【完結】眠り姫は夜を彷徨う

龍野ゆうき

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エピローグという名の日常

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「そうだぞ、お転婆眠り姫。何事も油断大敵って言うだろ?少しの気の緩みでも足元をすくわれかねないのが現実だからな」

突然の声に圭と紅葉は二人して顔を見合わせ、同時に声のする方へと振り返る。すると、そこには「オッス」と片手を上げる桐生と、その横から「おはよー」と爽やかに手を振る立花がいた。

「おはようございますっ」

「おう」

桐生たちは傍まで歩みに寄って来ると、紅葉と圭の二人を挟むように両隣についた。自然な動作で紅葉の横に並んで歩く桐生を見上げて紅葉は首を傾げた。

「さっき言ってたのって何ですか?おてんば…何とか?」

「ああ、『お転婆眠り姫』な。お前のあだ名だな」

「あだ名っ?私のですかっ??」

そんなもの、いつの間に出来たのだろうか。

(まぁ『掃除屋』よりかはマシだけど…)

頭の端でそんなことを考えていると。

「実は昨日、ウチの組の若い奴らが言ってたんだよ。『今日は眠り姫さん、いませんねー』って。何のことなんだか聞き返したら、お前のことを『眠り姫』って皆で呼んでるんだとか言っててよ」

「ええぇ?」

(『姫』っていうのが、ちょっと恐れ多いんだけどーっ)

「ま、言ってる意味は解らなくもねぇんだが、実際そんな大人しいモンじゃねぇだろって話になって」

「あー」

(…ですよねー)

「んで出来たのが『お転婆眠り姫』ってワケだ。ピッタリだろ?手に負えなそうな辺りが」

「ははは…。耳が痛いです…」

肩を落として苦笑を浮かべる紅葉に、横で二人のやり取りを見ていた圭と立花も桐生と一緒になって笑い声を上げた。

「でも、眠りながらにして自ら世直しに精を出してしまうような正義感の強い姫様ですからね。そういない逸材ですよ」

立花が笑いながら言った。

「そんなの、そうそういてたまるかっての。…怖えわ」

肩をすくめて見せる桐生にまたも笑いが起こり、今度は紅葉も一緒になって笑ってしまった。

「でも、本当は眠り姫にだって安眠できる世の中の方が断然良いに決まってるよな?」

優しい笑顔を向けられるのと同時に、大きな手が紅葉の頭の上にポン、と落ちてくる。

「…桐生さん」

「お前が暴れなくても済む街に絶対変えていってやるからよ。だから、お前はもう気負うんじゃねーぞ。怪我までしてお前が一人で頑張る必要なんて何もねーんだから、な?」

そんな桐生さんの優しい言葉に思わずじーん…となって、背の高い彼を見上げたまま動けずにいると、

「良かったね、紅葉…」

元気付けるように圭ちゃんが優しく背中をポンポン…と叩いてくれる。そんな圭ちゃんの向こう側では立花さんも優しい微笑みを浮かべながら頷いてくれていた。


「…はいっ!」




ずっと、嫌いだった『夢遊病』。


何がキッカケで発病したのか。どうして夜な夜な歩き回るようになったのか自分でも分からず、どうすることも出来なかった私の持病。

母や圭ちゃんをはじめ、人に迷惑を掛けるのも嫌だったし、自分の意識とは別の所で勝手に行動する『自分』が何より怖かった。

そんな行動に出てしまう自分自身が何より信じられなかった。


でもそれが、まさかこんな風に思える日が来るなんて…。


自分で思っていた以上に大胆な行動を起こしていた夜の『自分』に何より驚きはしたけれど。

それでも、その行動の中に潜む私自身の想いを理解しようとしてくれて、それらを丸ごと全て受け止めてくれる人がいる。そんな部分も私自身なんだと認めてくれる人たちがいる。

その充足感は、今まで重く心にのしかかっていた固く絡められていた鎖を全て解き放ってくれたかのように、私の心を軽くしてくれた。



ずっと、強くなりたいと思っていた。

でもそれは、本当は『掃除屋』のような力に任せた強さのことをいうのではないのかも知れない。


いつだって隣にいてくれる圭ちゃん。どんな時でも私の身を案じてくれて、私を『いつもの私』に戻してくれる唯一の存在。

そして、一人で頑張り過ぎないで良いんだと言ってくれた桐生さん。そして、彼が率いる立花さん含む松竹組の人たちは、街を正常化する為に日々動いてくれている。私が夜な夜な彷徨い歩いても大丈夫な位、平和な街にしてくれるのだそうだ。


(心強い…。それに尽きるよね…)


『心強い』って、何だか嬉しい響きだ。

強さって、こういうことを言うのかも知れない。





皆の優しい瞳に囲まれて。

紅葉は三つ編みを揺らすと、自らも笑顔を浮かべた。



「ありがとうございますっ!」






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