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エピローグという名の日常
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いつもと変わらない朝。
紅葉は鏡の前で制服のネクタイを締めると、その場でくるりと回って最後の身だしなみチェックをする。
「よしっ」
目の前の鏡に映るのは、二つに揺れる三つ編みと大きめレンズの茶ぶち眼鏡。既に見慣れた学校へ行く時の姿だ。
本当は、この変装のような姿で学校へ通うことをもう止めてしまおうかと少しだけ考えたりした。
肩より長い髪は結わくことが校則で決まっているので良いとしても、流石に眼鏡は伊達なのだし「いくらなんでもやり過ぎなのでは?」…と反対意見を出したのは、生徒会長である立花さんだった。
立花さんとは今まで桐生さんと一緒に居るところを見掛けていたものの、直接話したことはなかった。でも、先日の一件ですっかりお世話になり、今では学校でも会えば挨拶を交わしたり、向こうから声を掛けてくれることも増えた。
学校では生徒会長として、しっかり者の優しい大人の雰囲気を醸し出しているのに、桐生さんと一緒の時の立花さんは年相応の子供っぽさが垣間見えて結構面白い。二人は昔からの付き合いらしく、掛け合いを見ていると学校で見る二人の印象とは全く違って親しみを感じてしまった程だ。
その立花さん自身が私の学校での姿と本来の姿とのギャップが大きかったようで、散々「普通の姿に戻した方がいい」「流石にその恰好はない」と学校での姿を駄目出ししてくるのだけれど…。
圭ちゃんは「紅葉が楽だと思う方で良いと思うよ」と言ってくれているし、何より自分自身がこのスタイルをわりと気に入っているので、結局このまま学校に通っていたりする。
でも、また今日も会えばダメ出しされてしまうのだろう。心底呆れた様子で声を掛けて来る立花さんを思い出して、心の中で苦笑した。
(一緒に居る桐生さんは、特に何も言わないのになぁ)
彼の態度は、あの一件があった後も今までと何ら変わりない。この格好に関しては初めて出会った時から知っていたし、今更感が強いのかも知れないけれど。
でも、きっと桐生さんは人のそういう見た目とか外見部分をあまり気にしない人なのかも知れない。人の本質部分を見据えているというか、見極めようとしているというか。
彼の身の上を知っている今だからこそそう思うのかも知れないけれど、人とは少し違う特別な環境で育ったことが彼をそうさせているのかも知れないと何となく感じていた。
(あの家に居た時の桐生さん、別人みたいだったもんね)
怒ってる顔は人一倍怖くて。良い意味で貫禄があって。そして組の殆どの人が自分より年上なのに皆に慕われている。懐が広くて、精神的に大人。そして、何より優しい人。
桐生さんには救われてばかりだ。
(未だにお世話になりっぱなしで本当に頭が上がらないけど…)
そんなことを考えている間に家を出る時刻になり、鞄を手に取ると部屋を後にした。
階下に降りると、母がダイニングテーブルでゆっくりと珈琲を飲んでくつろいでいるところだった。廊下から顔を出すと、それに気付いた母と目が合う。
「あら、もう行く時間?」
「うん。行ってきます」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
「はーい」
こんな朝のやり取りは、我が家では暫くなかったことだ。実は、先日のあの一件で散々心配を掛けてしまった私は、母を泣かせてしまったのだった。
紅葉は鏡の前で制服のネクタイを締めると、その場でくるりと回って最後の身だしなみチェックをする。
「よしっ」
目の前の鏡に映るのは、二つに揺れる三つ編みと大きめレンズの茶ぶち眼鏡。既に見慣れた学校へ行く時の姿だ。
本当は、この変装のような姿で学校へ通うことをもう止めてしまおうかと少しだけ考えたりした。
肩より長い髪は結わくことが校則で決まっているので良いとしても、流石に眼鏡は伊達なのだし「いくらなんでもやり過ぎなのでは?」…と反対意見を出したのは、生徒会長である立花さんだった。
立花さんとは今まで桐生さんと一緒に居るところを見掛けていたものの、直接話したことはなかった。でも、先日の一件ですっかりお世話になり、今では学校でも会えば挨拶を交わしたり、向こうから声を掛けてくれることも増えた。
学校では生徒会長として、しっかり者の優しい大人の雰囲気を醸し出しているのに、桐生さんと一緒の時の立花さんは年相応の子供っぽさが垣間見えて結構面白い。二人は昔からの付き合いらしく、掛け合いを見ていると学校で見る二人の印象とは全く違って親しみを感じてしまった程だ。
その立花さん自身が私の学校での姿と本来の姿とのギャップが大きかったようで、散々「普通の姿に戻した方がいい」「流石にその恰好はない」と学校での姿を駄目出ししてくるのだけれど…。
圭ちゃんは「紅葉が楽だと思う方で良いと思うよ」と言ってくれているし、何より自分自身がこのスタイルをわりと気に入っているので、結局このまま学校に通っていたりする。
でも、また今日も会えばダメ出しされてしまうのだろう。心底呆れた様子で声を掛けて来る立花さんを思い出して、心の中で苦笑した。
(一緒に居る桐生さんは、特に何も言わないのになぁ)
彼の態度は、あの一件があった後も今までと何ら変わりない。この格好に関しては初めて出会った時から知っていたし、今更感が強いのかも知れないけれど。
でも、きっと桐生さんは人のそういう見た目とか外見部分をあまり気にしない人なのかも知れない。人の本質部分を見据えているというか、見極めようとしているというか。
彼の身の上を知っている今だからこそそう思うのかも知れないけれど、人とは少し違う特別な環境で育ったことが彼をそうさせているのかも知れないと何となく感じていた。
(あの家に居た時の桐生さん、別人みたいだったもんね)
怒ってる顔は人一倍怖くて。良い意味で貫禄があって。そして組の殆どの人が自分より年上なのに皆に慕われている。懐が広くて、精神的に大人。そして、何より優しい人。
桐生さんには救われてばかりだ。
(未だにお世話になりっぱなしで本当に頭が上がらないけど…)
そんなことを考えている間に家を出る時刻になり、鞄を手に取ると部屋を後にした。
階下に降りると、母がダイニングテーブルでゆっくりと珈琲を飲んでくつろいでいるところだった。廊下から顔を出すと、それに気付いた母と目が合う。
「あら、もう行く時間?」
「うん。行ってきます」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
「はーい」
こんな朝のやり取りは、我が家では暫くなかったことだ。実は、先日のあの一件で散々心配を掛けてしまった私は、母を泣かせてしまったのだった。
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