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エピローグという名の日常
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夢遊病による夜の出歩きは元々昔からあり、勿論母もそれは知っていたことではあった。が、父の事故後やむなく夜勤で働くようになってからは、そんな母に心配を掛けまいと自分は出来るだけその事実を隠してきたし、母自身も気には掛けながらも特に問題が起きていないことで、現在の状況に甘んじてしまっていたと話していた。
流石に今まで朝まで帰らなかったことなど一度もなかったし、出歩いたとしても家の周辺だろうと気楽に考えていたのかも知れない。実際、自分もそう思っていたのは確かだし。よくよく考えてみたら、意識のない中で出歩いていて確実に家に戻って来れるという確証など本当は何もないのだけれど。
でも、今回のことで母は少し考えを改め、夜勤を減らしたのだそうだ。週に二回は今まで通り夜間家を空けることにはなるが、日勤も入れることで、こうして顔を合わせる時間も僅かながら増えたのだ。
これは自分にとって嬉しい変化だった。
今まで寂しかったというのも少なからずあるけれど、何より頑張り過ぎの母の身体が心配だったから。
今回、母に心配を掛けてしまったことは申し訳ないと思う反面、結果的には良い方向へ動いてくれたので自分的には良かったと思っている。
(…そんなこと言ったらバチが当たっちゃうかもだけど)
沢山の人にあんなに迷惑掛けといて、呑気以外の何者でもない。
(圭ちゃんにも、本当に心配掛けちゃったし…)
いつも通り靴を履いて玄関の扉を開ける。
すると。
「おはよう、紅葉」
家の前には既に圭ちゃんが壁に寄りかかるように立っていて、いつもの爽やかな笑顔で迎えてくれた。
「おはよう、圭ちゃん。ごめんねっ、待たせちゃったかな?」
慌てて門の側まで歩み寄ると、圭ちゃんは首を横に振った。
「大丈夫。僕が出るのが少し早かっただけで、紅葉はいつも通りだよ」
そう言って見せる優しい笑顔に。いつだって、つられるように自然とこちらも笑顔になってしまう。
そうして二人並び立つと、どちらともなく歩き始めた。
何気ない話をしながら学校への道のりをゆっくりと歩いてゆく。こういう穏やかな時間は、自分たちにとっては小さな頃からの変わらない、既に日常のようなものだった。でも、桐生さんの家にお世話になったあの日以降、実は圭ちゃんとの関係は少しだけ変わった。
こうして一緒に登校するようになったのも、その変化のひとつ。以前と違う部分は、お互いに『約束』をしているということだ。
以前は、圭ちゃんが家を出る時刻に合わせて私が家を出ていただけで特に一緒に行く約束をしていた訳ではなかった。小学校の頃から、ずっとそんな感じで来たので二人とも特に深く考えたこともなく、それが当たり前になってしまっていたのだ。
だけど、今回初めてそれが途切れた。それは、私が一方的に圭ちゃんから逃げてしまったからなのだけれど。
だって、ずっと考えていた。一緒にいることが当たり前になり過ぎて気付いたら圭ちゃんの迷惑になっていた…なんてことだけは避けたいって。
いつかは圭ちゃんの隣に自分以外の誰かが並び寄り添う日が来る。その時、見苦しい自分でいたくないって。
でも…。
「僕は桐生さんにも他の人にも紅葉のことを好きな気持ち…譲る気なんてないから」
そう圭ちゃんに言われた、あの日。
真剣な顔をした圭ちゃんが、そこにはいた。
流石に今まで朝まで帰らなかったことなど一度もなかったし、出歩いたとしても家の周辺だろうと気楽に考えていたのかも知れない。実際、自分もそう思っていたのは確かだし。よくよく考えてみたら、意識のない中で出歩いていて確実に家に戻って来れるという確証など本当は何もないのだけれど。
でも、今回のことで母は少し考えを改め、夜勤を減らしたのだそうだ。週に二回は今まで通り夜間家を空けることにはなるが、日勤も入れることで、こうして顔を合わせる時間も僅かながら増えたのだ。
これは自分にとって嬉しい変化だった。
今まで寂しかったというのも少なからずあるけれど、何より頑張り過ぎの母の身体が心配だったから。
今回、母に心配を掛けてしまったことは申し訳ないと思う反面、結果的には良い方向へ動いてくれたので自分的には良かったと思っている。
(…そんなこと言ったらバチが当たっちゃうかもだけど)
沢山の人にあんなに迷惑掛けといて、呑気以外の何者でもない。
(圭ちゃんにも、本当に心配掛けちゃったし…)
いつも通り靴を履いて玄関の扉を開ける。
すると。
「おはよう、紅葉」
家の前には既に圭ちゃんが壁に寄りかかるように立っていて、いつもの爽やかな笑顔で迎えてくれた。
「おはよう、圭ちゃん。ごめんねっ、待たせちゃったかな?」
慌てて門の側まで歩み寄ると、圭ちゃんは首を横に振った。
「大丈夫。僕が出るのが少し早かっただけで、紅葉はいつも通りだよ」
そう言って見せる優しい笑顔に。いつだって、つられるように自然とこちらも笑顔になってしまう。
そうして二人並び立つと、どちらともなく歩き始めた。
何気ない話をしながら学校への道のりをゆっくりと歩いてゆく。こういう穏やかな時間は、自分たちにとっては小さな頃からの変わらない、既に日常のようなものだった。でも、桐生さんの家にお世話になったあの日以降、実は圭ちゃんとの関係は少しだけ変わった。
こうして一緒に登校するようになったのも、その変化のひとつ。以前と違う部分は、お互いに『約束』をしているということだ。
以前は、圭ちゃんが家を出る時刻に合わせて私が家を出ていただけで特に一緒に行く約束をしていた訳ではなかった。小学校の頃から、ずっとそんな感じで来たので二人とも特に深く考えたこともなく、それが当たり前になってしまっていたのだ。
だけど、今回初めてそれが途切れた。それは、私が一方的に圭ちゃんから逃げてしまったからなのだけれど。
だって、ずっと考えていた。一緒にいることが当たり前になり過ぎて気付いたら圭ちゃんの迷惑になっていた…なんてことだけは避けたいって。
いつかは圭ちゃんの隣に自分以外の誰かが並び寄り添う日が来る。その時、見苦しい自分でいたくないって。
でも…。
「僕は桐生さんにも他の人にも紅葉のことを好きな気持ち…譲る気なんてないから」
そう圭ちゃんに言われた、あの日。
真剣な顔をした圭ちゃんが、そこにはいた。
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