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いらない能力
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「そーいうトコがイイんじゃん。ミステリアスっつーか、謎めいた色気っつーの?そーいうのに男はそそられちゃうワケよ。なんたって彼女、美人だしなっ」
「はあっ?アンタ何言ってんのっ?なんか言い方ヤラシイんだけど!」
「っていうか、あーいうのが好みなワケ?ホント男って単純よね!」
女子二人は、すっかり引き気味だ。そんな二人に男子生徒は「ひがむな、ひがむな」と声を上げて笑いながら他の友人の元へと移動して行ってしまった。
その場に残された二人は、そのあんまりな言われように「ひがんでなんかないっての!」と強く反論していたが、それにも飽きると溜息を吐いた。
「まぁね。月岡さん、美人なのは認めるけどさ」
「ふん…」
「ま、気を取り直して…ねぇ!そろそろ行こーよっ」
皆に声を掛けると、それぞれ帰り支度を始めた。
そうして、ぞろぞろと連なって教室を後にするクラスメイト達の賑やかな声を見送って。廊下の陰に一人たたずんでいた少女は、誰に気付かれるでもなくひっそりと小さく息を吐いた。
そう。彼女こそが先程の噂の人物、月岡咲夜その人であった。
授業終了後、手洗いに行って教室へと戻って来ると、何故か自分の名前が室内から聞こえてきて。思わず咄嗟に身を隠したのだ。
(別に隠れる必要なんて、何もないんだろうけど…)
自分は何も悪いことなどしていないのだし。
だが、この場にいないものと思い話題に上がっている所に敢えて出ていける程、自分は図太くはないし。何よりそれほど気不味いものはない。
それに、噂や陰口も気にならないと言えば嘘になるが、実際口に出して言われていることの方がまだマシなことが多いのが現状で。表立って文句を言われていることよりも、実は内に秘められた『悪意』の方が断然キツイ場合が殆どだったりするのだ。
それは先程の女子生徒二人にも当てはまることだった。
『スカしてる』『余裕ぶってる』『お高くとまってる』と言いたい放題悪口を並べ『好きじゃない』と断言していた彼女よりも、実は『そこまで嫌な感じはしない』と言っていた彼女の方が、心の底では自分のことを良く思っていなかったりする。
それが自分には分かってしまうから…。
どうしても、人と一線を引いてしまうことを止められない。
その裏表を知るのが怖くて。
別に人に嫌われることが怖い訳じゃない。
ただ、好意を持ってくれているような笑顔の裏で『悪意』を囁かれるのが怖いのだ。
臆病になっていることぐらい自分でも分かっている。つい一線を引いてしまう、その自分の態度が余計に敵を作ってしまっているのかも知れないということも。
でも、こればかりは幼い頃からの癖のようなもので。既に自分でどうにか出来るようなレベルではなくなってしまっていた。
咲夜は小さく息を吐くと。既に誰もいなくなった教室へとゆっくり足を踏み入れると一人帰り支度を始めるのだった。
学校から家までの道のりは、徒歩で三十分程。毎日通っている川べりの道をゆっくりと歩いてゆく。
陽はだいぶ西へと傾き、夕暮れにはまだ早いが斜めからの眩しい日差しが正面から照り付けてくる。
市街を流れる川の土手上に作られたこの道からは、自然豊かな緑に囲まれた川の流れを見渡せる一方で、家々を隙間なく敷き詰めたかのような賑わう街並みも一望出来る。
咲夜は、ここからの川側の景色を眺めるのが好きだった。
どんなに学校へ向かうのが憂鬱な朝も、身も心も消耗して疲れ果てて帰路に就く放課後も。この景色を見つめているだけでどこか癒されていくような、そんな気がするのだ。
だが、その一方で。
多くの人々が暮らす生活圏と、そこだけ切り離されたように広がる自然との間に位置するこの道こそが、自分の立ち位置そのもののような気がしてしまうのも事実だった。
人と馴染めない自分。
浮いた存在。
それを今更、どうこう悩んだりはしないけれど。
いつから、こんな能力が身についたのかは自分でも分からない。もしかしたら生まれつきのものだったのかも知れない。ただ、小さな頃は特に何を気にすることもなく、その微かな囁きに耳を傾けることさえなかったのだと思う。
西日を浴びてキラキラと煌めく川の水面が光を乱反射する。その眩しさに咲夜は思わず目を細めた。風が緩やかに通りを吹き抜け、咲夜の長い髪をなびかせてゆく。
人の心の声が聞こえる。
そんな普通ではあり得ない、信じ難い能力を自分が持っていると初めて自覚したのは、自分がまだ小学校へ上がったばかりの頃だった。
その日のことは良く覚えている。
その声は、大抵の子ども達にとって一番近しい人物にあたるであろう『母親』のものだった。
「はあっ?アンタ何言ってんのっ?なんか言い方ヤラシイんだけど!」
「っていうか、あーいうのが好みなワケ?ホント男って単純よね!」
女子二人は、すっかり引き気味だ。そんな二人に男子生徒は「ひがむな、ひがむな」と声を上げて笑いながら他の友人の元へと移動して行ってしまった。
その場に残された二人は、そのあんまりな言われように「ひがんでなんかないっての!」と強く反論していたが、それにも飽きると溜息を吐いた。
「まぁね。月岡さん、美人なのは認めるけどさ」
「ふん…」
「ま、気を取り直して…ねぇ!そろそろ行こーよっ」
皆に声を掛けると、それぞれ帰り支度を始めた。
そうして、ぞろぞろと連なって教室を後にするクラスメイト達の賑やかな声を見送って。廊下の陰に一人たたずんでいた少女は、誰に気付かれるでもなくひっそりと小さく息を吐いた。
そう。彼女こそが先程の噂の人物、月岡咲夜その人であった。
授業終了後、手洗いに行って教室へと戻って来ると、何故か自分の名前が室内から聞こえてきて。思わず咄嗟に身を隠したのだ。
(別に隠れる必要なんて、何もないんだろうけど…)
自分は何も悪いことなどしていないのだし。
だが、この場にいないものと思い話題に上がっている所に敢えて出ていける程、自分は図太くはないし。何よりそれほど気不味いものはない。
それに、噂や陰口も気にならないと言えば嘘になるが、実際口に出して言われていることの方がまだマシなことが多いのが現状で。表立って文句を言われていることよりも、実は内に秘められた『悪意』の方が断然キツイ場合が殆どだったりするのだ。
それは先程の女子生徒二人にも当てはまることだった。
『スカしてる』『余裕ぶってる』『お高くとまってる』と言いたい放題悪口を並べ『好きじゃない』と断言していた彼女よりも、実は『そこまで嫌な感じはしない』と言っていた彼女の方が、心の底では自分のことを良く思っていなかったりする。
それが自分には分かってしまうから…。
どうしても、人と一線を引いてしまうことを止められない。
その裏表を知るのが怖くて。
別に人に嫌われることが怖い訳じゃない。
ただ、好意を持ってくれているような笑顔の裏で『悪意』を囁かれるのが怖いのだ。
臆病になっていることぐらい自分でも分かっている。つい一線を引いてしまう、その自分の態度が余計に敵を作ってしまっているのかも知れないということも。
でも、こればかりは幼い頃からの癖のようなもので。既に自分でどうにか出来るようなレベルではなくなってしまっていた。
咲夜は小さく息を吐くと。既に誰もいなくなった教室へとゆっくり足を踏み入れると一人帰り支度を始めるのだった。
学校から家までの道のりは、徒歩で三十分程。毎日通っている川べりの道をゆっくりと歩いてゆく。
陽はだいぶ西へと傾き、夕暮れにはまだ早いが斜めからの眩しい日差しが正面から照り付けてくる。
市街を流れる川の土手上に作られたこの道からは、自然豊かな緑に囲まれた川の流れを見渡せる一方で、家々を隙間なく敷き詰めたかのような賑わう街並みも一望出来る。
咲夜は、ここからの川側の景色を眺めるのが好きだった。
どんなに学校へ向かうのが憂鬱な朝も、身も心も消耗して疲れ果てて帰路に就く放課後も。この景色を見つめているだけでどこか癒されていくような、そんな気がするのだ。
だが、その一方で。
多くの人々が暮らす生活圏と、そこだけ切り離されたように広がる自然との間に位置するこの道こそが、自分の立ち位置そのもののような気がしてしまうのも事実だった。
人と馴染めない自分。
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それを今更、どうこう悩んだりはしないけれど。
いつから、こんな能力が身についたのかは自分でも分からない。もしかしたら生まれつきのものだったのかも知れない。ただ、小さな頃は特に何を気にすることもなく、その微かな囁きに耳を傾けることさえなかったのだと思う。
西日を浴びてキラキラと煌めく川の水面が光を乱反射する。その眩しさに咲夜は思わず目を細めた。風が緩やかに通りを吹き抜け、咲夜の長い髪をなびかせてゆく。
人の心の声が聞こえる。
そんな普通ではあり得ない、信じ難い能力を自分が持っていると初めて自覚したのは、自分がまだ小学校へ上がったばかりの頃だった。
その日のことは良く覚えている。
その声は、大抵の子ども達にとって一番近しい人物にあたるであろう『母親』のものだった。
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