俺だけ入れる悪☆魔道具店無双〜お店の通貨は「不幸」です~

葉月

文字の大きさ
上 下
63 / 65

63話 絆

しおりを挟む
 石になったフィーネアを抱きかかえたまま飛び起きると、俺の視界にバーバラとグルメに明智の姿が飛び込んで来た。

「気がついたようじゃな、月影遊理!」
「ええ、ええ。お目覚めになられたようで何よりでございます。ヒヒヒッ」
「ユーリ殿! 良かったでござるよ」

 俺は3人の顔を順に見た。
 グルメはめんどくさそうに襲い来る黒い影のような魔物を素手で吹き飛ばして、威厳に満ちた表情で俺を見下ろしている。

 俺に往復ビンタをかましていたバーバラはゆっくりと立ち上がり、襲い来る影をババアとは思えぬ身のこなしで蹴り飛ばした。

 明智も俺が気がついたとわかるや否や、すぐに腰の剣を抜き構えている。

 周囲を見渡すと瓜生に竹田や光明院も逃げることなく戦っていた。
 いや、彼らだけじゃない。
 おそらくグルメが連れてきたと思われる魔物たちも皆、黒い影と戦闘を行っているんだ。

「どうして!?」

 俺がグルメを見やり声を上げると、呆れたように嘆息して俺に顔を向けた。

「何を寝惚けたことを言っておるのじゃ。お前が儂に助けてくれと泣きついてきたのじゃろうが!」

 あっ! そうだ。
 ダンジョンを出て王都に向かう準備をしていたとき、俺はグルメを切り札にするために会いに行ってんだった。

 でもあの時は――

『気が向いたら手を貸してやるわ。まぁ気が向いたらじゃがな』

 と言っていたはずだ。
 瞠目する俺にグルメは言う。

「それに……儂の背中をよく見てみい」

 その声を聞き、俺がビキニ姿のグルメの背に目を向けると、無い。
 綺麗さっぱり消えている。
 初めてグルメに会ったときに見せてもらった封印紋がその背中から消えていた。

「これでわかったじゃろ? 邪神がどうやって封印紋を解いたかは知れぬが、儂の封印紋が消え失せたということは他の魔王たちの封印紋もおそらく同様じゃ。もしやと思いお前のところにやって来てみればこの騒ぎじゃ。まっ、大体のことはそこに居る明智から聞いておるがの」

 俺が申し訳ないと頭を下げると、

「言ったであろう月影遊理! 立ち止まる時はあれど下を見るな、上を見上げろ! 俯いていても過去は消えぬ! それに……あやつが、邪神が魂の一部を切り離していたことに気づけんかったのは儂ら魔王の失態じゃ! お前が頭を下げることではない」

 俺は頭を下げることをやめて、真っ直ぐにグルメを見据え頷いた。
 そして腕の中で石像に変えられたフィーネアに視線を落とすと、石なったフィーネアの体がひび割れてその隙間から暖かな光が漏れ始めた。

「フィーネアッ!?」

 石になったフィーネアの体はかさぶたが取れるように表面が剥がれ落ちていく。その中から白い玉のような肌が顔を覗かせた。

 フィーネアから溢れ出したそれが凄まじい光りを発すると、ウロコのような石肌が剥がれ塵と化していく。
 徐々に光りが弱まり次第に消えると、長い睫毛を鳴らすフィーネアと目があった。

「ユーリ……」
「フィーネア……」

 腕の中のフィーネアが慈愛の眼差しを俺に向ける。
 その瞳は微かに潤いを帯びていた。

 腕を伸ばしてそっと俺の頬を優しく触れるフィーネアの指先、俺はその手を握り締めた。

「フィーネアが……ずっと探していたのはユーリだったのですね」
「フィーネア?」

 フィーネアの瞳からは涙が頬を伝い落ちていく。

「お願いです……ユーリ……彼を……ユーリ・アスナルトを助けてあげて下さい」

 まるで幼子のように頬を染めて泣きじゃくるフィーネア。
 俺はフィーネアを抱きかかえたままその綺麗な髪を撫でた。

 フィーネアはずっとあいつの……もう一人の俺の魂を救い出すためだけに、2000年という長きに渡って自らも彷徨い続けてきたのだろう。

 それは俺なんかには想像もつかないほど、途方も無く長く辛い旅立ったはずだ。

 そして……その果てなく続く旅を、愛する人のささやかな願いを叶えてやれる機会が、俺に訪れたんだ。
 いつか感じた運命の赤い糸は、確かに俺のハートに巻き付いていたのかもしれない。

 俺はそっとフィーネアの頬を優しく拭い、その瞳を覗き込む。

「当然だ。俺を誰だと思ってる? 俺は月影遊理――君が挫けそうになったときは何度でも俺が支え、果てしなく長い暗闇に迷い込み、君がそこから出れなくなってしまったときには、俺が走って迎えに行く。暗闇で前が見えなくても俺がこの手をしっかりと握り締めて、暖かなお日様の下に君を連れ出してみせる。君が……フィーネアがあの日俺に言ってくれたように、俺もそうありたいんだよ」
「ユーリ……」
「一緒に会いに行こう、大好きな彼の待つ場所まで……」
「はい……っ」

 フィーネアは俺の腕から起き上がり、俺も立ち上がって頭上に浮かぶ邪神を見上げた。

 聞こえるか?
 もう一人の俺……いや、聞こえてなくても別にいいや。

 俺はさ、お前のような勇者にはなれないよ。
 愛する人を一人残して世界のために身を捧げるなんて、死んでもゴメンだね。

 もしも仮に明日世界が滅びますと言われて、晴れ渡る空に神様が降りてきて、あなたが死ねば世界は救われますと言われたとしても……俺はそいつに中指立ててこう言うね。

『知るかクソ野郎! 俺が居ない世界なんて……愛する人が一人ぼっちで悲しむ世界なんて知るかクソ野郎ってな』

 そうさ、俺は勇者なんかにはなれないけどよ、愛する人のたった一人のヒーローになってやるぜ。

 ……お笑いだろ?
 フィーネアが惚れてるのは俺じゃなくてお前なんだぜ?
 まるで道化だピエロだよ。

 だけどな……生きていれば、目の前に居続ければ俺がお前のことなんていつか綺麗さっぱりフィーネアの記憶から消し去ってやるよ。

 世界のために死んだお前に文句を言う資格はないぜ。
 お前はフィーネアではなく……勇者としての自分を、世界を選んだんだからな。

「いっちょかますかぁっ!」

 俺の気合が響き渡ると、グルメは呆れたように息を吐き出した。

「元気になったことは良いことじゃが、何か策でもあるんじゃろうな?」
「もちろんだ。グルメはこのまま雑魚処理を頼むわ! 俺はあの化物をぶっ倒してくるよ」
「邪神を倒す? イカレておるの、お主は……まぁどの道世界はもう終わりかもしれん。好きなようにすればよかろう」

 ヤケ糞気味のグルメのことはさておき、俺はフィーネアを見た。
 フィーネアの服装はこれまでとは少し違う。
 リヤンポイントが100%に達したことで、記憶と共にフィーネアの武具が具現化されたらしい。

 確か……如何なる状態魔法も無効化してしまう戦闘メイド服だったかな?
 ある意味この場では最強かもしれないな。

「フィーネア、一気に邪神の体内まで侵入するぞ!」
「はい、ユーリ」
「ユーリ殿、それがしを忘れてもらっては困るでござるよ。何をするのかは知らんでござるが、最後までお供するでござるよ」
「……明智……もちろんだ! 嫌だと泣き叫んでも連れて行ってやるつもりだったよ」
「……さすがユーリ殿、クソ野郎でござるな」

 俺たち3人は笑った。
 ラスボスを……世界の破滅を前に笑う俺たちはやっぱり狂っているのかもな。

「さて、力貸してくれよ、みんな! ダンジョンマスター発動!」

 形成されるダンジョンから続々と戦闘態勢万全のファミリーが飛び出してきやがる。
 そしてすぐに真上を見上げて険しい表情を見せる。

「邪神……!?」
「間違いないでありんす」
「血沸く、血沸く」
「僕たちのご先祖様はあれに屈して……」
「感謝する……ボス! 俺たちに裏切り者の汚名を晴らす機会を与えてくれたこと……心より感謝するぞ、ボスッ!!」

 さすが最強の俺のファミリーだな。
 腰抜けの王国兵たちとは違い、皆やる気満々だ。

 邪神の体から次々に黒い卵みたいなのが放たれ降ってくると、それが二足歩行の影の化物へと姿を変えていく。

 冬鬼たちは笑みを浮かべてそれに斬りかかる。
 俺は声を張り上げて冬鬼たちに指示を出す。

「みんなよく聞け!」

 一斉に俺を見るファミリー。
 俺は腰の探知ダガーを抜き取り、邪神に剣先を突きつけた。

「俺とフィーネアに明智をあいつの元まで連れて行くんだ! お前らにしかできない、お前らにしか頼めない危険な仕事だ! やれるか!」

 皆その顔に笑を張り付けた。
 そして――

「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」」」

 気合の雄叫びが街中に木霊する。

「何が何でもボスを邪神の元まで運べぇぇええええっ!」
「愉快、愉快。雑魚処理は俺に任せろ!」
「わっちもいるでありんす」
「さぁゴブリン隊、ゴブリンの底力を見せる時だよ!」

 プリンちゃんはいつかの時と同じように綺麗な歌声を響かせる。
 プリンちゃんのエンチャント魔法によってゴブリンたちの肌が赤く染まると、ゴブリンたちは順に肩に飛び乗っていく。

 一人が肩に乗るとまた一人がその肩に飛び乗り、肩車の要領でどんどん高く築き上げられる。
 天高く聳え立つゴブリン梯子。

「「「せーの!」」」

 ゴブリンたちが掛け声を掛け合うと、垂直に立っていたゴブリン梯子が邪神へとかけられた。

「さぁ、マスター行って下さいです」
「ありがとうプリンちゃん、みんな!」

 俺たちが3人がゴブリン梯子に足をかけた時――

「ムッゴオオオオオオオオオオオッ」
「メアちゃん……うん。メアちゃんも一緒に行こう!」
「旅は道連れでござるな」
「行きましょう」

 俺たちはメアちゃんにまたがり、ゴブリン梯子を駆け上がる。
 だが、敵も間抜けじゃない。
 ゴブリン梯子の上に影の魔物を大量に放っている。

「クソッ! 邪魔すんじゃねぇーよ」
「どうするでござるか!?」
「メアちゃん上に飛んで下さい」

 フィーネアがなぜかメアちゃんに垂直にジャンプするように指示を出し、メアちゃんが高く飛び跳ねると、太郎さんにまたがる瓜生が突っ込んで来た。

「俺は紛いもんでも勇者や! 足でまといになんぞなってたまるかぁぁあああっ!」
「マスターの道は我れらが切り開く!」

 太郎さんにまたがった瓜生が猪突猛進してくると、太郎さんがランスで敵を貫き、それを援護するように瓜生が刀身を振るう。

「瓜生、……太郎さん!」
「さぁ、道は出来たでござるよ!」
「突っ込んで下さいメアちゃん!」
「ムッゴオオオオオオオオオオオオッ」

 走り去る俺たちの後方から、瓜生の声が聞こえる。

「このスーパースター瓜生禅がアシストしたったんやから、きっちり決めてこいや、月影遊理っ!」

 俺は身を捻り、後方の瓜生に親指を突き立てた。

「任せろ!」

 俺は正面に体を向け直して走るメアちゃんの背中に立ち上がった。
 そのまま邪神に向かって手を伸ばしながら飛びついた。

「穴の書の威力を喰らいやがれぇぇえええええっ!」

 俺は邪神に手を突き、体制を変えて邪神を両足で力強く蹴り、後方のメアちゃんの元に戻る。
 飛んできた俺の体をしっかりと受け止めてくれるフィーネアと明智。


 俺たちの前方には邪神の体内へと続く道が空いた。


「突っ込めメアちゃん!」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...