104 / 221
7:朝霧くんの観察日記2
7-10
しおりを挟む
朝霧の中で、ひとつ浮かんだ可能性。それは…。
(もしかしたら、辻原の入院している病院へ向かったのではないか?)
…ということだった。
昨夜、父が入院中の彼女の話をしていた時。
アイツの…ミコの様子が少し変だったのだ。
冷静に考えてみれば、有り得ないことだとは思う。
いくら人の言葉を理解していそうでも、そこまで本当に全ての会話を猫が把握することなど普通に考えて無理だろう。
だが、今まで見ていてミコの辻原に対する執着は半端なものではなく。
常識に囚われていては説明の付かないことが多々あったことは確かだ。
それ程に、もしかしたら…と思わせる何かがミコにはあった。
「ねえ、千代さん。親父ってもう出掛けた?」
「ええ、旦那さまでしたら先程お仕事に向かわれましたよ。私もお見送りをして丁度戻って来たところですから」
「……チッ…遅かったか…」
朝霧は千代に聞こえない程に小さく舌打ちをした。
「旦那さまが、どうかなさったのですか?」
「いや…」
(まだ何も、家の中にいないと決まった訳じゃない)
朝霧は周囲へと視線を流した。
その様子を眺めていた千代が思い出したように口を開く。
「そう言えばミコちゃんでしたね。私は、てっきりまだ坊ちゃまと一緒にお休みになっていると思っておりましたので…。起きた時にはもう、いらっしゃらなかったのですか?」
「ああ。ドアを開けた形跡があった」
「まあ…」
(もしかしたら、辻原の入院している病院へ向かったのではないか?)
…ということだった。
昨夜、父が入院中の彼女の話をしていた時。
アイツの…ミコの様子が少し変だったのだ。
冷静に考えてみれば、有り得ないことだとは思う。
いくら人の言葉を理解していそうでも、そこまで本当に全ての会話を猫が把握することなど普通に考えて無理だろう。
だが、今まで見ていてミコの辻原に対する執着は半端なものではなく。
常識に囚われていては説明の付かないことが多々あったことは確かだ。
それ程に、もしかしたら…と思わせる何かがミコにはあった。
「ねえ、千代さん。親父ってもう出掛けた?」
「ええ、旦那さまでしたら先程お仕事に向かわれましたよ。私もお見送りをして丁度戻って来たところですから」
「……チッ…遅かったか…」
朝霧は千代に聞こえない程に小さく舌打ちをした。
「旦那さまが、どうかなさったのですか?」
「いや…」
(まだ何も、家の中にいないと決まった訳じゃない)
朝霧は周囲へと視線を流した。
その様子を眺めていた千代が思い出したように口を開く。
「そう言えばミコちゃんでしたね。私は、てっきりまだ坊ちゃまと一緒にお休みになっていると思っておりましたので…。起きた時にはもう、いらっしゃらなかったのですか?」
「ああ。ドアを開けた形跡があった」
「まあ…」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。
水曜日は図書室で
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
青春
綾織 美久(あやおり みく)、高校二年生。
見た目も地味で引っ込み思案な性格の美久は目立つことが苦手でクラスでも静かに過ごしていた。好きなのは図書室で本を見たり読んだりすること、それともうひとつ。
あるとき美久は図書室で一人の男子・久保田 快(くぼた かい)に出会う。彼はカッコよかったがどこか不思議を秘めていた。偶然から美久は彼と仲良くなっていき『水曜日は図書室で会おう』と約束をすることに……。
第12回ドリーム小説大賞にて奨励賞をいただきました!
本当にありがとうございます!
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる