心がささやいている

龍野ゆうき

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興味という名の品定め

3-3

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それでも、これは自分の内の問題なのだ。
自分が面白くないというだけの。

それは、ある意味『執着心』に近いのかも知れない。


俺の両親は昔から家を空けることが多く、俺はいつも家では一人だった。
二人とも海外で活躍しているそれなりに名の知れた音楽家なので、こう言っちゃなんだが生活には苦労していない。勿論、小さな頃は親がいなくて心細かったこともあったかも知れないが、その辺は人間慣れるものだ。ちゃんとハウスキーパーを雇ってくれていたし生活そのもので別段困ったことはなかった。

そして、何より隣には辰兄がいたから。

幼馴染みである辰臣は、今となっては友人というのがしっくりくるが、昔の俺にとっては、その年の差もあり兄のような…時には親のような存在だった。
昔から面倒見の良い辰臣は、その人柄からウチの両親からは絶大な信頼を得ていて、調子の良い親どもは俺が思いのほか懐いたことと辰臣が快く引き受けてくれるのをいいことに、すっかり任せっきりにしていた。辰臣の両親も息子に負けず劣らず人が良く、とても親切な人たちだったので俺は小さい頃は本当に大空家にお世話になりっぱなしだった。

そんなこともあり、当時の幼い自分にとって辰兄は家族であり友人であり、そして世界そのものだったのだ。流石に今は違うと断言できるけれど実の兄を想うような、そんな感覚に近いのかも知れないとは思っている。


(実際、辰兄があの子を前にしてニヤけてる様子も見たいし。ホントは目的地同じだし、一緒に帰ろうと思ってたんだけどな…)

自己紹介をするのが遅れてしまい、どうやら彼女に不信感を抱かせてしまったようだ。

まだ月岡咲夜という人物の、人となりについて詳しいことは何一つ分かってはいないが、とりあえず嫌なイメージは湧かなかったことで颯太的には気が済んだというか、彼女に対しての興味も落ち着いてしまった感じだった。

(さて、どうするかな…)

このまま彼女について行っても、駅前の交番を目指すとなると随分と遠回りをすることになる。それに、再び強引に話し掛けようものなら余計に不信感を与えてしまいそうだ。

(ここは大人しく辰兄のトコヘ先に顔を出しておくか…)

とりあえず、暫くは方向が同じなので後ろをついて歩くことにはなるが、それは致し方ないだろう。
颯太は止めていた足をゆっくりと踏み出した。

と、その時だった。

十数メートル先を歩く月岡咲夜が不意に再び足を止めるのが見えた。そうして暫く立ち止まっていると、今度はゆっくりと川の方へと視線を向けている。

(何をしているんだ?…何かあるのか?)

その視線の先に何があるのか気になった颯太は、川沿いを見下ろすように道の端に寄ると身を乗り出した。すると、丁度土手の中間辺りに位置する草むらに小学生くらいの男児が独り、こちらに背を向ける形で座っているのが見えた。その小さな背中以外に気になるようなものは特に何もないように見える。
だが、そんな間にも彼女がそちらへと足を向け、草で覆われた土手を下りて行くのが見えた。

知り合いの子でも居たんだろうか?そんなことを考えながらも、颯太も自然とその場に足を止めると、彼女の次の行動を土手上の道から遠く眺めるのだった。




それから、約三十分程が経過した頃。


「あっ颯太お帰り!丁度良かった。紹介するねっ。彼女が昨日言ってた月岡咲夜さんだよっ」

辰臣の経営する救済センターの扉をくぐった途端に、にこやかな辰臣の笑顔が颯太を出迎える。そして、その横には少し驚いたように瞳を大きくしている咲夜がいた。
そんな咲夜の様子に気付くことなく、辰臣は人懐っこい笑顔を向けると、今度は身体の向きを変えて咲夜に颯太の紹介を始めた。

「咲夜さん、こっちは僕の幼なじみで親友の幸村ゆきむら颯太。昨日、君に会わせたい友人がいるって言ったでしょう。実は、彼のことなんだ。颯太には、ここの仕事も時々手伝って貰ったりしていて、いつもこんな風に顔出してくれてるから既にスタッフみたいなものなんだ。ランボーともどもよろしくねっ」

そう互いに紹介されて、とりあえず二人して顔を見合わせた。

「はじめまして」

複雑そうな顔をしながらもペコリと頭を下げる咲夜に対して、颯太は飄々ひょうひょうとした様子で笑顔を向けた。

「…先程はどうも」

そんな颯太の言葉に辰臣がすぐさま反応した。

「え?なに?もしかして二人共もう顔見知りだったりするのっ?」
「いや、そんなんじゃないけど、ちょっとな。ところで、辰兄。俺スタッフになったつもりはコレっぽっちもないんだけど…」
「嫌だなぁ。そんな冷たいこと言わないでよー」
「…ってか、俺の扱いはランボーと同じなわけ?看板犬やマスコットと一緒にするんじゃねぇっての」


目の前で何だかんだとじゃれ合い始めた二人を眺めながら、咲夜は「そういうことだったのか」と、一人納得していた。
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