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君のために出来ること
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「何だかんだ彼女の思惑通り、良いように乗せられてしまっていたんだね。しっかりしないとダメだね。桐生さんにも釘を刺されてしまったし」
そう言って、圭は困ったように眉を下げて笑った。
香帆が去った後、圭は桐生たち二人に礼を述べた。彼らのお陰で強引に話を持っていかれがちだった彼女を納得させ、退けることが出来たからだ。
もしも、あのまま二人が現れなかったら、最終的には香帆を怒らせて大きな問題へと発展していたかも知れない。それを考えると、やはり素直に助かったという気持ちの方が強かったのだ。
それを素直に伝えると、桐生は真面目な顔をして圭に向き直って言った。
「お前が如月を守ろうとしていたのは十分解る。だが、写真を盾にされていたとはいえ、相手の思うままの条件を呑んで振り回されて、それで逆に自分の大切な奴を傷つけてたら元も子もねェだろうが。まあ、写真を確認する為の方法としては、分からなくもねぇんだがな」
桐生は腕を組むと小さく息を吐いた。
(紅葉を…傷つけていた?)
その部分に自覚がなかった圭は、その言葉に驚き瞳を見開いていたが、桐生は言葉を続けた。
「ま、それがお前なりのやり方なんだろ。優しすぎるんだな、お前は。それはそれで良いことなのかも知れねぇけど。だがな、あんまりそんな風だと…」
桐生はそこで一旦言葉を区切ると、二人の様子を横でキョトンとして見つめている紅葉に視線を移しながら、圭の耳元へと口を寄せた。そして、耳打ちをするように圭にしか聞こえない程度の小さな声でそっと囁いた。
「オレが紅葉を貰っちまうぞ?」
「……っ…!?」
動揺を隠せないでいる圭の様子に桐生は満足げに口端を上げると、今度は通常の声で言った。
「それが嫌だったら、しっかり掴まえとくんだな?」
ニヤリと笑う、その表情は…ある意味宣戦布告だ。
(正直、この人には勝てる気がしない…)
男の目から見ても彼の志や行動は見ていて尊敬や憧憬に値するもので、圭にとっては自分とは住む世界が違うのだということをまざまざと見せつけられてしまうようなものであった。
(それでも…。僕にだって譲れないものはある)
「ご忠告、肝に銘じておきます」
真面目な顔で真っ直ぐに圭がそう告げると、桐生は面白いものを見るように「おう」と笑った。
そんなすっかり打ち解けたライバル同士のような二人のやり取りに立花は微笑ましそうに笑顔を浮かべ、一人いまいち状況を理解していない紅葉は不思議そうにそのさまを見つめていたのだった。
「圭ちゃん、桐生さんたちとすっかり仲良しになったよね」
どこか嬉しそうに、そう横から見上げて来る紅葉に圭は苦笑を浮かべた。
「仲良しっていうのとは違うとは思うけど…。でもまぁ、良い意味で喝を入れて貰ったよ」
「喝を?」
「そう。紅葉のことでね」
「…私のこと?」
「うん」
未だによく分かっていないらしい紅葉に圭は足を止めてしっかりと向き直ると、大きな瞳を真っ直ぐに見つめて言った。
「紅葉のことが好きなら、ちゃんと離さずに掴まえておけって」
「……っ…」
紅葉の大きな瞳がもっと大きく見開かれ、そこに自分が映っているのが見える。それを覗き込みながら圭は微笑んで言った。
「僕は桐生さんにも他の人にも紅葉のことを好きな気持ち…譲る気なんてないから」
そう言って、圭は困ったように眉を下げて笑った。
香帆が去った後、圭は桐生たち二人に礼を述べた。彼らのお陰で強引に話を持っていかれがちだった彼女を納得させ、退けることが出来たからだ。
もしも、あのまま二人が現れなかったら、最終的には香帆を怒らせて大きな問題へと発展していたかも知れない。それを考えると、やはり素直に助かったという気持ちの方が強かったのだ。
それを素直に伝えると、桐生は真面目な顔をして圭に向き直って言った。
「お前が如月を守ろうとしていたのは十分解る。だが、写真を盾にされていたとはいえ、相手の思うままの条件を呑んで振り回されて、それで逆に自分の大切な奴を傷つけてたら元も子もねェだろうが。まあ、写真を確認する為の方法としては、分からなくもねぇんだがな」
桐生は腕を組むと小さく息を吐いた。
(紅葉を…傷つけていた?)
その部分に自覚がなかった圭は、その言葉に驚き瞳を見開いていたが、桐生は言葉を続けた。
「ま、それがお前なりのやり方なんだろ。優しすぎるんだな、お前は。それはそれで良いことなのかも知れねぇけど。だがな、あんまりそんな風だと…」
桐生はそこで一旦言葉を区切ると、二人の様子を横でキョトンとして見つめている紅葉に視線を移しながら、圭の耳元へと口を寄せた。そして、耳打ちをするように圭にしか聞こえない程度の小さな声でそっと囁いた。
「オレが紅葉を貰っちまうぞ?」
「……っ…!?」
動揺を隠せないでいる圭の様子に桐生は満足げに口端を上げると、今度は通常の声で言った。
「それが嫌だったら、しっかり掴まえとくんだな?」
ニヤリと笑う、その表情は…ある意味宣戦布告だ。
(正直、この人には勝てる気がしない…)
男の目から見ても彼の志や行動は見ていて尊敬や憧憬に値するもので、圭にとっては自分とは住む世界が違うのだということをまざまざと見せつけられてしまうようなものであった。
(それでも…。僕にだって譲れないものはある)
「ご忠告、肝に銘じておきます」
真面目な顔で真っ直ぐに圭がそう告げると、桐生は面白いものを見るように「おう」と笑った。
そんなすっかり打ち解けたライバル同士のような二人のやり取りに立花は微笑ましそうに笑顔を浮かべ、一人いまいち状況を理解していない紅葉は不思議そうにそのさまを見つめていたのだった。
「圭ちゃん、桐生さんたちとすっかり仲良しになったよね」
どこか嬉しそうに、そう横から見上げて来る紅葉に圭は苦笑を浮かべた。
「仲良しっていうのとは違うとは思うけど…。でもまぁ、良い意味で喝を入れて貰ったよ」
「喝を?」
「そう。紅葉のことでね」
「…私のこと?」
「うん」
未だによく分かっていないらしい紅葉に圭は足を止めてしっかりと向き直ると、大きな瞳を真っ直ぐに見つめて言った。
「紅葉のことが好きなら、ちゃんと離さずに掴まえておけって」
「……っ…」
紅葉の大きな瞳がもっと大きく見開かれ、そこに自分が映っているのが見える。それを覗き込みながら圭は微笑んで言った。
「僕は桐生さんにも他の人にも紅葉のことを好きな気持ち…譲る気なんてないから」
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