35 / 65
35話 サービス
しおりを挟む先生との特訓の後、すぐに受験はやってきた。
そして、合格発表の日も…。
結論から発表する。
僕は不合格だった!
と思ったら、繰り上げ合格になった。
AO入試でもそんなことあるんだ…。
私立だからかなぁ。
実は、不合格になってからも「まだなんか事件が起こって合格になれ!」って念じてた。
先生の言ってた、メンタルってやつ。
合格発表後に不合格って書いてあっても落ち込まずに「一般入試じゃ無理なんで、AOで繰り上げ合格する」って念じてた。
それで、本当に合格しちゃったわけだ。
自分でも笑っちゃうよ。
先生に「繰り上げ合格しました!」って報告した。
「そんなの嘘ね。」と先生は僕を信じていなかったみたいだけど、事実だ。
合格が嬉しくて有頂天の僕は、すぐに理科教員室に向かって、先生に大声で合格の自慢をしたのだった。
「先生。僕、大学合格したんでご褒美もらってもいいですか?」
「ご褒美?まぁ、考えてやらなくもないけど、今すぐは無理よ。一般入試が終わるまで忙しいの。」
確かに、僕は暇になるけど、これから先生は忙しくなると思う。
ちょっと寂しいものの、ここは、面倒な子どもだと思われたくないので潔く引くことにした。
「別にいつでもいいんで、お願いします!」
珍しく、理科教員室に先生1人しかいなかったので本当はこの場に入り浸りたかったのだけれど、先生の周りにはあらゆる書類と荷物が散乱していた。
多分、相当忙しいのだと思う。
ちょっと先生、ドライ対応だったし。
僕は、放課後で人がいない生物室に向かった。
教室の1番後ろの席に座る。
今はともかく喜びが大きく、踊り出したい気分である。
その一方で、大きな不安もある。
例えば、先生との関係について。
卒業まで残り何日あるのだろう?
先生と、学校で会えるのは後何日くらいかな?
卒業して会えなくなった、僕たちの関係はどうなるのだろうか。
嬉しさが今は大きいものの、先々のことを考えると、不安になる。
このままでいたい。
けれど、時間は止めることができない。
(もう、このままの暮らしのままでいいのに…)
今まで、特に先生のことを好きになってからは早く卒業したくて、大人になりたくて堪らなかった。だから、時間が早く進めばいいと思っていた。
それなのに、今は時間が止まって欲しいと思っている。
(僕ってわがままだな…)
まだ、離れ離れになると決まったわけじゃないのに、先生との別れの事を考えて涙が一粒だけ溢れる。
センチメンタルな気持ちのまま、僕は生物室に居るともっとセンチメンタルになった。
だって、ここは、先生とたくさんの時間を過ごした場所だから。
この場所で、僕は先生を好きになったんだと思う。
先生とまだ付き合う前のことを、今になってから思い返すと恥ずかしいな。
一生懸命に、先生に好きアピールをしてた。ちょっと女々しかったかなぁ。
けれど、先生は僕より想いに応えてくれた。
今も充分に子供だけれど、その頃は今よりももっと子供だった。
「だいすき…。」
呟いてみる。
誰もいない教室に、僕の小さい声が反響した。
外は生徒達の声で賑やかだ。
ただ、この生物室だけが静まり返っている。
「なんか言った?」
「うわぁぁぁっ!」
突然の声に僕は驚く。
「なんか声が聞こえたんだけど。」
先生が、教室のドアの隙間からひょっこり顔を覗かせて僕を見ている。
「な、何も言ってないです!」
本当は言ったけど、僕はシラを切ることにした。なぜなら、恥ずかしいから。
「大好きとかなんとか言ってたよね?」
「聞こえてたんですか…。」
ちゃんと聞かれていたのか…。
「はい…。言いましたよ。」
「ふーん。」
「興味ないなら聞かないでください。」
「あるよ、もちろん。だって君、目が腫れているし。気になるに決まってるわ。」
さっきちょっと泣いちゃったから目が腫れていたのかもしれない。
「ちょっと感傷に浸ってたんです。」
「君もそんなことするの?意外すぎるわ。」
「失礼ですね。僕だっておセンチな気分の日もあります!」
「んで、誰のことが好きなわけ?」
そんなの決まってる…。
先生は、目をキラキラさせながら僕を見てくる。
「ほら、言ってみてごらん。誰のことかなぁ?」
先生は、僕を見てニヤニヤしながら生物室に入って来た。
(もう逃げられない…。)
「先生ですよ…。」
僕が観念して答えると、先生はパッと笑顔になった。
とても可愛らしいと思った。
先生はいつもちょっとドライでクールな事が多いから。
「あら、どうも。それで、泣いてたのは?」
僕は知っている。先生はちょっとしつこい。
多分、僕が泣いていた理由を知りたがるはず。
「先生とずっと一緒にいたいんです。でも、卒業したら一緒に居られなくなるかもしれないです。端的に言えば、それが不安です。」
「誰も離れるなんて言ってないよね?」
「はい…。でも、不安なんです。先生は忙しいし。何より僕は子供だから。」
「そんな事で泣いたの?本当に子供ね。」
先生は呆れたように言った。
「大丈夫よ…。」
先生は、僕が座っている席の前に座って僕の方を向いた。
「絶対に離れないですか?一緒にいられますか?」
「もちろん。」
微笑む先生が、僕の頭に手を伸ばす。
優しく頭を撫でてくれる。
「大丈夫。私も君の事が好きだから。」
先生は、僕にだけ聞こえる小さな声でつぶやいた。
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!


加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ
犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。
僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。
僕の夢……どこいった?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる