7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍

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悪女殿下の婚約破棄、そして7回目の婚約

第6話

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「……そうですね。せっかくですので陛下にお願いしたいことが。後で申し上げても?」

「よかろう」

「ありがとうございます」


 優雅な礼をしたシキがその場を後にする。
 クリスティーナは拍手をしながら、去っていく背中をじっと見つめた。


(目が合ったわね。婚約ばかりで国外にいたから、彼を見たのは初めてなのに。どういうことかしら)


 頭を巡らすが、思いつくことは何もない。
 考えても仕方がないので、再び式典に意識を戻した。
 しばらくして式典の終了が宣言され、皇族は先に退出することになった。


「クリス、お前はこの後私の執務室へ来い。説教だ。逃げるなよ」


 レオンハルトが席を立つと同時に、念押しのように告げられた。
 兄の差した釘に対して逃げる選択肢もあるのだが、その後のことが面倒だ。ここは素直に従うしかない。
 去っていく兄の背を見ながら、クリスティーナはこれ見よがしにため息を零した。


「クリスティーナも大変だね」


 うんざりしながら立ち上がったちょうどその時、ひょろりと背の高い、着飾った男に声をかけられた。


「ジェレミーお兄様」

「兄上に婚約破棄のお説教をされるのかな?」

「そうみたいですわね」

「かわいそうに。兄上も酷だね。こんなに結婚を嫌がっているのに」


 ジェレミーが困ったように首を傾げれば、さらりとグレーの髪が流れた。
 第二皇子であるジェレミー・ヴィクトールは、クリスティーナの異母兄にあたる。
 当然皇族として出席していたが、クリスティーナたちとは席は離れており、彼の母親である側妃テオドラの傍にいた。


(珍しいわね。わたくしに声をかけるなんて)


 兄妹ではあるが、側妃があからさまに交流を嫌がり、あまり会話をしたことがない。
 そのため、積極的に交流を図ったことはなかった。
 ただそれだけではなく、クリスティーナ側にも会話を控えている理由があるのだが。


「兄上のもとに行くのかい?」

「仕方がありません。皇太子殿下の命は聞きませんと」

「皇太子殿下からなら仕方がないね。クリスティーナが婚約破棄をしては帝国に帰ってきているのに、兄上はなぜそこまでしてクリスティーナの結婚にこだわるのかな?」

「さあ? わかりませんわ」

「……ね、助けてあげようか?」


 ジェレミーがすっとクリスティーナとの距離を縮め、ぽそりと囁く。
 珍しいことを言う次兄に、わずかに目を瞠った。


「嫌なんでしょう?」


 ジェレミーの顔を見上げれば、薄い唇の端が上がり、王子然とした優し気な表情を見せる。その表情にのぼせ上がるご令嬢もいるだろう。
 しかしクリスティーナはその表情に引っかかり覚え、わざとらしく仕方ないと言わんばかりに肩をすくめた。


「大丈夫ですわ、ジェレミーお兄様。慣れていますもの」

「そう?」

「レオンお兄様の考えていることはわかりませんが、帝国にはわたくしの使命がありますから。それに邁進するのみです」

「誇り高いね。クリスティーナは」


 ジェレミーは眩しいものを見るように目を細め、感心してみせた。


「クリスティーナは帝国のことを愛しているんだね。だったら、兄上ももうやめたらいいのにね」


 そう言った後、次兄の従者が迎えに来て、彼はクリスティーナのもとを去っていった。
 次兄の言葉には何も発せず、クリスティーナは微笑を浮かべるだけにとどめた。




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