67 / 95
奇跡の少女
7-4
しおりを挟む
今まで見て来た如月が偽りの姿で、こうして夜の街を彷徨い暴れまわっているのが彼女本来の姿なんだろうか?
桐生の脳裏に紅葉の姿が浮かぶ。いつだって構えることをしない、無邪気に向けられる笑顔。その後ろで揺れる三つ編み。飾らない言葉。
「………」
(一概には何とも言えねぇよな。決めて掛かるのは好きじゃねぇし、とりあえず本人に話を聞かねぇことには何も解らねぇ…)
桐生は気持ちを切り替えると、皆を振り返った。
「皆、お疲れ。今日はありがとな。こんな時間まで引っ張り回して、結果的に余計な抗争にまで巻き込んじまってホントに悪かったと思ってる。だが、恩に着るぜ。今度何かしらの礼は必ずさせて貰う。今日は帰ってゆっくり休んでくれ」
そう労いの言葉を掛けると。
「なーに水臭いこと言ってんスか、若っ」
「そーですよっ。お気になさらずいつでも頼ってくだせぇ」
そんな言葉と笑顔が次々と返って来る。皆、何処かしら傷を負ったり、それなりに疲労が見て取れるというのに。頼もしい組員たちに桐生は笑みを浮かべた。
そんな様子を微笑ましそうに眺めていた門脇が、横から声を掛けてくる。
「…この娘さんは、どうするので?」
腕の中で静かに眠るに紅葉に二人して視線を落とす。
「この辺に放っぽってくワケにもいかねぇし。とりあえず連れて帰るしかねぇだろ」
「ですね。でも、この子家の方は大丈夫なんでしょうか?」
「へ?家?」
「彼女、未成年でしょう。親御さんが心配するのでは?普通の家は子どもがこんな時間まで帰って来なかったら心配するものですよ」
「あーまぁ、そうだよな」
ウチの感覚と一緒にしちゃいけねぇわな。
この場を引き揚げて行く皆にならい、桐生たちもゆっくりと後をついて歩き出す。
「それも、こんな綺麗な娘さんなら尚更だと思いますよ」
そう言いながらも門脇が重くないかとこちらを気にかけてくれる。それに「大丈夫だ」と頷いて応えながら会話を続ける。
「ま、こいつの場合。この時間にうろつくのは日常茶飯事になってそうだから、今更な感じもするけどな」
「確かに彼女が噂の掃除屋なら、そういうことになりますね」
最近の少なくともオレが知る限りで掃除屋が現れなかった日は、昨日を含め数日程度しかないのだから。
「でも、そうなると…。そこまで家のことは心配しなくても良いのかもな」
(オレ、こいつの家とか何も知らねぇし…)
連絡先さえ知らないのだから、実際どうすることも出来ない。
だが、うっかり捜索願なんかを出されたり、大ごとなって警察沙汰になることだけは避けたいので、何かしら対策は必要なのかも知れない。
「とりあえず、アイツに頼んでみるか」
桐生は隣を歩く門脇に紅葉を一旦預けると、スマホを取り出した。
翌朝。土曜日。
朝日が昇り始め、未だ間もない早い時刻。
「若。立花さまがお見えです」
そんな言葉と共に「おはようございます」と横からにこやかに現れた友人に桐生は「おう」と手を上げた。
「悪ィな、立花。こんな朝早くから…。昨日も忙しいとこ電話しちまって」
「いえ、全然大丈夫です。気にしないで下さい。それより、昨晩は大変でしたね」
そう言いながら立花が勧められるままに傍にあった座布団へと座ると、すぐに横からお茶が差し出され、立花は笑顔で「どうぞお構いなく」と会釈を返した。
桐生の脳裏に紅葉の姿が浮かぶ。いつだって構えることをしない、無邪気に向けられる笑顔。その後ろで揺れる三つ編み。飾らない言葉。
「………」
(一概には何とも言えねぇよな。決めて掛かるのは好きじゃねぇし、とりあえず本人に話を聞かねぇことには何も解らねぇ…)
桐生は気持ちを切り替えると、皆を振り返った。
「皆、お疲れ。今日はありがとな。こんな時間まで引っ張り回して、結果的に余計な抗争にまで巻き込んじまってホントに悪かったと思ってる。だが、恩に着るぜ。今度何かしらの礼は必ずさせて貰う。今日は帰ってゆっくり休んでくれ」
そう労いの言葉を掛けると。
「なーに水臭いこと言ってんスか、若っ」
「そーですよっ。お気になさらずいつでも頼ってくだせぇ」
そんな言葉と笑顔が次々と返って来る。皆、何処かしら傷を負ったり、それなりに疲労が見て取れるというのに。頼もしい組員たちに桐生は笑みを浮かべた。
そんな様子を微笑ましそうに眺めていた門脇が、横から声を掛けてくる。
「…この娘さんは、どうするので?」
腕の中で静かに眠るに紅葉に二人して視線を落とす。
「この辺に放っぽってくワケにもいかねぇし。とりあえず連れて帰るしかねぇだろ」
「ですね。でも、この子家の方は大丈夫なんでしょうか?」
「へ?家?」
「彼女、未成年でしょう。親御さんが心配するのでは?普通の家は子どもがこんな時間まで帰って来なかったら心配するものですよ」
「あーまぁ、そうだよな」
ウチの感覚と一緒にしちゃいけねぇわな。
この場を引き揚げて行く皆にならい、桐生たちもゆっくりと後をついて歩き出す。
「それも、こんな綺麗な娘さんなら尚更だと思いますよ」
そう言いながらも門脇が重くないかとこちらを気にかけてくれる。それに「大丈夫だ」と頷いて応えながら会話を続ける。
「ま、こいつの場合。この時間にうろつくのは日常茶飯事になってそうだから、今更な感じもするけどな」
「確かに彼女が噂の掃除屋なら、そういうことになりますね」
最近の少なくともオレが知る限りで掃除屋が現れなかった日は、昨日を含め数日程度しかないのだから。
「でも、そうなると…。そこまで家のことは心配しなくても良いのかもな」
(オレ、こいつの家とか何も知らねぇし…)
連絡先さえ知らないのだから、実際どうすることも出来ない。
だが、うっかり捜索願なんかを出されたり、大ごとなって警察沙汰になることだけは避けたいので、何かしら対策は必要なのかも知れない。
「とりあえず、アイツに頼んでみるか」
桐生は隣を歩く門脇に紅葉を一旦預けると、スマホを取り出した。
翌朝。土曜日。
朝日が昇り始め、未だ間もない早い時刻。
「若。立花さまがお見えです」
そんな言葉と共に「おはようございます」と横からにこやかに現れた友人に桐生は「おう」と手を上げた。
「悪ィな、立花。こんな朝早くから…。昨日も忙しいとこ電話しちまって」
「いえ、全然大丈夫です。気にしないで下さい。それより、昨晩は大変でしたね」
そう言いながら立花が勧められるままに傍にあった座布団へと座ると、すぐに横からお茶が差し出され、立花は笑顔で「どうぞお構いなく」と会釈を返した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜
green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。
しかし、父である浩平にその夢を反対される。
夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。
「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」
一人のお嬢様の挑戦が始まる。
【完結】ツインクロス
龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。
学園制圧
月白由紀人
青春
高校生の高月優也《たかつきゆうや》は、幼馴染で想い人の山名明莉《やまなあかり》とのごくありふれた学園生活を送っていた。だがある日、明莉を含む一党が学園を武力で占拠してしまう。そして生徒を人質にして、政府に仲間の『ナイトメア』たちを解放しろと要求したのだ。政府に対して反抗の狼煙を上げた明莉なのだが、ひょんな成り行きで優也はその明莉と行動を共にすることになる。これは、そんな明莉と優也の交流と恋を描いた、クライムサスペンスの皮をまとったジュブナイルファンタジー。1話で作風はつかめると思います。毎日更新予定!よろしければ、読んでみてください!!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
ハルカカナタ
立花 律
青春
3人の男子高校生。
青春とか、恋愛とかはわからないけど。
3人の今をそのまま。
未来を見据えることよりも、今をたのしく生きたい。
もう戻れないあの頃に。
少しだけ戻れるように。
たのしくワイワイ、時折さみしくなって。
高校生活ってそういうものでしょう?
初金星
淡女
青春
喘息持ちの女子高生、佐々木茜は何にも打ち込むことができなかった。心が震える瞬間をずっと待っていた。そんな時、剣道少女、宗則菊一と出会う。彼女の素振りはその場の空気を、私の退屈を真っ二つに断ち切ったようだった。辛くても息を切らしながら勝ちたい、誰かの為じゃない、自分のために。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる