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君のために出来ること
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素直な紅葉の様子に、桐生は口の端を上げた。
「だったら、まずはお前自身がそれをちゃんと自分で受け止めないとな」
「自分で…受け止める…」
「ああ。目を逸らさず全てを受け止めろ。悔しさだとか悲しみだとか何もかも、な。無理して平気な顔なんかしようとするから変なところで自分が抑えられなくなるんだよ。だから、まずは自分の気持ちに素直になってみろよ」
腕を組みながらそう話す桐生は、とても穏やかな顔をしていた。横についている立花も門脇も時折頷きながら桐生の意見に静かに耳を傾けている。
「その上で、これからのことはオレらに託してくんねぇか?」
そう語る桐生の瞳には、今度は強い意志が宿っていた。
「え…?」
紅葉は目を丸くした。
(どういう意味?だろう…。託す…?)
思い切り『?』を飛ばしてしまう。無意識に救いを求めるように隣に座る圭に視線を向けるが、圭は真剣に桐生の言葉に耳を傾けているようだった。
「確かに今だにあの辺りは物騒で、放っておけない位馬鹿な奴らで溢れてる。今のままではお前の親父さんの事故みたいなことがまた起きないとも限らねェ。そこは何としても防がなきゃなんねぇとは思うが…でもな、だからと言ってお前一人がそこまでして頑張る必要なんかねぇんだよ。寧ろ、このままじゃオレら松竹組の名が廃るってもんだよな?」
そう区切ったところで、桐生は横の二人に同意を求めるようにニヤリと笑みを浮かべた。
「京介さんっ。それじゃあ…」
「若…」
「ああ。今後は、松竹組が責任を持って街の浄化・再生に全力を尽くさせて貰う」
そして…。
時刻は、もうすぐ午前十時を回るという頃。
頭上から眩しい程に日差しが降り注ぐ中、紅葉は自転車を押しながら歩く圭とともに静かな住宅街の中を帰途に就いていた。
実は圭が自転車の後ろに乗るかと声を掛けてくれたのだが、紅葉は少し一緒に歩きたくて、その旨を伝えたことで現在に至っている。
二人は暫く無言だった。
それでも、この無言の間がどれだけ続こうとも変に気まずい空気にならないのが圭と一緒にいて居心地の良い部分なのだと紅葉は常々思っている。
ただ一つだけ、現在の状況に違和感を感じる部分があるとすれば、それは自分の格好が夜眠る際の部屋着であること位だろう。特にパジャマ等の如何にもな服装ではないだけマシだが、自分的にはこの格好で外を出歩くことはないので、やはり少しだけ気恥ずかしい感じがした。
紅葉はふと、隣を歩く圭を少しだけ横目で盗み見た。流石に今回は圭に多大な迷惑を掛けてしまった自覚はある。
(いい加減、見限られちゃうかな…)
真っ直ぐ前を見つめて歩いている圭に気付かれない程に小さくひっそりと息を吐いた。
桐生の家で色々と話し込んでいたら、気付けば結構な時間が経過してしまっていた。圭が立花から連絡を受けて、あの家に到着したのが七時半を過ぎた頃だったので、約二時間は話していたことになる。
紅葉的には自覚のないままに目が覚めたら見たこともない桐生の家の庭にいたのだから、とにかく驚きしかなかったのだけれど。
でも、何よりも自分が今までしてきたことの真実。そして、目が覚めるまでにも自分を保護してくれた桐生たちに対して暴れていたという事実に。あまりに情けなくて穴があったら入りたい気分だった。
「だったら、まずはお前自身がそれをちゃんと自分で受け止めないとな」
「自分で…受け止める…」
「ああ。目を逸らさず全てを受け止めろ。悔しさだとか悲しみだとか何もかも、な。無理して平気な顔なんかしようとするから変なところで自分が抑えられなくなるんだよ。だから、まずは自分の気持ちに素直になってみろよ」
腕を組みながらそう話す桐生は、とても穏やかな顔をしていた。横についている立花も門脇も時折頷きながら桐生の意見に静かに耳を傾けている。
「その上で、これからのことはオレらに託してくんねぇか?」
そう語る桐生の瞳には、今度は強い意志が宿っていた。
「え…?」
紅葉は目を丸くした。
(どういう意味?だろう…。託す…?)
思い切り『?』を飛ばしてしまう。無意識に救いを求めるように隣に座る圭に視線を向けるが、圭は真剣に桐生の言葉に耳を傾けているようだった。
「確かに今だにあの辺りは物騒で、放っておけない位馬鹿な奴らで溢れてる。今のままではお前の親父さんの事故みたいなことがまた起きないとも限らねェ。そこは何としても防がなきゃなんねぇとは思うが…でもな、だからと言ってお前一人がそこまでして頑張る必要なんかねぇんだよ。寧ろ、このままじゃオレら松竹組の名が廃るってもんだよな?」
そう区切ったところで、桐生は横の二人に同意を求めるようにニヤリと笑みを浮かべた。
「京介さんっ。それじゃあ…」
「若…」
「ああ。今後は、松竹組が責任を持って街の浄化・再生に全力を尽くさせて貰う」
そして…。
時刻は、もうすぐ午前十時を回るという頃。
頭上から眩しい程に日差しが降り注ぐ中、紅葉は自転車を押しながら歩く圭とともに静かな住宅街の中を帰途に就いていた。
実は圭が自転車の後ろに乗るかと声を掛けてくれたのだが、紅葉は少し一緒に歩きたくて、その旨を伝えたことで現在に至っている。
二人は暫く無言だった。
それでも、この無言の間がどれだけ続こうとも変に気まずい空気にならないのが圭と一緒にいて居心地の良い部分なのだと紅葉は常々思っている。
ただ一つだけ、現在の状況に違和感を感じる部分があるとすれば、それは自分の格好が夜眠る際の部屋着であること位だろう。特にパジャマ等の如何にもな服装ではないだけマシだが、自分的にはこの格好で外を出歩くことはないので、やはり少しだけ気恥ずかしい感じがした。
紅葉はふと、隣を歩く圭を少しだけ横目で盗み見た。流石に今回は圭に多大な迷惑を掛けてしまった自覚はある。
(いい加減、見限られちゃうかな…)
真っ直ぐ前を見つめて歩いている圭に気付かれない程に小さくひっそりと息を吐いた。
桐生の家で色々と話し込んでいたら、気付けば結構な時間が経過してしまっていた。圭が立花から連絡を受けて、あの家に到着したのが七時半を過ぎた頃だったので、約二時間は話していたことになる。
紅葉的には自覚のないままに目が覚めたら見たこともない桐生の家の庭にいたのだから、とにかく驚きしかなかったのだけれど。
でも、何よりも自分が今までしてきたことの真実。そして、目が覚めるまでにも自分を保護してくれた桐生たちに対して暴れていたという事実に。あまりに情けなくて穴があったら入りたい気分だった。
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