【完結】眠り姫は夜を彷徨う

龍野ゆうき

文字の大きさ
上 下
68 / 95
奇跡の少女

7-5

しおりを挟む
昨夜。

立花が桐生からの連絡を受けたのは、日付が変わる少し前のことだった。

『無事、掃除屋との接触を果たした』との報告に、今までの桐生の苦労を知っている身としては、それは嬉しいニュース以外の何ものでもなく。だが、何よりその正体に興味津々だった立花は、次に続いた桐生の言葉に暫く『?』を飛ばしていた。



「は?どういうことです?話が出来た訳じゃない…ということですか?」

接触を果たしたというからには、会話に持ち込むことが出来たのだと思っていたのだが。

『だから…。眠っちまって話どころじゃなかったんだって』

「…眠って……?」

いったい、どういう状況なのか。イマイチ掴めない。

『実は、アイツが現れる前に、くだらねぇ連中と余計な抗争が始まっちまってよ。奴ら勝てねぇと判ると途中から凶器を持ち出して来やがって。卑怯な手に苦戦してた所にアイツが加勢に入って来たんだ』

そう、どこか落ち着いた様子で話す桐生は、既に掃除屋という人物に心を許しているかのような話し方だ。その後、疲れ果てたのか気を失うように眠ってしまったと、まるで何でもないことのように普通に語っているのは何故なんだろう。違和感が拭えない。

「それじゃあ…彼女は…?」

『ああ、連れて帰ってウチで寝かせる』

平然と続いた言葉に。

「ええぇっ!?マジですかっ!?」

驚きで一杯になった。

(何でそんな流れにっ?幾ら話がしたいと言っても、そんな人物を家に連れて帰るなんてどうかしてる…)

それに、彼の家は『普通の家』ではないのだから。

だが、ふと立花は冷静になった。そう言えば、彼女自身の話をまだ桐生の口から聞いていない。

…その正体を。

「…大丈夫なんですか?何処の誰かも分からない人物を連れ帰ったりなんかして…」

『や、大丈夫だろ。流石に連絡先までは知らねぇけど身元は割れてるし…。実はさ、そのことでお前に電話したんだよ』

そう、平然と続ける桐生に。

「はい…?」

(連絡先って何っ!?身元は割れてるって??)

混乱してる間にも、電話の向こうで桐生は『警察沙汰になったら困る』だの『連絡』がどうだの『調べて欲しい』だのと話を進めてしまっていて立花は慌てた。

「ちょっ…ちょっと待って下さいっ!結局、掃除屋はいったい誰だったんですかっ!?」

やっと核心部分を突くことが出来て、半ば興奮気味の立花の耳に聞こえて来た名は、あまりに予想外のもので。

暫くの間、立花は言葉を発することが出来なかった。

だが、その正体さえ知ってしまえば、あとは桐生の要望に応えるべく動くのみだった。立花は、自分の持ち得るあらゆる情報網を使って紅葉の連絡先を調べたのである。



「まず要点を述べると、先程なんですが連絡は付きました。既に相手方に状況を報告済みです」

「さすが立花。仕事がはえーな」

そんな称賛の言葉に立花は笑みを見せると続けた。

「実を言うと直接家の方ではないのですが、とりあえず身内に近い人物に連絡を取れたので大きな騒動になることはないと思います」

「身内に近い…って、どういうことだ?」

「はい。実は、彼女の家は母子家庭で。母親と二人きりらしく、夜間母親はいつも仕事に行っているので家には居ないんだそうです。その為、隣に住んでいる彼女の幼馴染みである人物に連絡を取りました」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

タカラジェンヌへの軌跡

赤井ちひろ
青春
私立桜城下高校に通う高校一年生、南條さくら 夢はでっかく宝塚! 中学時代は演劇コンクールで助演女優賞もとるほどの力を持っている。 でも彼女には決定的な欠陥が 受験期間高校三年までの残ります三年。必死にレッスンに励むさくらに運命の女神は微笑むのか。 限られた時間の中で夢を追う少女たちを書いた青春小説。 脇を囲む教師たちと高校生の物語。

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

処理中です...