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第一章 エトワール学園へようこそ
ボッターとワトソン
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「cum come! cum come!」
ばちんっ!
「いてっ!なんや夢でっか。ええ夢やったで」
「夢ではありませんよ」
「ほんまでっか!?」
老人は股間を確認する。
「そっちではありません。聖印反応です」
「なんやそっちでっか」
その老人は先ほどとは打って変って聖印反応に対して冷静な反応をしめした。
「どう考えてもこちらの方が一大事でしょう。で、どうされるんですか?」
「どうもこうもあらへんがな、どうにもならんで。もうはじまっとる」
「随分と投げやりなんですね」
「そらそうや。もう反応でとるゆうことは、もううごいとるゆうことや」
「それにしても早すぎやしませんかね?天恵予言での聖剣誕生からまだ1年半しか経過してませんよ?早くとも10年後、おそければ20年後と仰ってたのでは?」
「そらそやがな。あの予言日に日本で皇族の男子が生まれた。日時と場所がぴったんこや。だれかてそれが聖剣やおもいまんがな」
老人は小指で耳を掃除しながらめんどくさそうに答える。
「あの娘、日高とかいいましたか。あれの処遇はどうされます?」
「どれくらいに見られたんでっか、水晶の反応」
「教室にのこっていたのはざっと20名といったところでしょうか?ただあれを見て聖印反応だと理解できるものなど居るとは思えません。それもそうですが不可解なことが多すぎます。1つ1つ解決する必要がありますよ。」
「意味あらへんで」
「日本はなぜ彼女を師団員に遣わせたのか。どうお考えですか?」
「あんさんはどうおもってまんねん」
「すべて仮定の話となりますが、ミス日高の最初の相手、ロストヴァージンが聖剣であったことは揺ぎ無い事実でしょう。一旦聖剣の件は棚上げしますが、そこで聖印を受け継ぎ、器の棚落ちが発生、本人も気づかないまま師団に選出される。日本の魔力検査は簡易的なもので反応がでなかった。そうして本日ここへ来た。という筋書きはどうでしょう?」
「楽観論でんな」
「では悲観論もお伺いしたいですね」
「日本はすでに聖剣所持者を特定して運用しとる。そんであのむすめっこに聖印もたせる。あれ平民でっしゃろ、見たら判るわ。貴族からしたら平民とか捨て駒や。1枚うしのうたところで痛くもかゆくも無い。仮にここで押さえられたところで聖剣なかったら魔力供給もロクにできんのでっから使いモンならんし、そやったら正規ルートでここ送り込むんが常套でっしゃろ。年齢もみたところ12歳や。わてにはわかる。まごうことなき12歳のかをりやったわ。そうそれは青い果実(キリッ」
「たしかにそう考えたほうが妥当なのかもしれませんね。そうなると……」
「スルーでっか、わてのイケメンターン。まぁええわ。本人しらんのかもしらんけど、かわいそうやけどそうなりまんな。ジェノサイドや。でもなワトソン。わてはあんさんの意見が正しいような気もしてまんねん」
「またそれはどうして?」
「偶然恋した相手が偶然聖剣もってて、偶然あのむすめも魔力もっとった。お互いなんもしらんとちちくりおうてしらんまに器おとして偶然聖印もちになった。なんもしらんと平民で運よく試験パスして最年少で合格して、検査も日本のお粗末な水晶やったからたまたま反応でんかって、しらんとここまでやって来た。ここまで聞いたら何個偶然おこっとるんでっかって話や。あまりにも都合よすぎる。これはわての今まで生きてきた中での持論なんでっけどな、偶然かさなるんは3つまでや。そっから先はもう奇跡や。神のなせる業や。これはもうわてら人間がなんや企てたところで結果はかわらん。どもならんのや。そんで今回は神さまのイタズラや。こっちが正解な気してならんのですわ」
「ではミス日高はこのままここで3年間、学生として学ばせるということですか?」
「あれみたところ魔法ようつかわんやろ。わてかて長年やっとらんで。手さわったらわかるわ。みてみいこの手の振るえ」
老人は震えた手をワトソンに見せる。
「それはアルコール依存的な何かでしょう」
「わてはいきてるうちにみたいねん。あんさんみたないんでっか?」
「第八位階ですか?下手すれば国はおろか星がほろぶ案件ですよ」
「わがままかも知らんけどわてはそれでも見たいおもとる」
「ここの学園長はあなたです。私に決裁はありません」
「おおきに」
「となると、聖剣はいまだ日本政府も発見できていない、という筋書きになりますが?」
「そうなりまんな。日本としては皇族で聖剣持ち、鬼に金棒、ちんこににょい棒や。事実皇族が聖剣もってなくてもあそこは皇族不可侵で情報なんもでてこんやろ?外交手段としても当面の牽制材料としては十分や。とりあえずフェイクでやり過ごしといてその間にほんもん見つける。みつかったら影武者でええがな。どうせ皇族はお飾りや。一番こわいんは、なんもしらんと今の聖剣が同じ相手とサルみたいに繰り返しやりまくっとるパターンや」
「あまり考えたくないですが、それはどういう結果になりますか?」
「底抜けた器に聖剣の魔力をひたすらそそぎまんねん。どうなるかわかるやろ。それはもう神や。神話の始まりや」
ボッターとワトソンは2人して壁に貼り付けてある古い世界地図のとある国を凝視した。
それは日本で起こっている。
そしてそれは神々の意思なのか、いたずらなのか。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「しかし、日高さんどこいってしまったのでしょうね?」
「知るか」
(おやおや、ご機嫌ななめですね。海部様は。随分と日高さんのことをお気に召したようで。)
私達は初日から迷子になった姫様を探すべく、夕食も取らずに捜索しておりました。ですがその甲斐空しく姫を探し出すことはできなかったのです。騎士失格です。一旦部屋へ切り上げることとなり、部屋の前までもどってきたところ、ドアノブに手を掛け動かない海部様、そして口に人差し指を当て小さな声で
「慎之介、静かにしろ。中に誰かいる」
息を呑むように静かにドアをあける。我等が姫様は疲れきったのかソファーで静かに寝息を立てていらっしゃいました。
「物音を立てるな。これは厳命だ」
「畏まりました」
海部様はそっと毛布を姫に掛けてあげるとハンドサインで部屋を出るように指示をだしてこられました。部屋の扉をそっと閉め、かちゃりと鍵をかける。
「慎之介、お前は夜食の手配をしろ。俺はどこか部屋以外に入浴手段がないか調べてくる」
「畏まりました。私達がそちらで入浴するという認識でよろしいですね?」
「当然のことを聞くな」
「ちなみにそれは華族としてですか?男としてですか?」
「いちいちくだらんことを聞くな。両方だ」
海部様はそう仰るとマントを翻して行ってしまわれた。
(海部様は随分姫様のことをお気に召したようで。)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「あれ、、わたしねむっちゃってたみたい」
窓から差し込む朝日に起こされる。すがすがしい朝だった。暖炉の火はまだ着いている。
(もしかして、ずっと燃やし続けてくれてたのかな?)
わたしが寝室ではなく日本師団で使う共有ロビーで寝落ちしてしまったので暖炉を絶やさず燃やし続けてくれていたのかと思うと、ちょっと申し訳ないという気持ちより、ときめきがとまらないんですけど。
(やっぱり小泉さまかな?それに毛布も。)
ふとテーブルに目をやると夜食だろうか、食事まで置かれていた。
(そういば昨日、夕食とってなかったっけ。)
(あれ、あれ、やばいなぁ、スイッチはいっちゃいそうだよ。。)
「日高さん、おはようございます。よく眠れましたか?」
「あ、小泉さま、おはようございます。申し訳ありません。わたしこんなところで寝てしまって、、そのご迷惑じゃなかったですか?」
「気にすることではないですよ。姫様をお守りするのは我ら騎士の務めですので」
冗談っぽく小泉さまはそう口にしてふふりと微笑みかけてくる。
(きゃぁーーどうしよう!?いま、お姫様って言ったよね?よね??)
顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかった。おもわず顔を毛布に沈めてしまう。
「あの、、ありがとうございます」
これが精一杯の返事だった。
「どういたしまして」
ニコリと笑顔をこちらに向けてくる。
「まだ朝食までには時間あります。もしおなかすいているようでしたら、そちら召し上がってください。今、お茶いれますね」
そう言ってお茶を淹れ始めた。
「あ、わたしがやります」
「それでは華族流のお茶の淹れ方、勉強しましょうか?」
小泉さまはそう提案し、わたしにお茶の淹れ方、作法を教えてくれた。これは華族社会で生きていくなら必須になりそうなので覚えておく必要がありそうだ。
「伯爵さまでもお茶を淹れることってあるんですか?」
「私の場合はそうですね。仕える主がおりますので」
小泉さまはそう言って流れるような所作でお茶を淹れ始める。長い指の動きがとても綺麗でわたしの瞳には新鮮に映った。
「起きたか」
お茶を淹れ終わったころ、海部さまも部屋から出てこられた。
「おはようございます。海部さま。今、お茶淹れさせて頂きますね」
「おはよう。頼む」
(さっそく出番だっ)
お湯はすでにわいているのですぐに淹れる事ができた。
「で、昨日は何があった?」
海部さまはさっそくカップを傾け、一口喉に流し込むとテーブルにあるスコーンに手をつけて、もしゃもしゃと食べ始める。味するのかな?なんてどうでもいいことを思いつつ、昨日あったことをわたしは話はじめた。
「あの後お二人と別れて別室で魔力を持たない人向けのグリーフィングが行われました。その際、部屋を退出するときに一人づつ魔力検査をすることになったのですが、わたしはどうやらその検査で陽性反応がでてしまったようで、再度別室への移動となったのです」
「お前は確か、魔力なしだったよな。身に覚えでもあるのか?」
「実はその、、以前は少しですが魔力を所持していた時期があったのですが・・・」
「幼少期の器の破損はなにもめずらしいことではない。気に病む必要もない。しかもお前は平民だ。扱いもわからなければそうなることもある意味必然だ」
「でも日高さんは何かしらの反応が出た、ということだよね?」
「はい、聞きなれない単語でしたのでちゃんと聞き取れなかったのですが、聖・・印・・反応?みたいな単語だったとおもいます」
「聖印反応ですか・・・」
(あれ?一瞬、2人の動きが固まったような?)
「で、その後どうなった?」
「先生につれられてまた別室へと移動となり、そこで白髭が立派な北部地方の訛が酷いご老人がいる部屋へと案内されて、そこでも再検査を行いました。結果は同じ反応でした」
「水晶は何色になった?詳しく教えてくれ」
少し興奮気味に海部さまが仰ってくる。
「はい、中央の大部分は透明です。外周が薄く白い光で覆われており全体がしゃぼん玉のように薄い虹の膜で覆われておりました」
「その後もそのご老人が興奮気味に話してこられたのですが、何分訛がひどくてなにを仰っていたのかはさっぱり理解できませんでした。案内してくださった先生が見かねてそのご老人を黙らせたあと退出を命じられたので部屋を出たまではよかったのですが…」
「そこで迷子になってしまったということですね?」
「はい、申し訳ありません…」
「何も気に病むことはない。慎之介、少し出るぞ。日高、お前はここでしばらくおとなしくしていろ。部屋から出歩かないよう、誰か来ても部屋に招かぬよう、俺達がでたら鍵をかけるように、これは厳命だ」
「はい、畏まりました」
(うぅ、一人にしないでくださいっ なんて言えない。)
わたしは留守番に徹することにした。
(折角だから部屋を片付けつつ、荷物の整理でもしておこう。)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
海部と小泉は学園内の回廊の窓際で、さも外の風景を楽しんでいるかのような穏やかな表情を浮かべつつ、語り始めた。
無論、目は穏やかではない。寧ろ血走っているといった方が正しいか。
『海部様……』
「日本語でよい」
「はい、海部様、如何致しましょう?日高さんの話がすべて実話であれば、すでに聖剣が日本のどこかで始動していることとなります。本国に報告致しますか?」
「まずは日高の身の安全の確保だ。早ければ昨晩にでも事件が起きてすでに祭の後となっていてもおかしくはないのだが、幸いまだ俺達は生きている。生かされているだけかもしらんがな」
「海部様はどこまでご存知だったのですか?今回の派遣、異例の3名体制、組み合わせは上流華族2名と平民の娘、どうみても不自然です。魔法省はどこまで関与しているのですか?」
「たしかお前の父、小泉総一郎氏はスターゲイザーだったな」
「はい。父はスターゲイザーとして予言を通じ政権運営を行っておりました」
「俺の叔父もそうだ。叔父もスターゲイザーだった。つまりはそういうことだ」
「互い、政界から身を引いた親族から、今年度の師団に参加しろという命令が下された。この時点で政府は無関係と見てよい。俺はお前を信じる、お前も俺を信じろ」
「無論、そのつもりです」
「今の政府に聖剣を渡さぬためだろう。しかしまさかこのような事態に発展するとは、さすがに想定外だな」
「しかしすでに彼女が聖印である確証はイギリス魔法協会、少なくともここエトワール学園内には捕まれております」
「鳥篭だな。こちらにまだ手がだせないのはあちらも聖剣までは辿り着けてはいないからだろう。立場を利用して無理やり日高にはかせるのも一手ではあるが、それは華血義務に反する。どのみち平民の友好範囲だ。所在はすぐに知れよう。ただ問題はそれの伝達手段だ。ネット関係はすべて筒抜けと心得たほうが良い」
「魔法による暗号文書も、ここエトワールでどこまで通じるか、不確定要素が多すぎますね」
「差し支えなければお伺いしたいのですが、よろしいですか?海部様の叔父、元総理の天恵はなんと出たのでしょう?」
「俺は直言承ったわけではないが、下された厳命は、命を賭してでもその少女を守り抜けというものだ。お前はどうなのだ?慎之介」
「私も似たような内容です」
「ならばやることは1つだ。我ら命に代えても、詩織姫をお守りする」
抜刀し、それをかざし、騎士の誓いをたてる。
「この命尽きようとも、詩織姫をお守りします」
ばちんっ!
「いてっ!なんや夢でっか。ええ夢やったで」
「夢ではありませんよ」
「ほんまでっか!?」
老人は股間を確認する。
「そっちではありません。聖印反応です」
「なんやそっちでっか」
その老人は先ほどとは打って変って聖印反応に対して冷静な反応をしめした。
「どう考えてもこちらの方が一大事でしょう。で、どうされるんですか?」
「どうもこうもあらへんがな、どうにもならんで。もうはじまっとる」
「随分と投げやりなんですね」
「そらそうや。もう反応でとるゆうことは、もううごいとるゆうことや」
「それにしても早すぎやしませんかね?天恵予言での聖剣誕生からまだ1年半しか経過してませんよ?早くとも10年後、おそければ20年後と仰ってたのでは?」
「そらそやがな。あの予言日に日本で皇族の男子が生まれた。日時と場所がぴったんこや。だれかてそれが聖剣やおもいまんがな」
老人は小指で耳を掃除しながらめんどくさそうに答える。
「あの娘、日高とかいいましたか。あれの処遇はどうされます?」
「どれくらいに見られたんでっか、水晶の反応」
「教室にのこっていたのはざっと20名といったところでしょうか?ただあれを見て聖印反応だと理解できるものなど居るとは思えません。それもそうですが不可解なことが多すぎます。1つ1つ解決する必要がありますよ。」
「意味あらへんで」
「日本はなぜ彼女を師団員に遣わせたのか。どうお考えですか?」
「あんさんはどうおもってまんねん」
「すべて仮定の話となりますが、ミス日高の最初の相手、ロストヴァージンが聖剣であったことは揺ぎ無い事実でしょう。一旦聖剣の件は棚上げしますが、そこで聖印を受け継ぎ、器の棚落ちが発生、本人も気づかないまま師団に選出される。日本の魔力検査は簡易的なもので反応がでなかった。そうして本日ここへ来た。という筋書きはどうでしょう?」
「楽観論でんな」
「では悲観論もお伺いしたいですね」
「日本はすでに聖剣所持者を特定して運用しとる。そんであのむすめっこに聖印もたせる。あれ平民でっしゃろ、見たら判るわ。貴族からしたら平民とか捨て駒や。1枚うしのうたところで痛くもかゆくも無い。仮にここで押さえられたところで聖剣なかったら魔力供給もロクにできんのでっから使いモンならんし、そやったら正規ルートでここ送り込むんが常套でっしゃろ。年齢もみたところ12歳や。わてにはわかる。まごうことなき12歳のかをりやったわ。そうそれは青い果実(キリッ」
「たしかにそう考えたほうが妥当なのかもしれませんね。そうなると……」
「スルーでっか、わてのイケメンターン。まぁええわ。本人しらんのかもしらんけど、かわいそうやけどそうなりまんな。ジェノサイドや。でもなワトソン。わてはあんさんの意見が正しいような気もしてまんねん」
「またそれはどうして?」
「偶然恋した相手が偶然聖剣もってて、偶然あのむすめも魔力もっとった。お互いなんもしらんとちちくりおうてしらんまに器おとして偶然聖印もちになった。なんもしらんと平民で運よく試験パスして最年少で合格して、検査も日本のお粗末な水晶やったからたまたま反応でんかって、しらんとここまでやって来た。ここまで聞いたら何個偶然おこっとるんでっかって話や。あまりにも都合よすぎる。これはわての今まで生きてきた中での持論なんでっけどな、偶然かさなるんは3つまでや。そっから先はもう奇跡や。神のなせる業や。これはもうわてら人間がなんや企てたところで結果はかわらん。どもならんのや。そんで今回は神さまのイタズラや。こっちが正解な気してならんのですわ」
「ではミス日高はこのままここで3年間、学生として学ばせるということですか?」
「あれみたところ魔法ようつかわんやろ。わてかて長年やっとらんで。手さわったらわかるわ。みてみいこの手の振るえ」
老人は震えた手をワトソンに見せる。
「それはアルコール依存的な何かでしょう」
「わてはいきてるうちにみたいねん。あんさんみたないんでっか?」
「第八位階ですか?下手すれば国はおろか星がほろぶ案件ですよ」
「わがままかも知らんけどわてはそれでも見たいおもとる」
「ここの学園長はあなたです。私に決裁はありません」
「おおきに」
「となると、聖剣はいまだ日本政府も発見できていない、という筋書きになりますが?」
「そうなりまんな。日本としては皇族で聖剣持ち、鬼に金棒、ちんこににょい棒や。事実皇族が聖剣もってなくてもあそこは皇族不可侵で情報なんもでてこんやろ?外交手段としても当面の牽制材料としては十分や。とりあえずフェイクでやり過ごしといてその間にほんもん見つける。みつかったら影武者でええがな。どうせ皇族はお飾りや。一番こわいんは、なんもしらんと今の聖剣が同じ相手とサルみたいに繰り返しやりまくっとるパターンや」
「あまり考えたくないですが、それはどういう結果になりますか?」
「底抜けた器に聖剣の魔力をひたすらそそぎまんねん。どうなるかわかるやろ。それはもう神や。神話の始まりや」
ボッターとワトソンは2人して壁に貼り付けてある古い世界地図のとある国を凝視した。
それは日本で起こっている。
そしてそれは神々の意思なのか、いたずらなのか。
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「しかし、日高さんどこいってしまったのでしょうね?」
「知るか」
(おやおや、ご機嫌ななめですね。海部様は。随分と日高さんのことをお気に召したようで。)
私達は初日から迷子になった姫様を探すべく、夕食も取らずに捜索しておりました。ですがその甲斐空しく姫を探し出すことはできなかったのです。騎士失格です。一旦部屋へ切り上げることとなり、部屋の前までもどってきたところ、ドアノブに手を掛け動かない海部様、そして口に人差し指を当て小さな声で
「慎之介、静かにしろ。中に誰かいる」
息を呑むように静かにドアをあける。我等が姫様は疲れきったのかソファーで静かに寝息を立てていらっしゃいました。
「物音を立てるな。これは厳命だ」
「畏まりました」
海部様はそっと毛布を姫に掛けてあげるとハンドサインで部屋を出るように指示をだしてこられました。部屋の扉をそっと閉め、かちゃりと鍵をかける。
「慎之介、お前は夜食の手配をしろ。俺はどこか部屋以外に入浴手段がないか調べてくる」
「畏まりました。私達がそちらで入浴するという認識でよろしいですね?」
「当然のことを聞くな」
「ちなみにそれは華族としてですか?男としてですか?」
「いちいちくだらんことを聞くな。両方だ」
海部様はそう仰るとマントを翻して行ってしまわれた。
(海部様は随分姫様のことをお気に召したようで。)
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「あれ、、わたしねむっちゃってたみたい」
窓から差し込む朝日に起こされる。すがすがしい朝だった。暖炉の火はまだ着いている。
(もしかして、ずっと燃やし続けてくれてたのかな?)
わたしが寝室ではなく日本師団で使う共有ロビーで寝落ちしてしまったので暖炉を絶やさず燃やし続けてくれていたのかと思うと、ちょっと申し訳ないという気持ちより、ときめきがとまらないんですけど。
(やっぱり小泉さまかな?それに毛布も。)
ふとテーブルに目をやると夜食だろうか、食事まで置かれていた。
(そういば昨日、夕食とってなかったっけ。)
(あれ、あれ、やばいなぁ、スイッチはいっちゃいそうだよ。。)
「日高さん、おはようございます。よく眠れましたか?」
「あ、小泉さま、おはようございます。申し訳ありません。わたしこんなところで寝てしまって、、そのご迷惑じゃなかったですか?」
「気にすることではないですよ。姫様をお守りするのは我ら騎士の務めですので」
冗談っぽく小泉さまはそう口にしてふふりと微笑みかけてくる。
(きゃぁーーどうしよう!?いま、お姫様って言ったよね?よね??)
顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかった。おもわず顔を毛布に沈めてしまう。
「あの、、ありがとうございます」
これが精一杯の返事だった。
「どういたしまして」
ニコリと笑顔をこちらに向けてくる。
「まだ朝食までには時間あります。もしおなかすいているようでしたら、そちら召し上がってください。今、お茶いれますね」
そう言ってお茶を淹れ始めた。
「あ、わたしがやります」
「それでは華族流のお茶の淹れ方、勉強しましょうか?」
小泉さまはそう提案し、わたしにお茶の淹れ方、作法を教えてくれた。これは華族社会で生きていくなら必須になりそうなので覚えておく必要がありそうだ。
「伯爵さまでもお茶を淹れることってあるんですか?」
「私の場合はそうですね。仕える主がおりますので」
小泉さまはそう言って流れるような所作でお茶を淹れ始める。長い指の動きがとても綺麗でわたしの瞳には新鮮に映った。
「起きたか」
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「おはようございます。海部さま。今、お茶淹れさせて頂きますね」
「おはよう。頼む」
(さっそく出番だっ)
お湯はすでにわいているのですぐに淹れる事ができた。
「で、昨日は何があった?」
海部さまはさっそくカップを傾け、一口喉に流し込むとテーブルにあるスコーンに手をつけて、もしゃもしゃと食べ始める。味するのかな?なんてどうでもいいことを思いつつ、昨日あったことをわたしは話はじめた。
「あの後お二人と別れて別室で魔力を持たない人向けのグリーフィングが行われました。その際、部屋を退出するときに一人づつ魔力検査をすることになったのですが、わたしはどうやらその検査で陽性反応がでてしまったようで、再度別室への移動となったのです」
「お前は確か、魔力なしだったよな。身に覚えでもあるのか?」
「実はその、、以前は少しですが魔力を所持していた時期があったのですが・・・」
「幼少期の器の破損はなにもめずらしいことではない。気に病む必要もない。しかもお前は平民だ。扱いもわからなければそうなることもある意味必然だ」
「でも日高さんは何かしらの反応が出た、ということだよね?」
「はい、聞きなれない単語でしたのでちゃんと聞き取れなかったのですが、聖・・印・・反応?みたいな単語だったとおもいます」
「聖印反応ですか・・・」
(あれ?一瞬、2人の動きが固まったような?)
「で、その後どうなった?」
「先生につれられてまた別室へと移動となり、そこで白髭が立派な北部地方の訛が酷いご老人がいる部屋へと案内されて、そこでも再検査を行いました。結果は同じ反応でした」
「水晶は何色になった?詳しく教えてくれ」
少し興奮気味に海部さまが仰ってくる。
「はい、中央の大部分は透明です。外周が薄く白い光で覆われており全体がしゃぼん玉のように薄い虹の膜で覆われておりました」
「その後もそのご老人が興奮気味に話してこられたのですが、何分訛がひどくてなにを仰っていたのかはさっぱり理解できませんでした。案内してくださった先生が見かねてそのご老人を黙らせたあと退出を命じられたので部屋を出たまではよかったのですが…」
「そこで迷子になってしまったということですね?」
「はい、申し訳ありません…」
「何も気に病むことはない。慎之介、少し出るぞ。日高、お前はここでしばらくおとなしくしていろ。部屋から出歩かないよう、誰か来ても部屋に招かぬよう、俺達がでたら鍵をかけるように、これは厳命だ」
「はい、畏まりました」
(うぅ、一人にしないでくださいっ なんて言えない。)
わたしは留守番に徹することにした。
(折角だから部屋を片付けつつ、荷物の整理でもしておこう。)
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海部と小泉は学園内の回廊の窓際で、さも外の風景を楽しんでいるかのような穏やかな表情を浮かべつつ、語り始めた。
無論、目は穏やかではない。寧ろ血走っているといった方が正しいか。
『海部様……』
「日本語でよい」
「はい、海部様、如何致しましょう?日高さんの話がすべて実話であれば、すでに聖剣が日本のどこかで始動していることとなります。本国に報告致しますか?」
「まずは日高の身の安全の確保だ。早ければ昨晩にでも事件が起きてすでに祭の後となっていてもおかしくはないのだが、幸いまだ俺達は生きている。生かされているだけかもしらんがな」
「海部様はどこまでご存知だったのですか?今回の派遣、異例の3名体制、組み合わせは上流華族2名と平民の娘、どうみても不自然です。魔法省はどこまで関与しているのですか?」
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「俺の叔父もそうだ。叔父もスターゲイザーだった。つまりはそういうことだ」
「互い、政界から身を引いた親族から、今年度の師団に参加しろという命令が下された。この時点で政府は無関係と見てよい。俺はお前を信じる、お前も俺を信じろ」
「無論、そのつもりです」
「今の政府に聖剣を渡さぬためだろう。しかしまさかこのような事態に発展するとは、さすがに想定外だな」
「しかしすでに彼女が聖印である確証はイギリス魔法協会、少なくともここエトワール学園内には捕まれております」
「鳥篭だな。こちらにまだ手がだせないのはあちらも聖剣までは辿り着けてはいないからだろう。立場を利用して無理やり日高にはかせるのも一手ではあるが、それは華血義務に反する。どのみち平民の友好範囲だ。所在はすぐに知れよう。ただ問題はそれの伝達手段だ。ネット関係はすべて筒抜けと心得たほうが良い」
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「俺は直言承ったわけではないが、下された厳命は、命を賭してでもその少女を守り抜けというものだ。お前はどうなのだ?慎之介」
「私も似たような内容です」
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