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50話 始まりは唐突に……
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「この者は異端である! こともあろうに精霊様の教えを破り、醜き魔の者に施しをした悪魔の手先である! 皆でそこの石をこの者に投げるのだ!!」
カフェテラスから物騒な声の主に目を向けた。
そこには僧侶のローブに身をまとった男が一人の女性を跪かせ、集まった人々に向かって声を荒げている。
男と人々の間には大量の石が積まれており、男の言葉に従うように人々は石を拾い上げ、罵声と共に女性目掛けて石礫を放った。
俺は痛ましいその光景に思わず目をそらした。
「あまり見ない方がいいでござるよ、ユーリ殿」
「それにしても酷く陰湿なことするわね」
俺同様、明智もゆかりも不愉快だと言った顔で視線をテーブルへと戻すのだが、フィーネアだけはじっとその光景を見つめている。
その表情はどこか儚げで憂いを帯びており、俺の心まで窮屈になってしまいそうだった。
女郎街での戦闘後、俺たちはソフィアを移動して新たな街にやって来ていた。
街を移動した理由は幾つかある。
まず一番の目的は元の世界に還るための情報を得るためだ。
同じ場所に留まり続けていたって状況はなにも変わらない。
それならばと、何かしらの手掛かりを探し求めるために世界を旅することにしたんだ。
と、言ってもこの世界は思った以上に広い。
そこで俺たちはソフィアから一番近い場所に位置し、なおかつ巨大な都市を目指してこの街、オーランドにやって来た。
もちろんソフィアを離れたのはそれだけが理由じゃない。
何よりもゆかりたちに女郎街での出来事を思い出させたくなかったし、あの街は俺が穴を掘り過ぎたせいでとんでもないことになっている。
それに、例のごとく賠償金を国王から請求されたんだ。
当然そんなものは払うつもりなんて微塵もない。
だけどそうも言ってられなかった。
国王は俺が脱獄の際に開けた大穴の賠償金などを一切払っていないことに相当お怒りらしく、王国兵を借金取りの取立てに駆り出してきたんだ。
つまり、同じ場所に留まっていたらすぐに国王に見つかり、めんどくさい事態になりかねないと判断し、借金取りに追われて夜逃げするように移動したって訳だな。
「それがしこの街はあまり好みではないでござるな。宗教信者が多いことは別段構わんでござるが……いくらなんでも見るに耐えんでござるよ」
「あら、ゴキ男と意見が合うなんて珍しいじゃない。それについてはあたしも同感だわ」
「ゆかり殿……そのゴキ男と言う呼び方は人前ではやめてくれんでござるか?」
「嫌よ」
即答だった。
明智の申し出を有無も言わさず一刀両断したゆかりは、素知らぬ顔でティーカップを傾ける。
その姿にガクッと肩を落とす明智。
「フィーネア? どうかしたか?」
フィーネアは深刻そうな顔で俯いている。
俺はそんなフィーネアに声を掛けたのだが、気を遣わせまいと愛想笑いを浮かべている。
「いえ……なんでもありません。それよりも他の方々が遅いですね」
俺としてはフィーネアのことの方が気になるのだが……。
フィーネアの言う通り、ゆかりと共に女郎街から助け出した5人が一向に戻って来ない。
「ほんっとあの子達何してるのかしら」
「スケベぇ~な下着選びに時間を掛けているのではござらんか」
「ゴキ男は黙ってなさい。殺すわよ」
ゆかりは決して明智を見ることなく、どこか遠くを見つめながら冷淡にそう言った。
「ユーリ殿! ゆかり殿になんとか言ってくだされ! いくらなんでも酷い言い草でござろう!」
そんな言動に耐え兼ねた明智がゆかりを指差しながら不満を口にしている。
正直どうでもいい。
ので――俺はそれを無視することにした。
「それにしても本当に遅いな……一体何やってんだ?」
俺は少し呆れたように口にして嘆息し、どこまでも澄み渡る大空を見上げた。
この街オーランドへとやって来た俺たちはすぐに二手に分かれた。
俺とフィーネアに明智の3人は冒険者ギルドや酒場へと出向き、何か情報がないか聞き込みをしようとなった。
その際、ゆかりたち6名は衣服などを購入する為にショッピングをすることになっていたのだが、直前でゆかりがやっぱり自分も俺たちと来ると言い張って聞かなかったんだ。
ダンジョンシティーは魔物たちの働きもあって様々な店が出来ているが、やはりそこは魔物、ゆかりたち女の子好みの可愛い洋服やアクセサリーなどは置いていない。
だからゆかりにも買い物する機会を作ってあげたのだが……なぜか俺たちの方に付いて来てしまった。
まぁ、その理由はなんとなくわかっている。
俺は鈍くてイライラする鈍感系ラノベ主人公ではない。
というか……『――いつかゆう君をあたしに振り向かせてみせる……フィーネアさんには絶対に負けないんだからね』
あれほどまでにド直球で言われればさすがの俺でもわかってしまう。
ゆかりはフィーネアをライバル視してショッピングそっちのけで付いてきちゃったのだ。
ま、ゆかりのそう言う素直なところが正直可愛いと思うのも事実だな。
女の子に好意を向けられて、あんなにストレートに言われて1ミクロンも心が動かないかと言われれば……ま、1ミクロンほどは……となってしまう。
ぼんやりとカフェテラスに腰掛けてどれくらい空を見上げていたのだろう?
徐々に青から茜色に染まりつつある透明な空。
それにしても――
「遅いっ! いくらんでも遅すぎるわよ! あの子たちはどこまで買い物に行ってるのよっ!」
俺が思っていることを先にゆかりに言われてしまった。
ゆかりはかなりイラついているのか、ガタガタと品のない貧乏ゆすりが激しさを増していく。
「まったく、ゆかり殿は品が無いでござるな」
と、言いつつ――テーブルの下から顔を覗かせる最低な明智は、ゆかりのスカートの中を堂々と覗き込もうとしている。
確かにこいつはある意味4人目の勇者なのかもしれない。
まともな脳みそしている奴が目の前の女の子のスカートの中をこれほどまでに堂々と覗けるだろうか……。
答えは否。
そしてバレるのも当然で……顔面を蹴り飛ばされるのも至極当然だ。
「ああああああああっ、顔がぁあぁあああああああ!? なにをするでござるかっ!」
「それはこっちのセリフよ! なに堂々と人のパンツ見ようとしてんのよっ! あんたち○なしの癖にまったく性欲衰えてないじゃない! どうなってんのよ」
「なっ、それがしは落し物を拾おうとしただけでござろう! 自意識過剰も大概にするでござるよ」
「嘘つくんじゃないわよ、このド変態っ!!」
「ハァ~」
俺は本日何度目かの溜息を吐き出した。
この2人がいると喧しくてかなわんな。
それから2時間ほど待ち、闇夜の向こう側にはっきりと月が顔を出し、街は人工的なランタンの明かりがあちこちで灯り始めていた。
いくらなんでも遅すぎる。
何かあったのか?
嫌な予感が脳裏を掠め始めると、フィーネアがサッと席を立ち上がった。
「いくらなんでも遅過ぎはしませんか……フィーネアちょっと探してきます」
「あっ! あたしも行くわ」
俺が呼び止める間もないまま、フィーネアとゆかりが5人を探しにカフェを飛び出してしまった。
呆然と遠ざかる2人の背中を見やっていると、「それがしたちも探しに行ってみるでござるか、ユーリ殿」と明智が提案してきたので、俺は頷きカフェを後にする。
夜のオーランドはどこか不気味な雰囲気を醸し出し、まるで18世紀のイーストエンド・オブ・ロンドンのような場所だ。
「夜になると……不気味でござるな。路地から今にも殺人鬼が飛び出して来そうな雰囲気でござるな」
「嫌なこと言うなよ。でもその時は全力で俺を守れよ明智。俺はお前と違ってオールFなんだからな。ストリートチルドレンの幼児にさえ殺されかねないんだからな」
俺の少し前方を歩く明智が突然立ち止まり振り返ると、糸目でガン見してきやがる。
「なっ、なんだよ?」
「それがしのそれがしを元に戻してくださらんユーリ殿が仮に襲われたとしても……」
明智はぶっ飛ばしたくなるような顔でにたっと笑みを浮かべて、すぐに前へと向き直り歩き始めた。
コンニャロー!
あれはどう考えてもお前が悪いからだろがっ。
それに今すぐに明智の明智を元に戻してっみろよ。
怒り狂ったゆかりたちがまたお前を殺そうと躍起になりかねんだろう。
どちらか一方の肩を持ってしまえば、どちらか一方が立ってしまう。
両者、波風立たずに済ませるにはほとぼりが冷めるまでお前の息子を封印するしかないだろう。
俺がその背中をムッと睨めつけるように見ていると、前方を行く明智が薄暗い路地へと入っていく。
俺も遅れて路地に入っていくと、「わあぁっ!」と明智が脅かそうと大声を上げてくる。
ちょっとびっくりしてしまった俺は頭にきて、反射的に明智の頭を思いっきり叩いてしまった。
「何しやがんだこの野郎っ! こんな時にくだんねぇーことしてんじゃねぇーよっ!」
「はははっ! オーバーでござるな! 今の顔は傑作だったでござるよ。いや~それにしてもスマホの充電が切れてなければ、動画で撮ってSNSにアップしたでござるよ。バズること間違いなしでござろう? ビビリな友人の間抜け面って……プークスクス!」
マジでぶち殺してやろうか、この糞漏らしがっ!
俺が立ち止まり怒りで身を震わせる中、明智は大笑いしながら暗い路地を進みまた立ち止まり、何かを拾う素振りをして再びこちらへと振り返り、大声を上げている。
「ユーリ殿! それがしかっこいいダガーを拾ったでござるよ。 今日から宮本武蔵のように二刀流と言うのも悪くないでござるな」
明智は拾ったダガーをシュッシュッとフェンシングのように素早く振るっていると、突如俺の背後から耳をつんざく女性の悲鳴が響き渡った。
「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
「「ん?」」
なんだ? と、振り返ると、夜のドレスを身にまとった娼婦のような女がランタン片手に明智の方を見やり恐怖に身を震わせている。
俺はどうしたんだろうと明智の方を見やると、ランタンの明かりが微かに明智を照らし出していた。
明智は真っ赤に染まったダガーを握り締め、その足元には無残な姿に変わり果てた娼婦が倒れ込んでいる。
俺は絶句した。
明智は殺人犯が現場に残していったダガーを拾ってしまい、それを偶然通りかかった娼婦に目撃されてしまったのだ。
明智はまだそのことに気付いていないのか、嬉しそうな笑顔を振りまいている。
だが、女の悲痛な叫びを聞きつけた人々が何事かと駆けつけてきているのだ。
俺は頭が真っ白になり、明智と女を交互に何度も見ていると、駆けつけた人々が明智を見るなり顔を青白く染めた。
その人々の顔色の変化にようやく気付いた明智が足元に視線を落とすと……。
「ギャヤァアァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!??」
足元の遺体に気が付いた明智が驚き悲鳴を上げて腰を抜かすと、駆けつけた憲兵隊が明智を包囲し捕らえてしまった。
「ちっ、ちちち、違うでござる! それがしではないでござるよ! ユーリ殿っ! ユーリ殿っ!! 助けて欲しいでござるよユーリ殿っ!!! それがしは無実でござるよ!」
明智はそのまま憲兵にどこかへと連れて行かれてしまった。
あまりに突然の出来事に、俺は呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
「何やってんだよ……あのバカ……」
俺はそれから走った。
夜の街を走って走ってフィーネアとゆかりにこのことを伝えなければと……。
だけど……フィーネアとゆかりをようやく見つけた俺は再び絶句する。
なぜなら……。
「大変ですユーリ! 5人が異端者として教会に捕らえられたらしいのです!」
「どうしようゆう君!?」
「じょうだん……だろ……?」
カフェテラスから物騒な声の主に目を向けた。
そこには僧侶のローブに身をまとった男が一人の女性を跪かせ、集まった人々に向かって声を荒げている。
男と人々の間には大量の石が積まれており、男の言葉に従うように人々は石を拾い上げ、罵声と共に女性目掛けて石礫を放った。
俺は痛ましいその光景に思わず目をそらした。
「あまり見ない方がいいでござるよ、ユーリ殿」
「それにしても酷く陰湿なことするわね」
俺同様、明智もゆかりも不愉快だと言った顔で視線をテーブルへと戻すのだが、フィーネアだけはじっとその光景を見つめている。
その表情はどこか儚げで憂いを帯びており、俺の心まで窮屈になってしまいそうだった。
女郎街での戦闘後、俺たちはソフィアを移動して新たな街にやって来ていた。
街を移動した理由は幾つかある。
まず一番の目的は元の世界に還るための情報を得るためだ。
同じ場所に留まり続けていたって状況はなにも変わらない。
それならばと、何かしらの手掛かりを探し求めるために世界を旅することにしたんだ。
と、言ってもこの世界は思った以上に広い。
そこで俺たちはソフィアから一番近い場所に位置し、なおかつ巨大な都市を目指してこの街、オーランドにやって来た。
もちろんソフィアを離れたのはそれだけが理由じゃない。
何よりもゆかりたちに女郎街での出来事を思い出させたくなかったし、あの街は俺が穴を掘り過ぎたせいでとんでもないことになっている。
それに、例のごとく賠償金を国王から請求されたんだ。
当然そんなものは払うつもりなんて微塵もない。
だけどそうも言ってられなかった。
国王は俺が脱獄の際に開けた大穴の賠償金などを一切払っていないことに相当お怒りらしく、王国兵を借金取りの取立てに駆り出してきたんだ。
つまり、同じ場所に留まっていたらすぐに国王に見つかり、めんどくさい事態になりかねないと判断し、借金取りに追われて夜逃げするように移動したって訳だな。
「それがしこの街はあまり好みではないでござるな。宗教信者が多いことは別段構わんでござるが……いくらなんでも見るに耐えんでござるよ」
「あら、ゴキ男と意見が合うなんて珍しいじゃない。それについてはあたしも同感だわ」
「ゆかり殿……そのゴキ男と言う呼び方は人前ではやめてくれんでござるか?」
「嫌よ」
即答だった。
明智の申し出を有無も言わさず一刀両断したゆかりは、素知らぬ顔でティーカップを傾ける。
その姿にガクッと肩を落とす明智。
「フィーネア? どうかしたか?」
フィーネアは深刻そうな顔で俯いている。
俺はそんなフィーネアに声を掛けたのだが、気を遣わせまいと愛想笑いを浮かべている。
「いえ……なんでもありません。それよりも他の方々が遅いですね」
俺としてはフィーネアのことの方が気になるのだが……。
フィーネアの言う通り、ゆかりと共に女郎街から助け出した5人が一向に戻って来ない。
「ほんっとあの子達何してるのかしら」
「スケベぇ~な下着選びに時間を掛けているのではござらんか」
「ゴキ男は黙ってなさい。殺すわよ」
ゆかりは決して明智を見ることなく、どこか遠くを見つめながら冷淡にそう言った。
「ユーリ殿! ゆかり殿になんとか言ってくだされ! いくらなんでも酷い言い草でござろう!」
そんな言動に耐え兼ねた明智がゆかりを指差しながら不満を口にしている。
正直どうでもいい。
ので――俺はそれを無視することにした。
「それにしても本当に遅いな……一体何やってんだ?」
俺は少し呆れたように口にして嘆息し、どこまでも澄み渡る大空を見上げた。
この街オーランドへとやって来た俺たちはすぐに二手に分かれた。
俺とフィーネアに明智の3人は冒険者ギルドや酒場へと出向き、何か情報がないか聞き込みをしようとなった。
その際、ゆかりたち6名は衣服などを購入する為にショッピングをすることになっていたのだが、直前でゆかりがやっぱり自分も俺たちと来ると言い張って聞かなかったんだ。
ダンジョンシティーは魔物たちの働きもあって様々な店が出来ているが、やはりそこは魔物、ゆかりたち女の子好みの可愛い洋服やアクセサリーなどは置いていない。
だからゆかりにも買い物する機会を作ってあげたのだが……なぜか俺たちの方に付いて来てしまった。
まぁ、その理由はなんとなくわかっている。
俺は鈍くてイライラする鈍感系ラノベ主人公ではない。
というか……『――いつかゆう君をあたしに振り向かせてみせる……フィーネアさんには絶対に負けないんだからね』
あれほどまでにド直球で言われればさすがの俺でもわかってしまう。
ゆかりはフィーネアをライバル視してショッピングそっちのけで付いてきちゃったのだ。
ま、ゆかりのそう言う素直なところが正直可愛いと思うのも事実だな。
女の子に好意を向けられて、あんなにストレートに言われて1ミクロンも心が動かないかと言われれば……ま、1ミクロンほどは……となってしまう。
ぼんやりとカフェテラスに腰掛けてどれくらい空を見上げていたのだろう?
徐々に青から茜色に染まりつつある透明な空。
それにしても――
「遅いっ! いくらんでも遅すぎるわよ! あの子たちはどこまで買い物に行ってるのよっ!」
俺が思っていることを先にゆかりに言われてしまった。
ゆかりはかなりイラついているのか、ガタガタと品のない貧乏ゆすりが激しさを増していく。
「まったく、ゆかり殿は品が無いでござるな」
と、言いつつ――テーブルの下から顔を覗かせる最低な明智は、ゆかりのスカートの中を堂々と覗き込もうとしている。
確かにこいつはある意味4人目の勇者なのかもしれない。
まともな脳みそしている奴が目の前の女の子のスカートの中をこれほどまでに堂々と覗けるだろうか……。
答えは否。
そしてバレるのも当然で……顔面を蹴り飛ばされるのも至極当然だ。
「ああああああああっ、顔がぁあぁあああああああ!? なにをするでござるかっ!」
「それはこっちのセリフよ! なに堂々と人のパンツ見ようとしてんのよっ! あんたち○なしの癖にまったく性欲衰えてないじゃない! どうなってんのよ」
「なっ、それがしは落し物を拾おうとしただけでござろう! 自意識過剰も大概にするでござるよ」
「嘘つくんじゃないわよ、このド変態っ!!」
「ハァ~」
俺は本日何度目かの溜息を吐き出した。
この2人がいると喧しくてかなわんな。
それから2時間ほど待ち、闇夜の向こう側にはっきりと月が顔を出し、街は人工的なランタンの明かりがあちこちで灯り始めていた。
いくらなんでも遅すぎる。
何かあったのか?
嫌な予感が脳裏を掠め始めると、フィーネアがサッと席を立ち上がった。
「いくらなんでも遅過ぎはしませんか……フィーネアちょっと探してきます」
「あっ! あたしも行くわ」
俺が呼び止める間もないまま、フィーネアとゆかりが5人を探しにカフェを飛び出してしまった。
呆然と遠ざかる2人の背中を見やっていると、「それがしたちも探しに行ってみるでござるか、ユーリ殿」と明智が提案してきたので、俺は頷きカフェを後にする。
夜のオーランドはどこか不気味な雰囲気を醸し出し、まるで18世紀のイーストエンド・オブ・ロンドンのような場所だ。
「夜になると……不気味でござるな。路地から今にも殺人鬼が飛び出して来そうな雰囲気でござるな」
「嫌なこと言うなよ。でもその時は全力で俺を守れよ明智。俺はお前と違ってオールFなんだからな。ストリートチルドレンの幼児にさえ殺されかねないんだからな」
俺の少し前方を歩く明智が突然立ち止まり振り返ると、糸目でガン見してきやがる。
「なっ、なんだよ?」
「それがしのそれがしを元に戻してくださらんユーリ殿が仮に襲われたとしても……」
明智はぶっ飛ばしたくなるような顔でにたっと笑みを浮かべて、すぐに前へと向き直り歩き始めた。
コンニャロー!
あれはどう考えてもお前が悪いからだろがっ。
それに今すぐに明智の明智を元に戻してっみろよ。
怒り狂ったゆかりたちがまたお前を殺そうと躍起になりかねんだろう。
どちらか一方の肩を持ってしまえば、どちらか一方が立ってしまう。
両者、波風立たずに済ませるにはほとぼりが冷めるまでお前の息子を封印するしかないだろう。
俺がその背中をムッと睨めつけるように見ていると、前方を行く明智が薄暗い路地へと入っていく。
俺も遅れて路地に入っていくと、「わあぁっ!」と明智が脅かそうと大声を上げてくる。
ちょっとびっくりしてしまった俺は頭にきて、反射的に明智の頭を思いっきり叩いてしまった。
「何しやがんだこの野郎っ! こんな時にくだんねぇーことしてんじゃねぇーよっ!」
「はははっ! オーバーでござるな! 今の顔は傑作だったでござるよ。いや~それにしてもスマホの充電が切れてなければ、動画で撮ってSNSにアップしたでござるよ。バズること間違いなしでござろう? ビビリな友人の間抜け面って……プークスクス!」
マジでぶち殺してやろうか、この糞漏らしがっ!
俺が立ち止まり怒りで身を震わせる中、明智は大笑いしながら暗い路地を進みまた立ち止まり、何かを拾う素振りをして再びこちらへと振り返り、大声を上げている。
「ユーリ殿! それがしかっこいいダガーを拾ったでござるよ。 今日から宮本武蔵のように二刀流と言うのも悪くないでござるな」
明智は拾ったダガーをシュッシュッとフェンシングのように素早く振るっていると、突如俺の背後から耳をつんざく女性の悲鳴が響き渡った。
「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
「「ん?」」
なんだ? と、振り返ると、夜のドレスを身にまとった娼婦のような女がランタン片手に明智の方を見やり恐怖に身を震わせている。
俺はどうしたんだろうと明智の方を見やると、ランタンの明かりが微かに明智を照らし出していた。
明智は真っ赤に染まったダガーを握り締め、その足元には無残な姿に変わり果てた娼婦が倒れ込んでいる。
俺は絶句した。
明智は殺人犯が現場に残していったダガーを拾ってしまい、それを偶然通りかかった娼婦に目撃されてしまったのだ。
明智はまだそのことに気付いていないのか、嬉しそうな笑顔を振りまいている。
だが、女の悲痛な叫びを聞きつけた人々が何事かと駆けつけてきているのだ。
俺は頭が真っ白になり、明智と女を交互に何度も見ていると、駆けつけた人々が明智を見るなり顔を青白く染めた。
その人々の顔色の変化にようやく気付いた明智が足元に視線を落とすと……。
「ギャヤァアァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!??」
足元の遺体に気が付いた明智が驚き悲鳴を上げて腰を抜かすと、駆けつけた憲兵隊が明智を包囲し捕らえてしまった。
「ちっ、ちちち、違うでござる! それがしではないでござるよ! ユーリ殿っ! ユーリ殿っ!! 助けて欲しいでござるよユーリ殿っ!!! それがしは無実でござるよ!」
明智はそのまま憲兵にどこかへと連れて行かれてしまった。
あまりに突然の出来事に、俺は呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
「何やってんだよ……あのバカ……」
俺はそれから走った。
夜の街を走って走ってフィーネアとゆかりにこのことを伝えなければと……。
だけど……フィーネアとゆかりをようやく見つけた俺は再び絶句する。
なぜなら……。
「大変ですユーリ! 5人が異端者として教会に捕らえられたらしいのです!」
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「じょうだん……だろ……?」
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最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
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