悪役令息のやり直し~酷い火傷でゾンビといわれた俺、婚約破棄を言い渡されたけど幸せになってやります

葉月

文字の大きさ
上 下
4 / 29

第4話 いちばんうしろのラスボス

しおりを挟む
「魔法使いだからといって、体術・剣術を疎かにしてはなりません。ではなぜ、我々魔法使いが近年接近戦を想定した戦闘を意識しているのか、説明できる方はいますか――」

 階段教室の一番上の列をクレアと二人で占領しながら先生の話を聞いていた。
 本当は俺もみんなと打ち解けて、もっと気軽にそばに座ってほしいと思っているんだけど、焦りは禁物。ただでさえ俺はみんなから気持ち悪がられて疎まれる存在だ。

「なんで災いの魔女とゾンビ公爵が並んで授業を受けてんだよ!?」
「不吉過ぎるだろ」

 いくら心を入れ替えたと言っても、そんなものは言ったところで誰にも伝わらない。これからの態度で少しずつ信頼を得ていくしかない。

 教壇に立つ先生でさえも、俺が真面目に授業に出ていることが信じられないと言った様子。先程からチラチラ視線を感じる。

 背筋を伸ばして手を挙げる真面目なクレアに、少し困り顔の先生が、「Ms.ラングリー」彼女の名を口にする。

「かつて魔法使いたちが手にしていたのは文字通りの杖――白杖だけだった。一方、剣士たちが手にしていたのは研ぎ澄まされた刃。そこで彼の国の王は困ったという。果たしてどちらが最強であり、王国聖騎士キングスブレイドに相応しいのかと」
「――そのまま、続けてください」
「はい。その結果魔法使いと剣士による決闘が各地で相次ぎ、互いに多大なる犠牲を出すことになる。にも関わらず、ついに最強がどちらかという結論には至らなかった」

 それはなぜですかとの先生の問いかけに、クレアは言い淀むことなく堂々と答える。

「鍛え抜かれた肉体から放たれる剣の閃きは、一瞬の呪文よりも速かったためだ。逆に、距離を取られてしまっては剣士に為す術はなかった。ある間合いより内側では剣士が、外側では魔法使いがどうしても勝ってしまう。では剣と魔法――二つを極めし者こそが真に王国聖騎士キングスブレイドに相応しいのではないかという結論に王は至った。それこそが一足一杖の間合い。魔法剣の歴史のはじまりであり、私たちが杖剣を腰に提げる理由でもある」
「素晴らしいです、Ms.ラングリー。よく復習していますね」

 席に座ったクレアが小さくガッツポーズをしていた。
 意外と可愛いところのあるやつだなと、俺の口元もつい綻ぶ。

「魔法は精神に、剣は鍛え上げられた肉体に宿ります。一年生であったこれまでとは異なり、二年生からはより本格的な授業が展開されていきます。一層気を引きしてめてくださいね。
 以上、これにて本日の魔法学講座を終わります――」


 先生の言葉をふんふんと頷きながら、教室から出ていく生徒たちを眺める。
 それから俺もクレアと一緒に教室を出ようと立ち上がった。

「Mr.グラップラー、今日はとてもめずらしいですね」

 教壇で次の授業の準備をしていたサシャール先生が話しかけてきた。
 眼鏡を掛け、サラサラの黒髪は肩口で切りそろえられている。黒いローブの内側で自己主張強めの胸に、つい目がいってしまいがちになるのは俺だけではないはず。
 俺は意識的に胸部を見ないように心がけた。これ以上嫌われないための予防策だ。

「サシャール先生。これまでの俺はどうかしていたと思う。これからは心を入れ替え、真面目に授業にも出席しようと思っている」

 恭しく頭を下げた俺を見やるサシャール先生の目が、ギョッと見開いた。

「Mr.グラップラー……その、どこか体でも悪いのですか?」
「いや、俺は至って健康だ」
「では、やはり相当ショックだったのですね。ひどく頭を打ちつけたとも聞いています」

 感慨深そうに何度も頭を上下に振っている。

「俺のこれまでの行いを考えれば、すぐには信じてもらえないかもしれないが、皆に信じてもらえるように努力するつもりだ」

 そう言って俺が恥ずかしそうに頭を掻くと、隣のクレアが凛々しい声を響かせる。

「人は変わりたいと望んだ時にはすでに変わっているものだぞ、リオニス」
「そうですね。他の先生方はともかく、私はMs.ラングリーの言う通りだと思いますよ」
「はい!」

 ペコリ頭を下げて退室する俺を、サシャール先生は本当に驚いたといった顔で見送ってくれた。

 教室を出て廊下を直進していると、前方から見知った顔、アリシアとアレスがこちらに向かって歩いてくる。
 ムッと眉間に力を込めるアリシアと目が合った俺は、思わず反射的に顔を背けてしまいそうになる。

「この臆病者めがッ」
「―――っ」

 すれ違いざまに肩をぶつけられると同時に、アレスの嘲りの声が鼓膜に突き刺さった。
 何か言い返してやりたいと思う黒い衝動が腹の中で熱となって渦を巻く。

 ――来た!
 あのときと同じ運命の矯正力だ!

 俺はグツグツ煮えたぎる鍋に蓋をするように、奥歯を噛んでこらえる。
 吹きこぼれそうになる感情をグッと押し殺す。
 どうかこの痛みに、怒りに、憎しみに支配されないでくれ――リオニスは変わりたいのだ。

「―――!?」

 微かに震える俺の手を、クレアの手のひらが優しく包み込んでくれる。
 すると、胸の淀みが嘘みたいにスッと消えていく。
 まるで深い湖の底に沈んでしまったような俺を、優しくすくい上げてくれたかのように。

「リオニスは次の授業はどれに出るのだ?」
「え……ああ、えーと」

 何事もなかったかのように語りかけてくるクレアに、俺は心のなかで深く感謝した。
 だから俺も、何事もなかったかのように接することにする。

「魔法剣の授業に出てみようかなと思っている。昔色々あった先生に早めに謝罪しておきたいしな」
「うむ。では、私とはここまでのようだな」

 クレアは次は星々魔法の授業に出るらしく、俺は彼女とここで別れることにした。

「色々と助かった。また会ったら話しかけても……迷惑じゃないか?」
「当然ではないか。私たちは学友なのだから」
「そうか!」

 俺は小さくなっていくクレアの背中に大きく手を振った。

 アルカミア魔法学校では主に生徒自身が受けたい授業を選んでその教室に出向く、各生徒の自主性が尊重されている。

 言ってしまえば出席日数に関わらず、年に三回ある試験で教師たちが定めた一定水準をマークすれば、アルカミア魔法学校では留年することはない。
 逆をいえば、真面目に授業に出ていても試験の成績が芳しくなければ留年は免れない。

 ご存知の通り、俺は去年一年間ほとんど授業には出席しなかった。
 試験は適当に受けていたものの、一応学年の真ん中をキープしている。

 本当は学年ダントツトップの実力があるにも関わらず、ゲームでは物語序盤から主人公たちと戦うために、実力を隠しているという設定なのだろう。
 すべては製作者サイドの都合である。
 初っ端からチート過ぎるラスボスと戦ったって、主人公たちに勝ち目なんて100%ないからな。

「俺が今まで手を抜いてたのも、やはり知らず知らずのうちに設定に従っていたからと考えるべきか」

 その辺のことは自分でもよくわからない。

「これからはどうするべきか」

 一年間ろくに授業に出ていなかった俺が成績優秀だと、却って反感を買ってしまわないだろうか。
 しかし、あまりに弱すぎると却って公爵家の人間としての立場的にどうなんだろう?

 そこんところゲームプロデューサーはどう考えていたんだろか。非常に気になる。

「う~ん、どうしたものか」

 さじ加減が難しそうだなと頭をひねりながら、魔法剣の授業が行われる三階の教室に向かっていると、何やら物騒な声音が聞こえてきた。

「平民の分際でもういっぺん言ってみやがれッ!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!

杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。 彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。 さあ、私どうしよう?  とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。 小説家になろう、カクヨムにも投稿中。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...