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君のために出来ること

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何より紅葉が無事だったことの方が重要であり、自分の中で渦巻く醜い感情などどうでもいいことだ。そう思っていた。

でも…。


「紅葉…。それって…?」


呆然と。だが、紅葉の口から出た一言一言を圭は頭の中で繰り返し考えていた。

『今の私にとっては、圭ちゃんが特別で一番大切』

何となく「特別」という言葉については気を使わせて言わせてしまった感は否めないが、その言葉は何よりも嬉しい。だが『一番にはなれなかった』というのは、どういう意味なのだろうか?

固まる圭に、紅葉は柔らかな笑顔で言った。

「後悔…してたんだ。「放っておいて」って言っちゃったこと。こないだはね、ちょっと意地になっちゃってたから。これ以上圭ちゃんに嫌われるのが怖くて。そんな自分が嫌で…ね」

「だから、どうしてそんな話になっちゃうんだよ」

それは前にも言ったことだった。紅葉もそれを覚えていたのか、困ったように眉を下げて笑った。

「そうだね…。でも私、圭ちゃんが傍にいるのが当たり前になっちゃってたから」

『傍にいるのが当たり前になってる』良いことじゃないか。圭はそう思いながらも黙って聞いている。

「圭ちゃんの優しさに甘えてばかりいて、迷惑掛けてることに気付けないのは嫌だなって…」

そこまで聞いて圭はたまらず声を上げた。

「僕は迷惑だなんて思ってないっ!…何でそうなっちゃうんだよ?何かそう思わせるような態度を僕はしたかな?」

あまりにマイナス思考な紅葉に、思いのほか声が大きくなってしまった。だが、紅葉は特に気にする様子もなく微笑みを浮かべたまま言った。

「圭ちゃんは悪くないよ。でも、周りの人の方が冷静に見れることもあるのかなぁって思っただけだよ」

「周りって…。誰かに何か言われたの?」

その言葉に紅葉は苦笑を浮かべただけだったが、その顔を見れば何かあったことは一目瞭然だった。

「いったい、誰に…」

何を言われたのか。そう問い掛けるのと同時に紅葉が口を開く。

「ちゃん付け…。恥ずかしい?」

「え?」

一瞬、何のことを言われたのか解らずに聞き返した。

「圭ちゃんは、もう『ちゃん』付けで呼ばれたりするのは、やっぱり恥ずかしい?止めて欲しいって思ってたりする?」

そう言って、相変わらず穏やかな微笑みを浮かべてはいるものの、それは何処か寂しげなもので。圭はいぶかしげに眉を寄せた。

「紅葉?何で急にそんなこと…。もしかして、それも誰かに言われたの?」

自然と語尾が強くなってしまった。だって、あまりに下らな過ぎる。そんな低級なことを紅葉に吹き込んだのは、いったい誰なんだ?

怒りがふつふつと湧き上がるけれど、まずは紅葉の誤解を解くのが先決だ、と圭は紅葉にしっかり向き直った。

「言っとくけど、僕は紅葉に『ちゃん』付けで呼ばれることに不満なんて一度も感じたことはないよ。それに、紅葉とのことで迷惑だとか思ったことなんて一度もない。それは自信を持って言えるよ」

真剣な顔で真っ直ぐに紅葉の瞳を見て言った。

「僕は、紅葉にはもっと頼って欲しいと思ってるんだ。もっと甘えて欲しいくらいなんだよ」

「圭ちゃん…」

「誰が何を紅葉に言ったかは分からないけど、それが僕の本音なんだ。だから、どうか僕の言葉を信じて欲しい」

「……っ…」

紅葉の瞳が僅かに揺らいだ。
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