俺だけ入れる悪☆魔道具店無双〜お店の通貨は「不幸」です~

葉月

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32話 審査会

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 バーバラに先導されて魔族たちが行き交う人ごみを進んでいくと、前方に大神殿が見えて来た。

 街の中心に位置する神殿は街を俯瞰するように建てられ、巨大な階段が俺たちの行く手に立ちはだかる。

「なんでござるかこの馬鹿でかい階段は?」
「これを上れって言うのかよ? エスカレーターとかないの?」

 顎を上げて見上げる先に神殿はあるのだが……これ何百段あるんだよ。
 気が遠くなるほどの階段を前に自然と溜息が漏れてしまう。

 そんな俺たちをよそ目にバーバラはぴょんぴょんと飛び跳ねるように軽快に階段を上り、身を翻してこちらを見下ろした。

「ええ、ええ。早くしなければ日が暮れてしまいますよ。ヒヒヒッ」

 一言そう言うと、バーバラは俺たちを残して凄まじいスピードで階段を上っていく。
 あっと言う間にその姿が見えなくなった。

「化物でござるな」
「全くだ。ババアとは思えん身のこなしだ」

 ババアの驚異的速度を目の当たりにして呆然と立ちすくむ俺と明智。

「さぁ、フィーネア達も上りましょう。ユーリ」

 俺の傍らでそう言うフィーネアは、とても辛そうだ。
 肩で息をして額からは汗が滲み出ている。
 バーバラの言っていた呪いの影響なんだろう。

 俺はフィーネアに背中を向けて屈んだ。

「えっ!? ユーリ……?」

 戸惑いを隠せないフィーネアの声音が微かに俺の鼓膜を揺らした。
 俺は首を回してフィーネアに微笑んでみせる。

「こんな時くらい俺に頼ってもいいんだぞ、フィーネア。というか……頼られたりすると俺は素直に嬉しいんだ」
「ユーリ……はい」

 俺の名を呼び、少し間が空いてから照れくさそうなフィーネアの声音が聞こえる。

 ゆっくりと背中に覆い被さってくるフィーネア。
 暖かな温もりと柔らかい匂いが俺を包み込む。

 まるでこの場が一瞬にして、春の麗らかな日差しを受けたお花畑に変わってしまったのかと錯覚してしまいそうになる。
 さらに言葉では言い表すことのできない二つの感触が、背中にぷにゅぷにゅと伝わってくると、俺の体温が嫌でも上昇しちまう。

 それはまるで100メートル走を全力ダッシュした時のように心臓が暴れだすのだ。
 だけど苦しくはない。むしろ心地いいと言える。

 だが、その音をフィーネアに聞かれてしまったら、振動が伝わってしまったらどうしようと考えると、ドキドキが加速する。

 指先に伝わるフィーネアの太ももの感触。それはこれまでに触れたどんなものよりも柔らかくてスベスベしていた。
 耳元で聞こえるフィーネアの息遣いは、何だか悩ましく邪な気持ちにさせられて、俺をさらに高揚させる。

 それにフィーネアはとても軽い。まるで背中にはねでも生えてるんじゃないかと思ってしまい、ひょっとして天使なのではないかと馬鹿なことを考えてしまうほどだ。
 女の子ってみんなこんなに軽いのだろうか?

「あの……重たくはありませんか?」
「全然。軽すぎてびっくりしてるくらいだよ」
「そ、そんなっ……ダイエットすればよかった……」
「ん? 何か言った?」
「いえ、何も……」

 俺とフィーネアを見やり羨ましそうに指を咥える明智。

「つ、疲れたらそれがしが代わるでござるよ。うふふ」

 鼻の下を伸ばす明智がよこしまな考えをしていることくらいお見通しだ。
 死んでも代わるのもか。
 俺はフィーネアを元の世界に連れ還り、お嫁さんにするんだ。
 誰にもフィーネアには指一本触れさせない。

 正直俺の体力でフィーネアを担いでこの階段を上りきれるか不安だった。
 けど、フィーネアの為に何かしてやれると言うだけで、力が漲ってくるんだ。

 誰かの為に何かをしたいと願ったとき、人はこんなにも活力が溢れてくるもんなんだな。

 同時にスケベなことを考えそうだったけど、こんな状態のフィーネアにそれはしちゃいけないと自制心が働いたのだろう。

 いや、本当は全力で考えないようにしていた。

 俺はフィーネアを担いで長ったらしい階段を見事上りきった。
 フィーネアは俺から下りて、気恥かしそうに俯いている。
 だけど、どことなく嬉しそうに微笑んでいるように見えるのは気のせいか?

「ユーリ、ありがとうございました」
「これくらいどうってことないさ!」

 破顔を見せてくれるフィーネアに、俺は力こぶを作ってポーズをとる。
 するとフィーネアは口元に手を当てクスクスと笑う。
 そんなフィーネアを見て、俺もつい釣られて笑顔になっちまう。

 そんな俺のすぐ側で、明智は死んだ魚のような目で鼻をほじっている。

「糞みたいな青春でござるな。幻滅でござる。リア充は皆等しく爆ぜるでござるよ」

 明智は悪態をついているが、まぁ仕方ないだろう。
 つい数ヶ月前の俺も明智と同じ考えだったからな。

 俺が勝ち誇ったようににやっと笑いかけると、明智は唾を吐き捨てた。
 なんて奴だ!

「ええ、ええ。こちらですよ。さぁ行きましょう。ヒヒヒッ」

 俺たちを尻目に、バーバラが神殿の中へと入って行く。
 俺はその後ろ姿を見やり、神殿を見上げた。

 一体この先に何が待ち受けているのだろうか……。

 ここまで来て考えていたって仕方ないと、舐められてはダメだと思い闊歩し、俺はバーバラの後に続いて神殿へと入って行く。

 神殿の中はとても広々としている。
 エントランスホールは吹き抜けになっており、見上げれば蒼穹が広がっていた。
 もしも澄み渡る青空だったらどれほど美しかっただろう。

 この神殿は有名な建築家が設計したのだろうか?
 どこを見渡しても意匠が凝った作りだ。まさに圧巻と言うべきだろう。

 俺たち3人が立ち止まり瞠目していると、

「ええ、ええ。こちらですよ。ちゃんと付いてきてくださいよ」
「ああ、すまん」
「行きましょう、ユーリ」
「それにしてもなんなのでござるか……こいつらは」

 明智がそう言うのも無理はない。
 神殿内にいる連中は大小体格は様々ではあるが、皆一様に頭の先からつま先まで黒ずくめの布に包まれているのだ。

「今から悪魔儀式でもするのでござろうか?」
「嫌なことを言うなよ」

 俺たちがバーバラの後に続いていくと、巨大な装飾が施された扉の前で立ち止まっている。
 手招きするようなバーバラの元へと歩みを進めると、両扉がゆっくりと開かれて中に入るように促してくる。

 外からでは中は暗くて何も見えないのだが、俺たちが誘導されるまま中に入り少し進むと、突如光が幾重にも浴びせられた。

「眩しいっ」
「なんですかこれは?」
「目がっ目が潰されたでござるよ!!」

 突然の光に視界がくらみ、俺は咄嗟に手で光を遮った。
 フィーネアは俺にぴったりとくっつき、何が起きても俺を守ろうとしてくれている。
 明智はただの光にテンパり過ぎて目を潰されたと勘違いし、錯乱している。

 すぐに目が慣れて辺を見渡し状況を確認すると。

 そこは巨大な法廷のような場所なのだが、テレビなんかで見たことのある法廷とは少し……いや、かなり違う。

 目の前には裁判官のような黒ずくめのトンガリ頭巾を被った連中が12人ほど俺たちを見下ろし、まるで今からショーでも始まるのかと勘違いしてしまいそうなほど、客席には黒ずくめの連中が数え切れないほど着席していた。

 皆一様に沈黙を守り、見上げるほど高い場所から俺たちを見下ろしている。

「なんだよこれ!?」
「だから言ったでござろう! これは裁判でござるよ!! ユーリ殿は悪魔裁判に掛けられたのでござるよ!!!」
「ユーリ、フィーネアから離れないでください」

 気味悪く蠢く無数の眼光が一斉に向けられ、スポットライトが俺たちを照らし出す。

 すると――カンカン!

「静粛に!」

 裁判官が叩く乾いた木槌の音が鳴り響くと、威圧感たっぷりな威厳に満ちた低い声が響き渡った。

「月影遊理と……そちらの2人は?」
「ええ、ええ。こちらの2名は月影遊理の付添人でございます」

 謎の黒ずくめ裁判官にバーバラがフィーネアと明智のことを説明している。

「では2人はそちらの傍聴席へ」

 裁判官は部屋の隅に設置された席へ腕を伸ばし、フィーネアと明智にそこに座るように促している。

「ユーリ!」
「大丈夫だよ、フィーネア。さすがにすぐに何かされるということはないだろう。話を聞こうとしてくれているだけ、王都の王様たちより随分マシだよ」
「なにかあれば……すぐに」

 フィーネアは力強い紅瞳を俺に向けてそう言うと、明智とバーバラと共に席に着いた。
 裁判官もそれを確認すると一つ頷き、俺に法廷の真ん中まで移動するように指示を出す。

 逆らう訳にもいかないので、とりあえず言われた通り指示に従った。

「被告人、月影遊理の審査会を執り行う。起立――着席」

 裁判官の声に従うように全ての者が無言で一斉に立ち上がる姿は気味が悪い。
 フィーネアと明智もキョロキョロと辺を見渡して、真似するように立ち上がり着席した。

「まず、被告人月影遊理に聞きたいことがある」
「なっ、なんでしょうか?」
「被告人は人間種でありながらダンジョンマスターの権利を有しているのは事実か?」

 威厳に満ちた声を真っ直ぐ向けてくる裁判官に、少し萎縮してしまいそうだが、ここで引く訳にはいかない。
 俺は何も悪くないのだから。

「ええ、そうですよ。それが何か?」
「「「えええええええええええっ!!」」」

 俺が素直に裁判官に向かって答えると、傍聴席の連中が一斉に響めいた。
 12人の偉そうな裁判官も信じられないと言った感じで、互いに顔を向け合い何かコソコソ話しをしている。

「本来、ダンジョンを管理することを許されているのは魔族か魔物のみである。しかし、被告人は人間である。そのことをどう考えているのか、是非お聞かせ願おう」
「は……?」

 そんなん知るかよ。
 俺だって好きでダンジョンマスターになったんじゃないんだ。
 気が付いたらなってたんだから仕方ないだろ?

 とは言え、この張り詰めた空気の中そんなことは言えそうにないな。

「えーと。ひょっしたら……俺は見た目は人間だけど心が魔物や魔族に近いのかもしれませんね。実際ダンジョンの魔物たちとも仲良くできていますし」
「仲良く!?」

 なんだよなんだよ?
 俺変なこと言ったか?
 なんかみんなまたざわついてしまってるじゃないか。

「ダンジョンに召喚される魔物や魔族は囚人塔の罪人であるぞ! その者たちと仲良くだと!」
「囚人塔!? 罪人!? なんだよそれ!?」

 俺が困惑の表情で救いを求めるようにバーバラを見やると、

「ええ、ええ。審査会の皆様方。ここでこのわたくしから一つご報告がございます」

 バーバラは立ち上がり12人の裁判官に深々とお辞儀をすると、俺を弁護してくれるのか声を発した。

「申してみよ」
「ええ、ええ。確かに月影遊理は人族ではございますが、この数ヶ月の姫殿下への供物は目を見張る勢いで収めております。それと……こちらの少女をご覧下さい」

 バーバラは横に座るフィーネアを指差して裁判官たちにフィーネアを見ろと言っている。
 だが、姫殿下への供物って何のことだ?
 一体こいつは何を言っているんだ?

「この者はドールでございます」
「バカなっ!!」

 バーバラのドールという言葉を聞き、裁判官も傍聴席の連中も今日一番の響めきを響かせている。

「ええ、ええ。審査会を中止し、すぐに姫殿下へご報告する方がよろしいかと? ヒヒヒッ」

 バーバラの言葉に頭を抱える裁判官たちが、何かを相談し合っている。

 と、その時――

「その必要はない。儂自ら出向いてくれたわ」

 裁判官たちの真上の傍聴席に、仁王立ちで腕組みする妙な女が立っている。
 女は俺を見下ろしてフィーネアを見やり、また俺へと目線を流して自信満々な笑みを浮かべた。


「審査会は中断じゃ! その者を儂の部屋へと直ちに連れて参れ! 良いな、すぐにじゃ!!」


 一体なんなんだ?
 裁判官も傍聴席の連中も皆、突然現れた露出狂みたいな女にひれ伏している。
 それにしても……爆乳だな。
 下乳が見事だ。
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