【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
100 / 221
7:朝霧くんの観察日記2

7-6

しおりを挟む
 セシルの眉が上がり、彼が私に怒っていると言う事に気が付いた。

「セシル?もしかして…私の事怒っているの?私、何か貴方を怒らせるような事をしてしまったのかしら?」

折角、今回のフィリップとの結婚でセシルとの距離も少しは近づけたと思っていたのに。それは私の独りよがりだったのだろうか?

彼は怒気を含んだ声で私に言った。

「ああ、あるね。エルザは今、非常に俺を苛立たせる発言をした。一体どういうつもりで今の発言をしたんだ?」

「どういうつもりって…あ、もしかして特にする事もなかったから…と言った事に対して苛立っているの?」

それしか心当たりが無い。

「そうだ。よく分っているじゃないか。特にする事も無かった?それはあり得ないだろう?あれだけ俺が反対してもエルザはこの家に嫁いで来たんだ。だとしたら男爵家の妻として、色々やらなければならない事があるはずだろう?」

「そ、それは…」

私だって考えていた事だ。男爵家に嫁いで来たのだから、領地の事だって色々教えて貰わなければ分らないことだらけだ。

「第一、何故離れに閉じこもったきりで、両親に挨拶に来ないんだ?そんなにエルザは俺達と交流するのが嫌なのか?」

何も事情を知らないセシルは苛立ちを隠す事も無く、問い詰めて来る。

「あ…そ、それは…」

彼の言う事は尤もだと言うのは良く分っている。
けれど私はフィリップから勝手に本館へ行く事を禁じられているし、会話だってまともに交わす事が出来ない状態だ。

それどころか、結婚したその日のうちに離婚届を手渡されたのだから。

 けれど…自分の置かれた状況をセシルには説明する気にはなれなかった。そんな事を言えば、彼の事だ。
<ほら、だから俺は2人の結婚に反対だったんだ>
そう言うに決まっている。

「何だ?図星を差されて何も言い返せないのか?」

彼は腕組みをすると上から見下ろして来た。

「あ、あの…今朝フィリップが本宅へ行ったでしょう?」

恐る恐る尋ねてみた。

「本宅?何だよ?その言い方は…。まぁ、別にいいけどな」

セシルは呆れた顔を見せると、言葉を続けた。

「兄さんなら昨日も今朝も1人で両親と俺に挨拶をしにきた。両親はエルザがいなかったから兄さんに理由を尋ねたんだよ」

「そうなのね?フィリップは何と説明したの?」

「君は…気分が優れないから、暫くは誰とも関わりたくないので放っておいて欲しいと兄から伝えてもらうように頼んだそうじゃないか?」

「え?!」

そんな…フィリップは私に正式な妻ではないのだから、勝手に本館へは行かないようにと言ったのに?

「それなのに…何だ?特にする事もなかったから刺繍をしていたって…」

セシルは私が刺繍していたハンカチを忌々し気に見た。

「あ、あの…それは…」

どうしよう?本当の事を言うべきなのだろうか?けれど、言えば絶対にフィリップの耳に入ってしまう。それ以前にセシルは私の話を恐らく信じてはくれないだろう。

「どうした?言いたい事があれば言ってみろよ?」

彼に詰め寄られたその時―

「あ、ここにいたのかい?セシル」

不意に声が聞こえ、驚いて振り向くと扉近くにフィリップが立っていた。

「あ…兄さん」

「セシルが離れに来ていると使用人から聞いたから、もしやと思って来てみたけど…やっぱりここに来ていたんだね?」

フィリップは部屋に入って来るとセシルに声をかけた。

「ああ、そうだよ。エルザに何故挨拶に来ないか、直接話を聞く為にね」

セシルは私を睨みつけている。

フィリップ…お願い、貴方から本当の事を説明して頂戴。

私は祈るような気持ちでフィリップを見たのだが…。

「エルザには理由を尋ねておくよ。それより僕の部屋に来ないか?美味しい茶葉があるんだ」

フィリップは笑顔でセシルに言う。

「分ったよ…なら、エルザも一緒に…」

セシルは私の方をチラリと見た。

「ああ、エルザはいいんだよ。昨日から食欲もないから、きっとお茶を飲むのも無理だと思うから」

「え…?わ、分ったよ」

セシルは一瞬怪訝そうな顔を見せたけれどもすぐに頷いた。

「良かった、ならすぐに行こう」

そしてフィリップは一度も私に声を掛ける事も…視線を合わす事も無く、セシルを連れて部屋から出て行った。



バタン…


扉は閉ざされ、私はまた1人きりになってしまった。

「…セシルには笑顔を向けるのね…。それに…私はフィリップの部屋に行った事も無ければ、場所も知らないと言うのに…」

その時、再び胃がズキリと痛んだ。

「う…」

私は椅子に座ると、目を閉じ…痛みが引いて行くのをじっと待った―。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ツインクロス

龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...