【完結】眠り姫は夜を彷徨う

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
90 / 95
エピローグという名の日常

9-1

しおりを挟む
いつもと変わらない朝。

紅葉は鏡の前で制服のネクタイを締めると、その場でくるりと回って最後の身だしなみチェックをする。


「よしっ」


目の前の鏡に映るのは、二つに揺れる三つ編みと大きめレンズの茶ぶち眼鏡。既に見慣れた学校へ行く時の姿だ。

本当は、この変装のような姿で学校へ通うことをもう止めてしまおうかと少しだけ考えたりした。

肩より長い髪は結わくことが校則で決まっているので良いとしても、流石に眼鏡は伊達なのだし「いくらなんでもやり過ぎなのでは?」…と反対意見を出したのは、生徒会長である立花さんだった。


立花さんとは今まで桐生さんと一緒に居るところを見掛けていたものの、直接話したことはなかった。でも、先日の一件ですっかりお世話になり、今では学校でも会えば挨拶を交わしたり、向こうから声を掛けてくれることも増えた。

学校では生徒会長として、しっかり者の優しい大人の雰囲気を醸し出しているのに、桐生さんと一緒の時の立花さんは年相応の子供っぽさが垣間見えて結構面白い。二人は昔からの付き合いらしく、掛け合いを見ていると学校で見る二人の印象とは全く違って親しみを感じてしまった程だ。


その立花さん自身が私の学校での姿と本来の姿とのギャップが大きかったようで、散々「普通の姿に戻した方がいい」「流石にその恰好はない」と学校での姿を駄目出ししてくるのだけれど…。

圭ちゃんは「紅葉が楽だと思う方で良いと思うよ」と言ってくれているし、何より自分自身がこのスタイルをわりと気に入っているので、結局このまま学校に通っていたりする。

でも、また今日も会えばダメ出しされてしまうのだろう。心底呆れた様子で声を掛けて来る立花さんを思い出して、心の中で苦笑した。

(一緒に居る桐生さんは、特に何も言わないのになぁ)

彼の態度は、あの一件があった後も今までと何ら変わりない。この格好に関しては初めて出会った時から知っていたし、今更感が強いのかも知れないけれど。

でも、きっと桐生さんは人のそういう見た目とか外見部分をあまり気にしない人なのかも知れない。人の本質部分を見据えているというか、見極めようとしているというか。

彼の身の上を知っている今だからこそそう思うのかも知れないけれど、人とは少し違う特別な環境で育ったことが彼をそうさせているのかも知れないと何となく感じていた。

(あの家に居た時の桐生さん、別人みたいだったもんね)

怒ってる顔は人一倍怖くて。良い意味で貫禄があって。そして組の殆どの人が自分より年上なのに皆に慕われている。懐が広くて、精神的に大人。そして、何より優しい人。

桐生さんには救われてばかりだ。

(未だにお世話になりっぱなしで本当に頭が上がらないけど…)


そんなことを考えている間に家を出る時刻になり、鞄を手に取ると部屋を後にした。

階下に降りると、母がダイニングテーブルでゆっくりと珈琲を飲んでくつろいでいるところだった。廊下から顔を出すと、それに気付いた母と目が合う。

「あら、もう行く時間?」

「うん。行ってきます」

「いってらっしゃい。気を付けてね」

「はーい」

こんな朝のやり取りは、我が家では暫くなかったことだ。実は、先日のあの一件で散々心配を掛けてしまった私は、母を泣かせてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

タカラジェンヌへの軌跡

赤井ちひろ
青春
私立桜城下高校に通う高校一年生、南條さくら 夢はでっかく宝塚! 中学時代は演劇コンクールで助演女優賞もとるほどの力を持っている。 でも彼女には決定的な欠陥が 受験期間高校三年までの残ります三年。必死にレッスンに励むさくらに運命の女神は微笑むのか。 限られた時間の中で夢を追う少女たちを書いた青春小説。 脇を囲む教師たちと高校生の物語。

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

処理中です...