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第6話 辺境の地
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「ここはかなり質素な村だね」
「辺境の村だからな」
レーヴェンの別邸から程近い村は、華やかとは程遠く、どちらかと言えば陰鬱な雰囲気が漂っていた。
その主な原因は、村人たちの無気力さだろう。
大人も子供も年寄りも、みんなが外套を着ている。幼い子供たちもいるが、笑顔は見当たらない。
この静まり返った村は、どこか不気味さを感じさせる。
ここが有名な幽霊村だと紹介されたとしても、ああなるほどと思わず手を叩いてしまうだろう。
ここを通りかかった旅人が誤って教会に通報し、エクソシストが派遣されてくるのではないかと心配するほどだ。それと同時に、この雰囲気にはどこか懐かしさも漂っていた。嫌な懐かしさだ。
寂れた村というか、死んだ村を通り過ぎると、同様に不気味な雰囲気をまとったお屋敷が見えてきた。
「………」
とても失礼なことだとは理解しているが、えっ、冗談じゃないよね。ここがかの有名なシュタインズ帝国第一皇女の別邸なのか……? そう思ってしまうほど、敷地内はひどく荒れ果てていた。
門は錆びついて片側が壊れ、ほとんど門としての役割を果たしていない。広大な敷地は雑草が繁茂し、放置されている。敷地の中央に設置された大きな噴水は枯れ果て、壊れてしまっていた。肝心の屋敷自体も、こう言っちゃ悪いが、控えめに言ってお化け屋敷みたいだった。
とても、ここが彼女の別邸だとは信じられない。からかわれているのかもしれないと思い、彼女を横目に確認する。
彼女は窓の外を深刻な顔で見つめていた。そりゃそんな表情にもなるわけだ。
そもそも皇女殿下がこんな辺境の地に別邸を持つこと自体が不思議だ。
帝都から離れた片田舎でのんびりバカンスを楽しむのなら分かるが、ここはそんな場所とは思えない。
杜撰な管理体制にも限度というものがある。
これでは元々廃墟だったと言われた方が納得だ。
「すまんな。このような場所で……」
「あ、いや……」
言葉が詰まってしまい、どう返すべきか迷ってしまう。それでも、無言でいるわけにはいかない。
「えー……と」
ヤバい。褒める点が見当たらないな……。
「窓がたくさんあるね!」
「家だからな」
「サ、サンルーフがあるぞ! 特別な馬車に付いているあれだ! ほら、あそこの屋根部分が開閉式になっていて開いてる!」
「あれは大きな穴が空いているだけだな」
「………っ。あ、あそこに露天風呂がある!」
「壁が崩れて浴室がむき出しになっているだけだな」
「うぅっ……」
ちーん。
という具合に、俺は完全に意気消沈。
もう余計なことは口にしないことにしよう。
「すまんな。恩人に気を遣わせてしまって」
「そ、そんなことないよ」
「皇女がこのような場所に、そう言って笑ってくれても構わんのだぞ。いや、むしろ笑ってくれ」
乾いた笑いが胸に突き刺さる。
「あの、なんで別邸に?」
帝都からわざわざこのような辺境の地にやって来る理由がわからない。せめてもっと適切な場所が他にもあったはずだ。彼女は仮にも皇女殿下なのだから。
「……さあ、着いた」
「………あ、うん」
聞こえていないふりをして、レーヴェンは馬車を下りた。しつこく尋ねるのは失礼だと思い、俺は口を閉ざすことにした。
「殿下っ!」
馬車から降りると、執事らしき人物が屋敷から飛び出してきた。
白髪を後ろに流した総髪スタイルの男性で、年齢はおおよそ60歳ぐらいだろうか。年の割にしっかりとした体つきをしていて、その立ち振る舞いから強さを感じさせる。若い頃はかなり腕のいい武人だったのだろう。
「これは……テレサッ!?」
御者台のゴーレムに疑問符を浮かべたものの、執事はすぐにレーヴェンに抱きかかえられた少女に目を向けた。
「一体何があったのです!」
「詳しい話はあとだ」
レーヴェンは屋敷から出てきたメイドの一人にテレサを預けた。濡羽色の髪を後ろで束ね、銀縁の眼鏡がよく似合うメイドだ。四人のメイドの中では最年長と思われるが、それでも歳はおそらくレーヴェンと同じくらいだろう。
「ポーションがあれば飲ませてやってくれ。ここへ来る途中、パウロたちにやられたのだ」
「「「「「!?」」」」」
皆が一様に驚いた顔を見せたが、それもほんの一瞬。彼らはあらかじめそうなることを予測していたかのように、表情を引き締めた。まるで戦場に向かう戦士のようだった。
「そちらの御方は」
「元ランナー国の第一王子、ランスだ」
「「「「「!?」」」」」
皇女が他国の元王子を連れてきたことが、彼らにとっては仲間の従者に裏切られたことよりも驚いたのだろう。一斉に視線が俺に向けられた。
「襲われていたところでランスに出会った。テレサの応急処置もランスが行ってくれた」
「感謝いたします、ランス殿下」
恭しく頭を下げる執事に続き、侍女たちも頭を下げた。
「ランスは王家を追放された身だ。もう王子ではない」
「なっ!?」
眼球が飛び出るくらいの衝撃だったようだ。
「あは、はははっ」
照れ笑いで誤魔化しておく。
「とりあえず中へ、ランス殿も」
「こんなところだ、遠慮はいらん」
貴族であれば、ましてや王族であれば、このようなところと口にする者もいるだろう。
しかし、俺は野宿ばかりの生活も経験してきた。お化け屋敷くらい問題ない。むしろ雨風しのげるだけでもありがたい。
それに、幼い頃から憧れていた女性に招かれたのなら、どんな場所でもかまわない。
「では、お言葉に甘えて」
レッツゴーだ!
「辺境の村だからな」
レーヴェンの別邸から程近い村は、華やかとは程遠く、どちらかと言えば陰鬱な雰囲気が漂っていた。
その主な原因は、村人たちの無気力さだろう。
大人も子供も年寄りも、みんなが外套を着ている。幼い子供たちもいるが、笑顔は見当たらない。
この静まり返った村は、どこか不気味さを感じさせる。
ここが有名な幽霊村だと紹介されたとしても、ああなるほどと思わず手を叩いてしまうだろう。
ここを通りかかった旅人が誤って教会に通報し、エクソシストが派遣されてくるのではないかと心配するほどだ。それと同時に、この雰囲気にはどこか懐かしさも漂っていた。嫌な懐かしさだ。
寂れた村というか、死んだ村を通り過ぎると、同様に不気味な雰囲気をまとったお屋敷が見えてきた。
「………」
とても失礼なことだとは理解しているが、えっ、冗談じゃないよね。ここがかの有名なシュタインズ帝国第一皇女の別邸なのか……? そう思ってしまうほど、敷地内はひどく荒れ果てていた。
門は錆びついて片側が壊れ、ほとんど門としての役割を果たしていない。広大な敷地は雑草が繁茂し、放置されている。敷地の中央に設置された大きな噴水は枯れ果て、壊れてしまっていた。肝心の屋敷自体も、こう言っちゃ悪いが、控えめに言ってお化け屋敷みたいだった。
とても、ここが彼女の別邸だとは信じられない。からかわれているのかもしれないと思い、彼女を横目に確認する。
彼女は窓の外を深刻な顔で見つめていた。そりゃそんな表情にもなるわけだ。
そもそも皇女殿下がこんな辺境の地に別邸を持つこと自体が不思議だ。
帝都から離れた片田舎でのんびりバカンスを楽しむのなら分かるが、ここはそんな場所とは思えない。
杜撰な管理体制にも限度というものがある。
これでは元々廃墟だったと言われた方が納得だ。
「すまんな。このような場所で……」
「あ、いや……」
言葉が詰まってしまい、どう返すべきか迷ってしまう。それでも、無言でいるわけにはいかない。
「えー……と」
ヤバい。褒める点が見当たらないな……。
「窓がたくさんあるね!」
「家だからな」
「サ、サンルーフがあるぞ! 特別な馬車に付いているあれだ! ほら、あそこの屋根部分が開閉式になっていて開いてる!」
「あれは大きな穴が空いているだけだな」
「………っ。あ、あそこに露天風呂がある!」
「壁が崩れて浴室がむき出しになっているだけだな」
「うぅっ……」
ちーん。
という具合に、俺は完全に意気消沈。
もう余計なことは口にしないことにしよう。
「すまんな。恩人に気を遣わせてしまって」
「そ、そんなことないよ」
「皇女がこのような場所に、そう言って笑ってくれても構わんのだぞ。いや、むしろ笑ってくれ」
乾いた笑いが胸に突き刺さる。
「あの、なんで別邸に?」
帝都からわざわざこのような辺境の地にやって来る理由がわからない。せめてもっと適切な場所が他にもあったはずだ。彼女は仮にも皇女殿下なのだから。
「……さあ、着いた」
「………あ、うん」
聞こえていないふりをして、レーヴェンは馬車を下りた。しつこく尋ねるのは失礼だと思い、俺は口を閉ざすことにした。
「殿下っ!」
馬車から降りると、執事らしき人物が屋敷から飛び出してきた。
白髪を後ろに流した総髪スタイルの男性で、年齢はおおよそ60歳ぐらいだろうか。年の割にしっかりとした体つきをしていて、その立ち振る舞いから強さを感じさせる。若い頃はかなり腕のいい武人だったのだろう。
「これは……テレサッ!?」
御者台のゴーレムに疑問符を浮かべたものの、執事はすぐにレーヴェンに抱きかかえられた少女に目を向けた。
「一体何があったのです!」
「詳しい話はあとだ」
レーヴェンは屋敷から出てきたメイドの一人にテレサを預けた。濡羽色の髪を後ろで束ね、銀縁の眼鏡がよく似合うメイドだ。四人のメイドの中では最年長と思われるが、それでも歳はおそらくレーヴェンと同じくらいだろう。
「ポーションがあれば飲ませてやってくれ。ここへ来る途中、パウロたちにやられたのだ」
「「「「「!?」」」」」
皆が一様に驚いた顔を見せたが、それもほんの一瞬。彼らはあらかじめそうなることを予測していたかのように、表情を引き締めた。まるで戦場に向かう戦士のようだった。
「そちらの御方は」
「元ランナー国の第一王子、ランスだ」
「「「「「!?」」」」」
皇女が他国の元王子を連れてきたことが、彼らにとっては仲間の従者に裏切られたことよりも驚いたのだろう。一斉に視線が俺に向けられた。
「襲われていたところでランスに出会った。テレサの応急処置もランスが行ってくれた」
「感謝いたします、ランス殿下」
恭しく頭を下げる執事に続き、侍女たちも頭を下げた。
「ランスは王家を追放された身だ。もう王子ではない」
「なっ!?」
眼球が飛び出るくらいの衝撃だったようだ。
「あは、はははっ」
照れ笑いで誤魔化しておく。
「とりあえず中へ、ランス殿も」
「こんなところだ、遠慮はいらん」
貴族であれば、ましてや王族であれば、このようなところと口にする者もいるだろう。
しかし、俺は野宿ばかりの生活も経験してきた。お化け屋敷くらい問題ない。むしろ雨風しのげるだけでもありがたい。
それに、幼い頃から憧れていた女性に招かれたのなら、どんな場所でもかまわない。
「では、お言葉に甘えて」
レッツゴーだ!
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