ラグナロク 神々のきまぐれ

ちゃばしら

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序章2 幕開け

新天地

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本編(学園編)がはじまるまでのストーリーです。
本編とはあまり関係がないので序章にしておきます。
魔法の話もほとんどでてきません。
SSなのですっとばしても問題ありません。
主人公のダークヒーロー的な側面が吟醸されていく段階を書いています。

※序章の途中で多少性的な表現が含まれます。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 年が明けた。

 年越し蕎麦は1玉28円の具なしソバだったけど、それでも光と二人でおいしいね、といいつつ食べる年越し蕎麦はとてもおいしかった。むろんおせち料理なんて用意できていない。かろうじて正月っぽいものといえば和菓子屋さんから頂いたおもちくらいだ。クリスマスなんて存在しない。いいね?経済的な負担になるのでこれが二人の合言葉でもあった。

 年末年始はここも大勢の人で賑わう。僕も光も巫・巫女として大忙しだ。参拝者もまばらになってきたころ、部屋でほっこりしてる光の頭をなでてあげる。もう少し僕が大きくなったら、ちゃんとクリスマスケーキもおせち料理も食べさせてあげるから。そんなことを考えながら。光はきょとんとした表情をこちらに向けて、その後ひとなつっこい笑顔をこちらに向けてくる。この娘がいなかったら、とうの昔に挫折してただろうな、そんなことを考えていた。

 新学期になり冬の寒さも本格的になってくる。それからの日々は駆け足のように過ぎていった。編入手続きを想定外のトラブルもあったが周囲の協力もあり来年度からは地元の区立小学校へ編入することとなった。芹沢さんがしつこく学費はパパがだすから一緒に卒業してっと駄々をこねてきたが光一人だけ編入という選択肢は存在しないし、これ以上世話になると更に身動きが取れなくなる。中学受験までは家庭教師を引き受けるという条件でなんとか妥協してもらった。

 そうして3月になり終業式を迎える。別れを惜しむ友人たち。皆と同じくスマホを所持していればこれからも連絡の取り様もあるがそのようなものもてるはずもなく、口約束で再会を誓う。詩織も寂しそうな表情を見せてはいたがご近所でもあるし「学校で会えなくなるだけだよ」っと互いに励ましあった。

 僕はすでに次のビジョンを思い浮かべていた。区立小学校。まったく知らない顔ぶれの中に1年在籍することになる。スケールこそ違うがこれは鳳凰外部受験に似ている。中等科まで内部生のみで作られたブレーンに高等科から外部から入り込んでいくき、その中で頭角を現し、手駒を増やしていく。リモコンのチャンネルといったほうがよいだろうか。今回の編入も僕の立ち位置は外部生だ。1年でクラスを支配下に置く。鳳凰入学後へ向けたシュミレーションになるな、と。


 人生には3つの坂がある。 

 のぼり坂 下り坂 まさか!

 それは3月の最終日だった。いつも通りの早朝出社。だが不思議なことにシャッターが下りたままだった。今日は休刊日だったか、何か見落としてたのか、そんなことを考えなら会社の前につく。他にも何名か会社の前に集まっていた。あいさつもそこそこにシャッターに貼ってある貼紙に目をやる。

「芹沢新聞社は本日をもって倒産いたします。従業員の皆様には多分なご迷惑を・・・」

(・・・・え?)

(なんだこれ?)

ぽくぽくぽく、ちーん

(はっ!エイプリルフールかっ!いやまてまだ1日早い。)

「あの、、山田さん。これは何ですか?」
「これか?これは  現実  というやつじゃ」

(男子七十にて動じず。)

(ここの経営ってそこまで行き詰っていたのか。おそらく中にはもう誰も居ないだろう。芹沢さん、大丈夫だろうか?それより僕達の身の上か、心配しなくちゃいけないのは。これが社会の現実か。ここに留まっても解決策が見出せるとは思えない。一旦帰ろう。)


 次の一手を打たねば。

 3日経って動きがなかったので僕は次の働き口を探すことにした。まだ近くに数件新聞社がある。最初の1社目は取り合ってもくれなかった。次の2社目、話だけは聞いてもらえた。経緯を担当の方へ伝える。

「事情は同情するけど、うちも経営逼迫してるからね。それに朝刊の配達は労働基準法に違反するからね。悪いけど他所あたってくれる?あ、でもそこの顧客リストあるなら買い取ってあげるよ?それか坊やが配達してたところだけでもいいよ。教えてくれたらおこづかいあげよう」

さすがにカチンと来た。

「申し訳ありませんが顧客リストは持っておりません。仮にあったとしても個人情報を売るようなことできません。これは芹沢社長が大事に育んだお客様との信頼の証です。芹沢社長はたとえ経営が逼迫していても僕の話に親身になり、そのような中、危険を承知で仕事をくださいました。そして僕達兄妹はなんとかここまで生活してこれました。そのような人情深い人をたとえ最後がこのような形であったとしても、僕は裏切るようなことはできません。それでは失礼致します。」

「坊や、きれいごとだけじゃ世の中わたっていけないよ。覚えておきな」

「ご忠告、ありがとうございます」

互い捨て台詞をはいて僕はそこを後にした。

(これも  現実  か。)



 桜舞い散る中、新学期が始まる。
 明日ありと思う心の仇桜あだざくら
 桜は最も美しく最も儚い華ではないだろうか。

 今日から区立小学校へと通うことになる。光とクラスは別々になってしまった。1つのクラスだけ2名増えるより各1名づつと考えれる方が妥当だ。何の影響力もない僕達がそこへ介入できることもなく結果を素直に受け入れるしかない。光も仕方ないよね、と残念そうにはしているがこればっかりはどうしようもない。

 ホームルームがはじまる前に転入生の紹介がある。先生の合図で教室へと。

「はじめまして。天使  司です。小学生として最後の年、6年生という最後の1年間、みなさんのアルバムに楽しかった1年間としていろんな思い出を一緒につくっていければと思います。どうぞよろしくおねがいします」

爽やかな王子スマイルをばら撒く。
(こんなもんか。)

 すでに浮き足立ってる女子の様子を捉えながら指示された椅子に腰掛ける。隣の娘と目があったので笑顔でよろしくねっと添える。その娘は「はいっ」と短くこたえて直ぐにうつむいてしまった。
 男子のほうも興味津々といったところで、転入生に興味を引かれるのはどこでも同じようだ。光はうまくやってるだろうか。光に限ってイジメの対象になるようなことはないにしろ、男子からは小学生ならではの好きからくる天邪鬼行動はあるかもしれないな。

 翌日、さっそく机の中に手紙が入っていた。
(想定より早いな。随分と肉食系なんだな、この娘は。でも好都合だ。)

 今回は今までとは状況が違う。場合によっては自ら動く必要があるかと覚悟もしていたが初日の段階でアンテナに引っかかったのであればそれに越したことはない。
 指定された通りの時間と場所に向かう。

「はじめまして、山本さん  だったね」
「ごめんなさい、いきなり呼び出しちゃって・・。名前覚えてくれてたんだ」
「うん」
「・・・あの」
「山本さん」
「はいっ」
「先に僕の話、聞いてもらっていいかな?」
「う、うん…」
「どうして6年から転入になったか、気にならない?」
「えと、、少し気になるかな?」
「みんなには秘密にできる?」
「うん……」
「それじゃぁその前に、学校の中、案内してくれない?職員室と自分の教室くらいしかわからなくってね。少しこの学校の中、見て回りたいんだ」
「うん、私でよければ」
「ありがとう、山本さん」
 あざとく王子スマイルを添える。

 僕は山本さんに連れられて校内を回っていく。正直それほど広くはない。しかもここは屋上使用禁止のようだ。概ね回り終えたところで少し質問してみる。

「山本さんはどこか秘密の場所みたいなのは知らないの?人があまりこないような場所」
「人が来ない場所か、、。あ、あそこなら」

 彼女は思い当たる節が1つあるようで、僕はそこへと案内される。そこは特別棟の非常階段だった。非常階段なのに校舎側からは鍵がかけられており実質だれもつかっていない階段となっている。また都合のいいことに安全柵は外部から見える柵状ではなく階段と一体型のブロックタイプなので一度あがってしまえば外部からはほぼ見えない。一番近い校舎も低学年の校舎だ。確かにここの最上階まであがってしまえば密会にはちょうどいい。

「ここなんて、どうかな?」

 そう得意げに話す山本さん。僕は「ここなら大丈夫そうだね」と腰をおろす。「すわっちゃえば外からまったく見えないもんね」山本さんも「そうでしょ?」と嬉しそうに答えて、僕の隣に腰を下ろす。

「そういえば転入の秘密の話だったね」
「うん」
「話すと少しながくなっちゃうんだけど、僕ね、両親がいないんだ。かあさんは妹を生んですぐに他界して、父さんは少し前に行方不明になっちゃってね。頼れる親族がいなくってさ、それで経済的に立ち行かなくなって今まで通ってた私立から区立の小学校へ編入になったんだ」
「そうだったんだ…」
「ごめんね、なんかいきなり重い話になっちゃって。それでも地元の人たちがみんなで協力してくれて、なんとか生活はできてるから心配しなくっても大丈夫だよ」
「私学からの編入だから何か学校で問題おこしたのかな?とか誤解してたけど、そうじゃなかったんだね。わたしのほうこそごめんなさい…」
「山本さんが謝ることじゃないよ。でもそういうので同情されるのも嫌だから、この話はだれにも言わないでね。まだ誰にも話してないからみんながこの話を知ってたら山本さんが話したことになっちゃうからね」
「う、うん」
「あ、二人だけの秘密の暗号つくろっか?」
「え、何それ?おもしろそう!」
「そうだな~、今の山本さんの席順からだと授業中でも僕、見えるよね?」
「うん」
「授業中、僕がペンをくるくるまわしてたらそれがサイン。その次の休み時間にここに集合ってのはどう?」
「わぁ、なんかそれすごくおもしろそう!」
「でしょ~、これこそ二人だけの秘密だからね?」
「うんっ」
「それじゃぁ明日、やってみよう。1限から4限のどこかで僕がペンを回すから見逃さないでね」
「うんっ。わぁ、、なんか緊張してきた……」
「大丈夫だよ。まわすときはしばらく回してるし。その授業中は何度か回すようにするから見逃すことはないとおもうよ。だから山本さんも授業はちゃんと聞いてね」
「うんっ」
「そういえば今日は山本さんからの呼び出しだったけど、もう想いはほぼほぼ通じたんじゃないかな?」
「うん、、、そうだね」
(よしよし、ヘタに告白とかされると面倒だったけど、特別な友達枠に自分が入れたことで十分満足してくれたみたいだ。)

「スマホ僕も持っていればLINEの交換できるんだけど、さっき言ったとおりの家庭環境だからとてもスマホもてるような状況じゃなくってね」
「そかぁ。。天使君とLINEしたかったんだけどな……」
「ねね、LINE見せてもらっていい?クラスみんなでやってるやつとかあるでしょ?みんなの反応とかやっぱりちょっと気になるんだよね」

そう言って少し身を寄せて、顔を覗き込んであげる。

「うん、、ちょっとまってね」
(よしよし、かなり従順になってきた。もう一押しだな。)

「へぇ~、みんな概ね歓迎してくれてるみたいだね~ でもここはみんな見てるから建前ばっかりなんじゃない?グループチャットとかないの?」
「あるけど、、その……」
「だめ?」
「ううん、ダメじゃない。ダメじゃないけど、、秘密にしてくれる?」
「そりゃもちろん」
「それじゃ、見せてあげるね」

少しさかのぼってLINEを見ていく。これが今時のJSのLINEなのか。

「天使君やばい」
「やばいよね。めちゃカッコイイ」
「王子認定」
「異議なし」
「異議なし」
「天子様じゃない?」
「天皇かっ」
「ジャーニーズよりカッコイイ」
「ジャーニーズと比べるとか天使君に失礼」
「正直みてるだけで濡れる」
「濡れない方がおかしい」
「やばい妊娠するかも」
「廊下ですれちがったんだけどそのとき私妊娠したよ」
「目があったら孕むよね」
「私もう孕んでるよ」
「私も」
「わても」

(最後誰なんだ。)
「こういうの実は初めてみたんだけど、なんか、その、すごいね」
「うん、、」
「この “ えりりん ” って誰なの?」
「これは西野エリちゃんだよ」
(西野、、あの茶髪の娘か。)
「なんかリーダーっぽいね、ここの」
「うん、クラスでも女子の中心みたいな子だよ」
「やっぱり女子は派閥みたいなの、あるんだね?」
「そうだね~、いくつか仲良しグループはあるかな~」
「やっぱりこのエリちゃんグループが1番強いの?」
「エリちゃん、お兄ちゃんがいるんだけどすごいやんちゃっていうか、みんな怖がってて、その人の妹でえりちゃん自身、なんか気がつよくって負けず嫌いだから気が付けばみんなのリーダーっぽい中心人物になっちゃってるね」
「あ、もしかしてあまり好きでない?」
「そそ、そんなことないよっ!ただちょっと怖いかなって思うことは時折あるかな?
嫌われたらグループからはずされちゃうし、そうなるとイジメられるかもしれないし……」
「そっかぁ、女子は大変なんだね」
「女子だけじゃないよ?男子もだよ?」
「やっぱり男子もこういったグループあるの?」
「そりゃあるよ~」
「ちなみに、だれがリーダーなの?」
「男子は詳しくわからないけど、見た感じだと尾崎くんかな?」
(男子は尾崎、ね)
「ありがと、尾崎君には注意しとくよ」

「今日はありがとうね。これからの学園生活を送る上でいろいろ貴重な情報が得られたよ」
「ううん、私も天使君の役に立てたみたいですごく嬉しい」
「ここから一緒に出て行くところ誰かに見られるとまずいから、少しずらしてでよっか?」
「うん」
「それじゃ僕が先にでるから3分経ったら山本さんも出てきてくれる?僕はさきに教室もどっておくね」
「うんっ」
そういってスマホの時計タイマー機能で3分セットする姿が目に入る。そこまできっかり3分である必要もないんだけど彼女の対応を見る限り、リモコンのチャンネルとしては十分使えそうだ。



 今日は体育がある。

 ちなみに体育服はまだない。以前の私立の体育服でとりあえずは参加だ。体育初回である今日の授業は、みんなでサッカーしましょう!ということになっている。
男子を黙らせるには運動系ポテンシャルを見せ付けることができれば十分なのですこし派手にやってみることにした。光ほどではないが僕も自身の運動能力が平均値以上ではあると自覚している。とはいえチームワークもなにもない、みんなボールに群がる、本当にお遊びとしてのサッカーだった。山本さんの言うとおり尾崎が前面に出ている。幸い別チームなのであれを叩けばいいわけだ。イージーミッションである。
 ボールに群がるなかから尾崎が抜け出しゴールを伺う。そして強烈なシュートを放つ。キーパー一歩もうごけないっ!ところをすかさずカットに入る。そしてそのままドリブルであがっていく。無論以の1番に尾崎が向かってくるのであっさりと交わしてやる。どんどんボールに群がってくるがひょうひょうっとその群れを交わす。

(ここからロングで決めても面白くないな。Dラインまであがって囲ませるか)
 僕はそのままドリブルで上がって行きあえて相手ディフェンスに囲まれた。パス回せー!という声も聞こえるが聞こえないフリをしてボールをそのまま高く上げた。そうして僕も飛び上がり空中でクルリと体をひねりそのままボレーシュートを打った。着地も完璧っ

「うおぉっ!すげぇぇっ!!ファイヤーサイクロンだっ!!」

 誰かがそう声をあげた。人気アニメ『イナズマブレイン』の準主人公が使う必殺シュートである。劇中では20mくらい飛び上がって火炎を身に纏いながら連続横回転で遠心力を高め直滑降級角度からボレーシュートを放つのだが、流石にそれはできない。魔法使えばできなくもないがボールがもたないのは目に見えているし、そんなもんここでお披露目したら騒ぎにしかならない。これくらいの演出で十分だ。
 男子がすごい!すごい!と連呼しながら詰め寄ってくる。男子はわかりやすいのでやりやすい。そこから数度派手な演出付きでシュートを決めてやる。これで男子の中でのイニシアチブは取れただろう。
 女子達もきゃぁきゃぁ騒いでいるので適度に愛想だけは振りまいておく。

 次は英語の授業だ。

 6年にもなると区立とはいえ多少会話能力も求められてくるカリキュラムになっているようだ。これは好都合とばかりに流暢な英語力を披露する。皆の僕を見る目が尊敬の眼差しへと変わって行く。もう一押ししておくか。

 国語の授業

「では次、天使君」
「はい。・・・・」
「・・・どうした?」

僕はそっと教科書を閉じる。そして朗読を始めた。
当てられた箇所の丸暗記だ。
僕は一字一句違えずに該当箇所を読み終える。

「段落かわりますがまだ続けますか?僕はかまいませんけど」
「あ、いや、あ、はい」

 ここまで来ると先生も  口  ぽかーん である。
多少やりすぎた感はあるが、格の違いを理解させるにはこれくらいで十分だろう。皆がこちらに注目している。この中なら山本さんも見逃さないだろうと思い僕はそれとなくペンを回す。その後も適当なところで何度かサインを送ってみた。

 そして休み時間
 パタパタと階段をあがってくる音が聞こえる。

「ごめんなさい、天使くん。私のほうが遅くなっちゃって。先にきたかったんだけどエリちゃんにつかまっちゃって」
「ううん、大丈夫だよ。教室出て行くときにちらっと見えたからね。そんなことじゃないかなって思ったよ」
「それにしても天使くん、その、、すごいね、、」
「ホントはもっとすごいんだよ?」
「そ、そなんだ、、、。なんかもう雲の上っていうか。エリちゃんがファンクラブつくるって言ってたよ」
「あははっ、ファンクラブか。なんか大げさになってきたね」
「大げさじゃないよぉ~ エリちゃんがみんなに抜け駆け禁止!って言い出しちゃうし」
「そうなんだ。それじゃぁその前にこうして二人きりになれるようになって、僕はすごくラッキーなんだね」

 そうして山本さんの頭に手をのせそのまま髪をなぞるようになでおろす。そして薬指だけ彼女の頬を沿わせ、あごの先に指を止める。しばらくの沈黙の後、指を離す。

「ドキドキした?」
「うん。。。」
「LINEみたいに、本当に濡れちゃうの?」
「えっ・・・!」

 そう言って僕はすっと太もものほうへと手を沿わしてみる。彼女は硬直したまま動かない。下着の上からそっと指を添わして見る。確かに濡れている。
(魔力はまったく感じないな。かわいい娘だからあるいはともおもったけど、さすがにそこまで都合よくできてはいないか。)

「ホントなんだね」

 僕はそういって指を離す。彼女は耳まで真っ赤だ。突然すぎて少し混乱している様子だった。

「今日はサインの確認だけだったから僕は先に教室もどるね。山本さんは一人でやることあると思うし。それとも見られてるほうがいいかな?」

いじわるっぽく聞いてみる。彼女も理解したみたいで
「ひ、ひとりで大丈夫。。。」

とはずかしそうに答えてきた。

「それじゃぁ、ごゆっくり」
 僕は山本さんを残してその場を後にした。

 遠く離れたところから階段降り口を目をむけ視力強化を少し使ってみる。程なくして山本さんが降りてきた。かなり周囲を警戒している。服の乱れも気にしているようだ。どうやら本当に行為におよんだようでまだ周囲を警戒している。
(もうどんな命令でも聞き入れてくれそうだな。)

 こうして僕は着実にクラスでの地盤を固めていった。


 それから数日は何事もなく過ぎていった。時折密会で女子の動向をチェックするくらいで山本さんも従順な手駒として情報収集に努めてくれている。ファンクラブのお陰で無用な呼び出しもなく、会員も他クラスにまで及んでいるようだった。逆を言えばえりりんの影響力はそこまで及ぶということであり、ここの扱いを間違うと結構面倒なことになりそうだ。
 山本さん情報によると父は大きくはないが建設会社の社長らしい。なるほどね、と理解できる。ややもすれば反社会勢力との繋がりもあるかもしれないので慎重に行こう。
 他にも新聞社のご子息でも居ないかと尋ねてはみたが、どうやらこの学校に該当者はいないようだった。やはりそこまで甘くはない。
 株やFX、為替などアナログではない方法も情報収集さえ的確に行えば確実に利益を出す自信があるのだが、手持ち資本や今の自分の社会身分をかんがえると土俵にすらあがれない。手持ちがある想定でエア株取引、エア為替でキャッシュフローの勉強をしているがそろそろミリオネアになれそうなところまでは成長している。ちなみに今の僕のトレンドは南アフリカだ。

 男子の方はというと・・・
「天使くん、あれどうやったらできるの?何回やってもうまくできないんだけど?」
「ファイヤーサイクロン?」
「そそ、豪徳寺の必殺技。あれほんとかっけーよなっ!」
「地道に練習だよ(ウソです)」
「どんな練習したの!?」
「最初からいきなり大技の練習をするんじゃなくって基礎からだね。まずは普通にボールを置いてシュート。確実に枠を捉える事からはじめたよ。次はボレーシュート。これが綺麗に決めれないと何も意味がないからね。そしてどんどん高さを上げていく。そういう日々の鍛錬であの技は習得できるんだよ(ウソです)」
「そうか、、天使くんもずっとそうやって練習してきたんだね」
「うん、アニメ放送開始前からね(ウソです)」
「うおぉぉぉ!俺もがんばるよ!!」
(このウソに悪意はない。誰も傷つかないし寧ろ彼のやる気を引き出す良いウソだ。孫子も言っている。ウソも必要なときがあると。神様もきっとゆるしてくれるさ。帰ったら神様にあやまらなきゃ・・・!)

 そんなある日、尾崎の方から声を掛けて来た。
「天使、ちょっといいか?」
「何?尾崎君」
「いや、その、ここではちょっと。場所かえるぞ」

「で、話って何かな?」
(うーん、まったく見当が付かないな。デュエルというわけでもなさそうだし不意を突かれたな。正直準備不足だ。引き出しが少なすぎる。)

 サッカーやその他もろもろで実力差を見せ付けておいたので絡んでくることはないだろうとタカを括っていたが尾崎の方からなにやら話があるというのは想定外の出来事だった。

「妹だよな、2組の」
「光?」
「ああ」
「そうだよ。(僕だけの)妹だよ」
「・・・かわいいよな」
「(知ってるけど)伝えとくよ。きっと本人も喜ぶよ」
「あー、いやいい。伝えなくて、いい」
「で、(僕の)光に何か用事でも?」

 言葉に詰まる尾崎。おおよそ察しがついた。当然といえば当然だ。視界にいれてしまったら最後、誰しも恋におちる。君が悪いわけではない。無論光もわるくない。強いてあげれば神様がいけないんだ。あそこまでかわいく仕上げてしまうなんて。ステータスかわいさ極振り3周分なのがいけない。同情するよ。尾崎。君の恋は叶わない。残念でしたプギャーー

 心の中でそのようなことを考えつつ、彼の出方を待った。さて、どうして欲しいのか。それともこの状況をどう利用するか。

「光の彼氏になる条件、教えてあげようか?」
「おしえてくれっ!」
「すべてにおいて僕を凌駕する人、なんだって」
(これは実際に光が告白されたときの決まり文句である。お兄ちゃんよりすごい人なら付き合ってあげてもいいよっといった具合である。)

「僕もこのお陰でいままで散々いろんな勝負を挑まれたけどね、無論負けた事は1度たりともないよ。これからも負けることはないと思う」

 ぐぬぬ面になる尾崎、僕は1つ彼に提案してみた。

「光と仲良くしたいなら親衛隊でも結成してみたらどうかな?」
「親衛隊?」
「そそ、親衛隊。前の学校だとそういう組織もあって、僕はノータッチだったけど、光の護衛とかやっぱあのルックスだからね。どうしても変な虫がよってくるんだよ。そういった外敵から光を守ってあげる存在。光も親衛隊の人たちとは仲良くやってたよ。抜け駆け禁止の鉄の掟とかもあったみたいだし。安心して学園生活おくってたよ。ここだと不安なんじゃないかな、僕ともクラス離れ離れになったし。暴走する生徒がいないとも限らないしね」

「親衛隊か・・・」
「ほかにも居るんじゃないの?光ちゃんかわいいよね~っていってる男子」
「ああ、LINEだと最近その話題しかしてないよみんな」
(なるほど、これは使えそうだ。)

「それならカンタンなんじゃないの?尾崎君の発案なら誰も文句いわないだろうし、なんなら僕も発起人の一人として名前連ねてあげてもいいよ。そうすれば皆も組しやすいだろうし、君も発案しやすいんじゃないかな?」

「ああ、そうか。確かにその通りだ!ありがとう、お兄さん!」

「お兄さんはやめてくれないかな?そこまで認めた覚えはないからね?」
(とはいえこれで光の守りはなんとか出来上がりそうだな。正直目の届かないところで何か起こるのが一番怖い。光の身体能力だと並の男子でも勝てないだろうけど、万が一10人の男子生徒に結託して襲われたりすれば、、、そんなこと考えるだけで地球を破壊してしまいそうになる。それにこの組織は先々使えそうだ。来年には中学生、更に他校の生徒や上級生の存在が出てくる。そしてなにより光のかわいさがワールドクラスからスペースクラスへと昇華していく。もはや目があうだけでトコロテンだ。そんな光を守れる組織が必要になる。)

 尾崎は早速親衛隊結成を始めたようで翌日には決起集会なるものが行われていた。僕もGMとしてその親衛隊に名を連ねることになった。
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