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魔導研究所の堅物たち
第28話
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「わしの負けじゃよ。あなたは立派な軍人であり、師団長だ。わしは良い軍人と出会えた。これからよろしく頼みますぞ」
「もちろんですわ。採用していただきありがとうございます」
どこか優し気な表情をするダニエルに、クリスティーナも微笑みで応えた。
「よーし、やってやろうじゃねーか!」
「これはやりがいがあるねぇ」
「さっそく実験しましょう!」
やる気に満ちた所員たちが次々と立ち上がる。もちろん、ヨアンたちも表情が明るい。早速、研究についての意見が飛び交い始め、足早に会議室を後にする。
ウキウキと楽しそうな所員たちの背中を見て、クリスティーナは自分の提案が通った以上に、その姿を内心喜んでいた。
「おめでとうございます。ティナ」
隣の席に座っていたシキが立ち上がり、目を細めてクリスティーナを見つめた。
「ありがとう」
「閣下と呼ばせましたね」
「そうね。認めてくださったと思っていいのよね」
「ええ。あんなに誰かを褒めた所長を、初めて見ましたよ」
「そうなの? あなたも褒められているんじゃなくて? 副所長に据えているくらいだから」
「まさか。私に対しては皮肉ばかりですよ」
シキが苦笑したが、どこか師弟の信頼関係が感じられる表情だ。
「それでシキ、あなたの狙いは解決されたのかしら?」
口角を上げて微笑んで見せれば、シキが目を瞠って、ぐっと喉を詰まらせた。
「当たり?」
「……気づいていたんですか?」
「途中でね。わたくしはあなたが副官として、サポートしてくれると思っていたのだけど。サポートどころか、矢面に立たされて、利用されるとは思わなかったわ」
「いえ。本当は凝り固まった考えを持ち始めた、所員たちのきっかけになればいいなと思っただけなんです。きっかけどころか、想像以上の成果でしたよ。ありがとうございます、ティナ」
「じゃあ、わたくしはあなたの上官として、認められたのかしら?」
小首を傾げて問えば、シキは一瞬真顔になり、その後眉を下げた。
「それも気づいていたのですか。ティナには敵いませんね」
ほう、と満足げな溜息を零したシキは、クリスティーナの正面に回り込むと、片膝をつき、すっと彼女の手を取った。
そして、強い意志を乗せた漆黒の双眸が、クリスティーナをじっと見つめた。
「クリスティーナ・ヴィクトール閣下。私は閣下の副官として忠誠を誓います。私を存分にお使いください」
全身が総毛立ち、じわりじわりと身体中が熱を帯びた。
シキ・ザートツェントルという優秀な軍人に認められことが、自分にとって思ったよりうれしいことだったらしい。
クリスティーナはそれを正直に出すのは悔しいので、嫣然と微笑んで見せた。
「ふふ。もちろんそうするつもりよ。わたくしの側近だもの。大事にするわ」
「先輩副官殿よりも大事にしてくださいね。私はティナの最後の婚約者でもあるんですから」
手を返されたかと思うと、手のひらにシキの唇が触れた。
皇女として当たり前に受けてきた手の甲ではなく、手のひら。
次の瞬間、クリスティーナの体はぴしりと硬直し、ぶわりと頬を赤く染め上げた。
「さ、最後かどうかはわからないわよ!?」
「ふふ、つれないですね」
慌てて捕まれた手を引っ込めようとするのに、シキが強く握って離してくれない。
手を握ったままシキが立ち上がり、吐息を感じられるほど顔を近づけ、形の良い耳に唇を寄せた。
「でも最後です。ティナには私こそ相応しいんですから」
また相応しいと言ったわ、とクリスティーナは息を飲んだ。
紡がれた二度目の言葉に、なぜか心が揺れていて。
そんな自分に、クリスティーナは戸惑いを隠せなかった。
「もちろんですわ。採用していただきありがとうございます」
どこか優し気な表情をするダニエルに、クリスティーナも微笑みで応えた。
「よーし、やってやろうじゃねーか!」
「これはやりがいがあるねぇ」
「さっそく実験しましょう!」
やる気に満ちた所員たちが次々と立ち上がる。もちろん、ヨアンたちも表情が明るい。早速、研究についての意見が飛び交い始め、足早に会議室を後にする。
ウキウキと楽しそうな所員たちの背中を見て、クリスティーナは自分の提案が通った以上に、その姿を内心喜んでいた。
「おめでとうございます。ティナ」
隣の席に座っていたシキが立ち上がり、目を細めてクリスティーナを見つめた。
「ありがとう」
「閣下と呼ばせましたね」
「そうね。認めてくださったと思っていいのよね」
「ええ。あんなに誰かを褒めた所長を、初めて見ましたよ」
「そうなの? あなたも褒められているんじゃなくて? 副所長に据えているくらいだから」
「まさか。私に対しては皮肉ばかりですよ」
シキが苦笑したが、どこか師弟の信頼関係が感じられる表情だ。
「それでシキ、あなたの狙いは解決されたのかしら?」
口角を上げて微笑んで見せれば、シキが目を瞠って、ぐっと喉を詰まらせた。
「当たり?」
「……気づいていたんですか?」
「途中でね。わたくしはあなたが副官として、サポートしてくれると思っていたのだけど。サポートどころか、矢面に立たされて、利用されるとは思わなかったわ」
「いえ。本当は凝り固まった考えを持ち始めた、所員たちのきっかけになればいいなと思っただけなんです。きっかけどころか、想像以上の成果でしたよ。ありがとうございます、ティナ」
「じゃあ、わたくしはあなたの上官として、認められたのかしら?」
小首を傾げて問えば、シキは一瞬真顔になり、その後眉を下げた。
「それも気づいていたのですか。ティナには敵いませんね」
ほう、と満足げな溜息を零したシキは、クリスティーナの正面に回り込むと、片膝をつき、すっと彼女の手を取った。
そして、強い意志を乗せた漆黒の双眸が、クリスティーナをじっと見つめた。
「クリスティーナ・ヴィクトール閣下。私は閣下の副官として忠誠を誓います。私を存分にお使いください」
全身が総毛立ち、じわりじわりと身体中が熱を帯びた。
シキ・ザートツェントルという優秀な軍人に認められことが、自分にとって思ったよりうれしいことだったらしい。
クリスティーナはそれを正直に出すのは悔しいので、嫣然と微笑んで見せた。
「ふふ。もちろんそうするつもりよ。わたくしの側近だもの。大事にするわ」
「先輩副官殿よりも大事にしてくださいね。私はティナの最後の婚約者でもあるんですから」
手を返されたかと思うと、手のひらにシキの唇が触れた。
皇女として当たり前に受けてきた手の甲ではなく、手のひら。
次の瞬間、クリスティーナの体はぴしりと硬直し、ぶわりと頬を赤く染め上げた。
「さ、最後かどうかはわからないわよ!?」
「ふふ、つれないですね」
慌てて捕まれた手を引っ込めようとするのに、シキが強く握って離してくれない。
手を握ったままシキが立ち上がり、吐息を感じられるほど顔を近づけ、形の良い耳に唇を寄せた。
「でも最後です。ティナには私こそ相応しいんですから」
また相応しいと言ったわ、とクリスティーナは息を飲んだ。
紡がれた二度目の言葉に、なぜか心が揺れていて。
そんな自分に、クリスティーナは戸惑いを隠せなかった。
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