16 / 33
興味という名の品定め
3-3
しおりを挟む
それでも、これは自分の内の問題なのだ。
自分が面白くないというだけの。
それは、ある意味『執着心』に近いのかも知れない。
俺の両親は昔から家を空けることが多く、俺はいつも家では一人だった。
二人とも海外で活躍しているそれなりに名の知れた音楽家なので、こう言っちゃなんだが生活には苦労していない。勿論、小さな頃は親がいなくて心細かったこともあったかも知れないが、その辺は人間慣れるものだ。ちゃんとハウスキーパーを雇ってくれていたし生活そのもので別段困ったことはなかった。
そして、何より隣には辰兄がいたから。
幼馴染みである辰臣は、今となっては友人というのがしっくりくるが、昔の俺にとっては、その年の差もあり兄のような…時には親のような存在だった。
昔から面倒見の良い辰臣は、その人柄からウチの両親からは絶大な信頼を得ていて、調子の良い親どもは俺が思いのほか懐いたことと辰臣が快く引き受けてくれるのをいいことに、すっかり任せっきりにしていた。辰臣の両親も息子に負けず劣らず人が良く、とても親切な人たちだったので俺は小さい頃は本当に大空家にお世話になりっぱなしだった。
そんなこともあり、当時の幼い自分にとって辰兄は家族であり友人であり、そして世界そのものだったのだ。流石に今は違うと断言できるけれど実の兄を想うような、そんな感覚に近いのかも知れないとは思っている。
(実際、辰兄があの子を前にしてニヤけてる様子も見たいし。ホントは目的地同じだし、一緒に帰ろうと思ってたんだけどな…)
自己紹介をするのが遅れてしまい、どうやら彼女に不信感を抱かせてしまったようだ。
まだ月岡咲夜という人物の、人となりについて詳しいことは何一つ分かってはいないが、とりあえず嫌なイメージは湧かなかったことで颯太的には気が済んだというか、彼女に対しての興味も落ち着いてしまった感じだった。
(さて、どうするかな…)
このまま彼女について行っても、駅前の交番を目指すとなると随分と遠回りをすることになる。それに、再び強引に話し掛けようものなら余計に不信感を与えてしまいそうだ。
(ここは大人しく辰兄のトコヘ先に顔を出しておくか…)
とりあえず、暫くは方向が同じなので後ろをついて歩くことにはなるが、それは致し方ないだろう。
颯太は止めていた足をゆっくりと踏み出した。
と、その時だった。
十数メートル先を歩く月岡咲夜が不意に再び足を止めるのが見えた。そうして暫く立ち止まっていると、今度はゆっくりと川の方へと視線を向けている。
(何をしているんだ?…何かあるのか?)
その視線の先に何があるのか気になった颯太は、川沿いを見下ろすように道の端に寄ると身を乗り出した。すると、丁度土手の中間辺りに位置する草むらに小学生くらいの男児が独り、こちらに背を向ける形で座っているのが見えた。その小さな背中以外に気になるようなものは特に何もないように見える。
だが、そんな間にも彼女がそちらへと足を向け、草で覆われた土手を下りて行くのが見えた。
知り合いの子でも居たんだろうか?そんなことを考えながらも、颯太も自然とその場に足を止めると、彼女の次の行動を土手上の道から遠く眺めるのだった。
それから、約三十分程が経過した頃。
「あっ颯太お帰り!丁度良かった。紹介するねっ。彼女が昨日言ってた月岡咲夜さんだよっ」
辰臣の経営する救済センターの扉をくぐった途端に、にこやかな辰臣の笑顔が颯太を出迎える。そして、その横には少し驚いたように瞳を大きくしている咲夜がいた。
そんな咲夜の様子に気付くことなく、辰臣は人懐っこい笑顔を向けると、今度は身体の向きを変えて咲夜に颯太の紹介を始めた。
「咲夜さん、こっちは僕の幼なじみで親友の幸村颯太。昨日、君に会わせたい友人がいるって言ったでしょう。実は、彼のことなんだ。颯太には、ここの仕事も時々手伝って貰ったりしていて、いつもこんな風に顔出してくれてるから既にスタッフみたいなものなんだ。ランボーともどもよろしくねっ」
そう互いに紹介されて、とりあえず二人して顔を見合わせた。
「はじめまして」
複雑そうな顔をしながらもペコリと頭を下げる咲夜に対して、颯太は飄々とした様子で笑顔を向けた。
「…先程はどうも」
そんな颯太の言葉に辰臣がすぐさま反応した。
「え?なに?もしかして二人共もう顔見知りだったりするのっ?」
「いや、そんなんじゃないけど、ちょっとな。ところで、辰兄。俺スタッフになったつもりはコレっぽっちもないんだけど…」
「嫌だなぁ。そんな冷たいこと言わないでよー」
「…ってか、俺の扱いはランボーと同じなわけ?看板犬やマスコットと一緒にするんじゃねぇっての」
目の前で何だかんだとじゃれ合い始めた二人を眺めながら、咲夜は「そういうことだったのか」と、一人納得していた。
自分が面白くないというだけの。
それは、ある意味『執着心』に近いのかも知れない。
俺の両親は昔から家を空けることが多く、俺はいつも家では一人だった。
二人とも海外で活躍しているそれなりに名の知れた音楽家なので、こう言っちゃなんだが生活には苦労していない。勿論、小さな頃は親がいなくて心細かったこともあったかも知れないが、その辺は人間慣れるものだ。ちゃんとハウスキーパーを雇ってくれていたし生活そのもので別段困ったことはなかった。
そして、何より隣には辰兄がいたから。
幼馴染みである辰臣は、今となっては友人というのがしっくりくるが、昔の俺にとっては、その年の差もあり兄のような…時には親のような存在だった。
昔から面倒見の良い辰臣は、その人柄からウチの両親からは絶大な信頼を得ていて、調子の良い親どもは俺が思いのほか懐いたことと辰臣が快く引き受けてくれるのをいいことに、すっかり任せっきりにしていた。辰臣の両親も息子に負けず劣らず人が良く、とても親切な人たちだったので俺は小さい頃は本当に大空家にお世話になりっぱなしだった。
そんなこともあり、当時の幼い自分にとって辰兄は家族であり友人であり、そして世界そのものだったのだ。流石に今は違うと断言できるけれど実の兄を想うような、そんな感覚に近いのかも知れないとは思っている。
(実際、辰兄があの子を前にしてニヤけてる様子も見たいし。ホントは目的地同じだし、一緒に帰ろうと思ってたんだけどな…)
自己紹介をするのが遅れてしまい、どうやら彼女に不信感を抱かせてしまったようだ。
まだ月岡咲夜という人物の、人となりについて詳しいことは何一つ分かってはいないが、とりあえず嫌なイメージは湧かなかったことで颯太的には気が済んだというか、彼女に対しての興味も落ち着いてしまった感じだった。
(さて、どうするかな…)
このまま彼女について行っても、駅前の交番を目指すとなると随分と遠回りをすることになる。それに、再び強引に話し掛けようものなら余計に不信感を与えてしまいそうだ。
(ここは大人しく辰兄のトコヘ先に顔を出しておくか…)
とりあえず、暫くは方向が同じなので後ろをついて歩くことにはなるが、それは致し方ないだろう。
颯太は止めていた足をゆっくりと踏み出した。
と、その時だった。
十数メートル先を歩く月岡咲夜が不意に再び足を止めるのが見えた。そうして暫く立ち止まっていると、今度はゆっくりと川の方へと視線を向けている。
(何をしているんだ?…何かあるのか?)
その視線の先に何があるのか気になった颯太は、川沿いを見下ろすように道の端に寄ると身を乗り出した。すると、丁度土手の中間辺りに位置する草むらに小学生くらいの男児が独り、こちらに背を向ける形で座っているのが見えた。その小さな背中以外に気になるようなものは特に何もないように見える。
だが、そんな間にも彼女がそちらへと足を向け、草で覆われた土手を下りて行くのが見えた。
知り合いの子でも居たんだろうか?そんなことを考えながらも、颯太も自然とその場に足を止めると、彼女の次の行動を土手上の道から遠く眺めるのだった。
それから、約三十分程が経過した頃。
「あっ颯太お帰り!丁度良かった。紹介するねっ。彼女が昨日言ってた月岡咲夜さんだよっ」
辰臣の経営する救済センターの扉をくぐった途端に、にこやかな辰臣の笑顔が颯太を出迎える。そして、その横には少し驚いたように瞳を大きくしている咲夜がいた。
そんな咲夜の様子に気付くことなく、辰臣は人懐っこい笑顔を向けると、今度は身体の向きを変えて咲夜に颯太の紹介を始めた。
「咲夜さん、こっちは僕の幼なじみで親友の幸村颯太。昨日、君に会わせたい友人がいるって言ったでしょう。実は、彼のことなんだ。颯太には、ここの仕事も時々手伝って貰ったりしていて、いつもこんな風に顔出してくれてるから既にスタッフみたいなものなんだ。ランボーともどもよろしくねっ」
そう互いに紹介されて、とりあえず二人して顔を見合わせた。
「はじめまして」
複雑そうな顔をしながらもペコリと頭を下げる咲夜に対して、颯太は飄々とした様子で笑顔を向けた。
「…先程はどうも」
そんな颯太の言葉に辰臣がすぐさま反応した。
「え?なに?もしかして二人共もう顔見知りだったりするのっ?」
「いや、そんなんじゃないけど、ちょっとな。ところで、辰兄。俺スタッフになったつもりはコレっぽっちもないんだけど…」
「嫌だなぁ。そんな冷たいこと言わないでよー」
「…ってか、俺の扱いはランボーと同じなわけ?看板犬やマスコットと一緒にするんじゃねぇっての」
目の前で何だかんだとじゃれ合い始めた二人を眺めながら、咲夜は「そういうことだったのか」と、一人納得していた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【完結】ツインクロス
龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる