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33話 グルメ登場
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俺の前には現在、姫殿下と呼ばれる女がいる。
審議会という名の裁判が中止され、俺たちはこの姫殿下という露出狂まがいの女の部屋に連れてこられた。
部屋と言っても恐ろしく広く豪華な作りだ。
見渡す限りに高価な装飾が施され、部屋の端には複数のメイドさんが待機している。
長方形の大理石テーブルには所狭しと豪華な食事が並べられ、女は料理に舌鼓を打っている。
澄んだ深海の底から汲んできたような真っ青な髪は、少しウエーブがかっており艶やかに波打っている。瞳も晴れ渡る空のような色をしており、その瞳で見つめられると吸い込まれてしまいそうなほどだ。
そして何故か、下着かビキニかと目を疑ってしまうほどハレンチな上半身に、ショートパンツスタイルで首にはストールを巻いている。
長身なのでやたらと様になってはいるものの、童貞には刺激が強すぎる。
正直、目のやり場に困る。
それにしても綺麗なお姉さんという見た目に反し、片膝を突きながら食事を摂る姿は豪快だな。
というか、これだけの量の食事を用意しているということは、俺たちの分も含まれているんじゃないか?
「あの~」
「おお、そこに掛けると良い」
銀のフォークを突き刺して適当に掛けろと言う言葉に従い、俺たちは椅子に座ることにした。
明智の奴は先程からニヤけ面で目の前の女を見ては股間を押さえている。
みっともないから止めてほしい。
本当にこいつだけはどうしようもないな。
とは言うものの、とてつもない爆乳に目を奪われるのは事実だな。
推定Gカップというところか? もっとあるかもしれん。
何れにせよお見事と拍手したいくらいだ。
「ゴホンッ」
目の前の爆乳に目を奪われていると、フィーネアがジト目で俺を見てわざとらしく咳払いをした。
不味いと思った俺は愛想笑いを浮かべて、なんとかその場を凌いだのだが。
フィーネアは少し不機嫌そうだ。
「それでその……俺たちはなんでここに呼ばれたんでしょうか? というか……あなたは誰ですか?」
「ああ゛、わじばだな゛」
「ええ、ええ。姫殿下、口の中のものを飲み込んでからお話ください」
口いっぱいに頬張った姫殿下と呼ばれる女に、傍らに立つバーバラが注意しているが、このババアも一体何者なんだ?
「儂はグルメ。お主は月影遊理じゃったな? お主はこの世界の人間ではなかろう?」
口の中のものをゴクリと飲み込むと、自らをグルメと名乗った女が鋭い眼光を向けてきた。
「ちなみに儂は七王と呼ばれる一人じゃ。そうじゃな、こちらの世界の人間たちからは魔王と恐れられる者じゃ」
「「「魔王!?」」」
あまりにびっくりし過ぎて、俺たち3人は思わず立ち上がってしまった。
そんな俺たちへフォークを突きつけて上下に揺らし、「良いから座れ。食事中じゃ、埃が立つであろう」と言いながら話を続ける。
俺たちは互いに顔を見合ってから頷き、席に座り直した。
「先ほどの審査会でも言っていたと思うが、人族が儂の胃袋の管理者に選ばれるのは初のことであってな。少々困惑しておる」
「胃袋!?」
「そうじゃ。お主が管理するダンジョンは早い話が儂の胃袋みたいなもんじゃ」
「さっぱり意味がわからないんだが……あれはダンジョンじゃないのか?」
「ん~何から話せばよいかの」
言いながらグルメはフォークでポリポリと頭を掻いた。
「この世界に七人の魔王が居ることは知っておるな?」
「ああ。それなら聞いてるよ」
「七王にはひとつずつ封印の紋が記されておる」
「封印紋? なんだそれ?」
「封印紋とはこの世界に存在した邪神を封印する為の紋章じゃ」
グルメはフォークを口に咥えて立ち上がり、徐に背中を向けると髪を掻き上げて俺たちに背中を見せた。
グルメの背中には奇妙な紋様が背中一面に刻まれている。
「なんだそれ?」
「これが封印紋じゃ」
グルメは背中の封印紋を見せると再び席に座り直して、俺を見た。
「七王にはそれぞれ似たような封印紋が施されておる。儂ら魔族は代々この封印紋を先代の王たちから引き継いできたんじゃ」
「なんのためにだ?」
「お主、儂の話しを聞いておったか?」
「きっ、ききき、聞いていたがテンパり過ぎてよくわからん。わかりやすく頼む」
グルメはコクリと頷いた。
「先程も言ったように、この世界にはかつて邪神と呼ばれる邪悪そのものが存在しておっての――今から2000年ほど前のことじゃ。この世界が邪神に滅ぼされかけたとき、魔族の代表――つまり先代の七王と人間の代表者である勇者が互いに手を取り、邪神を封印したんじゃ。その際、勇者たちは七王に懇願した。自分たち人間は短命だ、だから邪神を七つに分けて七王たちの体に封印したいとな」
「それがさっきの背中のやつか?」
「そうじゃ」
だがちょっと待て!
おかしくないか……魔王と勇者が力を合わせて邪神を封印したというなら、なんで人間は魔王を倒そうとしているんだ?
封印と言うくらいなのだから魔王を倒せば封印が解けて、その邪神とかいうのが復活するんじゃないのか?
もしそうだったら……この世界の人間はどえらいアホじゃないか!
「その話し本当なのか? ならなんで人間は魔王を……七王を倒そうとしているんだ?」
「人間は短命じゃ。2000年前の出来事など覚えておらん。仮に覚えていたとしてもおとぎ話程度にしか思っておらんのじゃ。それに、この世は弱肉強食であろう?」
「ああ、まぁ」
「魔族や魔物の中には人間の肉や血を好むものも多くおる。それは人間とて同じであろう? 人間も豚や牛や鳥に魚などを好んで食べる。仮にこれを食してはならんと言ったところで、一度その味をしめれば隠れて食うのが世の常じゃ。結果、長き時を経て人間たちは儂らとの約束を忘れてしまい、憎しみという敵意だけが残ってしまったんじゃ」
なるほどな。
人間にとって自分たちを食べようとする魔物や魔族は確かに恐ろしいし、敵と判断するのも納得だ。
だけどグルメの言う通り、弱肉強食――それこそが食物連鎖だとも言える。
人間は常に自分たちが世界の支配者であり、何をするのも自分たちのためなら許されると思っているからな。
そう、気付かぬうちに自分たちこそが選ばれし存在だと思い込んでいるんだ。
「それで、それと俺に何の関係があるんだ?」
「まず最初に聞きたいことなんじゃが、お主は儂の胃袋……ダンジョンマスターにどうやって選ばれたかはわからんのじゃな?」
「ああ。正直さっぱりわからん。俺はダンジョンマスターだった奴に襲われて倒しただけなんだ」
「うむ。そのことについてはこちらでも調べは付いておる。ただ、通常人間がダンジョンマスターを倒しても、その権利が譲渡されることはないんじゃ」
「つまり……どう言うことだ?」
「何者かの強い力が働き、お主を儂の胃袋……ダンジョンマスターにした者がいるということじゃ」
何者か……俺には少し……いやかなりはっきりとその人物に心当たりがある。ヴァッサーゴのクソ野郎だ。
だけど、ここでヴァッサーゴのことを……ミスフォーチュンのことを言いたくはない。
だってそうだろ? 堂々と他人の不幸を集めていますなんて口外したくはないだろ、普通。
「ちなみになんだが、ダンジョン管理は何を目的にしているんだ? 何か目的があるんだろ? 裁判……審査会では供物を捧げるとか言っていたが」
「ああ、あれは儂に魂を喰わわせるための装置みたいなもんじゃ」
「魂を喰うだと!?」
そういえば……プリンちゃんがダンジョンポイントは魂を集めるとかなんとか言っていたな。
「なんで魂を喰うんだ?」
「封印紋を維持するためじゃ」
「魂を喰らえば維持できるのかよ?」
「そうじゃ。七王には封印紋と共に罪が与えられたんじゃ」
「罪!?」
「七つの大罪じゃ――『傲慢』『嫉妬』『憤怒』『怠慢』『強欲』『色欲』そして儂の『暴食』じゃ。謂わば呪いじゃな。この呪いを抑える為には、儂は喰うしかないんじゃ」
つまり……封印を守るために多くの魂を食らうということか。
そのためにダンジョン管理者は多くの魂を集めさせられているんだな。
それならあの訳のわからないランキングシステムも納得いく。
要は魂を集められないダンジョン管理者を排除して、より多くの魂を集めさせるためだ。
その為にランキングを使い、競争意欲を高めさせているということか。
俺はこの際だから聞きたいことをグルメに聞いた。
一つ――審査会の連中が言っていたダンジョンの魔物たちが罪人であるということ。
グルメ曰く、彼らは街の北西に位置するあの巨大な塔に収監されている魔物や魔族だということ。
囚人であるから塔やダンジョンから出られないように呪いのようなものが施されているらしい。
しかし、囚人の多くがあの塔で生まれ育ったものだとも言っていた。
かつて邪神に魅せられ寝返った者たちの末裔だという。
冬鬼たち自身が罪を犯したわけでないというのだが、それならそれでとても不憫だ。
少しだけ助けてやりたいな、と思ってしまった。
彼らには世話になっているんだ。
それとドールについてだ。
ドールというのは古代から魂を束縛して飼い慣らすためのものらしい。
その際、ドールは生前の記憶などを消去されるのだ。
だが、主となったものと確かな信頼で結ばれたとき――その呪いの一部が解除される。
ドールの魂が完全に解放されるのは、ドールにした者が朽ちた時だという。フィーネアの場合はヴァッサーゴと言うことになるな。
「恐らくじゃが、そこのフィーネアと言う娘はここ魔界と生前深い繋がりを得ていたのじゃろうな。その為この地に足を踏み入れた時、その娘の奥底に眠っていた記憶の断片が泉のように湧きだそうとし、呪いがそれを阻んだ結果、気分を害したのだろう」
「なるほどな」
俺が随分と顔色が良くなったフィーネアに顔を向けると、何かを考え込んだまま俯いている。
きっとグルメの話しを聞いて、自身の過去について考えているのだろう。
記憶がないというのは計り知れない恐怖だと思う。
フィーネアの記憶を取り返してやるためにも、絆を強くしなければな。
「それとお主をここに呼んだ一番の理由なんじゃが……ドールは古代の魔法で現在は禁忌とされておるんじゃ。儂にはいまいちわからん。なぜ異世界人のお主が禁忌とされているドールを所有しておるのかが」
「それは……」
「それにお主を一目見た時から気になっておったんじゃが……一体誰に呪いを掛けられておるんじゃ?」
「呪い!? 俺が呪いに掛けられているのか!?」
その通りだと頷くグルメが、身を乗り出して俺の頭へと手を伸ばした。
そのまま俺の髪を数本引き抜き食べた。
「痛っ!? 何すんだよ急にっ! それにいくら暴食だからって俺の髪を喰うことないだろ?」
「ええ、ええ。姫殿下は他者の体の一部を食すことで、その者すべてを知ることができるのです。ヒヒヒッ」
グルメを怒鳴りつけた俺に、バーバラがグルメの変わった能力を教えてくれる。
間違いなくグルメの固有スキルの一つなんだろう。
「それで……なんかわかったのか?」
「オールF……それしかわからん」
なんだ……つまんねぇーな。
と、思う俺とは対照的に、グルメは顎に手を当てて真剣に何かを考え込んでいる。
「おかしい……」
グルメが小さく呟いた。
一体何がおかしいと言うのだろう。
「どうかしたか?」
「普通、異世界人がオールFなどあり得ない。最低でもD評価じゃ。なのにお主はオールF」
「どういうことだ?」
確かに俺以外の奴はこの世界に来たばかりの頃、最低がD評価だと思い込んでいた。
それと言うのもD評価以下がいなかったからだ。ま、俺はFだったのだが……。
「お主のステータスは何者かの呪いにより改ざんされていると言うことじゃ。本来のお主のステータスはオールFではない」
「……マジかよ」
俺が信じられないと呆気に取られていると、グルメの口から耳を疑う名前が聞こえてきた。
「ひょっとして……お主ヴァッサーゴと言う名に聞き覚えはないか?」
「えっ!?」
審議会という名の裁判が中止され、俺たちはこの姫殿下という露出狂まがいの女の部屋に連れてこられた。
部屋と言っても恐ろしく広く豪華な作りだ。
見渡す限りに高価な装飾が施され、部屋の端には複数のメイドさんが待機している。
長方形の大理石テーブルには所狭しと豪華な食事が並べられ、女は料理に舌鼓を打っている。
澄んだ深海の底から汲んできたような真っ青な髪は、少しウエーブがかっており艶やかに波打っている。瞳も晴れ渡る空のような色をしており、その瞳で見つめられると吸い込まれてしまいそうなほどだ。
そして何故か、下着かビキニかと目を疑ってしまうほどハレンチな上半身に、ショートパンツスタイルで首にはストールを巻いている。
長身なのでやたらと様になってはいるものの、童貞には刺激が強すぎる。
正直、目のやり場に困る。
それにしても綺麗なお姉さんという見た目に反し、片膝を突きながら食事を摂る姿は豪快だな。
というか、これだけの量の食事を用意しているということは、俺たちの分も含まれているんじゃないか?
「あの~」
「おお、そこに掛けると良い」
銀のフォークを突き刺して適当に掛けろと言う言葉に従い、俺たちは椅子に座ることにした。
明智の奴は先程からニヤけ面で目の前の女を見ては股間を押さえている。
みっともないから止めてほしい。
本当にこいつだけはどうしようもないな。
とは言うものの、とてつもない爆乳に目を奪われるのは事実だな。
推定Gカップというところか? もっとあるかもしれん。
何れにせよお見事と拍手したいくらいだ。
「ゴホンッ」
目の前の爆乳に目を奪われていると、フィーネアがジト目で俺を見てわざとらしく咳払いをした。
不味いと思った俺は愛想笑いを浮かべて、なんとかその場を凌いだのだが。
フィーネアは少し不機嫌そうだ。
「それでその……俺たちはなんでここに呼ばれたんでしょうか? というか……あなたは誰ですか?」
「ああ゛、わじばだな゛」
「ええ、ええ。姫殿下、口の中のものを飲み込んでからお話ください」
口いっぱいに頬張った姫殿下と呼ばれる女に、傍らに立つバーバラが注意しているが、このババアも一体何者なんだ?
「儂はグルメ。お主は月影遊理じゃったな? お主はこの世界の人間ではなかろう?」
口の中のものをゴクリと飲み込むと、自らをグルメと名乗った女が鋭い眼光を向けてきた。
「ちなみに儂は七王と呼ばれる一人じゃ。そうじゃな、こちらの世界の人間たちからは魔王と恐れられる者じゃ」
「「「魔王!?」」」
あまりにびっくりし過ぎて、俺たち3人は思わず立ち上がってしまった。
そんな俺たちへフォークを突きつけて上下に揺らし、「良いから座れ。食事中じゃ、埃が立つであろう」と言いながら話を続ける。
俺たちは互いに顔を見合ってから頷き、席に座り直した。
「先ほどの審査会でも言っていたと思うが、人族が儂の胃袋の管理者に選ばれるのは初のことであってな。少々困惑しておる」
「胃袋!?」
「そうじゃ。お主が管理するダンジョンは早い話が儂の胃袋みたいなもんじゃ」
「さっぱり意味がわからないんだが……あれはダンジョンじゃないのか?」
「ん~何から話せばよいかの」
言いながらグルメはフォークでポリポリと頭を掻いた。
「この世界に七人の魔王が居ることは知っておるな?」
「ああ。それなら聞いてるよ」
「七王にはひとつずつ封印の紋が記されておる」
「封印紋? なんだそれ?」
「封印紋とはこの世界に存在した邪神を封印する為の紋章じゃ」
グルメはフォークを口に咥えて立ち上がり、徐に背中を向けると髪を掻き上げて俺たちに背中を見せた。
グルメの背中には奇妙な紋様が背中一面に刻まれている。
「なんだそれ?」
「これが封印紋じゃ」
グルメは背中の封印紋を見せると再び席に座り直して、俺を見た。
「七王にはそれぞれ似たような封印紋が施されておる。儂ら魔族は代々この封印紋を先代の王たちから引き継いできたんじゃ」
「なんのためにだ?」
「お主、儂の話しを聞いておったか?」
「きっ、ききき、聞いていたがテンパり過ぎてよくわからん。わかりやすく頼む」
グルメはコクリと頷いた。
「先程も言ったように、この世界にはかつて邪神と呼ばれる邪悪そのものが存在しておっての――今から2000年ほど前のことじゃ。この世界が邪神に滅ぼされかけたとき、魔族の代表――つまり先代の七王と人間の代表者である勇者が互いに手を取り、邪神を封印したんじゃ。その際、勇者たちは七王に懇願した。自分たち人間は短命だ、だから邪神を七つに分けて七王たちの体に封印したいとな」
「それがさっきの背中のやつか?」
「そうじゃ」
だがちょっと待て!
おかしくないか……魔王と勇者が力を合わせて邪神を封印したというなら、なんで人間は魔王を倒そうとしているんだ?
封印と言うくらいなのだから魔王を倒せば封印が解けて、その邪神とかいうのが復活するんじゃないのか?
もしそうだったら……この世界の人間はどえらいアホじゃないか!
「その話し本当なのか? ならなんで人間は魔王を……七王を倒そうとしているんだ?」
「人間は短命じゃ。2000年前の出来事など覚えておらん。仮に覚えていたとしてもおとぎ話程度にしか思っておらんのじゃ。それに、この世は弱肉強食であろう?」
「ああ、まぁ」
「魔族や魔物の中には人間の肉や血を好むものも多くおる。それは人間とて同じであろう? 人間も豚や牛や鳥に魚などを好んで食べる。仮にこれを食してはならんと言ったところで、一度その味をしめれば隠れて食うのが世の常じゃ。結果、長き時を経て人間たちは儂らとの約束を忘れてしまい、憎しみという敵意だけが残ってしまったんじゃ」
なるほどな。
人間にとって自分たちを食べようとする魔物や魔族は確かに恐ろしいし、敵と判断するのも納得だ。
だけどグルメの言う通り、弱肉強食――それこそが食物連鎖だとも言える。
人間は常に自分たちが世界の支配者であり、何をするのも自分たちのためなら許されると思っているからな。
そう、気付かぬうちに自分たちこそが選ばれし存在だと思い込んでいるんだ。
「それで、それと俺に何の関係があるんだ?」
「まず最初に聞きたいことなんじゃが、お主は儂の胃袋……ダンジョンマスターにどうやって選ばれたかはわからんのじゃな?」
「ああ。正直さっぱりわからん。俺はダンジョンマスターだった奴に襲われて倒しただけなんだ」
「うむ。そのことについてはこちらでも調べは付いておる。ただ、通常人間がダンジョンマスターを倒しても、その権利が譲渡されることはないんじゃ」
「つまり……どう言うことだ?」
「何者かの強い力が働き、お主を儂の胃袋……ダンジョンマスターにした者がいるということじゃ」
何者か……俺には少し……いやかなりはっきりとその人物に心当たりがある。ヴァッサーゴのクソ野郎だ。
だけど、ここでヴァッサーゴのことを……ミスフォーチュンのことを言いたくはない。
だってそうだろ? 堂々と他人の不幸を集めていますなんて口外したくはないだろ、普通。
「ちなみになんだが、ダンジョン管理は何を目的にしているんだ? 何か目的があるんだろ? 裁判……審査会では供物を捧げるとか言っていたが」
「ああ、あれは儂に魂を喰わわせるための装置みたいなもんじゃ」
「魂を喰うだと!?」
そういえば……プリンちゃんがダンジョンポイントは魂を集めるとかなんとか言っていたな。
「なんで魂を喰うんだ?」
「封印紋を維持するためじゃ」
「魂を喰らえば維持できるのかよ?」
「そうじゃ。七王には封印紋と共に罪が与えられたんじゃ」
「罪!?」
「七つの大罪じゃ――『傲慢』『嫉妬』『憤怒』『怠慢』『強欲』『色欲』そして儂の『暴食』じゃ。謂わば呪いじゃな。この呪いを抑える為には、儂は喰うしかないんじゃ」
つまり……封印を守るために多くの魂を食らうということか。
そのためにダンジョン管理者は多くの魂を集めさせられているんだな。
それならあの訳のわからないランキングシステムも納得いく。
要は魂を集められないダンジョン管理者を排除して、より多くの魂を集めさせるためだ。
その為にランキングを使い、競争意欲を高めさせているということか。
俺はこの際だから聞きたいことをグルメに聞いた。
一つ――審査会の連中が言っていたダンジョンの魔物たちが罪人であるということ。
グルメ曰く、彼らは街の北西に位置するあの巨大な塔に収監されている魔物や魔族だということ。
囚人であるから塔やダンジョンから出られないように呪いのようなものが施されているらしい。
しかし、囚人の多くがあの塔で生まれ育ったものだとも言っていた。
かつて邪神に魅せられ寝返った者たちの末裔だという。
冬鬼たち自身が罪を犯したわけでないというのだが、それならそれでとても不憫だ。
少しだけ助けてやりたいな、と思ってしまった。
彼らには世話になっているんだ。
それとドールについてだ。
ドールというのは古代から魂を束縛して飼い慣らすためのものらしい。
その際、ドールは生前の記憶などを消去されるのだ。
だが、主となったものと確かな信頼で結ばれたとき――その呪いの一部が解除される。
ドールの魂が完全に解放されるのは、ドールにした者が朽ちた時だという。フィーネアの場合はヴァッサーゴと言うことになるな。
「恐らくじゃが、そこのフィーネアと言う娘はここ魔界と生前深い繋がりを得ていたのじゃろうな。その為この地に足を踏み入れた時、その娘の奥底に眠っていた記憶の断片が泉のように湧きだそうとし、呪いがそれを阻んだ結果、気分を害したのだろう」
「なるほどな」
俺が随分と顔色が良くなったフィーネアに顔を向けると、何かを考え込んだまま俯いている。
きっとグルメの話しを聞いて、自身の過去について考えているのだろう。
記憶がないというのは計り知れない恐怖だと思う。
フィーネアの記憶を取り返してやるためにも、絆を強くしなければな。
「それとお主をここに呼んだ一番の理由なんじゃが……ドールは古代の魔法で現在は禁忌とされておるんじゃ。儂にはいまいちわからん。なぜ異世界人のお主が禁忌とされているドールを所有しておるのかが」
「それは……」
「それにお主を一目見た時から気になっておったんじゃが……一体誰に呪いを掛けられておるんじゃ?」
「呪い!? 俺が呪いに掛けられているのか!?」
その通りだと頷くグルメが、身を乗り出して俺の頭へと手を伸ばした。
そのまま俺の髪を数本引き抜き食べた。
「痛っ!? 何すんだよ急にっ! それにいくら暴食だからって俺の髪を喰うことないだろ?」
「ええ、ええ。姫殿下は他者の体の一部を食すことで、その者すべてを知ることができるのです。ヒヒヒッ」
グルメを怒鳴りつけた俺に、バーバラがグルメの変わった能力を教えてくれる。
間違いなくグルメの固有スキルの一つなんだろう。
「それで……なんかわかったのか?」
「オールF……それしかわからん」
なんだ……つまんねぇーな。
と、思う俺とは対照的に、グルメは顎に手を当てて真剣に何かを考え込んでいる。
「おかしい……」
グルメが小さく呟いた。
一体何がおかしいと言うのだろう。
「どうかしたか?」
「普通、異世界人がオールFなどあり得ない。最低でもD評価じゃ。なのにお主はオールF」
「どういうことだ?」
確かに俺以外の奴はこの世界に来たばかりの頃、最低がD評価だと思い込んでいた。
それと言うのもD評価以下がいなかったからだ。ま、俺はFだったのだが……。
「お主のステータスは何者かの呪いにより改ざんされていると言うことじゃ。本来のお主のステータスはオールFではない」
「……マジかよ」
俺が信じられないと呆気に取られていると、グルメの口から耳を疑う名前が聞こえてきた。
「ひょっとして……お主ヴァッサーゴと言う名に聞き覚えはないか?」
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