7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍

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天才公爵令息は、7番目の婚約者⁉

第17話

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「閣下から離れてもらえねーかな。ザートツェントル殿」


 ドンドンドン、と荒々しい靴音を立てて、体格のいい赤い軍服が、ぐいっとクリスティーナとシキの間に割って入った。
 肩を怒らせ、腹の底に響くような声を発したエドワードだ。
 クリスティーナはホッと息を吐いたが、すっと距離をとったシキが、降参のポーズを取りながら悪びれもなく笑った。


「すみません。つい婚約者とイチャついてしまいました」

「イ、イチャついてなんかないわ!」


 声が上ずりながら噛みつくクリスティーナを、エドワードがさっと背に隠し、威嚇するように睨みつける。


「クリス閣下はあんたの上官になるんだぞ」

「上官ね。……君は先輩副官殿ですか?」


 突如、シキの纏う雰囲気が、肌を刺すようなものに変わった。
 口角は上がっているのに、切れ長の双眸に冷ややかな温度が宿る。


「エドワード・トリアトトだ。これ以上閣下に近づくなら、容赦しねーよ?」

「へぇ……副官殿は保護者ですか? それともナイト気取り?」


 エドワードの背中越しにちらりと見れば、シキの冷淡な双眸と視線が絡んだ。
 彼の端正な容貌も相まって、どこか凄みがある。
 エドワードの足元を見ると、本人は気づいていないのだろうが、一歩足を退いている。


(なかなかのプレッシャーだわ……なぜ、そんなことを……?)


 先ほどまでは穏やかな振る舞いだったはずだ。
 困ったように眉を寄せたクリスティーナが、シキから目を離せずにいると、彼は目元をふっと和らげ、ニヤリと口の端を上げた。


「ああ、なるほど。副官としては心配でしょうね。社交界では悪女と評判が立っていますが、恋愛には初心そうな感じがしますからね、ティナは」

「ティ、ティナですって!?」

「か、閣下のことを、そんな愛称で!?」


 面食らった表情のクリスティーナとエドワードに対して、シキがこてんと首を傾げた。


「皆さんはクリス閣下と呼ぶのでしょう? 私は婚約者だからティナって呼びますね」

「勝手に決めないでくださる!?」


 かああっと頬を上気させたクリスティーナは、エドワードを押しのけて叫んだ。
 第三師団の団員からはクリス閣下と呼ばれているし、兄や父帝もクリスと呼ぶ。
 クリスティーナとしても、中性的な響きが気に入っていた。
 女性であるという煩わしさが、少し減る気がするからだ。
 それなのに、彼は女性的な響きを持つ名前で呼ぶと言う。


「もしかして特別感が出て恥ずかしいのですか? やっぱり初心ですね」

「なんですって!?」


 ニヤニヤしながら言い放つシキに、頭にカッと血が上る。
 クリスティーナはシキに詰め寄り、自分より頭一つ分背の高い彼を見上げた。


「う、初心なんかじゃないわ! わたくしには六人も婚約者がいたのよ。恥ずかしくともなんともないわ!」

「へえ、恥ずかしくないんですか?」

「当たり前でしょう!」

「ティナでいいんですね」

「いいわよ。呼べばいいでしょ、呼べば!」

「それでは、許可が出たということで」


 にっこりと笑ったシキに、はっと目を見開いた。




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