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トクベツな場所
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そんな率直な感想を伝えると、颯太は「だよなー」と苦笑を浮かべた。
「ここは救済センターって名前から判るように、ある意味仕事内容の線引きは曖昧でさ、簡単に言うと何でもありなんだよ。普通に動物の治療だけなら『動物病院』で良いんだろうが、あの人がやりたいことはそれだけじゃないからさ。その名の通り、動物を救う為の依頼なら何でも受けますってニュアンスでやってる、いわゆる動物関係の何でも屋なんだ」
「…本当に、動物が好きなんだね。でも…」
何気なく室内をバタバタ走り回ってる辰臣を見詰める。
「凄い人、だね…」
なんて心優しい人なんだろう、と改めて思う。
昔、ランボーに初めて会った時もそうだった。ランボーの辛さや痛みを、まるで自分のことのように受け止めて一緒になって心を痛め。その小さな命を守るために本当に一生懸命だった。
「それ、辰臣さんに言ってやってよ。きっと喜ぶから。ま、それに見合った報酬さえ貰えれば何だってやるし、俺だって文句はないんだけど、如何せん、あの人はお人好し過ぎて仕事として成り立ってないのが問題でさ。ボランティアじゃ飯食ってけねぇっての」
腰に手を充てて呆れたように溜息を吐く颯太に、咲夜は何処か微笑ましいものを感じて、思わずクスリ…と笑った。
「そうなんだ…。でも、だからこそ放って置けないんだね」
「まあ、な」
年上の幼なじみが心配で仕方ないのだと顔に書いてある。照れているのが目に見えて分かった。
そんな風に人の表情から気持ちを汲むことが、こんなにも温かな気持ちにさせてくれるなんて思ってもみなかった。暫く忘れていた感覚だった。
だからと言って、表面上に現れているものが全てでないことを痛い程に知っているけれど。
「で、お前はどうする?ここでお茶飲んで待ってて貰っても全然構わないんだが…」
「あ、気にしないで。今日はこのまま帰るよ」
もともとは、そのつもりだったんだし。…とは言わないでおく。
「そうか…。強引に連れて来た手前、悪いな。まぁ、すぐ戻って来られるとも限らないし、その方が良いかもな。どんだけの情報があるのか分からないが、実際あてもなく捜すとなると苦戦するのは目に見えてるしな…」
そう言うと、「せめてこれ位は飲んで行けよ」とカップを目の前に差し出してくれる。
(強引に連れて来た自覚、あったんだ…)
ちょっぴり、意外だった。
「大変そう、だね。ネコさがし…」
「時間も殆どないみたいだしな。ある意味、無謀な依頼なんじゃないか?…まったく、日々猫の手も借りたいぐらいだっていうのに」
「あー…。…ネコだけに?」
「そ。猫だけに」
「………」
何故だか満足げに微笑んでいる颯太に咲夜が心の中で脱力していると、準備が終わったのか上着を羽織りながら辰臣が奥から出て来た。
「ごめんね、咲夜ちゃん。せっかく来てくれたのにバタバタしちゃって。ろくなおもてなしも出来なくって悪かったね…」
「いえ。全然、大丈夫です」
「ホントにごめんね。本当なら今日、咲夜ちゃんにちょっと相談したいことがあったんだけど…。また、近いうちに聞いて貰えるかな?」
「それは…構わないですけど。相談、ですか?」
(大空さんが自分になんて…何だろう?)
?を飛ばす咲夜の横で、颯太も不思議そうに耳を傾けている。
そんな二人の様子に、辰臣はクスリ…と笑うと。
「そんな深刻な話じゃないから安心して。ランボーのことでちょっと意見を聞きたいだけだから」
そう言って、ウインクをしてみせた。
そんな邪気のない辰臣の笑顔に押されて、結局明日も此処へ立ち寄ることを約束してしまう咲夜なのだった。
そうして、猫の捜索へと向かう二人と共に救済センターを出ると、外には依頼主である親子が辰臣たちを待っていた。猫の特徴や行動範囲などの詳細をこれから教えて貰うのだという。
猫の写真が入っているのか、男が辰臣にスマートフォンの画面を見せてきた。
「これで…分かりますかね?」
「そう、ですね。良いと思います。他にも身体全体の模様や特徴が分かるようなものがありましたら数枚送っていただいてもいいですか?」
そう言って、自らのスマホを取り出して送信して貰っている。
颯太は、その横で彼らのやり取りを静かに見守っていた。
「すみませんね。時間ギリギリになって、こんな依頼…。気まぐれな猫なので家に帰って来ない日も以前からあったので、もしかしたら他のお宅にお邪魔していたりするのかもと私たちは半ば諦めていたんですが、この子がどうにも納得出来ないみたいで…」
申し訳なさそうに頭を下げる夫婦の間で、両手を胸の前で組み、今にも泣き出しそうな少女が訴えてきた。
「おねがい。チャチャを見つけて、おにいちゃん。チャチャは大切なかぞくなの」
「分かった。何とか頑張って探してみるね」
辰臣が少女に視線を合わせるように屈み混んで笑顔を見せた、その時だった。
『ま、無理だろうけどな』
(…えっ?)
思わぬ囁きが聞こえてきて、咲夜は目を見張った。
『余計な手間と出費にはなったが、まぁ体裁を守られただけでも良しとするしかないか』
そんな心の囁きとは裏腹に。その男は、辰臣たちに「どうか宜しくお願いします」と再び深々と頭を下げた。
「ここは救済センターって名前から判るように、ある意味仕事内容の線引きは曖昧でさ、簡単に言うと何でもありなんだよ。普通に動物の治療だけなら『動物病院』で良いんだろうが、あの人がやりたいことはそれだけじゃないからさ。その名の通り、動物を救う為の依頼なら何でも受けますってニュアンスでやってる、いわゆる動物関係の何でも屋なんだ」
「…本当に、動物が好きなんだね。でも…」
何気なく室内をバタバタ走り回ってる辰臣を見詰める。
「凄い人、だね…」
なんて心優しい人なんだろう、と改めて思う。
昔、ランボーに初めて会った時もそうだった。ランボーの辛さや痛みを、まるで自分のことのように受け止めて一緒になって心を痛め。その小さな命を守るために本当に一生懸命だった。
「それ、辰臣さんに言ってやってよ。きっと喜ぶから。ま、それに見合った報酬さえ貰えれば何だってやるし、俺だって文句はないんだけど、如何せん、あの人はお人好し過ぎて仕事として成り立ってないのが問題でさ。ボランティアじゃ飯食ってけねぇっての」
腰に手を充てて呆れたように溜息を吐く颯太に、咲夜は何処か微笑ましいものを感じて、思わずクスリ…と笑った。
「そうなんだ…。でも、だからこそ放って置けないんだね」
「まあ、な」
年上の幼なじみが心配で仕方ないのだと顔に書いてある。照れているのが目に見えて分かった。
そんな風に人の表情から気持ちを汲むことが、こんなにも温かな気持ちにさせてくれるなんて思ってもみなかった。暫く忘れていた感覚だった。
だからと言って、表面上に現れているものが全てでないことを痛い程に知っているけれど。
「で、お前はどうする?ここでお茶飲んで待ってて貰っても全然構わないんだが…」
「あ、気にしないで。今日はこのまま帰るよ」
もともとは、そのつもりだったんだし。…とは言わないでおく。
「そうか…。強引に連れて来た手前、悪いな。まぁ、すぐ戻って来られるとも限らないし、その方が良いかもな。どんだけの情報があるのか分からないが、実際あてもなく捜すとなると苦戦するのは目に見えてるしな…」
そう言うと、「せめてこれ位は飲んで行けよ」とカップを目の前に差し出してくれる。
(強引に連れて来た自覚、あったんだ…)
ちょっぴり、意外だった。
「大変そう、だね。ネコさがし…」
「時間も殆どないみたいだしな。ある意味、無謀な依頼なんじゃないか?…まったく、日々猫の手も借りたいぐらいだっていうのに」
「あー…。…ネコだけに?」
「そ。猫だけに」
「………」
何故だか満足げに微笑んでいる颯太に咲夜が心の中で脱力していると、準備が終わったのか上着を羽織りながら辰臣が奥から出て来た。
「ごめんね、咲夜ちゃん。せっかく来てくれたのにバタバタしちゃって。ろくなおもてなしも出来なくって悪かったね…」
「いえ。全然、大丈夫です」
「ホントにごめんね。本当なら今日、咲夜ちゃんにちょっと相談したいことがあったんだけど…。また、近いうちに聞いて貰えるかな?」
「それは…構わないですけど。相談、ですか?」
(大空さんが自分になんて…何だろう?)
?を飛ばす咲夜の横で、颯太も不思議そうに耳を傾けている。
そんな二人の様子に、辰臣はクスリ…と笑うと。
「そんな深刻な話じゃないから安心して。ランボーのことでちょっと意見を聞きたいだけだから」
そう言って、ウインクをしてみせた。
そんな邪気のない辰臣の笑顔に押されて、結局明日も此処へ立ち寄ることを約束してしまう咲夜なのだった。
そうして、猫の捜索へと向かう二人と共に救済センターを出ると、外には依頼主である親子が辰臣たちを待っていた。猫の特徴や行動範囲などの詳細をこれから教えて貰うのだという。
猫の写真が入っているのか、男が辰臣にスマートフォンの画面を見せてきた。
「これで…分かりますかね?」
「そう、ですね。良いと思います。他にも身体全体の模様や特徴が分かるようなものがありましたら数枚送っていただいてもいいですか?」
そう言って、自らのスマホを取り出して送信して貰っている。
颯太は、その横で彼らのやり取りを静かに見守っていた。
「すみませんね。時間ギリギリになって、こんな依頼…。気まぐれな猫なので家に帰って来ない日も以前からあったので、もしかしたら他のお宅にお邪魔していたりするのかもと私たちは半ば諦めていたんですが、この子がどうにも納得出来ないみたいで…」
申し訳なさそうに頭を下げる夫婦の間で、両手を胸の前で組み、今にも泣き出しそうな少女が訴えてきた。
「おねがい。チャチャを見つけて、おにいちゃん。チャチャは大切なかぞくなの」
「分かった。何とか頑張って探してみるね」
辰臣が少女に視線を合わせるように屈み混んで笑顔を見せた、その時だった。
『ま、無理だろうけどな』
(…えっ?)
思わぬ囁きが聞こえてきて、咲夜は目を見張った。
『余計な手間と出費にはなったが、まぁ体裁を守られただけでも良しとするしかないか』
そんな心の囁きとは裏腹に。その男は、辰臣たちに「どうか宜しくお願いします」と再び深々と頭を下げた。
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