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君のために出来ること
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「あの初めて彼女を見つけた日。俺、掃除屋の顔を遠目で見たって言ってたじゃないスか」
「ああ。言ってたな」
「その時、実は彼女と一緒にいる本宮くんらしき姿を見掛けたんですよ。通りの向こうを自転車で二人乗りして行く所だったので、遠目だし確証はなかったんですけど」
あまり言い訳じみないように心掛けながら説明していると、桐生はニヤリと笑みを浮かべた。
「ほお?そんな話、初耳だな?」
変に凄みを出しつつも口角が上がっていて、余計に凶悪さが増している笑顔だった。
「や、やだなぁ。そんな怖い顔しないで下さいよ。ちゃんと確証を得てから報告しようと思っていただけじゃないですか。曖昧な情報を伝えても意味ないですから!それで後日、本宮くんに聞いたんです。一緒にいた子は誰なのかって」
「それで?」
「でも、本宮くんには振られちゃったんですよ。ね?本宮くん」
立花が救いを求めるように圭に同意を求めるが、圭は複雑そうな表情を浮かべるだけだった。
「ちょっと!本宮くんっ?」
慌てる立花に、圭は渋々口を開く。
「僕は『言いたくない』って立花さんに伝えました。一緒にいた子が噂の掃除屋かも知れないから、誰なのかだけでも教えて欲しいって説得されたんですけど。僕は、信じたくなかったし…」
そう話す圭の言葉に紅葉がゆっくりと視線を上げる。
「それに僕は、掃除屋の『仲間』ではないけど彼女を庇ってると思われるならそれでも構わないからって。自分からは何も話せることはないと、そう立花さんに伝えました」
そうきっぱりと答える圭は、険しい顔をしている桐生に負けない強い意志を瞳に宿していた。
「お前、本宮って言ったか。なかなか言うじゃねぇか。やっぱ男はそれ位でなくっちゃな」
桐生の瞳から僅かに険が抜ける。
真っ直ぐに目を合わせ、自分の意見をしっかり通せる圭を桐生はどうやら気に入ったようだ。何より彼女を守ろうとする想いに少なからず共感し、同族意識が芽生えたのかも知れない。
そんな桐生の表情の変化を横で観察しながらも、立花は自分に振られた話についてもどうにか納得してくれたようなので、内心で胸をなで下ろしていた。まあ、彼が本気で自分を責めていた訳ではないこと位は理解しているけれど。こんなのは二人にとっては日常茶飯事であり、ある意味じゃれ合いのようなものなのだ。
「何にしても、あとは如月…」
「はい…」
桐生が言葉を区切って呼び掛けると、紅葉はしっかり顔を上げて視線を桐生に合わせてきた。その瞳は若干不安そうに揺れてはいるものの、もう先程のような暗い色は存在していない。
「お前自身が自分の行動の意味を理解して、しっかり自覚しねぇとだな」
桐生は優しく諭すように言った。
「行動の…意味、ですか?」
「そうだ。本宮が言うように親父さんの事故を引きずっている自覚、少なからずあるんだろ?その時の傷がお前の深い部分には未だあって、それが夜の行動に現れてるってことなんじゃねェのか?」
桐生は確信していた。見ていたのだ。圭が紅葉の父親の話をしている時、辛そうに拳を握り締めていたことを。そして、その身を小さく震わせていたことを。
「そう、ですね…。そうなのかも知れません」
紅葉は小さく頷いた。
「ああ。言ってたな」
「その時、実は彼女と一緒にいる本宮くんらしき姿を見掛けたんですよ。通りの向こうを自転車で二人乗りして行く所だったので、遠目だし確証はなかったんですけど」
あまり言い訳じみないように心掛けながら説明していると、桐生はニヤリと笑みを浮かべた。
「ほお?そんな話、初耳だな?」
変に凄みを出しつつも口角が上がっていて、余計に凶悪さが増している笑顔だった。
「や、やだなぁ。そんな怖い顔しないで下さいよ。ちゃんと確証を得てから報告しようと思っていただけじゃないですか。曖昧な情報を伝えても意味ないですから!それで後日、本宮くんに聞いたんです。一緒にいた子は誰なのかって」
「それで?」
「でも、本宮くんには振られちゃったんですよ。ね?本宮くん」
立花が救いを求めるように圭に同意を求めるが、圭は複雑そうな表情を浮かべるだけだった。
「ちょっと!本宮くんっ?」
慌てる立花に、圭は渋々口を開く。
「僕は『言いたくない』って立花さんに伝えました。一緒にいた子が噂の掃除屋かも知れないから、誰なのかだけでも教えて欲しいって説得されたんですけど。僕は、信じたくなかったし…」
そう話す圭の言葉に紅葉がゆっくりと視線を上げる。
「それに僕は、掃除屋の『仲間』ではないけど彼女を庇ってると思われるならそれでも構わないからって。自分からは何も話せることはないと、そう立花さんに伝えました」
そうきっぱりと答える圭は、険しい顔をしている桐生に負けない強い意志を瞳に宿していた。
「お前、本宮って言ったか。なかなか言うじゃねぇか。やっぱ男はそれ位でなくっちゃな」
桐生の瞳から僅かに険が抜ける。
真っ直ぐに目を合わせ、自分の意見をしっかり通せる圭を桐生はどうやら気に入ったようだ。何より彼女を守ろうとする想いに少なからず共感し、同族意識が芽生えたのかも知れない。
そんな桐生の表情の変化を横で観察しながらも、立花は自分に振られた話についてもどうにか納得してくれたようなので、内心で胸をなで下ろしていた。まあ、彼が本気で自分を責めていた訳ではないこと位は理解しているけれど。こんなのは二人にとっては日常茶飯事であり、ある意味じゃれ合いのようなものなのだ。
「何にしても、あとは如月…」
「はい…」
桐生が言葉を区切って呼び掛けると、紅葉はしっかり顔を上げて視線を桐生に合わせてきた。その瞳は若干不安そうに揺れてはいるものの、もう先程のような暗い色は存在していない。
「お前自身が自分の行動の意味を理解して、しっかり自覚しねぇとだな」
桐生は優しく諭すように言った。
「行動の…意味、ですか?」
「そうだ。本宮が言うように親父さんの事故を引きずっている自覚、少なからずあるんだろ?その時の傷がお前の深い部分には未だあって、それが夜の行動に現れてるってことなんじゃねェのか?」
桐生は確信していた。見ていたのだ。圭が紅葉の父親の話をしている時、辛そうに拳を握り締めていたことを。そして、その身を小さく震わせていたことを。
「そう、ですね…。そうなのかも知れません」
紅葉は小さく頷いた。
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