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君のために出来ること

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「実は彼女さ、まだ眠ってる状態みたいなんだよね。それで、起き抜けにちょっと暴れちゃったんで今桐生先輩が止めに入ってくれたんだけど…」

「ええぇっ?!」

圭が身を乗り出して紅葉の様子を伺う。

「紅葉…っ…」

「でね、どうにか彼女を正気に戻したいんだけど。本宮くん、何か良い方法ってないかな?」

「方法、ですか…」

圭は小さく呟くと、口元に手を当てて何か考える素振りを見せていた。だが、次の瞬間。顔を上げると同時に大声を張り上げた。



「紅葉っ!」



その突然の呼び声に驚き、声がした屋敷の方へと皆が一斉に振り返る中。その声に反応するように紅葉もビクリ…と身体を震わせると、ゆっくり声のする方を振り返った。

その大きく見開かれた瞳には、声の主である圭の姿を確実に捕らえ、映し出していた。


「けい…ちゃん…?」



「……っ…」

今まで何処か虚ろで陰を落としたような暗い色をしていたその瞳に。一瞬の間に光が差していくようだった。

そのさまを一番間近で見ていた桐生は、すぐにその変化に気付いた。

「如月、お前もしかして…。目が覚めたのか?」

すると、呆然と幼馴染みの少年に向けていた視線をこちらへと戻すと、そこで初めて桐生が目の前にいたことに気付いたように目を丸くした。

「えっ…桐生さん…?どうしてここに…?」

驚いた様子でこちらを見上げている、いつも通りの彼女に。桐生は内心で胸を撫で下ろしつつも複雑な気分になる。

(アイツの呼び掛けひとつで戻るんだな。オレのことは忘れてたくせに…)

それでも、己の中にくすぶる僅かなしこりには目を瞑ると、こちらの苦労も何も知らない無邪気な少女に笑顔を向けた。

「どうしても何も…。ここオレん家なんだけど」

「え?」

すると、途端に自分の今の状況の異変に気付いたのか、辺りをきょろきょろと見渡し、見る見る間に大きな瞳をもっと大きくさせた。


「えええええーーーーっ!?」




そうして紅葉は、やっと自分の置かれている状況を把握したのである。


眠っていたとはいえ、裸足のまま庭に降りてしまっていた紅葉に桐生は「とりあえず一旦部屋に上がれ」と言って足拭き用のタオルなどを用意をしてくれた。その時、桐生も自分と同様に靴を履いていなかったことに初めて気が付いた。起き抜けに少々暴れてしまったという話だったから、慌てて止めに入ってくれたのかも知れない。

そんな場面が容易に想像出来てしまって、何だか本当に申し訳ない気持ちになった。

和室に通され、昨夜からの出来事を桐生たちから詳しく聞いている間も、紅葉はずっと話に耳を傾けながら正座したまま固まっていた。その内容が自分のことながら、あまりに信じ難いものであったから。

自分が夜な夜な出歩いていることは知っていた。だから、昨夜は簡単に部屋を出られないように警戒していたのに。

(結局、バリケードなんか意味なかったってことだよね…)

現在の自分の部屋の惨状を想像するだけで頭が痛くなった。

それに、今までなら外でそのまま通常の眠りに戻るなんてことは一度たりともなかった筈なのに。昨夜に限って気を失うように眠ってしまっただなんて、どれだけ迷惑を掛ければ気が済むのか。
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