7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍

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第三師団の魔獣討伐

第38話

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 二人とも停めていたカヴァルリーに急いで跨り、操縦桿を操作する。ブーンと低い羽音のようなモーター音が聞こえたと同時に、フルスロットルで回すとすぐに、ブワンと勢いよく浮いて離陸した。スピードを上げて、元来た道を辿る。一度通った進路は、行きより随分早く感じられた。


「どうしてワイバーンが召喚されたのかしら?」


 スピードを緩めず、クリスティーナは疑問に思っていたことをシキに問うた。


「わかりません。ただこの遺跡のワイバーンの巣は、あの魔法陣が原因の可能性が高そうですね」


 魔法陣はそのほとんどが人によって作られたものだ。
 どんなに古くても、それは過去の人間が仕掛けたものに他ならない。
 だとしたら、あの魔法陣はこの遺跡に仕掛けられていたものと考えるのが自然だ。
 けれども、クリスティーナはどうしてもひっかかりを覚える。


(あの魔法陣は、本当に過去の人間が作った物なのかしら……?)


「ティナ、出口です!」


 クリスティーナが首を上げると、上空から光が降り注いでいた。最初に入った遺跡の大穴だ。
 眩しさに目を細めながら操縦桿を操作して、さらにカヴァルリーを加速させる。
 その瞬間、遺跡の内部全体を震わすような咆哮が、遺跡の底から響いてきた。


「ギャアアアアアアアッ!」

「え!?」


 クリスティーナが慌てて視線を下に向けると、大きな塊が猛スピードで迫ってきていた。


「ワイバーン!?」


 ばさりと翼を大きく広げたワイバーンの猛進を、二機のカヴァルリーがバランスを崩しながら、間一髪のところで避けた。どう見ても先ほど戦ったワイバーンだ。
 カヴァルリーの態勢を戻しながら、目を丸くしているクリスティーナたちをよそに、ワイバーンが大穴へと向かい、彼女たちより先に地上へ出た。


「まずいわ!」


 クリスティーナは眉を顰めて、耳のイヤーカフを触り、通信機を起動させた。
 ジジー、ピッと通信回線のノイズの後に軽やかな音が鳴り、交信を開始する。


「こちら、クリス。応答して。そちらにもう一体ワイバーンが行ったわ!」

『閣下! こっちに戻って来るな!!』

「どうして!? 何が起こっているの、報告を!」

『成体のワイバーン三体と交戦中。何かわかんねーけど、緑色の光が溢れた後、三体とも急に巨大化した! 戦闘部隊に負傷者が続出。マルスも団員を庇ってやられた! 普通じゃない!!』


 報告にクリスティーナは生唾を飲み込む。
 まさか魔法陣が外にいたワイバーンを強化したのではないだろうか。
 背中に嫌な汗が流れる。


「すぐに行くわ!」


 再びカヴァルリーの操縦桿をフルスロットルにし、速度を全開にして大穴を飛び出した。
 飛び出した先の遺跡の外は、ザアアアァと音を立てて雨が降り出し、すぐさま髪がしとどに濡れた。


『閣下、来るな! 来なくていい!』

「何を」

『閣下。逃げろ! こっちでワイバーンを引きつけおく。閣下は皇女だ。失うわけにはいかない!』

「……何を言っているの」


 地を這うような低い声が出る。無意識にぎりっと奥歯を嚙みしめた。
 まさか団員のエドワードから「皇女」の地位を理由に、守られるとは思わなかった。

 クリスティーナは身体が雨で冷えていくのも厭わず、眼前に広がる戦況を紫紺の瞳で鋭く見つめる。
 上空では愛してやまない戦空艇と戦闘部隊、三体の巨大なワイバーンが交戦していた。部隊長であるマルスがいない影響が出て、ワイバーンに圧されてしまっている。
 そしてそこへ、遺跡から召喚された、能力が上がったワイバーンが合流しようとしていた。

 戦空艇には魔導弾があるが、中長距離が有効であって、この距離では被害が拡大しかねない。
 戦況は刻一刻と厳しい状況になっていく。





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