95 / 95
エピローグという名の日常
9-6
しおりを挟む
「そうだぞ、お転婆眠り姫。何事も油断大敵って言うだろ?少しの気の緩みでも足元をすくわれかねないのが現実だからな」
突然の声に圭と紅葉は二人して顔を見合わせ、同時に声のする方へと振り返る。すると、そこには「オッス」と片手を上げる桐生と、その横から「おはよー」と爽やかに手を振る立花がいた。
「おはようございますっ」
「おう」
桐生たちは傍まで歩みに寄って来ると、紅葉と圭の二人を挟むように両隣についた。自然な動作で紅葉の横に並んで歩く桐生を見上げて紅葉は首を傾げた。
「さっき言ってたのって何ですか?おてんば…何とか?」
「ああ、『お転婆眠り姫』な。お前のあだ名だな」
「あだ名っ?私のですかっ??」
そんなもの、いつの間に出来たのだろうか。
(まぁ『掃除屋』よりかはマシだけど…)
頭の端でそんなことを考えていると。
「実は昨日、ウチの組の若い奴らが言ってたんだよ。『今日は眠り姫さん、いませんねー』って。何のことなんだか聞き返したら、お前のことを『眠り姫』って皆で呼んでるんだとか言っててよ」
「ええぇ?」
(『姫』っていうのが、ちょっと恐れ多いんだけどーっ)
「ま、言ってる意味は解らなくもねぇんだが、実際そんな大人しいモンじゃねぇだろって話になって」
「あー」
(…ですよねー)
「んで出来たのが『お転婆眠り姫』ってワケだ。ピッタリだろ?手に負えなそうな辺りが」
「ははは…。耳が痛いです…」
肩を落として苦笑を浮かべる紅葉に、横で二人のやり取りを見ていた圭と立花も桐生と一緒になって笑い声を上げた。
「でも、眠りながらにして自ら世直しに精を出してしまうような正義感の強い姫様ですからね。そういない逸材ですよ」
立花が笑いながら言った。
「そんなの、そうそういてたまるかっての。…怖えわ」
肩をすくめて見せる桐生にまたも笑いが起こり、今度は紅葉も一緒になって笑ってしまった。
「でも、本当は眠り姫にだって安眠できる世の中の方が断然良いに決まってるよな?」
優しい笑顔を向けられるのと同時に、大きな手が紅葉の頭の上にポン、と落ちてくる。
「…桐生さん」
「お前が暴れなくても済む街に絶対変えていってやるからよ。だから、お前はもう気負うんじゃねーぞ。怪我までしてお前が一人で頑張る必要なんて何もねーんだから、な?」
そんな桐生さんの優しい言葉に思わずじーん…となって、背の高い彼を見上げたまま動けずにいると、
「良かったね、紅葉…」
元気付けるように圭ちゃんが優しく背中をポンポン…と叩いてくれる。そんな圭ちゃんの向こう側では立花さんも優しい微笑みを浮かべながら頷いてくれていた。
「…はいっ!」
ずっと、嫌いだった『夢遊病』。
何がキッカケで発病したのか。どうして夜な夜な歩き回るようになったのか自分でも分からず、どうすることも出来なかった私の持病。
母や圭ちゃんをはじめ、人に迷惑を掛けるのも嫌だったし、自分の意識とは別の所で勝手に行動する『自分』が何より怖かった。
そんな行動に出てしまう自分自身が何より信じられなかった。
でもそれが、まさかこんな風に思える日が来るなんて…。
自分で思っていた以上に大胆な行動を起こしていた夜の『自分』に何より驚きはしたけれど。
それでも、その行動の中に潜む私自身の想いを理解しようとしてくれて、それらを丸ごと全て受け止めてくれる人がいる。そんな部分も私自身なんだと認めてくれる人たちがいる。
その充足感は、今まで重く心にのしかかっていた固く絡められていた鎖を全て解き放ってくれたかのように、私の心を軽くしてくれた。
ずっと、強くなりたいと思っていた。
でもそれは、本当は『掃除屋』のような力に任せた強さのことをいうのではないのかも知れない。
いつだって隣にいてくれる圭ちゃん。どんな時でも私の身を案じてくれて、私を『いつもの私』に戻してくれる唯一の存在。
そして、一人で頑張り過ぎないで良いんだと言ってくれた桐生さん。そして、彼が率いる立花さん含む松竹組の人たちは、街を正常化する為に日々動いてくれている。私が夜な夜な彷徨い歩いても大丈夫な位、平和な街にしてくれるのだそうだ。
(心強い…。それに尽きるよね…)
『心強い』って、何だか嬉しい響きだ。
強さって、こういうことを言うのかも知れない。
皆の優しい瞳に囲まれて。
紅葉は三つ編みを揺らすと、自らも笑顔を浮かべた。
「ありがとうございますっ!」
突然の声に圭と紅葉は二人して顔を見合わせ、同時に声のする方へと振り返る。すると、そこには「オッス」と片手を上げる桐生と、その横から「おはよー」と爽やかに手を振る立花がいた。
「おはようございますっ」
「おう」
桐生たちは傍まで歩みに寄って来ると、紅葉と圭の二人を挟むように両隣についた。自然な動作で紅葉の横に並んで歩く桐生を見上げて紅葉は首を傾げた。
「さっき言ってたのって何ですか?おてんば…何とか?」
「ああ、『お転婆眠り姫』な。お前のあだ名だな」
「あだ名っ?私のですかっ??」
そんなもの、いつの間に出来たのだろうか。
(まぁ『掃除屋』よりかはマシだけど…)
頭の端でそんなことを考えていると。
「実は昨日、ウチの組の若い奴らが言ってたんだよ。『今日は眠り姫さん、いませんねー』って。何のことなんだか聞き返したら、お前のことを『眠り姫』って皆で呼んでるんだとか言っててよ」
「ええぇ?」
(『姫』っていうのが、ちょっと恐れ多いんだけどーっ)
「ま、言ってる意味は解らなくもねぇんだが、実際そんな大人しいモンじゃねぇだろって話になって」
「あー」
(…ですよねー)
「んで出来たのが『お転婆眠り姫』ってワケだ。ピッタリだろ?手に負えなそうな辺りが」
「ははは…。耳が痛いです…」
肩を落として苦笑を浮かべる紅葉に、横で二人のやり取りを見ていた圭と立花も桐生と一緒になって笑い声を上げた。
「でも、眠りながらにして自ら世直しに精を出してしまうような正義感の強い姫様ですからね。そういない逸材ですよ」
立花が笑いながら言った。
「そんなの、そうそういてたまるかっての。…怖えわ」
肩をすくめて見せる桐生にまたも笑いが起こり、今度は紅葉も一緒になって笑ってしまった。
「でも、本当は眠り姫にだって安眠できる世の中の方が断然良いに決まってるよな?」
優しい笑顔を向けられるのと同時に、大きな手が紅葉の頭の上にポン、と落ちてくる。
「…桐生さん」
「お前が暴れなくても済む街に絶対変えていってやるからよ。だから、お前はもう気負うんじゃねーぞ。怪我までしてお前が一人で頑張る必要なんて何もねーんだから、な?」
そんな桐生さんの優しい言葉に思わずじーん…となって、背の高い彼を見上げたまま動けずにいると、
「良かったね、紅葉…」
元気付けるように圭ちゃんが優しく背中をポンポン…と叩いてくれる。そんな圭ちゃんの向こう側では立花さんも優しい微笑みを浮かべながら頷いてくれていた。
「…はいっ!」
ずっと、嫌いだった『夢遊病』。
何がキッカケで発病したのか。どうして夜な夜な歩き回るようになったのか自分でも分からず、どうすることも出来なかった私の持病。
母や圭ちゃんをはじめ、人に迷惑を掛けるのも嫌だったし、自分の意識とは別の所で勝手に行動する『自分』が何より怖かった。
そんな行動に出てしまう自分自身が何より信じられなかった。
でもそれが、まさかこんな風に思える日が来るなんて…。
自分で思っていた以上に大胆な行動を起こしていた夜の『自分』に何より驚きはしたけれど。
それでも、その行動の中に潜む私自身の想いを理解しようとしてくれて、それらを丸ごと全て受け止めてくれる人がいる。そんな部分も私自身なんだと認めてくれる人たちがいる。
その充足感は、今まで重く心にのしかかっていた固く絡められていた鎖を全て解き放ってくれたかのように、私の心を軽くしてくれた。
ずっと、強くなりたいと思っていた。
でもそれは、本当は『掃除屋』のような力に任せた強さのことをいうのではないのかも知れない。
いつだって隣にいてくれる圭ちゃん。どんな時でも私の身を案じてくれて、私を『いつもの私』に戻してくれる唯一の存在。
そして、一人で頑張り過ぎないで良いんだと言ってくれた桐生さん。そして、彼が率いる立花さん含む松竹組の人たちは、街を正常化する為に日々動いてくれている。私が夜な夜な彷徨い歩いても大丈夫な位、平和な街にしてくれるのだそうだ。
(心強い…。それに尽きるよね…)
『心強い』って、何だか嬉しい響きだ。
強さって、こういうことを言うのかも知れない。
皆の優しい瞳に囲まれて。
紅葉は三つ編みを揺らすと、自らも笑顔を浮かべた。
「ありがとうございますっ!」
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。
たかなしポン太
青春
【第7回カクヨムコンテスト中間選考通過作品】
本編完結しました!
「どうして連絡をよこさなかった?」
「……いろいろあったのよ」
「いろいろ?」
「そう。いろいろ……」
「……そうか」
◆◆◆
俺様でイメケンボッチの社長御曹司、宝生秀一。
家が貧しいけれど頭脳明晰で心優しいヒロイン、月島華恋。
同じ高校のクラスメートであるにもかかわらず、話したことすらなかった二人。
ところが……図書館での偶然の出会いから、二人の運命の歯車が回り始める。
ボッチだった秀一は華恋と時間を過ごしながら、少しずつ自分の世界が広がっていく。
そして華恋も秀一の意外な一面に心を許しながら、少しずつ彼に惹かれていった。
しかし……二人の先には、思いがけない大きな障壁が待ち受けていた。
キャラメルから始まる、素直になれない二人の身分差ラブコメディーです!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
タカラジェンヌへの軌跡
赤井ちひろ
青春
私立桜城下高校に通う高校一年生、南條さくら
夢はでっかく宝塚!
中学時代は演劇コンクールで助演女優賞もとるほどの力を持っている。
でも彼女には決定的な欠陥が
受験期間高校三年までの残ります三年。必死にレッスンに励むさくらに運命の女神は微笑むのか。
限られた時間の中で夢を追う少女たちを書いた青春小説。
脇を囲む教師たちと高校生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる