24 / 35
第24話 猫になった日
しおりを挟む
「よし、こんなところかな」
俺は地下の住居に特製のハンモックを取り付け、そこにふわりと横になり、レーヴェンの屋敷に向かうブランキーのことを思い浮かべた。
その瞬間、頭の中に二つの小窓が浮かび上がった。一つは鴉のクローに繋がり、もう一つはブランキーに繋がっていた。
「まずはブランキーと精神融合するか」
頭の中の小窓を開けると、見覚えのある花壇がそこに広がっていた。それはテレサの花壇だった。俺は窓から身を乗り出すようなイメージで、外に飛び込んだ。
「(おっ!)」
どうやら無事にブランキーの中に入ったようだ。
「あっ、可愛い猫ちゃんですね」
花壇に水をあげていたテレサはこちらに気づき、スカートを折ってその場にしゃがんだ。おいでおいでと俺を手招きしている。
「(まずはテレサたちの警戒心を解かないとな)」
俺はできるだけ自然な猫を装いながら、「にゃー」と鳴いてテレサに近づいた。
「(今のはすごくわざとらしいだにゃ)」
「(そんなことないだろ!)」
評論家気取りのブランキーが、ごちゃごちゃと俺の頭の中で話しかけてくる。
「(ここはにゃの頭の中だにゃ。にゃの思考を覗き見ているのは御主人様の方なんだにゃ)」
「(うるさいな。ちょっと黙っててもらっていいか。今忙しいんだよ)」
にしても、凄くくすぐったいな。
「とても人懐っこい猫ちゃんですね」
ブランキーと化した俺を抱きかかえたテレサが、体中を撫でまわしてくる。
「はぁ……」
突然、俺をもふっていたテレサが大きなため息をついた。一体何が起こったのだろう。
「ランス様は大丈夫でしょうか。命を助けて頂いたのに、何もお返しできませんでした」
テレサは眉をひそめ、唸るような表情を浮かべた。「はぁ……」と思案しながら、最終的には俺に頬を寄せる。
「本当は、私だってランス様の恋を応援してあげたいんですよ。でも、一介のメイド見習いの私にはどうすることもできないんです」
テレサの優しさに、思わず口元が緩んでしまう。
「あ、くすぐったいですよ」
お前がそんな悲しそうな顔をすることはない。というように、俺は彼女の頬をペロペロとなめた。
その後、しばらくして、テレサは仕事に戻っていった。
「(あそこから入れそうだな)」
窓から屋敷内に侵入することに成功した。目指すはレーヴェンの部屋だ。
しかし、まさかの強敵が俺の前に立ちはだかる。
銀縁眼鏡をかけた凄腕メイド長、ロレッタだ。
メイド長はじーっと俺の顔を見つめている。
「(……めちゃくちゃ見られてる!?)」
このままではメイド長に見つかり、外に追い出されてしまうかもしれない。そして、屋敷内への侵入が二度と不可能になるかもしれない。
「(どうすればいい)」
緊張感漂うメイド長ロレッタとの、苛烈なにらめっこが続いた。先に目をそらしたら負けだ。
「なぜ、ここにあなたがいるのです」
「(――――!?)」
メイド長の眼鏡の奥にひそむ黒い瞳が、ますます鋭いものになっていく。
「(まさか、バレてる!?)」
メイド長は顔を振り、周囲に誰もいないことを確認すると、「こっちへ来なさい!」と俺の首根っこを掴んで持ち上げた。
「(えっ、ちょっ、ちょっとっ!?)」
俊敏に廊下を進み、あっという間にどこかの部屋に引きずり込まれた。俺は焦りを感じ、メイド長の手から逃れようと身をねじりながら暴れた。
「にゃッー!」
俺は飛び降り、すぐに逃げ出そうと扉へ振り返る。
――バタンッ!?
扉がもの凄い勢いで閉まり、俺は閉じ込められてしまった。
「……」
扉に背を預けたメイド長が、まじめな表情で俺を見下ろしている。凄まじい殺気を感じる。
「(な、なんでバレたんだよ!?)」
俺の精神融合は完璧だったはずなのに。
「(まさか!?)」
ブランキーからわずかに漏れ出た魔力から、俺の魔力を感知したということか。
魔力は指紋のように個人差があり、理論的には特定可能だが、あの短時間で特定されるなど……そんなことができるのは賢者の師匠くらいだと思っていた。
メイド長……初対面の時から彼女が特別な何かを持っているとは感じていたが、まさかここまでとは予想外だ。
「(くそっ、どうすればいい)」
メイド長と対峙する俺は、絶体絶命のピンチに立たされていた。
俺は地下の住居に特製のハンモックを取り付け、そこにふわりと横になり、レーヴェンの屋敷に向かうブランキーのことを思い浮かべた。
その瞬間、頭の中に二つの小窓が浮かび上がった。一つは鴉のクローに繋がり、もう一つはブランキーに繋がっていた。
「まずはブランキーと精神融合するか」
頭の中の小窓を開けると、見覚えのある花壇がそこに広がっていた。それはテレサの花壇だった。俺は窓から身を乗り出すようなイメージで、外に飛び込んだ。
「(おっ!)」
どうやら無事にブランキーの中に入ったようだ。
「あっ、可愛い猫ちゃんですね」
花壇に水をあげていたテレサはこちらに気づき、スカートを折ってその場にしゃがんだ。おいでおいでと俺を手招きしている。
「(まずはテレサたちの警戒心を解かないとな)」
俺はできるだけ自然な猫を装いながら、「にゃー」と鳴いてテレサに近づいた。
「(今のはすごくわざとらしいだにゃ)」
「(そんなことないだろ!)」
評論家気取りのブランキーが、ごちゃごちゃと俺の頭の中で話しかけてくる。
「(ここはにゃの頭の中だにゃ。にゃの思考を覗き見ているのは御主人様の方なんだにゃ)」
「(うるさいな。ちょっと黙っててもらっていいか。今忙しいんだよ)」
にしても、凄くくすぐったいな。
「とても人懐っこい猫ちゃんですね」
ブランキーと化した俺を抱きかかえたテレサが、体中を撫でまわしてくる。
「はぁ……」
突然、俺をもふっていたテレサが大きなため息をついた。一体何が起こったのだろう。
「ランス様は大丈夫でしょうか。命を助けて頂いたのに、何もお返しできませんでした」
テレサは眉をひそめ、唸るような表情を浮かべた。「はぁ……」と思案しながら、最終的には俺に頬を寄せる。
「本当は、私だってランス様の恋を応援してあげたいんですよ。でも、一介のメイド見習いの私にはどうすることもできないんです」
テレサの優しさに、思わず口元が緩んでしまう。
「あ、くすぐったいですよ」
お前がそんな悲しそうな顔をすることはない。というように、俺は彼女の頬をペロペロとなめた。
その後、しばらくして、テレサは仕事に戻っていった。
「(あそこから入れそうだな)」
窓から屋敷内に侵入することに成功した。目指すはレーヴェンの部屋だ。
しかし、まさかの強敵が俺の前に立ちはだかる。
銀縁眼鏡をかけた凄腕メイド長、ロレッタだ。
メイド長はじーっと俺の顔を見つめている。
「(……めちゃくちゃ見られてる!?)」
このままではメイド長に見つかり、外に追い出されてしまうかもしれない。そして、屋敷内への侵入が二度と不可能になるかもしれない。
「(どうすればいい)」
緊張感漂うメイド長ロレッタとの、苛烈なにらめっこが続いた。先に目をそらしたら負けだ。
「なぜ、ここにあなたがいるのです」
「(――――!?)」
メイド長の眼鏡の奥にひそむ黒い瞳が、ますます鋭いものになっていく。
「(まさか、バレてる!?)」
メイド長は顔を振り、周囲に誰もいないことを確認すると、「こっちへ来なさい!」と俺の首根っこを掴んで持ち上げた。
「(えっ、ちょっ、ちょっとっ!?)」
俊敏に廊下を進み、あっという間にどこかの部屋に引きずり込まれた。俺は焦りを感じ、メイド長の手から逃れようと身をねじりながら暴れた。
「にゃッー!」
俺は飛び降り、すぐに逃げ出そうと扉へ振り返る。
――バタンッ!?
扉がもの凄い勢いで閉まり、俺は閉じ込められてしまった。
「……」
扉に背を預けたメイド長が、まじめな表情で俺を見下ろしている。凄まじい殺気を感じる。
「(な、なんでバレたんだよ!?)」
俺の精神融合は完璧だったはずなのに。
「(まさか!?)」
ブランキーからわずかに漏れ出た魔力から、俺の魔力を感知したということか。
魔力は指紋のように個人差があり、理論的には特定可能だが、あの短時間で特定されるなど……そんなことができるのは賢者の師匠くらいだと思っていた。
メイド長……初対面の時から彼女が特別な何かを持っているとは感じていたが、まさかここまでとは予想外だ。
「(くそっ、どうすればいい)」
メイド長と対峙する俺は、絶体絶命のピンチに立たされていた。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

欲に負けた婚約者は代償を払う
京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。
そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。
「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」
気が付くと私はゼン先生の前にいた。
起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。
「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる