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エピローグという名の日常
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掃除屋が暴れていたことで余計に他所から人が集まって来ていたということは、実は悪循環だったんじゃないかとも思ってしまうけど。それを桐生さんに話したら「余計な事考えてんじゃねぇよ」って頭を軽く小突かれてしまったことは記憶に新しい。
「どうあれ、今までデカい顔して幅を利かせてた警察も手に負えなかった奴らが、掃除屋のお陰でしょっぴかれたのが始まりなんだ。そこから流れを変えて来たんだから何も悪いことばっかりじゃねェだろ?」
そう言って、ニヤリと笑みを浮かべた。
「そもそも、その掃除屋も『お前』だったからこそ、オレら松竹組は今こうして動いてんだ。それで現に街は少しずつだが改善に向かっていってる。全てが繋がっていて、なるようになってんだよ」
だから、余計なことは考えるなと桐生さんは今度は優しげに笑ってくれた。
その言葉に。
自分には『掃除屋』としての記憶は殆どないけれど、そんな無意識に行動してしまっている部分でさえも『私』として認めてくれて、全てをそのまま肯定してくれていることが嬉しかった。
私は、自分で制御出来ない『その部分』が、ずっと嫌いだった。そのことで昔から母や圭ちゃんに沢山迷惑を掛けてきたからだ。でも今回のことで、それらの行動が全て自分の中のわだかまりなどが積もりに積もったことで無意識下で起こしたことだと知った。
ずっと、心の中にあって。
それでも、自分で見ぬふりをし続けていた想い。
そんな私に、桐生さんは目を逸らさず全てを受け止めろと言った。素直に認めることが大事なんだと。あれから少しずつ、自分の気持ちに向き直るように意識するようになった。
自覚したからといって夜の行動が簡単に落ち着く訳ではないのだろうけど。それでも、母が家に居る日が出来たこともあり、今までよりは外を歩き回る頻度が減ったことは確かだった。
「最近はどう?よく眠れてる?」
「そう、だね…。昨日なんかは、お母さんも家に居る日だったし外に出ることはなかったみたいだよ。その分お母さんは大変だったのかも知れないけどね」
今朝母から聞いた話では、やはり夜中に起き出して来たとのことだった。細かなことは何も言わなかったけれど、きっと外へ出ようとする自分を何とか留めてくれたのだろう。ちょっと困ったような微妙な笑顔を浮かべていた母を思い出して苦笑する。
そんな私の様子を見ていた圭ちゃんは、何となく察したみたいだった。
「そっか…。でも前より出歩く日は減ってるみたいだし、良い傾向なんじゃないかな」
「うん、そうだね」
「桐生さんが言うように、僕も紅葉の眠ってる時の強さや素早さは知ってるから認めるけど…。でも、やっぱり心配の方が大きいからさ。前は結構怪我もしてたでしょう?」
僅かに顔を曇らせる圭に、安心させるように紅葉は明るく頷いて見せた。
「うん。でも、だいぶ良くなったよ」
以前は包帯を巻いていた左腕も今は元通りだ。その何もない腕をアピールするように軽く手を上げて見せると、圭も頷いて返した。
「…治って良かったよ。今は桐生さんたちが見回りを強化してくれてるから『打倒掃除屋』みたいな人達もだいぶ減ったみたいだけど、紅葉自身の行動パターンも読める訳ではないし。まだまだ油断は出来ないよね」
(うう、確かにそうなんだけど…)
耳が痛いと思っていた矢先、何処からか声が掛かった。
「どうあれ、今までデカい顔して幅を利かせてた警察も手に負えなかった奴らが、掃除屋のお陰でしょっぴかれたのが始まりなんだ。そこから流れを変えて来たんだから何も悪いことばっかりじゃねェだろ?」
そう言って、ニヤリと笑みを浮かべた。
「そもそも、その掃除屋も『お前』だったからこそ、オレら松竹組は今こうして動いてんだ。それで現に街は少しずつだが改善に向かっていってる。全てが繋がっていて、なるようになってんだよ」
だから、余計なことは考えるなと桐生さんは今度は優しげに笑ってくれた。
その言葉に。
自分には『掃除屋』としての記憶は殆どないけれど、そんな無意識に行動してしまっている部分でさえも『私』として認めてくれて、全てをそのまま肯定してくれていることが嬉しかった。
私は、自分で制御出来ない『その部分』が、ずっと嫌いだった。そのことで昔から母や圭ちゃんに沢山迷惑を掛けてきたからだ。でも今回のことで、それらの行動が全て自分の中のわだかまりなどが積もりに積もったことで無意識下で起こしたことだと知った。
ずっと、心の中にあって。
それでも、自分で見ぬふりをし続けていた想い。
そんな私に、桐生さんは目を逸らさず全てを受け止めろと言った。素直に認めることが大事なんだと。あれから少しずつ、自分の気持ちに向き直るように意識するようになった。
自覚したからといって夜の行動が簡単に落ち着く訳ではないのだろうけど。それでも、母が家に居る日が出来たこともあり、今までよりは外を歩き回る頻度が減ったことは確かだった。
「最近はどう?よく眠れてる?」
「そう、だね…。昨日なんかは、お母さんも家に居る日だったし外に出ることはなかったみたいだよ。その分お母さんは大変だったのかも知れないけどね」
今朝母から聞いた話では、やはり夜中に起き出して来たとのことだった。細かなことは何も言わなかったけれど、きっと外へ出ようとする自分を何とか留めてくれたのだろう。ちょっと困ったような微妙な笑顔を浮かべていた母を思い出して苦笑する。
そんな私の様子を見ていた圭ちゃんは、何となく察したみたいだった。
「そっか…。でも前より出歩く日は減ってるみたいだし、良い傾向なんじゃないかな」
「うん、そうだね」
「桐生さんが言うように、僕も紅葉の眠ってる時の強さや素早さは知ってるから認めるけど…。でも、やっぱり心配の方が大きいからさ。前は結構怪我もしてたでしょう?」
僅かに顔を曇らせる圭に、安心させるように紅葉は明るく頷いて見せた。
「うん。でも、だいぶ良くなったよ」
以前は包帯を巻いていた左腕も今は元通りだ。その何もない腕をアピールするように軽く手を上げて見せると、圭も頷いて返した。
「…治って良かったよ。今は桐生さんたちが見回りを強化してくれてるから『打倒掃除屋』みたいな人達もだいぶ減ったみたいだけど、紅葉自身の行動パターンも読める訳ではないし。まだまだ油断は出来ないよね」
(うう、確かにそうなんだけど…)
耳が痛いと思っていた矢先、何処からか声が掛かった。
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