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記憶の中の天使
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「…でなっ!突然走り出したランボーを追い掛けてったら偶然にも会えたんだよっ!あの例の女の子にっ!」
学校帰りに寄ってくれた友人の顔を見るなり、待ってましたと言わんばかりにそう興奮気味に今日の出来事を語り出したのは、このクリニック『おおぞら動物救済センター』の院長であり経営者でもある大空辰臣その人であった。
先程届いたばかりだという備品の入った荷物を開ける手を止め、身を乗り出すようにして未だ興奮冷めやらぬ様子で語るその友人に、きょとんとした表情を向けながら幸村颯太は静かに口を開いた。
「あー、それって確か、辰臣さんの思い出の…」
「そう!それそれっ!」
「初恋の人?」
「ちがーうっ!」
じれったいと言うように悔しがりながら希望通りのツッコミが返って来ると、颯太は満足げに口の端を上げた。
「冗談だよ。ちゃんと解ってるって。辰臣さんがココをつくるキッカケになったっていう子だろ?」
「そう。それそれっ」
「小さい頃、散々聞かされたからな。流石に覚えてるよ」
「…それは…。悪かったね」
辰臣と颯太は少し歳は離れているものの、いわゆる幼馴染みという間柄だ。昔住んでいた家が隣同士で、実は十もの歳の差があったりするのだが、元々面倒見のいい辰臣が小さな颯太をよく遊んであげていたことで、すっかり颯太に懐かれてしまったというのが始まりだった。辰臣が中学、高校を経て大人として成長していく中でも小さな颯太は度々辰臣の元へと遊びに来ては、様々な話をしたり一緒にゲームをしたりと、その関係は崩れることなく、今では対等な友人としての関係を築いていた。
「…で?その天使ちゃんと再会出来て?どうだったのさ」
「は?天使ちゃん??…何それ?」
「は?だって辰臣さん、昔言ってたじゃん。『動物の気持ちが分かる天使みたいな子』だったんだよーって」
颯太は右手の人差し指と親指を立てて鉄砲のような形を作ると、ハテナを飛ばしている辰臣を狙って撃ち抜く真似をした。
「そそそ…そんな恥ずかしいこと僕、言ったかなっ?気のせいじゃないのっ?」
「い・い・ま・し・た」
何故だか今更ながらに恥ずかしくなったのか、わたわたしている目の前の大人を面白そうに眺めると、颯太は「で?どうなのさ」と続きを即した。
辰臣は暫くの間、自分の過去の失態?に悶えていたが、自分が振った話の手前、諦めたのかゆっくりと語り出した。
「あー…うん。やっぱりどこか不思議な人ではあったかな。ランボーが急に走り出したのも、どうやら彼女のことが分かったからみたいなんだ。再会を喜んでいる風だった」
「分かったって…。昔のことを覚えてて走り寄ってったってこと?」
「うん。一目散に彼女の傍まで走ってって、その周りをぐるぐる回ってたんだよ。あの人見知りのランボーがだよ?」
「へぇ」
「で、そんなランボーを見て彼女が言ったんだ。『やっぱり、あの時のコなんだね。大きくなったね』って…」
「ほー」
「凄いだろ?通じ合ってるんだよ、二人とも!」
再び、その時のことを思い出したのかテンションが上がり始めた辰臣に颯太は心の中で苦笑を浮かべた。この友人は、自分よりも年上なのに反応がとにかく素直で、見ていて面白いのだ。
正直で素直なところは辰臣の人物像を語る上で、とても大きな魅力の一つだ。だが、その分夢見がちというか、少々子供っぽい部分があることも否定出来なかったりする。それを『大人になっても少年の心を忘れない』などと言ってしまえば聞こえは良いのだろうが、颯太自身はわりと現実的な考えの持ち主なので、時々辰臣の発想にはついていけないこともあったりする。
その少女と犬のランボーが通じ合ってるという話も、彼の夢見がちな部分故のことだろうと颯太は話半分に聞いていた。だが、辰臣はその少女のことを随分と心酔しきっている様子だ。
「やっぱり彼女は、動物の気持ちが分かるのかも知れないっ」
瞳をキラキラさせながら力説している二十六歳に、颯太は思わず苦笑を浮かべた。
(ま…辰兄《たつにい》は、そのコにまた会えたことが嬉しくて仕方ないんだろーけどな)
昔、その少女との出会いが当時の辰臣の人生設計に大きな変化を与えたのだから。
それは、辰臣がまだ高校生だった頃の話。
辰臣は昔から動物が大好きな少年だった。
幼少期から将来の夢は『動物のお医者さんになること』だとブレることはなかった。
そして、十も離れた幼い颯太を親以上に手懐けてしまう面倒見の良さ、困った者を放っておけない人の良さなどは折り紙付きである。
そんな辰臣が高校生になったある日のこと。
学校帰りに住宅街をひとり歩いていると、電柱の陰に何か小さなものが丸まっているのに気付いた。
気になってそっと覗き込むと、それは未だ小さな子犬で、随分と衰弱した様子で身体を震わせていた。
学校帰りに寄ってくれた友人の顔を見るなり、待ってましたと言わんばかりにそう興奮気味に今日の出来事を語り出したのは、このクリニック『おおぞら動物救済センター』の院長であり経営者でもある大空辰臣その人であった。
先程届いたばかりだという備品の入った荷物を開ける手を止め、身を乗り出すようにして未だ興奮冷めやらぬ様子で語るその友人に、きょとんとした表情を向けながら幸村颯太は静かに口を開いた。
「あー、それって確か、辰臣さんの思い出の…」
「そう!それそれっ!」
「初恋の人?」
「ちがーうっ!」
じれったいと言うように悔しがりながら希望通りのツッコミが返って来ると、颯太は満足げに口の端を上げた。
「冗談だよ。ちゃんと解ってるって。辰臣さんがココをつくるキッカケになったっていう子だろ?」
「そう。それそれっ」
「小さい頃、散々聞かされたからな。流石に覚えてるよ」
「…それは…。悪かったね」
辰臣と颯太は少し歳は離れているものの、いわゆる幼馴染みという間柄だ。昔住んでいた家が隣同士で、実は十もの歳の差があったりするのだが、元々面倒見のいい辰臣が小さな颯太をよく遊んであげていたことで、すっかり颯太に懐かれてしまったというのが始まりだった。辰臣が中学、高校を経て大人として成長していく中でも小さな颯太は度々辰臣の元へと遊びに来ては、様々な話をしたり一緒にゲームをしたりと、その関係は崩れることなく、今では対等な友人としての関係を築いていた。
「…で?その天使ちゃんと再会出来て?どうだったのさ」
「は?天使ちゃん??…何それ?」
「は?だって辰臣さん、昔言ってたじゃん。『動物の気持ちが分かる天使みたいな子』だったんだよーって」
颯太は右手の人差し指と親指を立てて鉄砲のような形を作ると、ハテナを飛ばしている辰臣を狙って撃ち抜く真似をした。
「そそそ…そんな恥ずかしいこと僕、言ったかなっ?気のせいじゃないのっ?」
「い・い・ま・し・た」
何故だか今更ながらに恥ずかしくなったのか、わたわたしている目の前の大人を面白そうに眺めると、颯太は「で?どうなのさ」と続きを即した。
辰臣は暫くの間、自分の過去の失態?に悶えていたが、自分が振った話の手前、諦めたのかゆっくりと語り出した。
「あー…うん。やっぱりどこか不思議な人ではあったかな。ランボーが急に走り出したのも、どうやら彼女のことが分かったからみたいなんだ。再会を喜んでいる風だった」
「分かったって…。昔のことを覚えてて走り寄ってったってこと?」
「うん。一目散に彼女の傍まで走ってって、その周りをぐるぐる回ってたんだよ。あの人見知りのランボーがだよ?」
「へぇ」
「で、そんなランボーを見て彼女が言ったんだ。『やっぱり、あの時のコなんだね。大きくなったね』って…」
「ほー」
「凄いだろ?通じ合ってるんだよ、二人とも!」
再び、その時のことを思い出したのかテンションが上がり始めた辰臣に颯太は心の中で苦笑を浮かべた。この友人は、自分よりも年上なのに反応がとにかく素直で、見ていて面白いのだ。
正直で素直なところは辰臣の人物像を語る上で、とても大きな魅力の一つだ。だが、その分夢見がちというか、少々子供っぽい部分があることも否定出来なかったりする。それを『大人になっても少年の心を忘れない』などと言ってしまえば聞こえは良いのだろうが、颯太自身はわりと現実的な考えの持ち主なので、時々辰臣の発想にはついていけないこともあったりする。
その少女と犬のランボーが通じ合ってるという話も、彼の夢見がちな部分故のことだろうと颯太は話半分に聞いていた。だが、辰臣はその少女のことを随分と心酔しきっている様子だ。
「やっぱり彼女は、動物の気持ちが分かるのかも知れないっ」
瞳をキラキラさせながら力説している二十六歳に、颯太は思わず苦笑を浮かべた。
(ま…辰兄《たつにい》は、そのコにまた会えたことが嬉しくて仕方ないんだろーけどな)
昔、その少女との出会いが当時の辰臣の人生設計に大きな変化を与えたのだから。
それは、辰臣がまだ高校生だった頃の話。
辰臣は昔から動物が大好きな少年だった。
幼少期から将来の夢は『動物のお医者さんになること』だとブレることはなかった。
そして、十も離れた幼い颯太を親以上に手懐けてしまう面倒見の良さ、困った者を放っておけない人の良さなどは折り紙付きである。
そんな辰臣が高校生になったある日のこと。
学校帰りに住宅街をひとり歩いていると、電柱の陰に何か小さなものが丸まっているのに気付いた。
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