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その意味
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そんな私に気付いていたかどうかは分からないけれど、幸村くんはさり気なく視線をそらすと「別に優しいとか、そんなんじゃねぇけど…」と、再びテーブルを拭く手を動かし始めた。もしかしたら、照れていたりするのかも知れない。
「何にしても俺、口は堅い方なんで。言いふらしたりしないから安心しろよ」
「うん…。ありがと…」
幸村くんの言葉に、何だか心が軽くなった気がした。
ふっと肩の力が抜けて、自分でも気づかぬうちに緊張していたことを知る。
「仕方ない」「いつものことだ」と諦めていながらも、やっぱり何だかんだ人に避けられたり否定されるのは怖いんだなぁと、自分自身のメンタルの弱さには笑ってしまうけれど。
「まぁ辰臣さんの場合、そーいうの抵抗なく信じちゃうタイプだから全然問題ないとは思うんだけどなー」
ぽつりと呟かれた言葉に「そうなんだ?」と、きょとんとしていると再びこちらを振り返った幸村くんが不意に何かを思い出したように言った。
「ああ…っていうか、既にお前は『天使ちゃん』認定されてるんだったっけ」
「?」
「そうだ。今更だよ、月岡。この件に関しては全然問題ナッシングだ」
「は…?えっ?」
(天使ちゃん認定…?ってなに?何がナッシング??)
勝手にひとりで納得して、どこか悪戯っぽく笑っている幸村くんに、訳が分からず疑問を口にしようとしたところで大空さんがゴミ捨てから戻って来た。
「よーっし、お掃除終了っと!あ、咲夜ちゃんゴメンね。今お茶入れるから座って座って。今日は頂き物のお菓子があるんだー。颯太、あれ出してくれるかな?」
「りょーかいっ」
幸村くんは「お前もコーヒーで良いよな?」と確認すると、給湯室へと戻って行ってしまい、話は途切れてしまった。
そうして、コーヒーを淹れて三人でテーブルを囲んでいる時だった。
「へ?天使ちゃん認定?…ってコラ颯太!何でそーいうこと咲夜ちゃんに言っちゃうんだよっ!」
「えー…。だってホントのことじゃん」
珍しく動揺して椅子から立ち上がり真っ赤になっている辰臣と、責められて口を尖らせている颯太のやり取りに。
『天使ちゃん認定』って何ですか?なんて軽いノリで聞いてしまった己の浅はかさと、この話題は辰臣には振ってはいけないものだったのかと、やってしまった感に咲夜が思わず硬直していると、颯太がすかさずフォローを入れてきた。
「あー、この人照れてるだけだから気にしないで大丈夫。ちなみに『天使ちゃん』っていうのは辰兄が昔出会った『ある女の子』のことで、動物の心が分かっちゃう不思議なコだったんだってさ」
「えっ…?」
動物の心が分かっちゃう不思議な子?
昔、大空さんと…?
「そして、今ランボーと一緒にいられるのは、そのコのお陰なんだってさ。…そうだよな?辰兄?」
「…それって…」
「ううぅー…おのれ颯太…」
顔を真っ赤に染めて、俯いたまま拳をふるふると握り締めている辰臣は、確かに怒っているというよりは羞恥に耐えているような感じだ。
それでも、互いによく分かり合っているのだろう二人からは、険悪さなどは微塵も感じられず、そんなやり取りさえ楽しんでいるように見える。
「別に恥ずかしがることでもないでしょ、そもそも昔の話なんだし。まだ当時ピュアだった辰兄がつけたあだ名みたいなもんだよな」
「ピュアって、お前ね…」
今度は呆れているんだろうか。赤い顔を片手で覆うようにして大きくため息をついた。
「何にしても、感謝…してるんだよな?」
「そりゃあね。可愛いランボーと引き合わせてくれた人だからね」
「…ってなわけで。天使ちゃんっていうのは、ランボーの気持ちが解る不思議な女の子のことで、その神秘的な存在ゆえに辰兄が『まるで天使のようだった』と言ったことから付けられたあだ名だ。そして、それが月岡だったってことは紛れもない事実なワケだよな。…と、言うことは、だ」
颯太はそこで一旦言葉を区切ると、コホン…とワザとらしく咳払いをした。
「ランボー含む俺たちはそんなお前に感謝こそすれ、その不思議な力を気持ち悪いだなんて思うハズがないってことだ」
「……っ…」
思わぬ言葉に咲夜は目を丸くした。
だが、同時に横で聞いていた辰臣が慌てて声を上げる。
「ちょっ…ちょっと待って、颯太。気持ち悪いって何でっ?どういうことだよ?」
話の流れについていけずにいる辰臣に。
「違うよ、辰兄。気持ち悪いなんて思うワケないって俺は言ったんだ」
「いや、それはそうなんだけど。何でそんな話になるのさ?」
「ああ。辰兄はランボーの気持ちが分かる月岡の能力をどう思う?気持ち悪いなんて思っちゃいないだろ?」
「当たり前だろっ!そんなこと思う訳ないじゃないかっ!」
「うん。だから俺もそう言ってる。けど、月岡本人はそうじゃないみたいなんだよな」
それを聞いた辰臣は「えっ?」と、慌てて咲夜の方を振り返った。
咲夜は初め、大きな瞳を揺らしながら二人の顔を交互に見て戸惑いを隠せない様子であったが、そのうち力なく視線を落とすと、ポツリと呟きを口にした。
「だって、普通じゃない…」
「…咲夜ちゃん?」
「だって、そんなの普通じゃないでしょう?ランボーだけじゃない。他の動物だって…それこそ人の気持ちでさえ分かってしまうような能力なんて。そんなの…。そんな奴、誰だって一緒にいたくないに決まってる…」
「何にしても俺、口は堅い方なんで。言いふらしたりしないから安心しろよ」
「うん…。ありがと…」
幸村くんの言葉に、何だか心が軽くなった気がした。
ふっと肩の力が抜けて、自分でも気づかぬうちに緊張していたことを知る。
「仕方ない」「いつものことだ」と諦めていながらも、やっぱり何だかんだ人に避けられたり否定されるのは怖いんだなぁと、自分自身のメンタルの弱さには笑ってしまうけれど。
「まぁ辰臣さんの場合、そーいうの抵抗なく信じちゃうタイプだから全然問題ないとは思うんだけどなー」
ぽつりと呟かれた言葉に「そうなんだ?」と、きょとんとしていると再びこちらを振り返った幸村くんが不意に何かを思い出したように言った。
「ああ…っていうか、既にお前は『天使ちゃん』認定されてるんだったっけ」
「?」
「そうだ。今更だよ、月岡。この件に関しては全然問題ナッシングだ」
「は…?えっ?」
(天使ちゃん認定…?ってなに?何がナッシング??)
勝手にひとりで納得して、どこか悪戯っぽく笑っている幸村くんに、訳が分からず疑問を口にしようとしたところで大空さんがゴミ捨てから戻って来た。
「よーっし、お掃除終了っと!あ、咲夜ちゃんゴメンね。今お茶入れるから座って座って。今日は頂き物のお菓子があるんだー。颯太、あれ出してくれるかな?」
「りょーかいっ」
幸村くんは「お前もコーヒーで良いよな?」と確認すると、給湯室へと戻って行ってしまい、話は途切れてしまった。
そうして、コーヒーを淹れて三人でテーブルを囲んでいる時だった。
「へ?天使ちゃん認定?…ってコラ颯太!何でそーいうこと咲夜ちゃんに言っちゃうんだよっ!」
「えー…。だってホントのことじゃん」
珍しく動揺して椅子から立ち上がり真っ赤になっている辰臣と、責められて口を尖らせている颯太のやり取りに。
『天使ちゃん認定』って何ですか?なんて軽いノリで聞いてしまった己の浅はかさと、この話題は辰臣には振ってはいけないものだったのかと、やってしまった感に咲夜が思わず硬直していると、颯太がすかさずフォローを入れてきた。
「あー、この人照れてるだけだから気にしないで大丈夫。ちなみに『天使ちゃん』っていうのは辰兄が昔出会った『ある女の子』のことで、動物の心が分かっちゃう不思議なコだったんだってさ」
「えっ…?」
動物の心が分かっちゃう不思議な子?
昔、大空さんと…?
「そして、今ランボーと一緒にいられるのは、そのコのお陰なんだってさ。…そうだよな?辰兄?」
「…それって…」
「ううぅー…おのれ颯太…」
顔を真っ赤に染めて、俯いたまま拳をふるふると握り締めている辰臣は、確かに怒っているというよりは羞恥に耐えているような感じだ。
それでも、互いによく分かり合っているのだろう二人からは、険悪さなどは微塵も感じられず、そんなやり取りさえ楽しんでいるように見える。
「別に恥ずかしがることでもないでしょ、そもそも昔の話なんだし。まだ当時ピュアだった辰兄がつけたあだ名みたいなもんだよな」
「ピュアって、お前ね…」
今度は呆れているんだろうか。赤い顔を片手で覆うようにして大きくため息をついた。
「何にしても、感謝…してるんだよな?」
「そりゃあね。可愛いランボーと引き合わせてくれた人だからね」
「…ってなわけで。天使ちゃんっていうのは、ランボーの気持ちが解る不思議な女の子のことで、その神秘的な存在ゆえに辰兄が『まるで天使のようだった』と言ったことから付けられたあだ名だ。そして、それが月岡だったってことは紛れもない事実なワケだよな。…と、言うことは、だ」
颯太はそこで一旦言葉を区切ると、コホン…とワザとらしく咳払いをした。
「ランボー含む俺たちはそんなお前に感謝こそすれ、その不思議な力を気持ち悪いだなんて思うハズがないってことだ」
「……っ…」
思わぬ言葉に咲夜は目を丸くした。
だが、同時に横で聞いていた辰臣が慌てて声を上げる。
「ちょっ…ちょっと待って、颯太。気持ち悪いって何でっ?どういうことだよ?」
話の流れについていけずにいる辰臣に。
「違うよ、辰兄。気持ち悪いなんて思うワケないって俺は言ったんだ」
「いや、それはそうなんだけど。何でそんな話になるのさ?」
「ああ。辰兄はランボーの気持ちが分かる月岡の能力をどう思う?気持ち悪いなんて思っちゃいないだろ?」
「当たり前だろっ!そんなこと思う訳ないじゃないかっ!」
「うん。だから俺もそう言ってる。けど、月岡本人はそうじゃないみたいなんだよな」
それを聞いた辰臣は「えっ?」と、慌てて咲夜の方を振り返った。
咲夜は初め、大きな瞳を揺らしながら二人の顔を交互に見て戸惑いを隠せない様子であったが、そのうち力なく視線を落とすと、ポツリと呟きを口にした。
「だって、普通じゃない…」
「…咲夜ちゃん?」
「だって、そんなの普通じゃないでしょう?ランボーだけじゃない。他の動物だって…それこそ人の気持ちでさえ分かってしまうような能力なんて。そんなの…。そんな奴、誰だって一緒にいたくないに決まってる…」
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