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トクベツな場所
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私の日常は、いつだって同じで殆ど変化がない。
学校が終われば何処に寄り道することなく、ひとり家へと帰る。それは自分の中では既に何年もの間、当たり前のことになってしまっていた。
別に特別ひとりが好きな訳じゃない。
でも、人と一緒に居ることで受けてしまう傷だとか疲労なんかを恐れてしまったから。
笑顔を向けられる裏で呟かれる悪意を聞きたくなくて、自然と予防線を張るようになった。それだけのことだった。
それでも、相手に罪はないのだと分かっている。母をはじめ、その他の友人たちにも表立って文句やキツイ言葉を浴びせられたことは、今まで幸いにもなかったから。今となっては人と群れるのを嫌う自分の態度に、わざと聞こえるように嫌味を言ってくる子なんかもいるけれど。
でも、そうして堂々と口に出して不満を訴えて来る方が何倍もマシだと思うのだ。
どんなに敵意をむき出しで向かって来ようとも、表面だけ友達面して笑顔で近寄ってくる者より断然、好感が持てると思うから。
自分でも、大概ひねくれている、という自覚はある。
それに、自分だって例外ではないのだ。基本的に口数が少ないのだから、当然口に出さない本音は山ほどあり、自動的に心の呟きは秘めたものになる。
もしも、自分と同様に『心の声』を聞くことが出来る人物がいたとしたら、私も相当な曲者に見えるに違いない。
自分のことはさておき…。
そんなこともあり、今まで人との距離を保っていた筈なのに。
(なんでこんなことになってるんだろ…?)
いつもの帰り道。
何故か昨日知り合ったばかりの人物、幸村颯太が当然のように横を歩いていた。
授業終了後。
まるで当然のように「帰るぞー」とか言いながら教室まで迎えに現れた彼に、私は素で驚いていた。勿論、そんな約束はしていなかったし、昨日の今日でそういう行動に出るとは思ってもみなかったのだ。
そして、面食らっていたのは自分だけではなかったようだ。
ざわつく教室内。
向けられる好奇の目。
確かに、普段誰かと一緒に行動することが殆どない自分の元に、突然隣のクラスの男子が平然と、それも妙に友好的な態度で迎えに来たとあれば、当然何らかの疑問や興味を持たれてしまうのは仕方のないことなのかも知れない。
「あれって隣のクラスの幸村君、だよね?」
「何で幸村が月岡さんと?」
「あの二人って知り合いだったんだ?」
「意外な組み合わせだよな?」
「一緒に帰る仲って…。え?どういうこと?」
「もしかして付き合ってる、とか?」
「マジか…」
心の呟きなどではなく、普通にコソコソと会話が耳に届いてくる。敢えて聞こえるように言っている人も中にはいるようだった。
(別に何を言われようと私は関係ないけど…)
「どういうつもり?」と口には出さず、窓側の席の傍までやって来た幸村くんを無言で見上げると。
彼は特に気にする様子もなく、
「どうせ方向一緒なんだし、問題ないだろ?」
なんて肩をすくめながら言った。
まあ、良いけど。
あまり周囲の反応なんかを気にしないタイプなんだろう。確かに自分たちに負い目なんか何もないし、周りにとやかく言われるようなことでもないのだから関係ないのだけど。
その、どんな視線を向けられようとも動じない堂々とした態度には、少しだけ好感が持てた。
賑やかな校内を出て、道行く人の少ない土手上の道へと差し掛かると、今まで無言で少し前を歩いていた幸村くんが不意に口を開いた。
「何か言いたげだな。意見があるなら聞くけど?」
「意見って…。別に、そんなんじゃないけど…」
「けど?」
口ごもった私をチラリと振り返りながら先を促してくる。
「随分な騒ぎだったなぁって。なんか疲れちゃった…」
「ハハハ、確かにな」
教室を出てからも自分たちは何だかんだ注目を浴びていたようだった。
廊下に出ると、何故だか彼のクラスメイトたちが噂を聞きつけたのか数人集まっていて、ちょっとした騒ぎになってしまった程だ。幸村くん本人はどこ吹く風といった感じでかわしていたけれど。
別に深い意味などはなく、きっと何となくで自分を誘っただけに違いないのに、あんな風に揶揄われたり詮索されてしまっては、面倒に思ったり後悔したりしてるんじゃないかな…とか、少しだけ憂鬱な気持ちになってしまった。それを私が気にしても仕方のないことなのだけど。
それを遠回しに伝えると、「あんたには迷惑だったか?…だとしたら悪かったな」なんて逆に平然と返されてしまった。
「別に言いたい奴には何でも言わせておけばいいんだよ。こっちは何もやましいことなんてないんだし。どう弁解したところで結局は面白おかしく話題に出されるのは目に見えてるからな」
「そう、だね…」
他人の言葉を気にしない、振り回されない強さ。それは自分にはないもので、素直に凄いなぁと思う。
こういう人は、ある意味心が広いのかも知れない。私にも、それくらいの度量があれば、こんなにも歪まなかったのかも、とか思ってしまう。
学校が終われば何処に寄り道することなく、ひとり家へと帰る。それは自分の中では既に何年もの間、当たり前のことになってしまっていた。
別に特別ひとりが好きな訳じゃない。
でも、人と一緒に居ることで受けてしまう傷だとか疲労なんかを恐れてしまったから。
笑顔を向けられる裏で呟かれる悪意を聞きたくなくて、自然と予防線を張るようになった。それだけのことだった。
それでも、相手に罪はないのだと分かっている。母をはじめ、その他の友人たちにも表立って文句やキツイ言葉を浴びせられたことは、今まで幸いにもなかったから。今となっては人と群れるのを嫌う自分の態度に、わざと聞こえるように嫌味を言ってくる子なんかもいるけれど。
でも、そうして堂々と口に出して不満を訴えて来る方が何倍もマシだと思うのだ。
どんなに敵意をむき出しで向かって来ようとも、表面だけ友達面して笑顔で近寄ってくる者より断然、好感が持てると思うから。
自分でも、大概ひねくれている、という自覚はある。
それに、自分だって例外ではないのだ。基本的に口数が少ないのだから、当然口に出さない本音は山ほどあり、自動的に心の呟きは秘めたものになる。
もしも、自分と同様に『心の声』を聞くことが出来る人物がいたとしたら、私も相当な曲者に見えるに違いない。
自分のことはさておき…。
そんなこともあり、今まで人との距離を保っていた筈なのに。
(なんでこんなことになってるんだろ…?)
いつもの帰り道。
何故か昨日知り合ったばかりの人物、幸村颯太が当然のように横を歩いていた。
授業終了後。
まるで当然のように「帰るぞー」とか言いながら教室まで迎えに現れた彼に、私は素で驚いていた。勿論、そんな約束はしていなかったし、昨日の今日でそういう行動に出るとは思ってもみなかったのだ。
そして、面食らっていたのは自分だけではなかったようだ。
ざわつく教室内。
向けられる好奇の目。
確かに、普段誰かと一緒に行動することが殆どない自分の元に、突然隣のクラスの男子が平然と、それも妙に友好的な態度で迎えに来たとあれば、当然何らかの疑問や興味を持たれてしまうのは仕方のないことなのかも知れない。
「あれって隣のクラスの幸村君、だよね?」
「何で幸村が月岡さんと?」
「あの二人って知り合いだったんだ?」
「意外な組み合わせだよな?」
「一緒に帰る仲って…。え?どういうこと?」
「もしかして付き合ってる、とか?」
「マジか…」
心の呟きなどではなく、普通にコソコソと会話が耳に届いてくる。敢えて聞こえるように言っている人も中にはいるようだった。
(別に何を言われようと私は関係ないけど…)
「どういうつもり?」と口には出さず、窓側の席の傍までやって来た幸村くんを無言で見上げると。
彼は特に気にする様子もなく、
「どうせ方向一緒なんだし、問題ないだろ?」
なんて肩をすくめながら言った。
まあ、良いけど。
あまり周囲の反応なんかを気にしないタイプなんだろう。確かに自分たちに負い目なんか何もないし、周りにとやかく言われるようなことでもないのだから関係ないのだけど。
その、どんな視線を向けられようとも動じない堂々とした態度には、少しだけ好感が持てた。
賑やかな校内を出て、道行く人の少ない土手上の道へと差し掛かると、今まで無言で少し前を歩いていた幸村くんが不意に口を開いた。
「何か言いたげだな。意見があるなら聞くけど?」
「意見って…。別に、そんなんじゃないけど…」
「けど?」
口ごもった私をチラリと振り返りながら先を促してくる。
「随分な騒ぎだったなぁって。なんか疲れちゃった…」
「ハハハ、確かにな」
教室を出てからも自分たちは何だかんだ注目を浴びていたようだった。
廊下に出ると、何故だか彼のクラスメイトたちが噂を聞きつけたのか数人集まっていて、ちょっとした騒ぎになってしまった程だ。幸村くん本人はどこ吹く風といった感じでかわしていたけれど。
別に深い意味などはなく、きっと何となくで自分を誘っただけに違いないのに、あんな風に揶揄われたり詮索されてしまっては、面倒に思ったり後悔したりしてるんじゃないかな…とか、少しだけ憂鬱な気持ちになってしまった。それを私が気にしても仕方のないことなのだけど。
それを遠回しに伝えると、「あんたには迷惑だったか?…だとしたら悪かったな」なんて逆に平然と返されてしまった。
「別に言いたい奴には何でも言わせておけばいいんだよ。こっちは何もやましいことなんてないんだし。どう弁解したところで結局は面白おかしく話題に出されるのは目に見えてるからな」
「そう、だね…」
他人の言葉を気にしない、振り回されない強さ。それは自分にはないもので、素直に凄いなぁと思う。
こういう人は、ある意味心が広いのかも知れない。私にも、それくらいの度量があれば、こんなにも歪まなかったのかも、とか思ってしまう。
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