渡して、自嘲気味に打ち明けた。
「俺は自分の絵はもう描かない」
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